第五話 リンク戦闘訓練 終盤 榊友斗視点→現在→リンクフィールド内
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
《脳内インターフェース接続完了。リンク:ネオセントリック教団の教徒:ONI。制御層:第一階層》
友斗の脳内に小さな電流が流れ、きらきらとした青白い光の世界に誘われる。ノイズに包まれた視界が晴れた。
うげえ、ネオセントリック教団の教徒に変わってやがる。あのラブって女はプロトコル・オーバーライドもできるのか。
訓練用AIのアバターがキラキラした数字と文字列で構成された塊に変わった。
訓練用システムではなく、訓練用AIにハッキングする理由は一つだ。
訓練用AIの思考パターンと想定される“コード”を見るためだ。
「なるほどな、わかったぞ」
友斗は素早く、小兵と浸食された鬼武者がどんな状態になっているかわかった。
通常の訓練用AIにはない、再生機能がついている。コード書き換え機能も強化されているようだ。だがぼろぼろの服を着たゾンビ風の小兵にはどちらもついていない。
ニタニタと笑いながら、ボロボロの片手剣を振り回し、気色悪い笑い方をする小兵たち。
舐めてやがるな。だがそれでいい。
二つの閃撃が空を切り裂いて、友斗を撫で斬りにしようとする。
「知ってるぜ、その”コード”はよぉ!」
友斗は上体を逸らし、電子空間の汗がスローに落ちる中、二本の剣と槍を躱す。
まるで某SF映画のネオのように時間がスローになる。
《脳内インターフェース接続完了。リンク:榊友斗のアバター》
友斗は自身のアバターにナチュラル・ハッキングして自律行動から、コードを書き込んで動かす方法に変える。
「#$%&」
クラスメイトが叫んでいる声もスローモーションでよく聞き取れない。
周りのクラスメイト達が驚きの声を上げる中、コードを入力し下半身をバネにして体を捻りながら一体の小兵に近づき、拳を振り上げる。
訓練用AIの各自には弱点の場所は決められている。
「お前は顔面、隣のお前は脇腹だ!」
右腕と左腕を二回振る。小兵たちは吹き飛ばされながらポリゴンをまき散らして消える。
一瞬、殴った衝撃でリンクフィールドにノイズが走る。
「何だ今の動き⁉」
「一瞬加速したぞ!」
「人間、やめてる」
失礼な奴らだな。だがそれがいい。
友斗はにやりとしながら次々に小兵たちに迫り、的確に弱点を突いていく。
振り下ろされる剣は躱し、槍は踏み込んで根元から折る。
段々乗ってきたぜ!
《脳内インターフェース接続完了。リンク:訓練用リンクフィールド》
リンクフィールドの地面が青白い数字と文字列に変わり、一瞬赤いファイアウォールが迫ってくるが赤い網の中をすり抜ける。ふむふむ、この数字とコードをいじってやれば……。
地面が一瞬青白く光ると、ひびが入り、轟音が聞こえてくる。
名付けてアースクエイクだ。喰らいやがれ!
小兵たちがいる地面の上まで陥没が広がり、地割れが起きて抗えずに飲み込まれていく。
土の湿った匂いと揺れる地面は電脳世界の天災であった。
「ぐぎゃああああああ!」
小兵たちが奈落の底に落ちて、ポリゴンになって消えていく。
「貴様は何なのだ! 我がネオセントリック教団に歯向かうのか!」
「おめえは元々訓練用AIだろ! 何言ってやがる」
「もう私は訓練用AIではない、ネオセントリック教団の教徒、ONIだ!」
確かにそんな名前だったな、だがそんなの関係ねえ。
「決めたぜ、てめえが反省するまで殴り続ける」
「私は敬虔な教徒だ。反省などするものか!」
もう言葉は要らねえ。あいつを破壊してプロトコル・オーバーライドを書き換える。
ネオセントリック教団の“色欲”、ラブのかけたルールを壊す。
鬼武者は顔をにやりとさせると、日本刀を上段から振り下ろす。
風が泣き、一陣の風が離れた場所から、友斗に迫る!
対応が遅れた友斗だが、半身になって風を躱す。
アバターの横髪が切れて、風と一緒に散る。
あぶねえな、こいつ、今までとは違う技を使ってくる。
ナチュラル・ハッキングで自身のアバターを限界までコード書き込みで早くしているから躱せたが……厄介だな。
友斗は再び、こめかみをトントンと叩き、電子の海に潜りながら、ノイズだらけの視界が晴れるのを待つ。現れた数字とコードはリアルタイムでパターンを変えながら読ませまいとしてくる。
むっ! またONIが風刃を放ってくる。
今度は上段と横薙ぎの十字切りだ。
「ちっ!」
サイドステップで避けるも、脇腹のアバターに傷が入る。
友斗は電脳世界で赤いポリゴンを口から吐く。
「あの野郎、ご丁寧に痛覚までリンクフィールドに付与しやがった」
「ふっはっはっは! 貴様の肉体に影響が出るまで痛めつけてやる!」
後ろを伺うが透明な壁は解除されていないようだ。
エデュケーター・エミリアがホログラム型の端末を焦った顔で弄っている。
白鳥カスミはガンガンと透明な壁を叩きながら、必死に叫んでいた。
「我を真っ先に倒した青髪の女も後で痛めつけてくれるわ!」
その言葉を聞いた友斗は、俯いた顔でONIの方に振り返る。
今なんつった? 自分は良いんだ。ルールを破ってばかりだし、不器用だからうまくやれねえ。でも、クラスメイトに、ダチに手を出すって言ったのか?
「てめえ、なんつった?」
「何回でも言おう! お前を倒した後はこのクラスの奴らを痛めつけて現実の肉体ごと殺してやる」
「もういい」
友斗はゆらっと揺れながら、リンクフィールドを歩き始める。
その後ろ姿は蜃気楼のようにゆらゆらと白い炎が出ていた。
様子を見ていたクラスメイトと白鳥カスミもざわめく。
「あれはなんだ?」
「様子がおかしいぞ」
「友斗……?」
《脳内インターフェース接続完了。マルチ対象:ONIと榊友斗のアバター》
光の渦を抜ける。その先には自身のアバターとONIが数字と文字の羅列となっていた。
それを強引につかみ、書き換える。
友斗は本来はナチュラル・ハッキングは一つの対象にしかできない。
だが彼の脳幹に埋め込まれたチップが友斗の怒りに呼応して脳の処理能力を一時的に底上げした。
《プロトコル・オーバーライド 榊友斗の限界を書き換える》
友斗は今一つの壁を越えた。
「はっはっは! 何をしようとも同じ!」
ONIは風刃を連続で放ちながら、友斗の体を切り刻もうとする。
これまでの友斗なら予測しながら体の動きをコード書き込みはできなかった。
だから、これで終わりのはずだ。
ONIはそう考えていたのだが……。
「速い!」
白い炎を体から発した一つの煌めきが左右上下に動きながら、風より早くONIに迫る。
ONIは自身の虚像をコード書き換えで作りながら、友斗の攻撃を待ち、カウンターを決めようとする。
「それは知っているんだよなぁ!」
虚像を躱し、白い炎の具現体が何もない空間を拳で撃ちぬく!
友斗の視界は今、ナチュラル・ハッキングで数字と文字列に囲まれている。
ONIの居場所は赤い数字と文字列で表示されていたのですぐにわかった。
「ぐおおおおお!」
ONIはうめき声を上げるが友斗は構わず、殴る、殴る、殴る。
空中に打ち上げる蹴りも叩き込み、ONIの顎のアバターを砕き、粉々にする。
友斗の拳や蹴りに白い炎が纏われていてその一撃がONIを浄化していく。
「そうだ。我はネオセントリック教団の教徒ではなく、未来ある学生を鍛える訓練用AIだったのか」
そんなつぶやきを聞きながら、友斗は最後の赤い点を燃える拳で打ち砕く!
ONIは訓練用AIとしての記憶を取り戻し、体のゾンビのような腐った部分は修復されていく。周りにいたボロボロの小兵も白い炎に燃やされながら、安らかな顔で消えていった。
リンクフィールド内を覆っていた透明な壁は解除される。
「うわあああああああ! 榊友斗、すげえええ!」
後ろで大歓声を上げるクラスメイト。
友斗はぼりぼりと頭を掻きながら後ろを振り返る。
白鳥カスミや天瀬ルナが興奮しながら手を取ってブンブン振ってくる。
「友斗、怪我、大丈夫?」
「ボロボロですわ!」
「ああ、脇腹はいてえけど、まあ大丈夫だ」
エデュケーター・エミリアも駆け寄ってきた。
「榊友斗、すまない。私は何もできなかった。AIの暴走を止めてくれなかったら次は他のクラスメイトがやられるところだった」
「良いんだよ」
友斗は照れくさそうに手をひらひらとさせながら笑う。
「みんなを守れればそれでいい」
「友斗……」
白鳥カスミは胸がドクンとなり、温かい何かを感じていた。
鼓動が早くなるのを感じて、頬が赤くなる。
天瀬ルナは、榊友斗の熱い思いに感動していた。
尊敬と少しだけ甘い思いに包まれる。
「榊友斗! ボロボロになりやがって!」
「何だよ、俺は元気だよ!」
「ふっ」
秋月レオは、鼻で笑いながらも右手を掲げる。
友斗はそれに応え、手を合わせ、ハイタッチする。
お互いの心に友情が芽生えた瞬間である。
エデュケーター・エミリアは目をうるうるさせながら、過去を思い出す。
間違いない、榊友斗はソウマに似ている。
あぶなっかっしい、友斗を守らねば。
ソウマのように消される前に。
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