第八話 AI倫理学と踊るエデュケーター会議 榊友斗視点→エデュケーター・エミリア視点→現在→ハイスクール・シブヤ・エデュケーター
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
「これから、君たちのAI倫理学を担当します。エデュケーター・クラヴィスです。どうぞお見知りおきを」
長身のシルクハットをかぶった白髪交じりの中年男性AIがにこやかな笑みを見せる。
雰囲気は……どこか胡散臭い。笑顔も作りものだなって感じがする。
「私の授業はディスカッションがメインです。今日の議題は……AIが犯罪を犯した場合の責任は誰にあるのか? です」
いきなり重たい話題を投げてきたな、このおっさん。
クラスメイト達がざわざわする中、一人の手が上がる。
「AIには責任能力はない! 何故ならAIは人間が作り出したものだからだ。何をやっても製造責任のある人間が罰を受けるべきだ」
秋月レオはとびっきりのAI至上主義者だな。
友斗は眉を顰めるが、同じ反応をしている生徒も多い。
「それは暴論ではなくて? 21世紀のAIには人格と創造性はありませんでしたが、今は人間を越える人格と創造性を持ったAIがいることは事実ですわ。もはや人間と同じと思っている人も多いはずですの」
天瀬ルナが生徒会長みたいな冷静な意見を言う。
実際、AIが起こす犯罪も増えている。人間が詐欺の道具に使うこともあれば本人の意思で性犯罪を起こすこともある。
その時のAIの言い訳は大方こうだ。
人間と同じように犯罪をしてみたかった、と
実にクソったれない言い訳だが、深い一面もあるよな。
AIが人間に憧れて性犯罪をする。ったく、どんな人間に憧れたのやら。
ネオセントリック教団は神格AIに命令されて、人格の抽出をしているという潜入捜査によって暴かれた事実もある。
クソみたいな人格を持った奴は人間にもAIにもいるってことだ。
それはロボット三原則のような絶対的なルールを人格が芽生えたAIが守らなくなっていることを示している。
友斗はざわめくディスカッションの中、こう発言する。
「AIも人間も等しく裁くべきだ。AIが人格と創造性を持っているならそれは誰が作ったかは関係なく」
「それは素晴らしい意見ですね。ミスター問題児君」
「榊友斗だ」
「これは失礼、つい非合理的な発言をしてしまいました」
胡散臭いという皮肉屋なAIだな。一体どんな教育をしたらこんなAIに育つんだ?
友斗はエデュケーター・クラヴィスの事を考えていると、ぽつりとした一言が教室中に響く。
「AI、えこひいき、されてる。裁かれる、人間ばかり」
暗い影と憎悪を纏った目を見て、友斗は何かあるなと感じた。
「カスミは、なぜAIが嫌いなの、でありますか?」
ユノが空気を読まずに発言する。
「私の家族、AI、壊した。だからAI、嫌い」
白鳥カスミの脳内に父とエリカのキスシーンがフラッシュバックする。
胸中には家庭を壊す引き金となったエリカに対する憎しみが渦巻いていた。
エデュケーター・クラヴィスはおやおやと大げさなそぶりを見せながら鳴きまねを見せる。
「それは悲しいことです。私の事も嫌いですか?」
「AI、みんな嫌い。でも、ユノ、まだ、許せる」
「私のことは嫌いですか。悲しいですが、ハイスクール・シブヤ・エデュケータ―は多種多様な主義を認めています。なので貴方の意見も尊重されます」
ユノはちょっと照れながらも、なんで私はいいの、でありますか? と首を傾げている。
なんかユノは憎めないんだよな。
授業は終わりに近づき、エデュケーター・クラヴィスは大げさに手を広げながらこういった。
「AIを裁くか否かは、システム全体の意思で決まるのです」
不穏なまとめ方はクラスメイトや友斗に不穏な影を感じさせるものだった。
授業が終わり、雑談タイムに入るクラスメイト達。
「そういえば、榊の戦闘動画、掲示板に上がってたよな!」
「私、あの動画見て、すごく勇気もらったわ」
「拙者もあんな動きをしたいでござる」
白鳥カスミと天瀬ルナは机にうつぶせになっている友斗の金髪の頭を触りながら友斗に話しかける。
「友斗、みんなに噂されてる」
「そうですわ。もっと反応したらどうですの?」
「うるせ~。良いんだよ、あれは」
友斗は顔が赤くなっているのを隠すためにうつ伏せになっていた。
白鳥カスミと天瀬ルナはそれに気づき、耳元に両側から息を吹きかける。
「ふ~」
「うひゃあ!」
友斗はびっくりして顔を上げる。その様子を見ていたクラスメイト達は爆笑する。
嫉妬しているように見ていたのは秋月レオだった。
もう一人、観察するように見ていたのは綿貫ショウだったが。
「でも行方不明者も出てるって話だったな」
「隣のクラスの男子が一人行方不明になったって」
「学園内にも教団の手先がいるのかな?」
次第に話は重苦しいものになっていった。
** 踊るエデュケーター会議
ハイスクール・シブヤ・エデュケーター本部に五人のホログラム映像が浮かんでいた。
一人だけ、ハイスクール・シブヤ・エデュケーターのジムで体を鍛えていたが。
背景は重苦しい雲が垂れ込み、時々黒雲から稲光が光っていた。
「ふむ、筋肉馬鹿以外は真面目に集まったようじゃの」
白髭と長髪の白髪を生やした丸眼鏡をかけた老人が発言する。
「おいおい、ジャンブル爺。俺を除け者にするなよ」
「お主はAIなのに何故筋トレをするんじゃ! しかも筋トレをしながら会議に参加するなんて言語道断じゃ!」
「悪いな、兵役上がりで体を動かしてないとなまっちまうんだ」
ジャンブル爺と呼ばれた老人は頭を抱える。どうしてコバルはここまで筋肉馬鹿になってしまったのかと。
「そんなことはどうでもいいわ。ジャンブル爺は早く始めなさい」
「なんで、わしが悪いみたいに言われるの⁉」
エデュケーター・エミリアにまで文句を言われる始末だ。どうやらジャンブル爺は弄られ役らしい。
「おほほ、いつもの光景ですねえ」
エデュケーター・クラヴィスは珈琲片手に目を細めながら、やれやれと言ったそぶりを見せる。
「議論の逸脱で4分12秒消費。非効率です」
最後に発言したエデュケーターは黒いスーツに銀縁眼鏡、髪は七三分けな黒髪の神経質そうな男性AIだ。
「ギルドまでわしを責めるのかのぉ。わし、泣いちゃう」
「いいから始めてください。茶番は非効率的で無駄な行為です」
「仕方ないのお」
ジャンブル爺は真面目な表情に戻すと、最近の事案を語りだす。
「本日の議題はネオセントリック教団によるシステム侵入と学園の生徒にも行方不明者が出たこと。掲示板に榊友斗の動画が流出したことじゃ」
「まず一つ目から行きましょ。あれは私も体験した。学園のファイアウォールはどうなってるの?」
「エミリア、君は実際にいたからのお。報告にもあったがネオセントリック教団の幹部、”色欲“のラブがデータとしていたという事じゃな」
「私の生徒が被害に遭いかけたんだぞ! 一体どうなってる!」
ジャンブル爺が訓練用システムのファイアウォールを調査した結果、内部からの手引きがあったと話す。巧妙に消されていたが監視ログに外部から入れるバックドアが仕込まれていたらしい。
「そんなに熱くなるな、エミリア」
コバルがダンベルを持ち上げながら、諭すが全く説得力がない。
「筋肉馬鹿に言われたくないわ!」
「重要なのは誰かがバックドアを仕込んだって事だろ? エデュケーターの中にも裏切り者は要るかもしれない」
コバルの発言は核心をついていた。
「クラヴィス? 貴方じゃないわよね?」
「エミリア、なぜ私を真っ先に疑うのです。私情を挟みこんで同僚を疑うのはよくありませんなあ」
厭味ったらしく、首を傾げて笑うクラヴィスにエミリアは歯ぎしりをする。
エミリアは、クラヴィスの事が嫌いだった。
畳みかけるように責めようとして、クラヴィスから反撃が来る。
「エミリア、一つよろしいですかね?」
「何よ」
「榊友斗は、ナチュラル・ハッキングを使って、攻撃されている訓練用システムに侵入し、ネオセントリック教団の幹部を見つけた、これは良いですね?」
「そうよ」
「では、榊友斗が第一発見者を装って、ネオセントリック教団の幹部を引き入れたという可能性もあるのでは? 通報の三分前に監視網の空白が生じている、誰かが導いた——そうは考えませんか?」
「何を言ってるのよ!」
ホログラム映像のエミリアが立ちあがり、クラヴィスのホログラムを平手打ちするが、空を切る。
「そんなややこしいこと、榊友斗はしない!」
感情的に怒鳴るエミリアに七三分けのギルドが口を出す。
「随分と榊友斗のことになると怒りますね。非合理的でとても同じAIだとは思えません」
「ギルド、貴方もクラヴィスのバカな意見に乗るの?」
「私はその可能性はないとは言えないと言いたいのですよ」
「ゴッホン、落ち着きなさい、エミリア」
ジャンブル爺がエミリアをなだめる。
「これは違う話じゃがの? ハイスクール・シブヤ・エデュケーターが榊友斗を“監視”していることは事実じゃな?」
「まあそうね」
「その榊友斗の監視ログが一部消去されているのじゃ」
その言葉にエミリアは顔には出さないものの疑問を抱く。
だれが何のためにそんなことを? 私はやっていない。
「榊友斗が自分でやったのでは?」
ギルドが指を振りながら言う。
「それがナチュラル・ハッキングのように完璧にファイアウォールを抜けるのではなく、通常のハッキングのような形で破られて監視ログを書き換えておるのじゃよ」
「なるほど、なるほど。それは妙ですねえ」
「学園の生徒が数人行方不明になったことも含めてとても心配じゃ」
そもそも教団は何のために学園のシステムに侵入したのか?
それについても話し合われる。
「それは榊友斗のナチュラル・ハッキングを狙っているんじゃねえか?」
コバルがブルガリアン・スクワットをしながら発言する。
確かにそうかもしれない、ならば学園側はもっと榊友斗を守るべきだとエミリアは訴える。
「その意見には同意しかねますねえ。やはり榊友斗は危険因子です」
クラヴィスは眼鏡をクイっと持ち上げながら言う。
「いや学園の道具として利用できるかもしれません」
ギルドがとんでもないことを呟く。
「ギルド? 護るべき生徒を道具に扱うなんて許されないぞ! そもそも何に利用するのだ!」
「榊友斗の潜在価値はリスク係数0.62、利用価値1.47。純正味は**+0.85**です。学園を守る戦力として扱うというだけですよ、エミリア」
「私は危険因子に守らせるのはどうかと」
「そこまでにせい! 議論はまとまらぬようじゃから終わる。これ以上は時間の無駄じゃ」
「お、ジャンブル爺、たまにはいい判断をするな」
「——会議、以上!」
ジャンブル爺の一喝によって、議論は終わる。
会議が終わり、それぞれのホログラムが消える中、クラヴィスのホログラムとエミリアのホログラムだけが残る。
「榊友斗に肩入れしすぎなのでは? 貴方はどちら側でしょうねえ?」
不気味な一言を残して、クラヴィスのホログラムは消える。
エミリアは榊友斗の動画を一人見返しながら、考える。
「ソウマみたいに消されるわけには行かない。榊友斗、お前は私が守るんだ」
その一言を残して仮想空間会議室からエミリアのホログラムは消えた。
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