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ー【第3項】伝統を重んじる父親にとって、安物の煎餅とチーズの組み合わせは冒涜だったが、一口食べた瞬間に幼少期の甘い記憶がフラッシュバックし涙が止まらなくなる

第3項 伝統を重んじる父親にとって、安物の煎餅とチーズの組み合わせは冒涜だったが、一口食べた瞬間に幼少期の甘い記憶がフラッシュバックし涙が止まらなくなる


「食べればわかります」

 俺は引かなかった。

 マシロも祈るような目で見つめている。

 厳格氏は渋々、その奇妙な菓子を手に取った。

「……一口だけだ。それで貴様のふざけた態度を断罪する」

 彼は大きな口を開け、ガブリと噛み付いた。

 バリッ!!

 煎餅の砕ける音が、静かな部屋に響き渡った。

 その瞬間、厳格氏の動きが止まった。

 口の中に広がるのは、煎餅の強烈な塩気と香ばしさ。

 次に押し寄せるのは、クリームチーズの濃厚なコクと酸味。

 そして最後に、あんこの素朴で暴力的な甘さが全体を包み込む。

 塩味、酸味、甘味。

 この三位一体トリニティが、脳髄を直撃する。

「――――ッ!?」

 厳格氏の目が見開かれた。

 フワリが彼の背後の黒い靄を吸い取り始める。

 彼の脳裏に、封印していた記憶が蘇る。

 厳格な修行の日々。遊びを禁じられ、粗食に耐えた少年時代。

 だが、ある日。稽古をサボって抜け出した駄菓子屋で、小遣いを握りしめて買った煎餅の味。

 隠れて食べた、甘い餡蜜の記憶。

 『おいしい』『たのしい』『もっとたべたい』

 そんな、子供の頃の純粋な欲求が、ダムが決壊するように溢れ出した。

 厳格氏の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「……なんだ、これは」

 彼は震える声で呟いた。

「懐かしい……。忘れていた……。食とは、これほどまでに自由で、心が躍るものだったか……」

 彼は夢中で二口目を頬張った。

 バリバリ、ムシャムシャ。

 家元としての威厳は消え失せ、ただの「美味しいものを食べるおじいちゃん」になっていた。

 マシロが呆気にとられている。

「お父様が……泣いてる……?」

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 勝った。

 フワリが満足げに腹をさすり、俺の肩に戻ってくる。

 厳格氏の背中にあった重圧は消え失せ、憑き物が落ちたような穏やかな表情になっていた。

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