第三十三話 レオ救出戦 中編 スコープ視点→現在→シブヤ・ジャンクション郊外
ショウの目の前には顔を抑えるスコープが表情をしかめていた。
「やってくれたな。クソガキが」
「やっと喋ったね。君の名前はスコープだっけ?」
「ショウ、奴の視界は抑えてくださいまし。後はわたくしがやりますわ」
スコープは舌打ちしながらスナイパーライフルを拳銃の形に変える。
ルナがマグナム二丁を腰のホルダーから取り出し、くるくるともて遊ぶ。
「ディアブロ、準備はよろしいですの?」
「勿論です。お嬢様」
マグナムから声が聞こえてくる。どうやらナビAIを電子武装化しているらしい。
ショウとやらのナチュラル・ハッキングで視界は抑えられている。
この暗闇がうざったくして仕方ねえ。仕方ねえ、暗視機能は諦める。
スコープは目を閉じる。
「いいか、ガキども。AIには暗視機能だけじゃねえ。優れた熱感知能力と呼吸を聞き取れる聴覚もあるんだ」
「ルナちゃん、用心して。何か仕掛けてくる」
「ええ、ショウの言うとおりですわ」
スコープは目を閉じながら、拳銃を引き抜き、高速で銃弾を放つ。
それは熱感知センサーによって導かれる、赤い熱源反応に撃っただけ。
なのに正確にショウの頭に銃弾は吸い込まれていく。
「ショウ!」
「それは予想していたよ。ルナちゃん!」
ショウは瞬時に体をかがませ、銃弾を避ける。その後、足をバネにして、低くタックルをスコープに仕掛ける。
ルナは二丁のマグナムを引き抜き、スコープの鋼鉄の肉体に向けて、頭、胴体に赤熱した銃弾を放った。銃弾がショウの横を通り抜け、スコープを狙う。
ダァアン! ダァアン!
スコープの肉体を貫くと思われた銃弾は瞬時に電子武装化を解除した拳銃のフレームによって弾かれる。だがその反動でスコープはよろける。
ショウはクィッと眼鏡を挙げながら、ナチュラル・ハッキングの対象を変える。
《脳内インターフェーズ:接続完了。リンク:スコープ:第一制御層》
今までは暗視機能に対するジャミング的なハッキングをしていたが今回は……。
「スコープ。君の思考を読み取り、肉体の制御を乗っ取る!」
スコープの体は倒れる。
「何だと! グおおおおおお!」
ショウの脳内にスコープの思考が流れ込んでくる。記憶の断片と一緒に。
**
スコープは軍用戦闘用AIとして生を為した。
日本や世界各地の戦争に投入されるようになり、優れたスナイパーや銃器の使い手としてスコープと呼ばれるようになった。
スコープは命令に逆らわない優秀な戦闘用AIだった。
だが、一度だけ、軍の命令に逆らった。
それは優秀な戦闘用AIを生み出す美しい科学者との出会いからだ。
「へえ、君は私を殺しに来たんだね。やりなよ。私の命をあんたの銃弾で撃ちぬいて、この愚かな戦争を止めてくれ」
スコープは面食らった。いつもは命乞いをされるか、逆切れしてこちらを壊そうとする科学者もいた。人間とは愚かな生きものだ。そう考えていたのにこいつは違う。
スコープが驚いて、拳銃を下ろすとその科学者は腕を広げてこちらに微笑んで近づいてくる。
「や、やめろ! 俺に近づくんじゃねえ!」
「うーん、君は中々鬱屈したAIだね。今までは感情を殺して人を殺してきたのかい?」
「違う! それ以上近づけばお前を撃つ!」
だがその科学者はにっこりと笑い、銃口を自身の額に当てさせて、スコープにこういった。
「私と一緒に逃げないかい? 私はもう人殺しの道具を作りたくないし、人殺しもさせたくないんだ」
「……」
「ほら、人間ってハグをすると自然に仲良くなれるんだ。君はAIだけど人間の心は持っているだろう?」
美しい赤髪のロングヘアの女性は、とても自然な笑みを見せながらスコープの銃を退けて、豊満な胸でスコープを抱き寄せる。
暖かい鼓動が伝わってくる。だが少し鼓動が速い。
そうか、この女性も怖いんだ。俺も怖い。この女性を殺すことが。
「ううう……俺は、俺は……大量の命を人間を殺してきた」
「私もだよ。人間を刈り取る、いやAIすら壊す戦闘用AIを作ってきた」
スコープはその出会いで人やAIを壊すことをやめた。
美しい科学者に恋をしたのだった。
**
スコープの目の前には動揺して立ち止まるショウの姿があった。
「スコープ! 君はそんな過去を持って、なぜディープスカイに与する!」
スコープは自分を嘲笑するようにくたびれた顔をする。
「簡単だよ、俺は彼女を人質に取られたのさ。日本に流れ着いて、やっと安寧の地にたどり着いたと思った。だが、ネオセントリック教団に彼女を攫われたのさ」
「ショウ? 何があったんですの? スコープは敵ではなくて?」
「どうやら、そう単純な話ではないらしいよ。彼はネオセントリック教団に愛する人を人質に取られている」
「……まあ。でもそれは今まで忘れていたのですか?」
「クルドの野郎に俺の記憶と感情を偽装されていたらしい。だが愛する彼女との記憶と感情のカートリッジをなぜ抜かなかったのかは謎だな」
「愛する彼女の名前は何ですの?」
「正式な名前は知らない。だが彼女はこう名乗った。ハグってな」
「これはクルドにどうしてそうしたのか、聞く必要があるね」
スコープは倒れていた体を起こし、拳銃を軽くショウに向ける。
身構える、ルナとショウ。
だがスコープは顔を伏せ、拳銃も降ろした。
「クソガキだと思ったが、俺の記憶を呼び起こしてくれたことに感謝する」
「スコープ。君はどうするんだ?」
「少しの間だが、お前らのために戦おう。それが今回の礼だ」
ルナとショウは顔を見合わせて、少し笑う。
「前にも戦闘用AIと戦いましたの。その時は救えませんでしたが……。今回はそうではないようですわ」
「ああ。グランドだね」
「グランドだと? そいつは軍の仲間だったな」
「もう今はネオセントリック教団のデータの中に取り込まれていますの」
「そうか。なら尚更教団は生かしておけねえな」
ショウとルナは手をスコープに差し出す。それをスコープは握り返す。
昨日の敵は今日の友だ。なあ、ハグ?
お前も記憶の中で酒を飲みながらよく言っていたよな?
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