第二十九話 天才ゆえの孤独と傲慢 秋月レオ視点→現在→シブヤ・ジャンクション郊外
レオの頭には友斗への勝利しかなかった。ラピスが何か言っていた気もするが、
些細なことだろう。今は一刻も早く闇市場を摘発することが重要だ。
『レオ様、お一人では危険です。どうかAI警察か友人を呼んでください』
『うるさいぞ!』
レオは自分だけで闇市場の売人のアジトを見つけたという事実に溺れていた。
そのため、自分を監視する浮浪者に見せかけたディープスカイの構成員に気づいていなかった。
ラピスは思考する。愛する主人が一人で突っ込んで死なないための方策を。
レオの腕輪のホログラム端末には同じクラスメイトの連絡先が乗っていた。
無断で通信はレオの意思に反するが……仕方ない。
『レオ様、勝手な行動をお許しください。白鳥カスミの連絡先に救援信号を送ります』
ラピスはあえて念話にせずに自身の中で喋りながら、レオが記憶と感情のカートリッジを売っている売人のアジトに一人で突っ込んでいることを連絡する。
『これで気づいてくれるといいのですが……』
『む? ラピス、何かしたのか?』
『何もしていません。私はレオ様の利益になることしかしません』
『それならいい』
この時点でレオとラピスは大きな見落としをしていた。ウェブサイト経由でダミーリクエストを送ったのはいいが位置情報を読み取るサイトに仕込まれたコードに気づいていなかったことだ。
つまりディープスカイ側にはレオの位置情報は筒抜けだったのだ。浮浪者に扮したディープスカイの構成員がすぐにダミーリクエストに気づいたのもこのためだ。
一瞬にやりと笑う通行人がレオの横を通り過ぎようとする。
よろめいて肩をぶつける通行人。
「何をする! ちゃんと前を見て歩け!」
「おっとすまん、すまん」
通行人はニヤニヤとした顔を崩さず、ひらひらと手を振って、ネオン街に消えていく。
むっ? 何かポケットに紙があるな。
レオは立ち止まり、紙を見てメッセージを読む。
『あんたの死ぬ確率は九十%まで上がってるよ』
あの世話焼きの婆が……。
「俺は止まらん。ラピスとAIしか信用しない」
レオは一人、ネオン街の暗がりに歩を進める。そこに自身の栄光があると信じて。
**
闇市場の売人のアジトにたどり着いたレオ。ネオンには記憶と感情のカートリッジを現したようなカートリッジが飾られている。
「ここが記憶と感情のカートリッジを売る売人のアジトか」
ギャッハッハッハ!
突如、暗かった闇市場の売人のアジトに光が灯り、日焼けした金髪の女性AIが手を広げて登場する。その声はスピーカーによって増幅されていた。
ノイズ交じりの重低音に頭がぐらつく感覚を覚える。
『ラピス! 俺様と盾と剣になれ!』
『レオ様! リンクフィールドが制限されています!』
『なんだと?』
「ギャッハッハッハ! 一人で闇市場の売人のアジトに飛び込んでくるのはよほどの天才か馬鹿しかいないねえ! それともあれかい? 最近SNSで有名な榊友斗の真似でもしたかったのかい?」
ギリっと奥歯をかみしめるレオ。不快だ、友斗の話をされるのは。
「貴様は何故こんなことをする! AIが人間を廃人にする記憶と感情のカートリッジを売るなんておかしい!」
「ああ? AIが金儲けをしちゃいけないなんて法はあるのかい? それともAIは高潔で純真無垢な風にしか生きちゃいけないのかい?」
「AIは人間よりも優れた存在だろ! 元々は人間をサポートするために生まれた存在が人間を食い物にするなんて馬鹿げている!」
ギャッハッハッハ。またしても不快なクルドの笑い声が響く。
この声は不快だ。何故か頭痛が止まらない。
『レオ様、敵の笑い声に規則性があります』
『うるさい、今は後にしろ!』
レオはラピスの指摘の念話を切り捨ててしまう。
クルドは話を続ける。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。全く、けつの青いガキが。お前は私たちディープスカイのノルマとして供物にされるんだよ。せいぜい青い理想を掲げて死ぬがいい」
ディープスカイと思わしき、浮浪者の格好をしたAI達はレオが入ってきた出入り口からぞろぞろとやってくる。完全に逃げ場をふさがれた形だ。
レオはラピスに呼びかける。
『ラピス、電子武装になれ!』
『レオ様、今度から私の意見をちゃんと聞いてくださいね!』
ラピスはハイクラシックな時代の中世の騎士鎧と大盾と長剣の電子武装になる。
電子武装とは物理的な物質の障壁を兼ね備えた対AI専用兵器の武装だ。
ギャッハッハッハ! ギャッハッハッハ!
「電子武装を兼ね備えたナビAIを所有しているなんて随分と金持ちのガキだね! こいつは人格を抽出したらいい出汁が出そうだよ!」
ディープスカイの面々は旧式のアサルトライフルを装備し、照準を合わせてくる。
「やれ」
クルドの一声で一斉にアサルトライフルが発射される。
全身鎧に被弾すると思ったところで銃弾の軌道がゆっくりとなる。
「貴様ら! 騎士たるもの、現代の武器に対応できないと思ったのか!」
『全く、レオ様を舐めすぎです』
銃弾はレオの全身鎧の半径五センチ付近で止まると、方向を変え、それぞれアサルトライフルを撃った射手に向き直る。
「反発せよ、グラビティ・ウェーブ!」
レオの電子武装には遠距離からの攻撃に対応するために重力操作機能がついている。
天才ハッカーは驕りすら戦略に変えてしまうのか?
だがグラビティ・ウェーブには使用制限がある。それはレオとラピスはよくわかっていた。
銃弾は重力波によって再加速し、ディープスカイの構成員たちを射抜く。
バキュン! バキュン!
咄嗟にアサルトライフルを撃ち、銃弾を神業で撃ち落とすスナイパーAIが一人。
瞬時にナイフを抜いて銃弾を切り裂くナイフ使いのAIが一人。
残り一人はひらりと銃弾を躱し、踊る女AIとして、こちらを見る。
どれも戦闘用AIにしかできない神業だ。おそらく名のある戦闘用AIだろう。
それ以外は頭部を撃ちぬかれ、機能を停止する。
「ディープスカイとやらの構成員はこんなものか?」
レオがクルドを鼻で笑う。
ギャッハッハッハ!
グううう、何だ、急に眠気が……。
闇市場の売人、クルドは不快な笑いをしていた。
「何がおかしい!」
「あんた、気に入ったよ。あたしはクルド。お婿に来ないかい?」
「?」
「ギャッハッハ。あたしはやけに笑う女だって思わなかったかい?」
「何? ガッ! 頭がくらくらして……」
『レオ様? こいつ! 催眠波を自分の声に乗せていたのか!』
ラピスは自身の分析がレオに通じなかったことを悔やむ。
「あんたのナビAIはセックスロイドになってもらおうかねえ! それでありとあらゆる記憶と感情のカートリッジを体験して廃人になったあんたとたっぷり楽しむのさ!」
く、そ。レオは崩れ落ちる最中思考する。自身の驕りと後悔を。
ああ、また友斗やクラスメイトと話したかったな。
薄れゆく意識の中で不敵な笑みを見せる友斗を思い浮かべる。
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