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ー【第2項】土砂降りの雨の中、マンションの廊下で震えていたのは学校の頂点に君臨するアイドル白雪マシロで、彼女は限界まで腹を空かせていた

第2項 土砂降りの雨の中、マンションの廊下で震えていたのは学校の頂点に君臨するアイドル白雪マシロで、彼女は限界まで腹を空かせていた


 炭酸水のストックが切れたため、俺は近所のコンビニへ走った。

 外は土砂降りの雨だった。六月の冷たい雨が、アスファルトを叩きつけている。

 ビニール袋を片手に、足早にマンションの共用廊下を歩いていた時のことだ。俺の部屋のドアの前、その薄暗い片隅に、濡れた雑巾のようなものが落ちていた。

 いや、違う。

 人だ。

「……う、うぅ……」

 長い髪は雨で肌に張り付き、高級そうな制服は泥で汚れている。抱え込んだ膝に顔を埋め、小刻みに震えている少女。

 俺は関わり合いになるのを恐れ、素通りしようとした。だが、その横顔がふと外灯に照らされ、俺は足を止めてしまう。

 見間違いようがない。

 白雪しらゆきマシロ。

 我が校が誇る、現役女子高生アイドル。クラスカーストの頂点にして、俺のような陰キャとは住む世界が違う高嶺の花だ。

 普段は取り巻きに囲まれ、完璧な笑顔を振りまいている彼女が、なぜこんなところで野垂れ死にかけているのか。

「……あの、大丈夫ですか」

 俺が恐る恐る声をかけると、彼女は虚ろな瞳で俺を見上げた。

 その顔色は紙のように白い。

「おなか……すいた……」

 消え入りそうな声だった。

 聞けば、実家の方針で過酷なダイエットを強いられ、さらに新曲のプレッシャーで固形物が喉を通らなくなっていたらしい。発作的に家を飛び出したものの、空腹と貧血で動けなくなったというわけか。

 俺の肩で、透明化したフワリが騒ぎ出した。

 マシロから立ち上る「強烈な飢餓感」と「抑圧されたストレス」に反応しているのだ。

 見捨てて部屋に入れば、俺の平穏は守られる。だが、目の前でクラスメイトが餓死しかけているのを放置するのは、さすがに寝覚めが悪い。

「……とりあえず、うちに入りますか? タオルくらいなら貸せますけど」

 俺の提案に、彼女はこくりと頷いた。

 その瞳には、アイドルとしての覇気は欠片もなく、ただ餌を求める捨て猫のような必死さだけが宿っていた。


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