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第14話 丁原の陣にて4

「褒美は何が良い。馬か? 良い馬なら、たくさんおるぞ。好きなのを選ぶが良い」と丁原様。


 俺には明確な考えがあった。ただ、他の二人の了承を得る必要はあろうと想い、


「ちょっと三人で話をさせてもらえませんか?」


 丁原様に許しを求める。


「おお。それは無論」

 と快く応じてくださった。


 三人で顔を付き合わせてといきたいところだが、身長もずいぶんと違うから、そうはならぬ。ただ、そのゆえか、ペロが俺の体をよじのぼって、肩車ポジションを取る。


「うわー。高い。これで猩猩様と同じくらいだね」


 比べてみればペロの方が小柄とはいえ、大人と子供というほどに体格差がある訳でもない。なので、俺はよろめきつつ、考えを伝える。


「丁原様にお仕えしたいと申し出ようと想うのだが。俺たち三人のみでうろうろしておっては、先のような輩がまたしつこく寄って来よう」


「そなたに任せる」との猩猩殿の低音のあと、「フリチンでGOGO」とのペロの子犬ばりのキャンキャンした声が頭上から響く。俺はペロを降ろし、再び三人でかしずいてから、その旨を伝える。


「そう来たか。はて、どうしたものか?」


 丁原様は今や臣下が敷いたフェルトに腰を落ち着けておった。


「あらー。なに? 楽しそうね。ずいぶん見かけない姿のお客さんが三人も」


 不意にかたわらから人が現れる。声からは女性と知れるが、まとうものは男たちとそれほど変わらぬ。恐らく乗馬の便を考えてのことであろう。ただ、髪は結い上げ、猛禽の羽が差してある。丁原様と同年配といった感じである。


「そうだ。紹介しておこう。奥方のクラン御前ベキだ。怒らせるなよ。我よりずっと恐いぞ」


「こらこら。余計なことを。我は由緒正しき匈奴の血を引く者。そなたらはいかなる血を引くか?」


 いや、誇るべき何の血筋でもありませんというのが正直なところだが。それが相手の望む答えではなさそうだと何となく伝わって来る。なので、とりあえず、こう答える。


「池田の血を引きます」


 と神妙に言う。正直、自分で自分を笑いたくなるが、何とかこらえる。だって、他に答えようがない。


「この者たちは、始皇帝ゆかりの者。蓬莱ほうらいから来たとのこと」

との丁原様に対し、御前はこう応じる。「ほう。素晴らしい」と。


 なんか、いろいろ誤解あるみたいなんですけど、あえて、それを解いても誰得?としかなりえぬ気がする。


「そうとなれば、是非、我に譲ってくれ。娘たちが嫁いでからは、さびしくてかなわぬ」と御前。


 丁原様は一つ大きなため息をつくと、


「そなたにそう言われては、断れようはずもない。そもそも、この者たちの仕えを許すと決めてさえおらぬのだが。まったく、気の早い御前ベキじゃ」


 これで一件落着と想いきや、一人、声を放つ者が。


「匈奴の御前ベキに仕えるとすれば、物珍しきだけではつとまりませぬ。相応の強さが必要かと」




(作者注:ほぼ死語になりつつあるが、カカア天下なんて言葉が日本にもある。歴史時代のトルコ・モンゴル系の女主人の権力の強さは有名である。軍事をのぞいて、ほぼ男性と同等と言って良い。その軍事においてでさえ、キタイや西夏の皇太后は、息子である皇帝とともに遠征に出ておれば、なにをかいわんやであろう。

 纏足てんそくなどの風習もあるゆえ、そうしたイメージはないかもしれないが、トルコ・モンゴル系より劣るとはいえ、漢地でも女主人の権力は強い。このときの漢朝でも、皇太后の権勢の強さは明らか。

 武則天のように、唐朝を断絶させ、自ら皇帝となった者までいる。唐王朝の下では李氏しか皇帝になれぬためだ。端から見るに、希代の才媛たるや疑いなしと想える彼女も後継者選びにて困った状況に陥ったごとく見える。

 1.武氏政権の存続を優先するか。この場合、実家の武氏から男子を出す。

 2.自らの子供に継がせるか。高宗との間の子供は当然、李姓(=李氏)となり、この場合、唐朝の復活となる。

 結局、歴史が教えてくれるのは、後者が選ばれたということである。

 閑話休題。呂布の言葉に戻ろう)




「私に試させてください。武器は相手の望むものに合わせますし、それに、無論、手加減はします。仕えのできぬ体にしてしまっては元も子もありませんから。そこはご安心を」


「おお。呂布か。面白い。異郷の者との手合わせという訳だな。どうだ。クラン。良い申し出と想わぬか。この者らの強さ、わきまえておった方が、何かと都合がよかろう」


「そう、言われれば、確かに。そなたが先に申したことに加えて、止めというたら、そこまでだ。それを守るというなら、許そう」


「ありがたき幸せ」


 呂布は両人に対して一端かしずくと、立ち上がって、こちらを向く。その目線は明らかに猩猩殿を見ておる。彼女はこちらをうかがっておる。あまりこうしたことを好まぬのかもしれぬ。


「ここはまずわたくしが」


 俺がそう言うのを聞いて、こちらも向こうも、というか、この場に立ち合う者のほとんどが驚いたようであった。ただ、俺にしてみれば、願ってもないこと。何せ、三国志大好きの俺。その最強の英雄の一人、呂布と拳を交えられるなら、そんな嬉しいことはない。転生前の俺の体なら、望んでもできぬことである。でも、この武闘家仕様の体なら。


「いかなる武器を所望か」


 呂布が尋ねてくれる。


「武器は要りませぬ」


「本気か。それだと体格差がもろに出て、そなたには不利だと想うが」


「かまいませぬ。要りませぬというより、扱えませぬというのが正直なところですので」


「そういうことか。ならば、勝負と行こうぞ」


「お願い致します」


 俺はできうる限り丁寧に挨拶した。相手に対する敬意は努力しなくてもその言葉に籠もったはずだ。


 呂布はそもそも防具の類いは身につけておらなかった。


 俺は外套を外す。ペロが取りに来てくれる。


「ありがとう」と言葉に出したあと、やらかし転じて福となさんと俺は心で念じる。


「なるほど。確かにその方が動きやすかろう」


 他方、相手の冷静な分析の声が聞こえた。


 場所を違える必要は無いのかと想い、丁原様の方をうかがうも、革袋に口をつけてグビッとやっている。どうやら、飲み物が入っているらしい。季節柄、馬乳酒であろう。


 御前もその丁原様のかたわらに座を占める。


 そして、ぞろぞろと兵たちが集まって、俺たちを囲む。


 ここで、やるということらしい。


 上空で鳥の声が騒がしい。俺の死肉を待ち望んででなければ良いが。何せ、まだ、死ぬ気はないんでね。


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