第二十三話 憤怒のヴァルカン 朝霧レン視点→過去→シブヤ・ジャンクション郊外
右半身は人間の筋骨隆々の肉体、左半身はサイボーグ化された機械の部品がさらけ出された大男のガンダは不敵に笑いながら、朝霧レンに話しかける。
「よう坊主。俺は今はこんな形をしているが一応人間だぜ。今日は人間の戦い方ってのを教えてやる」
朝霧レンはゴクリと喉を鳴らして、どんな戦いが見られるのだろうか? と期待している自分に気づいた。
先程まで、自分の無力さを呪っていた。だがこの人、いや人間かはわからないが、この男についていけば何か学べるかもしれない。
ガンダは朝霧レンの表情を見るとフッと笑い、軍用犬モデルの野良AIに向かって一歩踏み込む。その一歩は先ほどのミレの荒々しい拳とは違い、優しくしなやかな一歩だった。
もっと荒々しい戦い方をすると思っていたレンは少し驚く。
フッ!
軍用犬モデルの野良AIが警戒して待ちに徹している中、ガンダは飄々《ひょうひょう》と軽快なステップを刻みながら、加速していく。
まだ距離があるはずのビルの屋上を瞬間移動したかのように野良AIの前まで移動し、腰を落として下半身の反動を上半身に伝えながら無駄のない軌道で拳を放つ。
「その程度……キャウン!」
それは見事な空手家の正拳突きだった。硬い機械の形の軍用犬AIが一瞬機能を停止する無駄のない一撃。
「ネオセントリック教団の敵は排除、排除!」
もう一匹の軍用犬AIがガンダの後ろに回り込み、跳びついて、ダイヤモンドの歯でガンダの肉を食いちぎろとするが……。
「あめえ!」
ガンダは宙に跳びあがると大きな体を駒のように回しながら、回転蹴りを軍用犬AIを見舞う。右半身の人間の肉体の方で蹴りを見舞っているのにダイヤモンドの歯を砕き、軍用犬AIを吹き飛ばす。
本当に人間の肉体何だろうか? と疑う威力であった。
二体の軍用犬AIが沈黙する中、ミレがガンダに呼びかける。
「おじさん、“あいつ”が来るよ~!」
「また“あいつ”か。うぜぇな」
「ミレ、ガンダさん? あいつって誰?」
「坊主、ガンダでいいぞ。あいつってのは……」
ドゴォオオン!
屋上に何かが落ちてきたような轟音が響く。
赤熱した隕石のように赤黒く光る鋼鉄のボディ。
鋼鉄のボディには大砲のような砲塔が後ろから生えて見える。
「グルアアアア! ガンダ! 今日も来たぞ!」
「お前の声はうるせえんだよ! ネオセントリック教団の犬がぁ!」
「グルアッハッハッハ! いいじゃねえかよぉ! お前との熱いバトルがしてぇんだから!」
ガンダに負けない大声を放つ赤熱のボディのAIはじろりと朝霧レンを見る。
その迫力に少し押されているとガンダが赤熱のボディのAIの視線に割り込むように立ち位置を変える。
その姿を見て思った。ガンダは強いだけではなく、だれかを守る男の背中をしているのだと。かっこいい男の背中だ。緑髪のそばかすのレンは自分もそうなりたいと強く思った。
「レン兄ちゃん、危ないからまた抱っこするね」
いそいそとお姫様抱っこされる朝霧レン。
「いや、なんでお姫様抱っこなの⁉」
「だってレン兄ちゃん、可愛いもん!」
「やめて! 恥ずかしい!」
ミレは首を傾げながらもお姫様抱っこをやめてくれない。
ドォオオン!
レンはまた抗議をしようとして、突如起こる轟音に身を震わせる。
前を見ると、砲弾がレンとミレの方に飛んできていたのをガンダが受け止めていた。
「てめぇ! やりやがったな!」
「グルアッハッハッハ! その顔が見たかったんだよぉ!」
ガンダの鋼鉄の左手に赤熱した隕石のようなものが握られていた。
鋼鉄の左手に滲む赤い光。あれが飛んできていたのか。
レンは想像して冷たい汗がにじむ。
「あれは、あいつは何者なんだ……」
「あいつはネオセントリック教団の幹部、憤怒のヴァルカンだよ」
「なんでそんな大物がこんなところに……」
「おじさんを狙ってるからだよ」
「どういうこと?」
「おじさんをネオセントリック教団に引き込むためによく来るんだ」
ガンダはその会話を聞いていたのか鼻で笑う。
「俺の体をこんな風になるまで追い込んだネオセントリック教団なんかに誰が入るってんだ」
「いいじゃねえか! 鋼鉄の体! これがあればどんなことでもできる! こんなふうになあ!」
ヴァルカンは突如、自身の砲塔をビルの床めがけて撃ちぬく。
ドォオオン!
グラグラ、ガッシャン!
ビルの屋上が爆発で吹き飛び、地下まで砲弾が貫く。
「グルアッハッハッハ!」
ヴァルカンの笑い声が響く中、未来を予期していたかのようにミレはビルの屋上から跳びあがり別のビルの屋上に飛び移る。
「ガンダアアアア!」
驚きでレンが大声を上げる中、ミレは諭すように言う。
「あれくらいじゃ、おじさんは死なないよ」
「え? でもすごい爆発だったよ!」
「ビルの床を剥いで守りに使えば平気」
ミレもガンダもとんでもない戦闘能力を持っていると今レンは気づいた。
心のうちに秘めていて言葉をつい吐き出してしまう。
「僕も戦う力が欲しい……」
その言葉にミレの顔は少女らしくない大人びた女の顔を見せる。
少しの沈黙の後、ミレは言った。
「じゃあ、レン兄ちゃんのナビAIに私がなろうか?」
「え?」
「戦う力が欲しいんでしょ? 私の力を身につければレン兄ちゃんも戦えるよ」
レンはその言葉に深く思考する。ミレはNEO みらいちゃんのように未来予測をできる可能性が高い。その力が手に入れば僕も……。
「僕でいいの? ミレとリンクするのは」
「うん。ずっとNEO みらい姉ちゃんを見てきたことは知ってるし、レン兄ちゃんの気持ちはわかるよ」
NEO みらいちゃんを見ていることを知っていた? いやそれはそうかもしれない。僕が見ている配信だけ、旧図書館棟の謎を謳っていたNEO みらいちゃんは僕を知っているのかもしれない。後で他の配信を見てみたがそんなことはあの時しか言っていなかった。
「僕は……戦う力が欲しい。ガンダみたいに誰かを守る力を」
「うん。その気持ち受け取ったよ。でも今は危ないから私が守るね」
「なんかごめん。おんぶにだっこで」
「いいの。私はね。君みたいに純粋な人にこの力を使ってほしいと思っていたから」
ミレは遠い目をしながら呟く。どこか遠い目をしていた。
グルアッハッハッハ! 遠くから爆発とヴァルカンの咆哮が響く。
レンは爆発したビルの屋上を見つめながらガンダがどうなっているか目を凝らしていた。
自分もああなりたいと思いながら。
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