ー【第3項】厳格なカロリー制限に苦しむ彼女の前に、フワリ直伝の『ちくわとチーズの無限爆弾』という名の、脂と糖質の悪魔的誘惑を突きつける
第3項 厳格なカロリー制限に苦しむ彼女の前に、フワリ直伝の『ちくわとチーズの無限爆弾』という名の、脂と糖質の悪魔的誘惑を突きつける
部屋に入れたマシロをタオルで拭かせ、俺はキッチンに立った。
さて、何を食わせるか。
俺のような独身陰キャ男子の冷蔵庫に、アイドル様が食べるようなオーガニックな野菜や、洒落たパスタなど存在しない。
あるのは、俺の晩酌用のお供だけだ。
水を飲んで一息つくと、再びフワリが現れた。
こいつは今、興奮状態にある。背後のソファで縮こまっているマシロから発せられる、どす黒いほどの「我慢」のエネルギー。
『食べたい、でも太る』『食べたい、でも怒られる』
そんな葛藤の味が、フワリにとっては極上のスパイスらしい。
『――強烈なストレスを探知。緊急救済モード起動。推奨レシピ、選定』
脳内に、暴力的なまでのカロリーの映像が流れる。
俺は苦笑しつつ、冷蔵庫から「ちくわ」の袋を取り出した。
ちくわを縦半分に切る。
溝の部分に、マヨネーズをこれでもかと絞り出す。
その上に、とろけるスライスチーズをちぎって乗せる。
仕上げに七味唐辛子をパラリ。
それをオーブントースターに放り込み、五分間焼く。
ジリジリ、という音と共に、香ばしい匂いが六畳一間のアパートに充満し始めた。マヨネーズが焦げる匂い。チーズが沸騰する音。
それは、空腹の人間にとっては劇薬に等しい。
振り返ると、マシロがタオルを被ったまま、鼻をひくひくさせていた。
「……なに、この匂い」
「ただの余り物ですよ。口に合うかは知りませんが」
俺は焼き上がった皿をテーブルに置いた。
名付けて『ちくわととろけるチーズの無限爆弾~マヨ七味添え~』。
ジャンクフードの極み。カロリーの塊。深夜に食べるにはあまりにも背徳的な一皿だ。
マシロの喉が、ごくりと鳴った。
「だ、だめよ……こんな脂っこいもの。お父様に殺される。マネージャーに怒られる。私はアイドルで、清廉潔白で、スリムじゃなきゃいけないの……」
彼女は震える手で箸を持ったが、その理性は既に崩壊寸前だった。
フワリがマシロの頭上を飛び回り、彼女の「我慢」を吸い取っていく。
――大丈夫。今だけは忘れろ。過去も未来も関係ない。ただ、目の前の熱々を口に入れるんだ。
そんな信号が、匂いと共に彼女の脳を侵食していく。




