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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生ちえ(弥生 知枝)
第1章 悪役転生の舞台は、まさかの母親の夢小説!

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第1話 『母親の夢小説』との邂逅! だけじゃなかった!!

久々の長編連載開始です!

気付けば「義妹」「わがまま」「欲しがり」などなど破滅ざまあ直結要素の渋滞したヒロイン・ルチルに転生していた主人公。けれどこの物語には悪役にも思い入れのあるとある要素が絡んでいて……

物語を壊さずに、悪役離脱&平穏生活を目論むルチルの奮闘をお届けします!


 おかあさんの面影を見付けた!




 15歳のわたしを遺して亡くなったおかあさん。フルタイムで働いたあと、家事を終わらせた夜遅くにノートパソコンを開いて、何か黙々と打ち込んでいたのは知ってた。


 けど、いつもの光景だって気にも留めてなかったんだ。だから今になってひたすら押し寄せるのは、後悔ばっかりで……。


 普段から無口だった父さんは、おかあさんが突然この世を去ってもっと無口になって。お通夜みたいな暗い毎日が続くのは苦しくて、寂しくて、どうしようもなくなったとき目に入ったのは、おかあさんがずっと愛用していたノートパソコンで――そうだ、ここにはおかあさんの面影があるって信じて電源ボタンに触れた。


 パソコンに掛けられたパスワードは、あっけないくらい簡単に解けた。だって、わたしの誕生日だったから。

 愛されてたって実感に、涙と温かさが湧いて来たけれど、それだけで満足なわけじゃない。


 おかあさんが寝る間を惜しんで打ち込んでいた、軌跡——おかあさんの面影に触れる大きな目的はまだ、果たせてないから。




 ブラウザで真っ先に表示された画面。ログインボタンを押せば、すんなりとその先に進むことが出来る。


 ワークスペース、連載中——? 多分ここが、おかあさんが生きた毎日に向き合っていた場所だよね。



 ……かち



 逸る気持ちと、少しの背徳感が伝わったのか、マウスからは遠慮がちなクリック音が響く。








「まあ! お義姉(ねえ)様の、そのブローチ。とっても素敵ですわね?」

「……っ、これはわたくしが婚約の証にと頂いたエリオッツ様の瞳の色の」

「ねぇ、その琥珀を溶かした深い煌めきは、わたしの深紅の髪にこそ似つかわしいと思われませんこと?」


 まただ……ルチルは、こうしていつもわたくしの大切なものを奪ってゆく。


「そうねぇ、婚約の証と仰るのならいっそのこと、婚約者ごとわたしが頂くのが良いのではなくて? ね、お父様、お母様」


 続く展開に、そっと溜息を落とす。


「家族団欒の場で、そのように辛気臭い顔をするものではない。晩餐が不味くなる」

「そうですとも。全くマナーを知らない困った義娘だこと。またキッチリと躾をしないといけませんわね。——でなければ、良い嫁ぎ先なんて見付からないでしょうから」


 なんでもない晩餐の席で持ち出された、普通では有り得ない話。父も義母もすんなりと義妹の我儘を受け入れ、実現する方向に舵を切る。

 公爵家を継ぐために結ばれた伯爵家次男の婿入り話。重大な家門に関わる話のはずが、ブローチのおねだりで簡単に(くつがえ)る。


 それが、わたくしの家での日常だった。







「は?」


 おかあさんの温かさに包まれたい。寂しさを紛らわせたい。そんな一人娘の想いを叶えてくれるナニカを、期待していたのはわたしの勝手なんだとは思う。


 けど、まさか開けた扉の向こうに在ったのが、訪問者を歓迎するドアマットじゃなくって、ドアマットヒロインだなんて誰が想像するかな⁉


「ぇえ……、おかぁさぁん……」

「おかあさんはね、お前が中学生になった頃からずっと、小説サイトに投稿するのを続けてたんだよ」


 気付いたら、ビールのプルタブを開けた父さんが隣で画面を見下ろしてた。懐かしそうに目尻を下げて微笑む顔なんて。こんな柔らかな表情を見たのって、どれだけ振りだろ。


「楽しそうにって言うより、それこそ無心って言葉がしっくりする没入振りでねぇ。もしかしたらヒロインに成りきって書いていたのかもしれないねぇ」


 しかも久々に聞いた声が『母親の夢小説』の可能性なんて特大爆弾発言って。……うん。そんな気はしてたけど、気持ちが温かくなるモノが溢れてるのを想像したのは、わたしの勝手なんだけどさ。


 けどまさか、わたしが夢中で読んでたモノの書き手が、おかあさんだったなんて!


 意外すぎたおかあさんの正体と、話半ばの愛読小説のエタリが確定したショックで、わたしは暫く強烈な放心状態となった。それを見た父さんがとことん狼狽えて、小学校高学年以来ずっと途絶えていた会話が再開したのは、おかあさんの采配だったのかもしれないね……。


 この後、わたしがノートパソコンを開く毎日は、ひと月も経たずに終わった。理由は三つ。


 まずひとつめの理由は、唯一保存されてたデータは家族の写真が入ったフォルダ一つだけだったこと。これをクラウドにコピーして、パソコンを立ち上げなくても、父さんといつでも眺められる様にしたから。


 もうひとつの理由は、おかあさんの小説がサイトに直書きされたもので、全部公開済みだったから。おかあさんは書き溜めずに即アップして行く派だったみたいで、残された未発表テキストなんてものも無くて――わたしがいつも読んでたサイトで表示されてるのが、おかあさんの書いた全部だった。


 三つめは、そのWeb小説にも関係したことで。おかあさんのアカウントに更新を切望するメッセージが届くのを見ると、却っておかあさんが居ないのを突き付けられて苦しくって。だから、敢えて見るのを止めちゃった。


 そうなると、ノートパソコンを立ち上げるのは、父さんの手による毎年僅か数日。おかあさんの命日前後の何日かだけになった。普段パソコンを触らない父さんだったけど、その辺りの日々だけは、必ず起動させた画面を前に何か語りかけていたっけ。あれは、起動したノートパソコンの画面に、おかあさんの面影を見ていたんだろうな。


 父さんと娘のたった二人きりの家族になって、大きな喪失感は残ったけど、おかあさんとの想い出を大切にする者同士それなりに仲良く過ごせたんじゃないかな。






 あれから何十年も経って、ノートパソコンも電源が入らなくなってた。

 一昨年とうとう父さんも居なくなって、わたしはひとり想い出のいっぱい詰まった家で、おかあさんと同じように時間を過ごして――







 脳裏に浮かぶ懐かしい想い出に、嗚呼これが走馬灯かって——漠然と理解してた。







 そんなときもノートパソコンに映る文字を連ねた画面が現れるのが、なんだかわたしらし過ぎて、とってもおかしかったっけ。


 そのせいなのかな?







「なっ……! なんでわたしがあの欲しがり義妹のルチルになってるのぉぉ⁉」


 わたしの口から驚愕の声が溢れる。


 この雄叫びから『母親の夢小説』で、悪役ルチルとして生きるわたしが、来たる破滅を避けに避け、平穏を希求して奮闘する第二の人生が始まったわけよ。


 そう言いつつ、大切なおかあさんの物語世界をハッピーエンドに導こうと、結局は欲しがり義妹そのものの貪欲さを発揮してしまうのだけれど――それに気付くのはずっと後なんだけどね!

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