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【第5章】【第1項】厳格だったはずの父親が俺を「食の師匠」と崇めるようになり、学校ではただの空気モブから「裏ボスの彼氏」へとジョブチェンジしてしまった

第5章 晩酌の神と白雪姫


第1項 厳格だったはずの父親が俺を「食の師匠」と崇めるようになり、学校ではただの空気モブから「裏ボスの彼氏」へとジョブチェンジしてしまった


 あれから数週間が経った。

 俺、九条カズマの生活は、劇的という言葉では生温いほどの変化を遂げていた。

 まず、アパートの玄関チャイムが鳴る頻度が異常に増えた。

 届くのは、クール宅急便の山だ。

 差出人は「白雪厳格」。そう、マシロの父親である。

 中身は最高級の霜降り和牛、桐箱に入ったメロン、北海道直送の毛ガニ、そして見たこともないような高級調味料の数々。

 添えられた手紙には、達筆な文字でこう書かれていた。

『九条殿。先日の最中の味が忘れられん。これでまた、何か驚きの一皿を創作してくれぬか。――追伸、娘を頼む』

 どうやら俺は、彼の中で「娘をたぶらかした不届き者」から「食の求道者」へと昇格したらしい。むしろ、俺の適当メシを食べるために娘をダシに使っている節さえある。

 俺は苦笑しながら、送られてきた松阪牛を冷蔵庫(に入り切らないので発泡スチロールのまま)に押し込んだ。

 一方、学校での扱いも一変した。

 以前のような「空気」扱いは消滅した。廊下を歩けば、すれ違う生徒たちが道を譲り、ヒソヒソと噂話をする。

「おい、あれが九条だぞ」

「白雪さんを落とした伝説の男……」

「実は裏社会の料理人らしいぜ」

「ポテチで人を泣かせたってマジ?」

 尾ひれがつきすぎて、もはや俺は「伝説のシェフ」か「謎のフィクサー」みたいな扱いになっていた。

 だが、俺自身のスタンスは変わらない。

 休み時間は寝たふりをして、放課後は速やかに帰宅する。

 目立ちたくない。平穏に暮らしたい。

 そんな俺の願いとは裏腹に、マシロとの関係は公然の秘密となり、周囲からは「あえて実力を隠している強キャラ」として勝手に評価が爆上がりしていた。

「……はぁ。生きづらい」

 俺が教室で溜め息をつくと、斜め前の席のマシロが振り返り、悪戯っぽく微笑んだ。

 その顔には、「もう逃がさないからね」という独占欲が見え隠れしていた。


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