第二十八話 天才ハッカーたる所以→秋月レオ視点→現在→シブヤ・ジャンクション郊外
『まず下調べをするぞ。ラピス』
『レオ様……いえ、レオ様に尽くすのは私の仕事ですから最後まで一緒に付き合います』
レオは売人の記憶と感情のカートリッジに書かれているQRコードに注目する。
恐らく、ナチュラル・ハッキングをする友斗ならファイアウォールをすり抜けすぐに目的のデータを見つけてしまうだろう。
だがレオは慎重で論理的なハッキングを得意としている。
『このQRコードは罠だな』
『はい、レオ様、おそらく逆探知するシステムが隠れているでしょう』
『それで、位置情報や個人情報を抜くわけか。薄汚いやり方だな!』
レオはラピスとの念話を切り上げて、一旦どうすればいいか考える。 そうだ。このネオン街にも監視カメラはあるはずだ。そこから客と売人らしき人物を探せないか?
『ラピス、この電柱を映している監視カメラを探せ。そこから情報を得るぞ』
『さすがはレオ様、冷静な判断です』
レオはラピスとリンクしながらハッキングを開始する。
この監視カメラのセキュリティホールは……ここだな。
頭の中で仮想キーボードを叩きながらスモーク&グレアを実行する。
レオは大量の偽装トラフィックを流した。
セキュリティがそれに対応している隙に、本命の小さな信号を潜り込ませる。狙い通り、監視システムはノイズに気を取られ、核心データへの侵入に気づかない。
ハッハッハ。監視カメラの映像にたどり着いたぞ。やはり俺様は天才ハッカーだな。だが胸の奥が無償にざわつくのは何故だ。
『レオ様、二日前に監視カメラに記憶と感情のカートリッジの広告のQRコードを読み取っている人物がいます』
『よし、そいつの視覚情報は抑えたか?』
『はい、しっかりと覚えました』
レオはラピスとの念話を終えると腕に付けられているホログラム端末に送られてきた情報を得る。ふむ、中肉中背の特徴のない男だ。だが妙に頬がこけている。これなら町中の監視カメラから足取りを終えそうだ。
『ラピス、売人もおびき出すぞ。偽の個人情報と買い付けデータを送れ』
『はい、QRコード経由ですか? ウェブサイト経由ですか?』
『ウェブサイト経由だな』
ラピスはAIの処理能力を最大限生かし、偽の個人情報と買い付けデータを何度も送り付ける。顔写真は先ほど監視カメラから抜き出した中肉中背の男から抜き出したデータだ。
レオは友斗への対抗心で焦っていた。ダミーリクエストの成功に興奮していた。
「これで友斗を超えられる」という感情が判断を鈍らせた。
本来なら気づくはずの位置情報漏洩のアラートを、ラピスが警告したのだが。
「うるさい!」と念話を切った直後だった。
ラピスは懸念を覚えながらもダミーリクエストを遂行する。
『かかったな』
『はい。空の無人ドローンが忙しなく、空を行き来しています』
ダミーリクエスト(偽の注文)により、無人ドローンが配達をしているところを探していく。これだけでいいのではと思う人もいるかもしれない。
『おそらく売人の指定した場所に行っても、野良AIしか見つからないだろうからな。太客だと思わせて、売人本人に来てもらう必要がある』
『流石レオ様です。ですがここからはAI統制機構に連絡してレオ様は関わる必要はないかと』
『何を言っている。それでは俺様の手柄にならない。売人の所に踏み込むぞ』
『危険です。直ちに避難を初めてもいいくらいです』
『それではだめだ。念話を終了する』
『レオ様!』
念話を強引にきり、意気揚々と監視カメラに写っていた客と無人ドローンの配達している区画からここだという場所を見つけ出す。
レオの頭の中には犯罪を見つけ出し、称賛される未来しか浮かんでいなかった。
だが現実は甘くないのである。後ろの浮浪者がレオを見ながらどこかに電話していることに気づいていなかった。
** 闇市場の売人
「ギャッハッハッハ! 注文だ! 大量の注文が来たわ!」
闇市場の売人のAI、クルドは散らかった廃ビルの中の部屋で、手や足をロボットダンスのように動かしていた。わかりにくいがクルドの感情表現である。
そう、クルドが記憶と感情のカートリッジを売り出す売人である。
何故クルドが記憶と感情のカートリッジを売り出すようになったのか?
それはネオセントリック教団の衛兵に不必要な感情のデータの処理に困っていると相談を持ち掛けられたからだ。その中には初恋や情事の時のデータが色濃く残っていた。
「そいつをあたしにくれ! 値を付けて売り出せば売れるデータばかりだ!」
クルド自身も初恋や情事のカートリッジを服用し、こいつは依存性が高くて金になる、と確信したのもある。
実際に記憶と感情のカートリッジを感情ごとに分けて初恋のデータは30万円で売り出したが飛ぶように売れた。
22世紀においてAIが人間たちの世界に採用されてから人間同士の恋愛は非常に珍しくなった。未婚率は30代までの人間に限れば八十%にまで上がっている。今はAIも人間が望めば子供を産める時代である。そんな時代に人間同士の恋愛は稀少価値が高いと踏んだのだ。
金だ! 金があれば何でもできる! AIだから金稼ぎをしちゃいけないなんて法はない!
「さあさあ! 太客には挨拶をしに行かなきゃねえ!」
だが、クルドのホログラム端末に連絡が来る。
む、これはうちの監視用のAIからだねえ。
「何だい? 私は忙しいんだけどね?」
「その件に関わる話だ。ダミーデータで注文をばらまいてお前を釣ろうとしているガキがいるぞ」
「何だって?」
クルドは注文のデータを確認すると巧妙に視覚データを変えられているが、依然来た客の視覚データを変えたものであると確認できた。
「全く、大量のダミーリクエストを送ってきたのかい。こいつの目的は何だい?」
「ハイスクール・シブヤ・エデュケーターの制服を着ている。火遊びかそれともガキが息巻いてお前を捕まえようとしているのか」
「迷惑な話だねえ」
クルドは思考する。あたしを舐めた者には容赦なんかしないのがうちのスタイルだ。 クルドは昔のガン黒ギャルのような肌とメイクをした自身の姿を鏡で見ながら考えをまとめる。
「決めた。そいつを捕まえてネオセントリック教団に売り飛ばすよ。学生ってことは色濃く感情データが残っているはずだ」
「流石はクルドだ。ディープスカイの者に声をかけておくか?」
「ああ、頼むよ! 楽しくなってきたねえ!」
ネオセントリック教団に捧げる供物を探す犯罪組織ディープスカイの構成員たちが動き始める。クルドは祭りが始まることを考えて、顔を醜く歪ませる。
なぜAIなのにここまで感情がでているのか? それは今までありとあらゆる記憶と感情のカートリッジを自身のデータに記憶してきたからだろう。
クルド含めてディープスカイの組織がレオを捕まえるために動き始めた。
総勢百人のうちすぐに動けるのは十人ほどだが、一人のガキを捕まえるには十分だろう。
シブヤ・ジャンクション郊外を不穏な黒雲が包み込もうとしていた。
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