思い出02
「余命1カ月?」
「そう」
「な、何の病気なの? 入院しないの? 俺、家に来ちゃまずかった?」
あわてている彼を見ると思わず笑いたくなる。
「病気じゃないから」
「あ、そうなんだ」
やっと、落ち着いた。
「いやいやいや。病気じゃなくて余命1カ月? ……自殺?」
そうか。普通の人はそう考えるのか。
「自ら命を絶つなんてバカなことはしない」
「それじゃ、余命1カ月ってどういうこと?」
「話せば長くなる」
「俺には知る権利があるんじゃないのか」
さっきまであわてていた人とは別人のようだ。
真剣な顔で私を見る。
「少し前、私のところに天使が来た」
いつものように、自分の部屋のベッドの上で寝ころんでいた。
「えーっと、ここだっけ。高校2年の女、か」
「だれ!?」
「うわ! いたんですか。あ、天使です」
「天使?」
ベッドから飛び上がってみると、アニメなどに出てきそうなかわいらしい天使が飛んでいた。
「桐沢真生さんですか?」
「そうですけど……。天使が何の用事ですか」
「あなたの死ぬ日を伝えに来ました」
ものすごく幸せです、という笑顔で死ぬ日を……なんて言う天使を殴ってやろうかと思った。
「死ぬ日? 80年後の今日です、とか?」
「いえ。8月30日、夏休みが終わる前日ですね」
「こ、今年のですか」
「はい。高校2年、16歳の夏です」
相変わらず幸せ満開の笑顔。
「それじゃ、私はあと数カ月で死ぬというんですね」
「そうです。信じますか?」
「天使がいうなら信じるほかないですからね」
平然というと天使はやっと笑顔から驚いた顔に変わった。
「珍しいですね。たくさんの人に死ぬ日を告げましたが、たいてい怒鳴り散らされましたよ」
「でしょうね」
普通はあの笑顔で、あなた数ヵ月後に死にます、何て言われたら怒るだろう。
「あなたはきちんと死と向き合える人ですね。それでは、なぜあなたに死ぬ日を伝えに来たかを話しましょう」
誰も聞いてないことを、特別だぞというように天使は話し始めた。
「まず、病気や寿命の人にはいいません。だいたいいつごろ死ぬかは医者が伝えますからね。それから、自分から命を捨てようとするバカにも教えません」
「それでは私は事故で死ぬのですか」
「よくわかりました」
相変わらずムカつく天使だ。
「次に、まだやり残したことがある人のところへ行きます。なので、10代~30代あたりが多いですね。特に、あなたのような学生が中心です」
「そりゃ、怒られますよ」
「え?」
学生に、あなた数ヵ月後に死にます、なんて怒るだろう。
「最後に、これが1番重要なんですけど」
「はい」
「生きる意味がまだ分かっていない人のところに行きます」
「なるほど」
3つの条件に見事に当てはまっている私のところに来たわけか。
「あなたが死ぬまであと数カ月です」
「はい」
「その間に、やり残したことをやりなさい。生きる意味を見つけなさい」
「はい」
「それでは、死ぬ1カ月前にまたあなたのところを訪れます。それまでには何か変わっていることを祈りますよ」
相変わらずの笑顔で言うと、天使は窓から飛んで行った。




