第三十九話 シブヤ地下ネット“スカジャン”での訓練模様 朝霧レン視点→現在→トウキョウ・ミッドライン
朝霧レンはガンダに出会った後、ミレと共にシブヤ・ジャンクション郊外を抜けてトウキョウ・ミッドラインに来ていた。
トウキョウ・ミッドラインは旧・山手環状線の上にかぶさった輸送路だ。路面をエア・タクシーが滑り、頭上を物資ドローンが縫う。だが、その影では雨漏りのする高架下に屋台が並び、スカジャンの腕章を巻いた連中が炊き出しを配っていた。
下層にはスラムが広がっており、二十二世紀の日本は貧富の差がさらに広がってしまったことがわかる。そのスラムで野良AIから住人を守るために活動しているのがシブヤ地下ネット“スカジャン”の面々である。
「ここら辺はスラムだって聞いてたけど意外と人は元気だね」
「レン兄ちゃん。それはシブヤ地下ネット”スカジャン“が治安を守っているからだよ!」
「ミレの言うとおりだ。“スカジャン”はスラムの住人に食料を配りながら仕事も分け与えている。ま、非合法組織だがなあ」
朝霧レンとミレとガンダは歩きながらそんな話をする。
スラムの住人達に炊き出しをするAI達やスカジャンの腕章を付けた目つきの悪い面々が目に入る。レンとガンダはお腹が空いていたので、炊き出しを受け取る。
炊き出しはおでんだった。少しのご飯と一緒に食べると美味い。
「これって美味しいけど何の料理?」
何と朝霧レンはおでんを知らなかった。ガンダは少し悲しそうな顔をするとレンに教える。
「これはおでんって言ってな。日本では21世紀まではよく食べられてたんだよ」
「へ~。なんで食べられなくなったの?」
「食べ物の美味しさよりも栄養価の方が重視される時代になっちまったんだよ」
ガンダの悲しそうな顔に不思議そうな顔をするレン。
「そういえばガンダさんって食事するんですね」
「ああ、俺は完全なAIじゃないからな」
二人の間に少しだけ沈黙が流れる。レンがガンダを見ると少しだけ過去を思い出すような顔をしていた。
「おじさんはおじさんだよ」
ミレが無垢な笑顔をレンとガンダに向ける。その笑顔はレンとガンダの曇った心を照らす晴れやかな顔だった。
「そうだな、ミレ。だがなあ、俺にはガンダって名前があるんだが?」
「お・じ・さ・ん!」
「ガンダおじさんって呼んでもいい?」
「おじさんを付けるんじゃねえ!」
レンとミレとガンダは軽口をたたきながらトウキョウ・ミッドラインの旧メトロ地下に向かっていた。どうやらレンに合わせたい人物がいるらしい。
明かりがほんの少ししかついていない薄暗い地下メトロを下っていくと待合所のようなところにAIと人が六、七人集まっていた。
「よう! スカジャン、久しぶりだな」
「ガンダとミレか。良くここに来たな」
坊主頭だが横髪に線が入ったグラサンをかけた白人AIがガンダとミレに声をかける。
威圧感がすごい。裏社会のドンって感じがする。
「ライガー。久しぶりだな」
「ライガーおじさん!」
「おじさんってつけるなよ……」
ライガーが黄昏た顔をする中、後ろにいた緑髪のラテン系の顔立ちのAIがレンに声をかける。
「そこの後ろの子はだ~れ?」
「おう。紹介するぜ。ハイスクール・シブヤ・エデュケ―ターから来た朝霧レンだ」
「どうも、朝霧レンです」
レンはおっかなびっくりの顔で頭を下げる。ミレとガンダには慣れたもののまだ人見知りなところは抜けていないようだ。
「そんな、ビビらなくても大丈夫~」
近くにいた無精ひげを生やした日本人風の男が喋りだす。
「おお? お前さんは未だ行方不明の学生さんだろ? なんでハイスクール・シブヤ・エデュケーターじゃなくてこっちに来たんだ」
レンはその質問に答えず、心の中で呟いた。
戻れるなら戻っているよ。——でも、あの夜、僕はミレに頼んだ。強くなりたいって。
「こら~。スパイディ、自己紹介しなさい」
「お前もしてねえだろ。ドクシア」
二人が口論を始めそうだったのでライガーが割って入る。
「こら、喧嘩するな。この二人がスパイディとドクシア。他のメンバーも紹介しよう」
青髪の長身の欧米系の顔立ちの女性はブレイナ。
眼鏡をかけた知性溢れる美人だ。
「結び直す?転倒確率が上がる」
どうやら僕の靴の紐が解けているのを見ていったようだ。
アフリカ系のドレッドヘアーの褐色肌の男性はレンジャーX。
ガムを噛みながらイライラした表情を見せている。
「こんな坊主。学園に戻ってろ!」
めっちゃ怖い。なんかキレてる。
フードを頭まで少女はリベンジャーというらしい。
フードの陰から紫色の目がレンを興味深そうに見つめていた。
「……逃げ足は速そう」
毒舌少女だ。
「……レン。強いの?」
「いや、僕は全然戦闘が苦手なんだよ」
「……そう。じゃあ何でネオセントリック教団から逃げれたの?」
「それは」
「私が助けたからだよ!」
ミレが元気よく名乗り出る。それを興味深げに見守るスカジャンの面々。
「ミレが助けたってことは何かこの坊主にあるってことだよなあ」
さっきまで不機嫌そうにしていたレンジャーXがギラギラした目をレンに向ける。
ひぃっ! 怖いよ!
レンは少し怯えた表情を見せる。
その視線を遮るようにガンダはレンの前に立ってレンジャーXに言い放つ。
「そうギラギラするな。レンが怖がってる」
「ガンダ、ミレが選ぶってどういうことか説明してないのか?」
レンはその一言に疑問を持った。確かにNEO みらいちゃんの妹だと名乗るミレは量子コンピューターによって管理されたAIの可能性がある。だがそのミレに選ばれるほど自分は大層な人間ではないはずだ。
ミレに選ばれるってどういう意味だろう?
そもそも、ネオセントリック教団から逃げてシブヤ・ジャンクション郊外からトウキョウ・ミッドラインに来たのはいいけど何故レンは学園に戻らなかったのか?
それは強くなりたいとミレに願ったからだ。ガンダみたいに戦えるようになりたいと。
その決意を今思い出した。
レンはガンダの隣に出てきて、震える体を抑えながらレンジャーXに話し出す。
「僕はまだ弱い。でもガンダみたいに強くなってネオセントリック教団の脅威から守れる力が欲しいって思ったんだ!」
「ふん、口だけは立派だな」
レンジャーXの目線は相変わらずギラついている。
だがその目線はフッと優しくなった。
「ここでガンダに甘えずに自分で前に出てきた度胸は褒めてやる。俺が直々に鍛えてやるよ」
「いやその役目は俺が果たそう」
「あ⁉」
黒いスーツの裾が揺れ、杖に見える細身のケースが床をコツ、と鳴らした。
「スコープだ。——借りがある。君ではないが、あの学園の生徒にな」
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