第二十二話 一方朝霧レンは? 朝霧レン視点→過去→シブヤ・ジャンクション郊外
地下通路をとぼとぼと歩く緑髪のそばかすが特徴的な中性的な少年と白いワンピースを着た少女が二人。
白い少女は人形のような白いきめ細やかな肌とかわいらしい顔立ちが特徴的だ。
「レン兄ちゃん、分かれ道を右に行くよ!」
「う、うん。なんでミレちゃんはこの先の道の左手にネオセントリック教団の仮拠点があるって知ってるんだい?」
「ずぅっと、旧図書館棟に居たからだよ!」
「それは心細かったね」
「いいの! 今はレン兄ちゃんがいるから!」
レンはミレちゃんは何処かで見たことがあるような、ないような感じがすると思っていた。だがこの不思議な野良AIの少女のおかげで今助かっているのだ。
下手なことを言うつもりはなかった。
分かれ道の右手は埃っぽく、どんどん荒んだ壁になっていた。
時々、浮浪者がギラギラとした鋭い目を向けてくる。
だが、ミレと一緒にいるとわかると何もせずに逆に笑顔になる。
どうやらミレは慕われているようだ。
「地下通路を出るよ!」
ミレの一言で我に返るレン。地下通路を出た先には誰もいないビルのオフィスが何本も立つビル街の道路になっていた。
クラシックなネオンが煌びやかな、夜の繁華街のようにも思える。
「今、外は夜なんだね」
「そうだよ、レン兄ちゃん」
ミレは元気に返事を返すと考える人の像のように顎に手を当てて思考を始める。
時々、何かをぶつぶつとつぶやいている。
「左前方に行くと……いや、右後ろ斜めの道に行った方がいいかな?」
「ミレちゃん、どうしたの?」
「うーん……何でもない!」
どうやらミレは隠し事をするのが上手ではないようだ。
ひゅーひゅーと下手くそな口笛を吹いてごまかしている。
レンは追及をあきらめて、AIVtuberのNEO みらいちゃんのことを考える。
人形のように精巧な白い肌に、女性らしい胸のふくらみを揺らすSNSやネットでは不思議キャラと目されるアイドル。
「ん?」
先程ミレが誰かに似ていると思ったけど、NEO みらいちゃんの幼いころはこんな感じだったのではないか?
「どうしたの? レン兄ちゃん」
「ミレちゃんってNEO みらいちゃんに似ているよね?」
「そうだよ! NEO みらいちゃんは私のお姉ちゃんだからね!」
「お姉ちゃん?」
NEO みらいちゃんはAIだから当然肉親はいないはずだ。そもそも肉体があるのか怪しい。彼女は一般化されていない量子コンピューターに本体があるのではないか? という説もあるくらいだ。
NEO みらいちゃんは本当に人間であるかのようにしゃべられるし、あいまいな答えに対しても文脈に沿って答えを返せる。AIVtuberは星の数ほどいるがNEO みらいちゃんほど面白くて人気のあるAIVtuberはいない。
以前量子コンピューターについて調べたことがある。
普通のコンピューターは“0”か“1”の二択でしか計算できない。
でも量子コンピューターは“0でもあり1でもある”って曖昧な状態を同時に扱えるんだ。
だから一度に並行して無数の答えを試せる。
要するに、今までなら何年もかかった計算を、一瞬で叩き出すことができるそうだ。
もしかしたら、NEO みらいちゃんは未来を計算して予測しているのではないか?
ミレちゃんはその文体で指示を受けているのか?
レンの頭の中で疑問がぐるぐると回っていると、ミレがぼーっと歩いていたレンの手を引いて、こういった。
「来るよ、野良AIが」
遠くの道路から砂煙を上げて二体の軍用犬モデルのメタリックな犬型AIが走ってくる。
その道のスミに座っていた壊れかけの野良AIや浮浪者たちが腰を抜かして逃げていく。
青い目の光を発していた二体の軍用犬AIがレンとミレの前で立ち止まる。
「貴様ら、地下通路から出てきたな」
「ネオセントリック教団に逆らうものは排除、排除する」
「こいつらはネオセントリック教団の手下だよ」
「ど、どうしよう! 僕、戦えないよ!」
「うーん、どうしようね?」
可愛く小首をかしげるミレ。
レンはそんなことを言ってもと慌てていた。
「うーん? ちょっと逃げよう!」
「え? どっちに?」
「あっちに!」
ミレはレンをお姫様抱っこすると、AIの身体能力を活かし、驚くべき速さで逃げ始める。
その速さは時速70キロは出ているだろう。
「え、え、え~~! 速い、速過ぎるよ!」
「レン兄ちゃん、黙ってないと舌を噛むよ!」
お姫様抱っこは僕がする側ではないかと思いつつ、舌をかまないように黙る朝霧レン。
二体の青い光を放つ、軍用犬モデルの野良AIはミレの足の速さに驚きつつも逃がさないようにと時々ジャンプをして噛みついてくる。
ミレは足に重力制御用のキットをつけているようで、三次元的にビル群を飛び回り始める。ミレの脳内には友斗のナチュラル・ハッキングをしているときのような三次元の進路のフレームが出ているのだろう。
レンの視界にも一瞬だけ青い線が走り、ミレがどこを跳ぶのか理解できた気がした
ビル群の壁を駆け上がったかと思うと次は壊れた信号機に飛び移り、片手でターザンをするように勢いをつけて、次の信号機に飛び移る。
「次はあそこの街路樹を足場にして……」
ぶつぶつと独り言をつぶやくミレに驚愕しつつ、まるでクラシックなアメコミのスパイ〇ーマンの動く視界に目を回すレン。
自分は何をやっているのだろうと思う。こんな6歳くらいのミレにおんぶにだっこで自分は何もできていない。
自分も何かできるようになりたい。戦う力が欲しい。
いつの間にか思考の彼方に行っていたが、ミレが三次元的な軌道をやめて、ビルの屋上にたどり着く。
だが、軍用犬モデルの野良AIもついてきていた。
「逃がさない、逃がさない」
「ネオセントリック教団のために排除する」
「ここまで来たら大丈夫だよ!」
「え? もう追い詰められているよ!」
「大丈夫! 出てきて、おじさん!」
ビルの屋上にあった廃屋の材木を合わせて作ったとされる家に向かってミレが叫ぶ。
だが、誰も出てこない。
「ったく、野良AIの癖にまた寝てるんだね……。お、じ、さ、ん!」
ミレはレンをビルの屋上に置いた後、一瞬で加速し、廃屋のドアを思いっきり殴りつける。
ドカーン!
——その一撃は岩をも壊すだろう。
ボロボロだった廃屋のドアがものすごい音を立てて、ぶち抜かれる。
その一撃にドン引きするレンと軍用犬モデルの野良AI。
「あれ? ミレだけでも倒せるんじゃない……?」
「排除……でき、ない」
「ネオセントリック教団の敵は……排除……」
「ミーレ! お前、また壊しやがったなぁ~!」
「べーっだ! おじさんがいつも寝てるのが悪いんだよ!」
廃屋のドアからドスドスと音を立てて、2メートルはある、右半身は人間、左半身がサイボーグの大男が出てくる。
「で? 何だよ。ミレ」
「追われてるの! 助けて、おじさん!」
「あぁ! お前ひとりでも勝てるだろうが! いってえ! 脛をけるな、脛を!」
おじさんと呼ばれる大男はレンと野良AIを交互に見て、ニヤッとする。
「なるほど、ネオセントリック教団の敵かあ、なら俺が壊してやる」
ぞわっと、大男から威圧感が放たれだす。
その雰囲気にレンと野良AIが一歩下がるくらいだ。
「覚えておけ、俺はおじさん、じゃねえ。俺の名前はガンダだ」
ニヤッと不敵に笑う、大男のガンダ。その雰囲気が誰かに似ていると思うのは気のせいだろうか?
小説をいつも読んで頂きありがとうございます。面白かった、また読みたいという方は高評価やブックマークをお願いします。作者の励みになります\( 'ω')/
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を★★★★★にしてくださると作者が大変喜んで更新頻度が増えるかもしれません。よろしくお願いします。




