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第13話 丁原の陣にて3

「知らないな」


 いずこから来たと問われ、倭国と答えたことへの反応であった。


「それなら、邪馬台ヤマト国はご存じありませんか?」


 通常、ヤマタイと読まれるが――学校教育としてはヤマト朝廷と混同することがない分、利点があるのだろうが――同時期の国名にイト、アソ、イズモなどとあることから明らかなように、この場合の語尾はオ音であるべきというのが俺の考えだった。


「それも聞いたことがない」


 丁原様のいらえはそっけないものだった。やはり、そんなに簡単に歴史ロマンにはひたらせてはくれないのか。


「どこにある?」


「ここよりずっと東、黄河が流れ着くその果てに海が広がります。その中にある島でございます」


「中黄門は知っておるか?」


 後方に控える者の一人が前に進み出る。その装いにて唯一際立つところがあり、それが目を引く。その腰にさす朱色のさやであった。剣をいているのである。


 ちなみに、武器についていえば、丁原様さえ帯びておらぬ。ただ、あるじが帯びてはならぬとは考えられぬので、単に邪魔だからということだろう。護衛役と想われる丁原様の左右に立つ四名のみ――うち二名は槍、二名は剣――が帯びておった。鈍く陽光を照り返す槍の穂先は、俺が転生した世界の物騒さを象徴しているようだった。何せ、現代日本では抜き身の武器を見ることなどまずない。


 軽装の鎧姿の護衛役をのぞいて、皆が身にまとうのは薄手の上下である。現代風にいえば上着とズボンである。俺たちを迎えるために、正装する訳もなかろうから、恐らく普段着であろう。その染め色は統一されていないようだが、黒色は避けられているようであり、その多くが着古した感じであった。


「残念ながら私も知りませぬ。もしかすると蓬莱ほうらい山と関係があるのかもしれませぬ。始皇帝の求めに応じ、徐福が不老長寿の薬を求めて赴いたとの伝承が伝わっております。そこもまた東方の海に浮かぶと」


「私もその伝説を知っております」


 嬉しくなって想わず答えていた俺。


「そうか。蓬莱から来られたか。始皇帝にゆかりのある島とはのう」


 どうやら、しごく腑に落ちたらしい丁原様であった。


 一方、俺はといえば、片手に歴史ロマン、片手に危険物という気分であった。


 黄門ということは、この者は宦官。本来、皇帝にのみ忠誠を誓い、武将には仕えぬはず。また、もっぱら後宮がその仕事場のはず。それがここにおるということは、恐らく零帝から特別任務をたまわってということであろう。監視、要はスパイと想われる。

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