ー【第4項】完食した父親は合掌し、俺の作る「適当メシ」に敗北を認め、二人の交際を事実上黙認することとなった
第4項 完食した父親は合掌し、俺の作る「適当メシ」に敗北を認め、二人の交際を事実上黙認することとなった
完食。
皿の上には、煎餅の粉一つ残っていなかった。
厳格氏は静かに茶を啜り、ふぅと息を吐いた。
そして、俺に向き直り、深く頭を下げた。
「……すまなかった」
「えっ」
「私は、伝統を守ることに必死で、大切なものを見失っていたようだ。娘がなぜ、貴様の元へ通うのか。今ならわかる気がする」
彼は穏やかな目でマシロを見た。
「マシロ。お前が笑って食事をする姿を、私は久しく見ていなかったな」
「お父様……」
マシロが涙ぐみ、父に抱きついた。
厳格氏は娘の頭を撫で、俺に言った。
「九条くん、と言ったな」
「はい」
「君の料理には、技術を超えた『祈り』のようなものがある。人を救う力だ。……負けたよ」
彼は立ち上がり、懐から扇子を取り出した。
「娘を頼む。ただし、学業は疎かにさせないように」
「は、はい! 善処します!」
俺は直立不動で答えた。
SPたちが驚いた顔をしている。あの厳格な家元が、高校生相手に頭を下げるとは。
厳格氏は帰り際、俺に耳打ちした。
「……今度、また来てもいいか? その……こっそりとな」
俺は苦笑して頷いた。
「いつでもどうぞ。安物しか出せませんが」
「それがいいのだ」
彼はニヤリと笑い、風のように去っていった。
部屋に残されたのは、俺とマシロ。そして、大量の高級食材(詫びの品として置いていかれた)。
「……やったね、カズマくん!」
マシロが俺に飛びついてきた。
「公認だ! これで堂々と通えるよ!」
「いや、通うのは秘密にしてくれって言っただろ」
俺は彼女を受け止めながら、安堵のため息をついた。
フワリが、俺たちの周りをキラキラと舞っている。
こうして、ラスボス・父との対決は、百円の煎餅によって幕を閉じた。
俺たちの夜は、これからはもう少し賑やかになりそうだ。




