第8話 始まり8
そうして俺がつっかい棒を外すや、猩猩殿は俺を押しのけるようにして外へ出る。そして、戸の前に集まった者たちに言うのが聞こえた。
「一宿一飯の恩義もある。退くならば、許そう」
なるほど、俺の目覚める前に、施しを受けていた訳か。それもこれもこのときのために相手がなしたと想えば、ありがたくもないが。返って来たのは、
「でかい女。俺、こういうのも好み」
他の者から下卑た相づちがうたれる。遅ればせながら、俺も外に出ようとするが、猩猩殿が邪魔で仕方なく後ろに控えたままとなる。
一人がそのたわわな胸に手を伸ばすのが見えた。挑発のつもりなのだろう。無駄だよ。こいつはそんなこと、毛ほどにも気にしない。何せ、さっき平然と俺の胸をもんだばかり。そうして手が触れる寸前、男が殴り飛ばされるのが見えた。何だ。俺のは良くて、自分のはダメなのかよ。
「お前はあいつを守れ」
振り返りもせず、そう言うと、猩猩殿は突進して行く。恐らく、お前が俺で、あいつがペロのはずだが。俺が「分かった」というのと、ペロが「合点承知の助」というのは同時だった。
見ると、その手のひらには相変わらず、ネズミがおった。それは逃がしてやった方が良いと告げると、バイバイと言いながら部屋の奥側に放す。その頭の後ろの着ぐるみのフードが目に入る。開口部には牙が描いてあり、かぶれば頭が噛まれるデザインとなるのだろう。
俺とペロがこんなことをしておる余裕があるのも、猩猩殿のおかげであった。ひたすらに殴り倒して行く。まさに暴風一過であり、鎧袖一触であった。既に何人もの男どもが地に横たわっておった。
俺とペロが戸外に出ると、最前の犬が3匹、寄って来た。敵も俺たちに気付いたらしく、寄って来る。暴れ回る猩猩殿より与しやすしと想われたのは明らかである。犬は犬で、その者たちへ牙をむきだして威嚇し、吠えまくる。ただ、そんなに大きな犬ではないこともあってか、何人かに手傷を負わせるを得たが、やがて逃げてしまった。
それで、なすすべ無しとはならなかった。俺も戦えてはいた。ただ、残念ながら一応というレベルであった。猩猩殿とは比較にならない。期待が大きすぎたか。比べる相手が間違っているといえばそれまでだが。ただ、先のことを想えば、己の戦闘力の限界は致命的とさえ想える。




