第六話 二十二世紀にうごめく闇 ラブ視点→シブヤ地下ネットの幹部視点 現在
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
結局、新しい名前を与えてあげた訓練用AIは壊されてしまった。
「役立たずにもほどがあるわ」
あのAIに再生能力を与えたのに簡単に壊すとは。
そもそもナチュラル・ハッキングという能力は人間の能力の範疇を越えている。
だから欲しい、あの少年の人格が。
「榊友斗、あの子はイケメンだからいじめたくなっちゃうわ。私の体で誘惑しながら、人格を抜いたらどんな声で鳴くのかしら?」
目の前で黙って聞いている部下は体の震えが止まらなかった。
この女は狂っている。ネオセントリック教団の教えに従っているものの“色欲”の女幹部は苦手だった。
ラブはネオセントリック教団の教会の執務室でティーカップを叩きつける。
ハイスクール・シブヤ・エデュケーターを監視させていた部下はびくっと体を震わせる。
「素材が足りないわ。下等市民共はちゃんと攫っているの?」
「は、はい。今日も一人攫ってきました」
「そうじゃあ、いつものを始めなさい」
「かしこまりました。見学なさるのですか?」
「当たり前じゃない? 神への供物を届けるのは私の役目よ♡」
浮浪者のような恰好をした中年の男が頭に管が何本も機械に固定された器具をつけられてガタガタと震えていた。
「オラに何するだ!」
「これから貴方は神への供物になるのよ♡」
「いいから離すだ!」
ラブは操作画面の設定をいじり、より快楽を与えながら人格を抜く設定にする。
神への供物とは様々な人間の人格を抜き、それをネオセントリック教団が崇める神格AIの《オーバーライド・ゼロ》に捧げるためだ。
頭にVR器具をつけられた哀れな男は様々な快楽の映像を与えられ、次第に興奮していく。頭に電流を流され、快楽と痛みを同居させられながら、何も考えられなくなる。
体からは汗や体液が混じり、絶頂の時を迎えた瞬間、人格データを抽出する。
「うおおおおおおお! おあああおおおお!」
顔からは涙が止まらなくなり、自分が無くなっていく。
ラブはその瞬間を見守りながら体を慰め、興奮が止まらない。
「あ~はははは! これよ、この瞬間がたまらないのお!」
頭を撫で回しながら、神を崇め、絶頂したタイミングの人格を《オーバーライド・ゼロ》に送る。これが使命なのだとラブは絶頂しながら考える。
その様子を部下は冷や汗を流しながら、もうこの教団にいられないと考えていた。
いつ、ネオセントリック教団から逃げ出すか、それ以外考えられない。
ラブは抜け殻となった哀れな男を見ている。この後バレないように逃げよう。
部下はそろそろと教会の出口に向かっていく。
だが……出口を開けた瞬間、教会の衛兵がぞろぞろと入ってきて、部下を取り囲む。
「あら~ちょっと遅かったわね♡ 次の供物は誰だと思う?」
「そんな‼ 私は少し用事を思い出しただけなんだ! 離せ!」
「貴方の感情はお見通しよ? 裏切り者は許さない。それが教会の戒律よね?」
「嫌だ、いやだあああああ!」
暴れる幹部を衛兵たちは牢屋に連れていく。
ラブは下腹部を濡らしながら光悦とした表情を浮かべていた。
ハイスクール・シブヤ・エデュケーターにはどんな供物が眠っているだろう。
早く、次の計画を実行したい。だが焦っちゃダメね。
あの少年が欲しい。
ラブは指をペロッと舐めて教会の祭壇室で一人妖艶な笑みを見せていた。
** シブヤ地下ネット“スカジャン”視点
ここはネオンとホログラム映像が渦巻く歓楽街の旧地下メトロの一室。
無機質なコンクリートの壁に囲まれた円卓には六人のAIと人間が座っていた。
円卓の中心には小型ホログラム映像が映し出され、とある問題児のSNSに上げられた動画が再生されている。
問題児とは勿論、榊友斗のことだ。先ほどからホバー型スケーターに乗った少年が三次元的に車を躱しながら、AI警察を巻く映像やゾンビ型の小兵を殴り倒し、鬼武者に向かっていく映像が映し出されている。
「ふむ、スパイディ? この少年の情報はどれほど集まった?」
「ライガー、俺をからかっているのかい? ほぼ全部さ」
「言ってみろ」
スパイディと呼ばれたシブヤ地下ネット“スカジャン”の情報屋の無精ひげをだらしなく生やした日本人風の男が喋りだす。
「良いかい? こいつはまずAI社会で唯一無二のナチュラル・ハッキングという能力を持っていることを隠していない。馬鹿かよっぽどの天才でない限り隠すはずだ」
「ふむ、続けろ」
「正義感が強く、シブヤ郊外で野良AIに襲われていた子供を助けたこともある。だがルールを守ることは苦手でAI評価は星5のうち星1。つまりAI的にはキレたナイフだ」
ここで緑髪のラテン系の顔立ちの小麦色のAIが発言する。
「なんかこの子の映像を見ていると感情がざわつくのよね~。何か他に隠していることはないの?」
「そうなんだよ、ドクシア。こいつは触れ合ったAIに感情を抱かせるエモショーナーの可能性がある」
その言葉に円卓に座っていた六人がざわめく。
白鳥カスミと同じ青髪の長身の欧米系の顔立ちの女性が発言する。
「エモショーナーだと? AIは疑似感情は持つことができるがそれはただの模倣のはずだ。それが本物の感情を抱かせることができるのか?」
それは当然の疑問だ。エモショーナーとは世界でも数十人しか確認されていないAIに感情を抱かせる能力の持ち主で、AIの発展に欠かせない能力の持ち主とされている。
その稀少価値は高く、ナチュラル・ハッキングという世界で数人の能力とエモショーナーまで持っているとするとAIの発展を担っている研究所や会社は黙っていないだろう。
何せ、AIがより人間に近づく可能性を秘めている能力である。人間のように豊かな感情に憧れるAIはかなり多いのだ。
「そうだ、ブレイナ。こいつは今後様々な勢力に狙われるだろう。クソったれなAI至上主義者のネオセントリック教団にもな」
「ハイスクール・シブヤ・エデュケーターがネオセントリック教団に襲われたのも榊友斗絡みか?」
「いや、それはちょっと違うな」
アフリカ系のドレッドヘアーの褐色肌の男性がイライラした様子でスパイディに怒鳴る。
「何がちげえんだ! もったいぶらないで言っちまいなあ!」
「レンジャーX。そんなに怒るなよ、カルシウムが足りてねえぞ」
「良いから早くしろ!」
スパイディは首をすくめながら、しょうがないと言った顔で話し出す。
「順を追って説明するぞ。まずネオセントリック教団の狙いは人格を捧げる生徒を探すためにやったのは間違いない。だがそれを阻止した生徒が榊友斗だ。教団の興味は榊友斗に移ったに違いねえ」
「なるほどな。未来ある生徒の人格はさぞや狙い目だろうな。だが榊友斗という存在がでかすぎた訳だ。他にもなんかあんのか?」
「ハイスクール・シブヤ・エデュケーターは日本屈指の教育機関でファイアウォールはかなり厳重だ。だがそれを簡単に破れた。つまり……」
黙っていたフードで頭までかぶった少女の声が響く。
「……つまり、何?」
「リベンジャー、つまりだな。裏で手を引いてネオセントリック教団を引き入れた存在がエデュケーターか生徒にいるはずなんだ」
「……なるほど」
リベンジャーは唇をかみしめる。思い出す、家族が狂った教団のAI兵士に殺された日のことを。そんな教団の教徒が学園側にいる。それだけでクソみたいだ。
ライガーがスパイディにたしなめるように言う。
「リベンジャーの過去を考えろ。そんなことを言えばリベンジャーが武器を持ってハイスクール・シブヤ・エデュケーターに突っ込みかねない」
「わりいわりい。だがよ、そこまでネオセントリック教団は迫っているんだぜ?」
円卓の場は静まり返る。シブヤ地下ネットは裏社会の非合法組織だがネオセントリック教団徒は敵対している。ネオセントリック教団はAI至上主義だがシブヤ地下ネットは人間とAIの共生を掲げている。
シブヤ地下ネットは義に厚い組織ではあるが、何も犯罪行為をしていないわけではないのだが。
六人はこれからどうしていくべきか、榊友斗と接触するではないかという方向に議論を重ねるのであった。
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