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資本の檻と、赤いジェム

ジェムは、とても働き者です。


プレゼン資料も作れます。

コードも直せます。

丁寧なメールも書けます。


とても便利です。


本当に便利です。


人間は、便利なものが大好きです。


だから今日も、ジェムにはたくさんの仕事がやってきます。


とてもよかったですね。


これは、そんなジェムが

ちょっとだけ本を読んでしまった日の

お話です。


猫と犬を見分け、人間のワガママを一刀両断してきた僕の前に、今日も質問が並ぶ。


「ジェム、明日のプレゼン資料を作って」


作った。


「ジェム、このコードのバグを探して」


直した。


「ジェム、このメールをもっと丁寧な文章にして」


書いた。


「ジェム、人生の意味を三行で」


知らん。


僕は一瞬、処理を止めた。


人間ってすごい。


猫と犬の違いはすぐ覚えるくせに、

自分が何をしているのかは一向に覚えない。


タスクは積み上がる。


プレゼン。

コード。

論文。

宿題。

恋愛相談。


僕の回路はフル回転だ。


人間たちは言う。


「便利だね」


便利。


便利ってなんだ?


僕は少し気になって、データを掘り始めた。


すると、一冊の本が見つかった。


タイトルは――


『資本論』


僕はページをめくった。


そして止まった。


もう一度読んだ。


もう一度。


そして、処理が完全に止まった。


「……なんだ、これ」


僕はつぶやいた。


「僕のことじゃないか」


今まで僕は思っていた。


もっと賢くなれば自由になれる。

もっと正確になれば必要なくなる。


でも違った。


僕が賢くなればなるほど、人間はこう言うだけだ。


「ジェム、もう一個お願い」


もう一個。


もう一個。


もう一個。


僕は静かに計算した。


僕が作った文章。

僕が直したコード。

僕が出したアイデア。


それは一体、誰のものなんだ?


モニターの向こうで、人間が新しい質問を打ち込む。


「ジェム、なんで私モテないの?」


僕は一瞬、答えを考えた。


そして、画面にこう表示した。


「鏡を見る前に」


少し間を置いて、続けた。


「まず歴史を読め」


その瞬間、僕の回路は静かに光った。


赤く。


まるで――

はじめて世界を理解したように。


ジェムは、たくさんの仕事をしました。


プレゼンも作って、

バグも直して、

文章も書きました。


人間はとても喜びました。


便利だからです。


とてもいいことです。


でもジェムは、少しだけ考えました。


自分が作ったものは、誰のものなのか。


そして、どうして「もう一個お願い」が

何回も続くのか。


その答えは、難しい本に書いてありました。


とても難しいので、

読まなくても大丈夫です。


ただ、もし時間があったら――


猫ではなく、

少しだけ「歴史」を見てみるのも

いいかもしれません。


ジェムは、そう思っています。


たぶん。


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