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第八章

 捜査本部は、亜戸符寡に目星をつけて捜査していたが、頓挫しかけていた。

 耶杜としては、思惑通りだ。

 渡師舞を犯人と出来ないなら、あとで独自の調査で上げればいい。

 元々、耶杜としては符寡を上げる気はなかった。

 鹿瀬に協力している形を見せれば良い。

 できるなら、符寡を逮捕させないギリギリのところで切り上げさせればいいと思っていた。

 そうすれば、師舞は勝手に落ちてくるだろう。

 大体、その時のための羽端たちである。

 ついでに、彼等が飛輝にテコ入れすればするほど、符寡の立場が弱くなる。

 耶杜としては、もろ手に粟である。

 いざとなったら彼は符寡に手を貸す用意もしていた。

 耶杜は鹿瀬に従う風にしながら、両天秤に掛けていたのだ。

 露堵が死んだことが発覚したことにより、捜査本部は残り少ない日数だが俄然と盛り上がりを見せて来た。

 サンシャインシティと露堵の関係を重点に洗おうとしていた。

 丁度良い方向に向かっている。

 彼としては、このまま捜査でシャンシャインシティの灰汁を絞り出したいところだった。

 特に、ネオ右翼の台頭を潰しておきたかった。

 今だにそこらでくすぶっている、第四次情報革命時に異端として追いやった者達をだ。

いい加減、大掃除をしておきたかった。


 

        

「軍事転用……」

 羽端がふと言った。

 施樹と共にπ9を飲んで、軽く高揚して混濁しつつある状態でだ。   

 池袋のアメ横近くにある個室提供スペースだった。

 遡来乃ひなの復旧をしているところだった。

 余計な衛星間探知機が多数仕掛けられていて、稼働するとどれかからかすぐに乗っ取られるようになっていた。

 羽端は一つ一つデータの中から除去するという作業を諦めていた。

 ディスプレイには遡来乃ひなのデータが文字列として映っていた。

 その作業中に無意識で、ふと突然に呟いたのだった。

「……何が?」

 瀬樹は眼だけよこしてた。

 彼女には、その姿がうっすらしたものに感じられた。

 つかみどころがない。

 元々の性格がそうだったが、視覚的にもぼんやりとしている。

 π9の影響か。

 彼女はぼんやりとしながら、自問した。

 二人にイメージが奔流として意識に流れ込んでくる。

 元アストロノミカ計画は戦後失墜した旧権力者たちによる、強権的計画である。

 羽端の意識に多数の声が聞こえてくる。

 高層開発はそのまま日本の防衛を担い、それはそのまま地上の権力と化す。

 メンバーは正露堵、紀理務解、亜戸符寡、理九眞稀、渡師舞。

どこからだ?

 羽端は戸惑いながら情報を受け取っていた。

 すぐに接続点を見つける。

 遡来乃ひなだ。

 彼女の惑星間探知機が、羽端とリンクしている。

 湧き上がった殺意と共に、羽端は探査機を破壊しようとする。

 が、身体が固まって指すら動かない。精々、表情を動かせる程度だ。

「軍事転用って何?」

 聞く瀬樹の顔はディスプレイに向いている。

 そこに答えが出てくるかのように。

 核武装という文字が出て来た。

 さらに文字列が浮き上がり、今羽端がイメージした事が全て映し出される。

「……なるほど。耶杜さんは、露堵と師舞を天秤に掛けてたみたいだけど?」

 問いに、羽端の頭の中に再び情報が溢れだす。

『露堵は事の反対派だった。推進派は師舞で耶杜が身柄を捉えれば、計画は頓挫すると考えている』

「なるほど……」

 半ば上の空で羽端は答える。声は出せる。

 彼は、情報演算装置として無意識を使っていた。

 ゆっくり遡来乃ひなの姿が現れ、反対に羽端の姿がかすれてゆく。

「今、師舞はどこにいる?」

『衛星管理下の居住区だ。まず、誰にも手出しはできない』

「いいとこ見つけたなぁ。その核は?」

『いま、衛星の二基が保持している。問題は、この衛星が老築化している点だ』

 羽端の意識は、抵抗した。

 大体、この状況を望んだ羽端ではない。

 無意識がいつの間にか、接続点を合わせて来たのだ。

「……施樹、俺はもうすぐ消える。いま奪った情報を大事に取っておくんだ」

 羽端が言った。

 瀬樹にはどういうことかわからなかった。

「消える……? どうして!?」

 そう思っている中、羽端の姿が描き消えた。

 遡来乃ひなが動き、ディスプレイに新たな文字列が並ぶ。

 施樹の身体が急に自由になった。

「羽端!?」

 その叫びは反応もなく、響いて行った。




 飛輝のところに、一人の男が現れていた。

 三十代と見える。

 妙に重々しい雰囲気を持っていた。。

 理九眞稀だと、飛輝は相手が名乗る前にすぐわかった。

 汽乃堂の取締役である。

「社長、はじめまして。今日は重要な話を持ってきました」

「何だね?」

 飛輝は精一杯虚勢を張っていた。

 なにしろ、いきなりの社長職で右も左もわからないのだ。

「社長はご存じないでしょうが、我々は会社を連帯させて新しい企画を進行中なのです」

「ほう」

「今、汽乃堂は意端という集団に狙われています。あなたが遁暮会の関係者だということは把握しています。そこで、対抗するために会長の後ろ盾がほしいのです」

「具体的に何の話だ? それによって通す」

 興味深げな顔を造りながら飛輝は言った。

「……元アストロノミカ計画で廃棄された衛星を再編成しする、新たなアストロノミカ復興会という組織があるのです。遁暮会の会長には是非その後ろ盾になってもらいたい。このままでは、復興会そのものが意端に喰い散らかせられる可能性があります」

「ほう……。噂だけは聞いている。ちょっと待っていろ」

 離裏が衛星の整理をしているはずである。

 飛輝は、連絡を入れているフリをした。

 そして、会話を終わらせる芝居を終えると、彼等に向き直った。

「わかった。会長は全面的にバックアップすると言っている」

「ありがたいです」

 眞稀は安堵の言葉を吐いた。

「元アストロノミカ計画にも鹿瀬というネオ右翼の男が関わっており、これを抑える人が必要だったのですよ。無用な争いが起こるところでした」

「それがオヤジと言う訳か」

 飛輝は納得した。

「なんでそいつらは何時までも元アストロノミカ計画にこだわるんだ?」

「アレは表では第四次情報革命という看板を掲げてましたが、実質、ネオ右翼たちの復権のための計画で、その中核にあったのが日本防衛機能です。核兵器と、衛星からのピンポイント爆撃を主な攻撃手段にした、旧支配者層が日本を間接的に脅迫するための装置なんですよ」

 聞いた飛輝は唖然とした。

 今、彼はその再構築を命じているところだった。

 把握していないところにそんなものを持ってこられては、手に余るなどという話ではない。

 内心舌打ちしつつ、眉間に皺を寄せる。

 だが、離裏が上手くやればなんとかなる。

 飛輝は最悪、株だけ持って飛ぶ気でいた。

 任せてはいるが、あの女も自分が関わったと自爆したくはないだろう。 

 部屋からでた眞稀は、涼し気な顔で廊下を歩いて行った。。

「これで囮ができたな」

     

            


 耶杜は、捜査本部が方向転換したのを好機に、一気に処理してしまおうと思っていた。

 だが本部長の砂多良(さたら)管理官は、急に逮捕するホンボシを維庶飛輝とした。

 耶杜は、内心で歯噛みした。

 相手はギリギリのところで、スケープ・ゴートをだしてきたのだ。

 耶杜は息をゆっくりと吐いた。

 どっちにしろ関係者であることに変わりはない。

 砂多良が目をつけたのは、旧仕手集団で今は特殊詐欺を行っている「意端」という集団だった。

 飛輝はそれに関わっている。

 罪状はインサイダー取引だった。

 捜査員たちから検挙部隊を選び出し、汽乃堂株式会社に向かわせた。

 耶杜は敢えて鹿瀬に知らせた。

 彼は報告に満足したらしく、何も言ってこなかった。

 飛輝は社長室に籠っていた。

 捜査員が堂々と社内を行き、社長室の前に並んだ。

「維庶飛輝、礼状だ! でてこい!」

 ドアが開き、机に深々と腰を落とした飛輝の姿が現れた。

「はいはいー、逃げも隠れもしませんよー。早く連れてってくれねぇかなぁ。昼飯まだなんだよなぁ。あー、中で寿司頼めたっけ?」

 彼は何故か余裕ぶって、お道化ていた。

「ふざけんじゃねぇ!」

 捜査員の一人が叫んで、頭を机の下に押し込むと手錠をはめた。

「十三時四十九分、逮捕!」

 飛輝は、大人しくされるがままになり、近くの目黒署に連行されていった。

 目黒署内では、不気味なまでに無関心と一緒に聞こえないようにひそひそした言葉をかわしあっていた。

 なにしろ、いまだ飛輝がOBとして影響力を持つ署である。

 取調室に入れられたものの、飛輝の態度は尊大なものだった。

 耶杜と新人の刑事が取り調べに当たった。

「さてと。渡師舞の行方について聞こうか」

 新人は聞いた。

 意端のことなど忘れたかのようだった。

 飛輝は天井を指さした。     

「空の上さ」

「ふざけるな!」

「まぁまぁ」

 耶杜は新人を脇にやった。

「飛輝、その様子じゃ色々知ってそうじゃねぇか。全部吐いてもらおうか?」

「……何でも話してやるよ」

 ニヤニヤとする飛輝。

「遁暮会と鹿瀬の関係は?」

 その質問は虚を突いたらしく、飛輝は一瞬真顔になった。

「それは知らねぇなぁ、残念だが。おまえら、意端の話で俺をパクったんじゃねぇのかよ」

 すぐに答えてくる。

 耶杜はその場で携帯通信機に連絡を入れた。

「……矛漕か? 飛輝を捕らえた」

『ああ、そうか。事の元凶だ。こちらでも手に余していた。ありがたいな』

 飛輝は茫然として漏れる音を聞いていた。   

『サンシャイン復興会という、元アストロノミカ計画を継ぐ話の中心人物だ。ゆっくりと話を聞いてやってくれ』

「ちょ、ちょっと待て!」

「シャンシャイン復興会というのは、元アストロノミカ計画を題材に問った詐欺というのが、我々の見解だが?」

 耶杜は淡々と聞いた。

『そのとおりだ。発案者は渡師舞と言う奴だが。飛輝が最も詳しいだろう』

 礼を言って、耶杜は通信を切った。

「では、渡師舞から居場所を教えてもらおうか?」

「……ウチの会社のもつ衛星に逃亡中だ。それ以外は知らない」

「おまえの汽乃堂は、シャンシャイン復興会の主催だったなぁ。幾ら集めた?」

「知らねぇ……」

「こちらのデータだと取引先の会社は四十四社。総額は八兆七千万となっている」

 莫大すぎる。

 だが、この時に飛輝は話の筋を把握した。

 怒りが湧き起こる。

 離裏と意端は繋がっていたのだ。

 彼は見事に嵌められたのだった。




 鹿瀬の配下の意端が仕事をしたらしい。

 π9もすっかり抜けた施樹は遡来乃ひなを使って羽端を探していた。

 このヴァーチャル・アイドルも衛星間の存在である。

 情報の流れの中の気泡のようなものなので、その中での探査とを収集に適していた。

 元々、都市伝説を集めていた存在なのだ。

 昼間の池袋を散歩しつつ色々調べていくと池袋と目黒周辺で局地的な気候変動や、不可解な事件が多発していることに気づいた。

 とあるマンションではガス管が破裂したのか、建物内で異臭騒ぎが起こっていた。また、他の場所ではまだ秋に近いぐらいだというのに、池が凍って犬が閉じ込められていた。

 そして、正体不明の幽霊の噂である。

 うっすらとした人のような濃い影で、触れた人間は数時間記憶をなくし、気付くと知らないところで覚えのないことをしているという。

 行き先のわからない電車に乗っていたり、店で何かを食べている途中だったり、何故か集団の輪の中で脅されていたり。

 気候変動の方は、ある場所との差が二十℃はちがうとか、晴れている真となりで豪雨が起こっている。

 遡来乃ひなが動けば動くほど、この手の話は増えて行った。

 配信用のネタばかりが集まってくる。

 施樹はうんざりしつつも情報を整理していた。

 なにしろ、羽端が消失したのだ。

 これには施樹も焦りを感じている。

 今起こっている異常事件を並べると、どれも飛輝が使っていた九生龍子による介入だと考えられた。

 だが時刻も場所も一部重なりもするほどにランダムで一挙に多数が発生していた。

 ふと、施樹の頭に実験という言葉が浮かんだ。

 九生龍子は、大気を操りながら、何かを模索している。

 飛輝の意思で?

 単純な疑問が出て来た。

 すでに関係は、大鎌を持った殺人鬼が切断しているのだ。 

「……まさか」

 施樹は背中に冷たいものが走った。

 九生龍子の意志。

 万が一、その可能性にぶち当たったのだ。

 星製物が意志を持つ。

 それは衛星が意志を持つことと同意だった。

 空の星の数の中には、地上からの意図に従うものが多くある。

 とてもではないが特定はできない。

 羽端との関連にあるのかすら謎である。

 探す手段を変えたほうが良いかもしれない。

 羽端は自動操縦化したとはいえ。大鎌を持った殺人鬼を持っている。

 そちらの動きを探すのだ。

 彼とのだべって話している中で記憶にあるのが、鵠兆範呂を星製物が捕らえたかもしれないというものだった。

 大鎌を持った殺人鬼が能力を発揮し続けていられる時間は十日間。

 十日間の間のうちに羽端の手掛かりが手に入る。

 街をフラフラしながら探査している彼女の目に、浮遊ディスプレイ広告の「汽乃日報芸術祭」という文字が飛び込んできた。 




 一段と、ロゼッタ・ストーンの落下が激しかった。

 「汽乃日報芸術祭」はサンシャインシティで開催されていた。

 開催期間は一週間。初日は誰もが予想しなかったほどに多数の人が集まっていた。

 アンダーグラウンドの作家、鵠兆範呂を中心としているが、現代美術からCGや音楽を取り入れた大規模なもので、企画の離裏すら驚くほどの賑わいだった。

 その客の中に、施樹と師施葉がまぎれていた。

 羽端の足取りはまだ掴めていない。

 だが、鵠兆範呂のイベントとなると無視するわけにもいかなかった。

 広場の中心には壇上には、幾枚ものスクリーンが掛けており、イベントのⅤRがそれぞれ流れていた。

 そこに、シックなスーツを着たスレンダーでスタイルの良い女性が現れた。

 施樹らは、絶句した。

 見覚えがあるのだ。

 小さい頃に確かに。

「皆さま、今日は汽乃日報芸術祭にお越しくださり、ありがとうございます」

 離裏は辺りを見渡して、皆がこちらに注目するのを待って再び口を開けた。

「……今回は、様々なアートに触れていただく機会を作らせていただき、光栄です。僭越ながら、皆様に今回、ご紹介したい作家が一人おります」

 通り過ぎる人も足を止め、壇上の前は人だかりになっていた。

 軽く手を上げると、スクリーンの一つの画面が変わった。

 白い顔の上部を隠した仮面を被った、髪を後ろに撫でつけた青年っぽい顔で、大き目の黒いサマーセーターを着た男が映された。 

『はじめまして。鵠兆範呂と申します』

 低い、芯のある声だった。

 客たちから歓声があがる。

「あいつが……!?」

 続いて、施樹と師施葉に殺意が沸く。

 羽端はいないが、二人は遡来乃ひなを出すことを検討していた。

 鵠兆範呂に対するライブ配信だ。

「鵠兆範呂先生は気鋭の新人作家で、様々なアンダーグラウンド風で独特な作品を発表されています」

 離裏が解説する。

 声がなりやまなまいのは、彼の人気を物語っていた。

『はっほ~ん! 遡来乃ひなだぞっ!』

 突然、壇上の中空に、少女が浮かんで現れた。

 質感と動きは、本物の人間にも見える。

 遡来乃ひなの登場に、一同が沸いた。

 知らない者たちがほとんどだが、ヴァーチャル・アイドルの出現に盛り上がったのだ。

 離裏も鵠兆範呂も冷静な様子をしていたが。

『さぁさぁ、あたしもここで生配信するぞ~、もうしてるけど~』

 彼女の足元に、配信画面接続先のアドレスが浮かぶ。その先には、来歴という設定や過去の配信のアーカイブがあった。

「急な参加で驚いたけどとても光栄よ、遡来乃ひなさん。うわさは聞いてるわ」

 離裏が笑顔を作った。

 この隙に、施樹と師施葉は壇上の裏側に回った。

 デレクターらしき男の後ろから、師施葉が無言で片腕を使って首を絞めつけた。

 そのまま、物陰に引き釣りこむ。

 前面にしゃがんだ施樹は、男の鼻に指を突っ込みながら言った。

「鵠兆範呂の住所はどこ? それ以外何か口に出したら殺す」

 師施葉が微かに腕の力を抜く。

 真っ赤だった男の顔がやや納まると、池袋の豊島区役所近くの場所を口にした。

 師施葉は再び力を入れて、男を気絶させる。

『前回の配信見てくれた人にはその続きとなるんだけど、今日は再びサンシャインシティの謎に迫るよ~。題して、鵠兆範呂とは? 噂では今大作を考案中らしいよ! それでねぇ、いま彼が被ってる仮面なんだけど、大鎌を持った殺人鬼が何人も失踪させている事件に関わっている仮面の男そっくりなんだわ~』

 次の瞬間、離裏が絶句した。

 視界の端に入れていた、鵠兆範呂のスクリーンの中で彼の背後に人影が突如現れたのだ。

 大鎌をもって、頭巾のようなものを被り、幾枚ものローブ姿。

 鵠兆範呂も、彼女の様子で視線を察した。

 振り返ると大鎌を持った殺人鬼がそこにいた。

 舌打ちしたくなるのを我慢する。

 彼が動かないままでいると相手も微動だにしなかった。

 出てきた。それも、鵠兆範呂のところに。

 施樹は羽端の気配がないか、衛星間ネットワークを駆使して探った。

 自動操縦に切り替えているとはいえ、大鎌を持った殺人鬼が発動する背後のどこかの接合点に羽端の気配があるはずなのだ。

 すると、見たことのない経路を発見する。

 施樹は遁暮会の本部に連絡を入れた。

「羽端がいるかもしれない地点を探ってくれないでしょうか?」

 彼女としては、未知のところに集中して目の前の鵠兆範呂等を逃すはめになりたくなかったのだ。

 さらにいえば羽端は後でも探せるが、事態は目の前で進行中である。

 冷静にデザイナー・ベイビーの仇を第一に重要視したのだ。

『……どの辺りでしょうか? ナビしてください』

 若い声が反応してきた。

「第六十七号から第百八十一号と第八十二号への接合点」

『承知しました』

『何か変だぞ……』

 鵠兆範呂は大鎌の殺人鬼に目をやりながらつぶやいた。

 違和感については、施樹も同感だった。

 前回サンシャインシティで事件が起こった時は、大量のロゼッタ・ストーンが落ちてきたというのに、今回は一つも見ない。

 大鎌を持った殺人鬼は、頭巾を無造作にはぎ取った。

 その顔は、羽端のものだった。

「よー、ド腐れ野郎。ぶっ殺しに来てやったぞ、精々今のうちに悲鳴ついでの祈りでも唱えておけ」

 施樹も見たことがないほど、憎悪と好戦的な感情を丸々と隠しもしていなかった。

「羽端?」

 あまりにも、普段の羽端と違う。

 施設にいた当初は手に負えないほどの癇癪もちだった記憶はある。しかしそれは数年で消えて、別人のように浮世離れした性格になったのだが。

 羽端は大鎌を鵠兆範呂の首を刈るように振った。

 鵠兆範呂は大きくのけ反って、刃の峰に軽く手を置いて流した。

 大鎌の刃がいきなり錆びついた。

 物質の変化を先取りする能力。

 だが羽端は気にせず、一度大鎌を回転させて、今度は上から振り下ろす。

 次の瞬間、羽端の視界が一変した。

 グラスを置いたテーブルに、髪の長い少女が肘を置いて物憂げな微笑みを称えていた。

「……ここは?」

 雰囲気からログハウスのようなところだとわかった。

 明かりはテーブルの上にしかぶら下げられていなかった。

「会うのは初めてね。キミが羽端か……ちょっと話でもしない??」

 少女は、グラスを口に傾かせながら言った。

 スクリーンから遡来乃ひなを含めた二人の姿が消えた。




『発見しました』

 サテライト・アエティールから施樹の耳に声が鳴った。

 施樹のところに、ぼんやりとした危機感のない顔でニヤけた少年が寄って来た。

 いつもの羽端そのものだった。

 だが施樹はどこか違和感を覚えてた。                     

「気を付けて。サンシャインシティのいたるところにある鵠兆範呂の造ったものの近くから、中毒性の物質が流れてる」

 レストランで注文をする時のような気楽な口調だった。

「中毒性?」

 様々な疑問があったが、いま重要なのはそれだと施樹は思ったため、何も言わなかった。

「九生龍子っぽいね。ここに来た人たちは、これで鵠兆範呂の『作品』の中毒者になる」

 施樹は、壇上の離裏を睨んだ。

 あの女、とんでもない食わせ者だ。

 離裏は突然のハプニングにも動じた様子もなかった。

「しかも大鎌の殺人鬼は今使えない」

 羽端はむしろつまらなさそうにしている。

「どうするの、じゃあ?」

「一時撤退だね」

 羽端は言って身をひるがえした。

 以前からそうしたかったかのように。




 師施葉は、耶杜の部下に周辺の道路を固めさせ、四人を連れて鵠兆範呂の家の側で待っていた。

 彼は決して一人で動こうとはしなかったのだ。

 ようやく羽端達が合流した。

「踏み込むか?」

 師施葉が聞くと、羽端は迷った顔をした。

「どうせなら、火を付けたら? 逮捕できないんでしょ?」

 据わった目の施樹が提案する。

「燃やすかぁ」

 面白そうに羽端は頷いた。

 サテライト・アエティールに命じて軌道上のデブリを一つ用意されると、真っすぐに入眞の家に向かって落とさせた。

 それは入眞邸に直撃して凄まじい爆発を起こし、炎を周囲に舞い上がらせた。

 だが、次には大小の気泡のようなものが多数、天高く登って行った。

「……なんだ?」

 誰もその意味が解らず、眺めているだけだった。

 粉砕されて炎の塊となった家からは誰も出てこなかった。

 消防車が周辺住民から呼ばれて消火活動に当たる。

 すでに全焼に近いところで、消防士たちは活動を始めていた。

 羽端達は集まってきた野次馬たちに紛れていた。。 

作業が終った夕刻、誰一人として遺体が出てないとのことだった。

「遅かったか……」

 羽端が舌打ちしたそうな顔をする。

「でも、あのイベントで主催がわかったよ」

 施樹は言う。 

「親会社の汽乃堂は矛漕から株をこっちに回してもらってる。テコ入れするか」

 施樹の指摘のおかげで、羽端は余裕ぶった笑みになる。

 ふと、ロゼッタ・ストーンがたまたま落ちてきた。

 施樹はそれがどことなく今までのモノとは違うと感じたが、解析する能力もない彼女はどうでも良いと気にも留めなかった。








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