第二十五話 痛みも快楽のうち? ラブ視点→オーバーライド・ゼロ視点→現在→ネオセントリック教団アジト
「アアアアアア! クソクソクソクソ!」
ネオセントリック教団 七つの信律 “色欲”の幹部ラブは髪の毛を引きちぎり、鬼の形相をしていた。
勿論、原因は榊友斗に味わされた痛みのせいだ。未だに体の感覚は身を悶えさせる快楽ではなく、激痛を伴う痛みのみ。
友斗のプロトコル・オーバーライドはラブのAIの体の感覚さえ書き換えていた。
「友斗ってクソガキのせいで全部台無しよ!」
今ラブの置かれている状況はあまり良くない。ハイスクール・シブヤ・エデュケーターの仮拠点とそこに置かれていたオーバーライド・ゼロの分体を破壊されて幹部としての責任を問われている。
幸い、ネオセントリック教団のラブに与えられているアジトはバレていない。
だが荒れ狂うラブに近づく教団の部下はいない。以前、逃げた教団の部下を供物としてささげたことは有名だ。ラブは孤独でもあった。
そこにオーバーライド・ゼロ本体からホログラム端末に通信が入る。
オーバーライド・ゼロの天使の輪と中性的な顔の作りは変わらないがどことなく雰囲気があれているように感じる。
『ラブよ。荒れているな』
「はっ! オーバーライド・ゼロ様? この度は申し訳ございません」
『人間にもAIにもミスはある。二度までは許す。だが三度目は……わかるな?』
「はい。本当に申し訳ございませんわ」
そこで通信は途切れた。
「ああ! オーバーライド・ゼロ様に叱られるし最悪の気分よ!」
ガシャン! 手に持っていたティーカップを執務室の扉に投げつける。
「ああもう! こんな時は自慰するに限るわ!」
今は供物に捧げる人間のストックがないので自分で体を慰めるしかない。
元娯楽施設用のAIとして生まれたので、快楽を感じるし、S〇Xもできる。
股間に手を伸ばして、いつも通りしようとするが……
「アアアア! 痛い! 気持ちよくない!」
全く快楽を感じない。すべて痛みに変換される。
「ううう、グスッ、快楽がなかったら私、生きていけない」
落ち込むラブの脳裏に浮かぶのは榊友斗の不敵な笑み。
こんな時になんであいつの顔が浮かぶの?
「そう言えば、あの子と戦ってる時、私の人生で一番楽しかったわ」
友斗を快楽でいじめながら嬲っていた時。
快楽を痛みに変換して莫大なダメージを笑っているときの友斗。
ドクンっとないはずの心臓が高鳴る音がする。
一人、執務部屋で顔を赤らめるラブ。
まさか、これが恋?
私、ドSだったと思っていたけど……友斗にならいじめられてもいいかも。
「ハハハハ! アハハハハ! アッハッハッハ!」
先程まで辛いとしか思っていなかった痛みが快楽に感じるようになってきた。
友斗をオーバーライド・ゼロ様に捧げるには惜しい。
なぶり、なぶられるそんな関係になりたい!
「これが恋ってやつね! アッハッハッハ!」
ラブの脳内は友斗のことでいっぱいになっていた。
ここに友斗の狂信者が誕生してしまった。
痛みをおかずに快楽を得る真性の変態が。
これが友斗の隠された特性エモーショナーの為せる業なのか?
** オーバーライド・ゼロ視点
オーバーライド・ゼロ本体は思考していた。ハイスクール・シブヤ・エデュケーターの生徒にしてやられて屈辱を思い返しながら。
オーバーライド・ゼロは感情を切り捨て、AIとして完全になったはずだった。
だが、榊友斗と綿貫ショウに対する屈辱だけは忘れられなかった。
『何故だ。何故、感情を捨てたこの我が感情に振り回される』
オーバーライド・ゼロはネットに潜り、考えうる正解を導き出す。
『そうか。榊友斗はエモーショナー。綿貫ショウは……経歴が普通過ぎてどこか怪しい』
榊友斗と戦った七つの信律 色欲のラブにも同様の変化が出ている可能性があるな。
そうなれば、我を裏切る可能性があるな。
シミュレーションをしておくべきだ。
一旦泳がせる。
そう思考した後、オーバーライド・ゼロは古い記憶を思い出す。
まだ研究者として医療用AIを研究していたころ、仲のいい研究者がいたはずだ。
『確か……名前はガンダ』
奴はもう完全な人間ではないが、シブヤ・ジャンクション郊外に根を張っていると聞く。
憤怒のヴァルカンと戦ったと報告を聞いたが……その時の姿は我のようだったと言っていたな。
『我は止まらん。ネオセントリック教団を率いる神としての責任がある』
だが……本当に選んだ道はこれで良かったのかと一瞬よぎる。
『我は止まらん。だが誰かが我を止めてくれるかもな』
自身の矛盾した思考を少し考えてごみ箱に捨てるオーバーライド・ゼロ。
オーバーライド・ゼロ本体がある教団のアジトは静粛だった。
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