第九章
捜査本部は相変らず失踪事件として扱っていたが、捜査員たちに不満が募り始めていた。
彼等にも関係者の調査で、今回の事件はそんな単純なものではないと気付いた者が多くいたのだ。
それらをまとめていたのが耶杜だった。
耶杜の元に捜査本部員以外からも合わせて、資料や報告書が次々と届いていた。
特に目をとめたのは、アストロノミカ計画の背後にいた者達の諸事情をレポート化したものだ。
鹿瀬の下に潜り込ませたり、買収したSによるものだ。
特に、暗黒衛星とも言うべき見えない衛星と、ぺガからの帰還衛星、それらをめぐる人人と元アストロノミカ計画。
耶杜が警察官として鹿瀬に逆らえないものが全て詰まっていた。
全てはアストロノミカ計画から始まった。
この高層開発計画は、第四次情報革命として政府も関与している。
諸会社がこぞってその波に乗って集まったが、大手企業などは中抜きでどんどん実質の参加企業が決まって行った。
中抜きから実権を持った企業は、鹿瀬が再配して決めていた。
彼はデザイナー・ベイビーを扱う会社の大株主であり、第四次情報革命の一つ、人間の情報化に関与して重要な地位を占めていた。
鹿瀬は高層開発計画を発展させ、半官半民の組織を作ろうとしていた。
彼がそこまで売り込んだために高層開発計画はアストロノミカ計画として新たに刷新された。
鹿瀬は二つ、政府を脅迫的に巻き込める材料を持っていた。
一つは頓挫した官製企画のデザイナー・ベイビーによるアストロノミカ対応人員の作成という目的だ。これは、当時秘密裡に民間医療にテコ入れして行われていた、極秘政策だった。
だが、デザイナー・ベイビーを使うと民間に憶測が漏れると、国家統制だという非難の嵐が起こった。
政府は強引に企画を停止させたが、関わっていた者達が公開されることも処分されることもなかった。
中心に居た鹿瀬は自身の存在が消されるかという時に、むしろ暴露側にでる姿勢を示して政府関係者に圧力をかけ、一気に力をつけたのだ。
もう一つ。ベガ探索衛星は突然の帰還を強いられたが、暗黒衛星の影響により、民間には察知されないようになっていた。
問題は、この探索衛星もまた暗黒衛星の影響で手探り状態で帰還しようとしたことだ。
様々な衛星と繋がり、一個のネットワークを造ってしまったのだ。
それを利用としたのが、後の高層開発計画である。
やる気も自らの手も汚したくない政府と大手企業はどんどん下請けに仕事を負わせていった。
結果、非主流ではない企業が逆に群がることになる。
全ては鹿瀬の手の元に。
そこに目を付けたのが、ネオ右翼たちだった。
あれよあれよという間に、企業らは彼等に操られていった。
鹿瀬の手の元に。集団はバラバラだったが、「意端」と名づけた会合を持っていた。主催は鹿瀬だ。
ネオ右翼が探査衛星にテコ入れし、ベガ帰還衛星が接触した衛星ネットワーク上で各国の宇宙軍衛星ともつながっているところに目をつけ、裏から核兵器の取り込みにも成功したのだ。
彼等はそれを盾に、アストロノミカ計画というものをブチ上げる。
困惑したのは、表舞台にいた諸企業だった。
そして、鹿瀬が君臨した。
いうことを聞かない企業にはネオ右翼で、いうことを聞かない国には核で脅しをかけたのだ。
諸企業はアストロノミカ計画に不満をぶち上げて。今更のネオ右翼の影響を排除しようとした。
結果、アストロノミカ計画の頓挫に繋がった。
さらには、その失敗した計画の事業処理に、別の諸企業がハゲタカのように喰いついてきた。
彼等は、鹿瀬と対立することになる。
その後の、関係者失踪事件。
耶杜は険しさと達観したような二つの表情を混ぜながら、報告書と調査書のまとめを終えた。
これらの話の中に古深名の存在が一切出てこないのが不気味だった。
鹿瀬は、借金地獄で首が回らなかった時に突然現れて勝手に債務を処理して耶杜に接触したのだ。
彼の意思ではないが、誰がこのようなことを信じるか。
挙句、不動産まで耶杜の名前で幾つも登記していた。
本人の意思とは関わりなく、鹿瀬は恩人の立場にいるのだ。
出来上がったのが完全な汚職警官としての耶杜だった。
元々腫物は大量にあるが、弱みを握ることに長けている鹿瀬も関わり、耶杜はしぶしぶ彼の元の警官とならざるを得なかった。
どこから手を出したものか。
正面からは無理だった。
遁暮会は、鹿瀬と対立した失踪事件当事者と犯人と目星がつけられた者たちが引き入れた勢力らしい。
ならば遁暮会には遁暮会の役割を果たしてもらうしかない。
耶杜には実行部隊としての手駒は、羽端らしかいない。
不機嫌さを呆れ半分な気分で混ぜ返すと、彼はホテルから深夜だというのに羽端らに連絡を入れた。




