第7話 始まり7
乾燥地ゆえか、風により砂が舞っている。そこを戻る途中で嫌な視線に気付く。地べたでたむろしていた者たちが立ち上がる。そして、ゆっくり俺のあとをつけてくる。薄ら笑いを浮かべているのが、見なくとも分かる。
「へっ。中は女ばかりらしい」
どうやら、出入りをチェックされていたらしい。
「じゃあ、楽しませてもらいますか」
これは一悶着、覚悟しないといけないか。チラと後ろを振り返る。七、八人、いや、それ以上か。どうやら、次から次へとおこぼれに預からんと加わっておるらしい。
ちょうどいい。大雑把だが、今がいつか分かった。おおよその場所も分かった。ただ、己の強さがどれくらいか、そこがまだ分かっていない。とはいえ、すぐに反転して迎え撃つことはしない。どうせなら、あの女騎士の強さも見ておきたい。ここで、ゴロツキどもにかなわぬなら、勇将・猛将の三国志の世界では、逃げ隠れして生きて行くしかない。
己の肩に手がかかる。外套がはだけ、その下が見えたのだろう。
「ひゃあ。すごい格好だね」
「男が欲しくてしょうがないのさ」
俺はその声に振り返ることなく、戸を開けて中にすべり込む。背後にのぞき込む気配を感じるが、ぴしゃりと閉め、つっかい棒を戸にかける。これの存在は出て行く際に自分で外したので、分かっていた。女騎士は相変わらず戸の前に立っておった。
何と呼ぶか迷う。一応、日本社会で19歳まで育った俺である。生きていくのに必要な最低限の礼儀はわきまえているつもりである。なので、爆乳とかメスとかで呼びかける気はない。ただ、ゴリラはいいんじゃないか? もちろん、日本女性にそれをしたら、NGというのは分かっている。しかし、こいつはゲームキャラだし、ゴリラといえば、類人猿最強。これほど、こいつにふさわしい呼び名はない。俺の名前もそうだが、虎というのは強いからつけるんだろうしな。アルスラーンという名をしばしば見かけるが、あれは確か百獣の王ライオンを意味するトルコ語だ。
ただ、怒る可能性も0ではない。今のところ、仲間と呼びうるのはこいつとペロのみ。下手な呼び方をして、仲間割れをしては最悪である。そこで、記憶を探る。
「猩猩殿」
「我はそのような名ではないぞ」
「類人猿中最強との意味だ。そなたにふさわしき称号と想う。今後、そう呼びたいが、いかがか?」
「そうか。嬉しく想うぞ」
「気に入ってくれて、何よりだ。それで、体がなまっておらぬか?」
そうして、俺は戸の方を目配せする。ガタガタと音を立てて動いており、今にも力尽くで開けられそうである。「お姉さんがた。開けて―」とのふざけた声も聞こえる。
猩猩殿は分かっておるとばかりにうなずく。そもそも、ここに立っておったのは、こうなることを予期してか。ならば、なぜ、俺を外に行かせたのだろう。ゲーム内での俺の強さの記憶があり、それゆえか。ならば、少しは期待して良いのかもしれぬ。
向きを変えようとしたところで、俺はこう問う。
「なぜ、俺の胸をもむ」
「いや、そなたが分をわきまえておるか、確かめんとな。背丈は見て分かるが、こちらはな」
相手はスイカ、俺は桃サイズ。見て分かりそうなものだが。ふざけたキャラ設定を引きずっておるのか。
「どうだ?」
「うむ。小さいな」
「ならば、幸甚。ひと暴れしよう。ところで、武器は要らぬのか?」
俺は武闘家だから要らぬだろうし、そもそも扱える自信も無い。下手をすると、己を傷つけかねぬ。
「我は愛用のものを失ったようだ。それに、囲む者たちも素手であれば、万に一つも必要となることはあるまい」




