第20話 お散歩(第1章完)
「おお。俺。速―」
疾駆する俺、しかも騎馬ではなく自分の足でである。
「フリチンには負けぬぞ」
その声につられて見ると、葦毛の馬が併走しており、鞍の上にペロの姿が見える。こちらの視線に気付いたのか、どんなもんだいとばかりに宙返りしてみせ、危うく落ちそうになる。
「これ。そなたら。なぜ、我の先を行く。少しは主人に遠慮せい」
二人の後方からそう叫ぶはクラン・御前。
「露払いでござる」とフリチンが叫べば、「そうでごじゃる」とペロも続く。
ならば、抜き去ってやろうぞと遊牧勢の血が騒ぐが、馬の足を痛めるのを気遣い、止めにする。
更にその後方を送れまじと、やはり自分の足で駆けておる者が一人。
「呂布よ。そなたも匈奴の血を引く者。なぜ、馬を駆らぬ」
「フリチン殿に弟子入りを認めてもらうまでは馬には乗りませぬ」
「まったくそろいもそろって」
己の故郷たる陰山のふもとなら、雄大さに抱かれての、くたびれるほどの遠乗りも可能であったが。ここ河内では望むべくもない。今日なしているのも、せいぜい近くの開けた地にてのお散歩に過ぎぬ。それでも馬をひとたび駆れば、気分は晴れやかであり、表情もすがすがしいものとなった。
その様を少し遠くから眺めて、ほほえんでおる者が一人。かつてのガリア騎士団の筆頭にして、今はクラン・御前に仕える猩猩殿であった。この地の馬は我には小さすぎるとして、駆けっこを遠慮したのだった。




