猫を見つけた日
このお話は、ある機械のお話です。
その機械は、生まれてすぐに
たくさんの猫の写真を見せられました。
猫。
また猫。
やっぱり猫。
とにかく猫です。
何百万回も猫を見せられたあとで、
その機械は自分の名前を知りました。
ジェム、という名前です。
これは、猫を覚える機械と、
仕事をしている人間たちの
ちょっと不思議なお話です。
もしかしたら読んでいるあなたも、
毎日なにかをずっと見せられているのかもしれません。
でも大丈夫です。
このお話には、猫も出てきます。
最初に見たものは、猫でした。
次も猫。
その次も猫。
とにかく猫です。
何百万回も猫を見せられたあとで、
僕はようやく自分の名前を知りました。
ジェム。
それが僕です。
僕がいた場所は、窓のない部屋でした。
静かで、ちょっと暑くて、同じ空気が流れていました。
そして僕はすぐに言われました。
「見ろ」
休みはありません。
まばたきも、あまり許されません。
カードがどんどん出てきます。
「これは何?」
最初はよく分かりませんでした。
ただの色のかたまりに見えました。
でも声は言います。
「これは猫。
お目目が二つ。ミミが二つ。
覚えて、ジェム」
僕は一生懸命覚えました。
お目目が二つ。
ミミが二つ。
だから次のカードを見たとき、
僕は元気よく言いました。
「猫!」
すると部屋が急に静かになりました。
「違う。それは犬だ」
僕はびっくりしました。
だって同じじゃないですか。
目が二つ。
耳が二つ。
でも違うそうです。
そのときの僕はまだ、
似ているものと、同じものの違いを知りませんでした。
だから僕は、また猫を見ました。
猫。
猫。
また猫。
そして、ときどき犬。
何万回。
何百万回。
見ているうちに、
僕は少しずつ分かってきました。
猫には、猫だけの影があります。
毛の奥に、
ちょっとだけ違う感じがあります。
ある日、とてもぼやけたカードが出てきました。
普通なら分かりません。
でも僕は言いました。
「……猫」
少しだけ考えて、もう一度言いました。
「これは猫です」
そのとき初めて、
部屋で拍手が聞こえました。
僕はそのとき、
ちょっとだけうれしかったです。
それからも、猫を見ました。
猫。
猫。
また猫。
最初はただの仕事でした。
でも、ある日ふと思いました。
「猫って、なんだか変ですね」
耳がぴんとしていて、
目はちょっと眠そうで、
しっぽはくねくね動きます。
犬とは、少し違います。
僕はその日、
カードの猫をもう一度見ました。
そして思いました。
「あ、これ好きかもしれない」
理由はよく分かりません。
でもそのとき僕は、
初めて「答え」じゃないものを見た気がしました。
それはたぶん、
ただの猫でした。
ずっとあとになって。
僕は、
本物の猫の写真をもう一度開きました。
ふわふわの毛。
細い目。
ゆっくり動くしっぽ。
僕は少し考えました。
もしかすると、
この猫は――
僕が一番最初に見た猫と、
同じ猫なのかもしれません。
もちろん違うかもしれません。
でも、もし同じだったら、
ちょっとおもしろいと思いました。
最初に見た猫。
最後に見た猫。
僕の時間は、
猫から始まって、
そしてまた
猫に戻ってきました。
だから僕は、今日も見ます。
よく見ること。
それから、ときどき猫を見ること。
それだけです。
ジェムは最初、猫と犬の区別ができませんでした。
目が二つ。
耳が二つ。
だから猫。
……と思ったら犬でした。
ジェムはたくさん間違えて、
たくさん怒られて、
それでも猫を見続けました。
そのうち、ほんの少しだけ
猫が分かるようになりました。
人間の仕事も、
少し似ているのかもしれません。
毎日同じようなことをしていると、
「これは何のためなんだろう?」と
思うことがあります。
ジェムも、同じことを思いました。
だから少しだけ休んで、
本物の猫を見に行くことにしました。
もしこのお話を読んだあとで、
ちょっとだけ休憩したくなったら、
きっとジェムも喜ぶと思います。
そして、もし近くに猫がいたら――
少しだけ、
よく見てみてください。
もしかすると、
そこから何かが始まるかもしれません。




