第二話 ハイスクール・シブヤ・エデュケーターにようこそ 榊友斗視点→現在→ハイスクール・シブヤ・エデュケーター
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
渋谷の中心部に突如現れた、まるで中世の城郭都市のような異様な建造物。
六本の黒曜石のような尖塔が空に突き刺さり、巨大な正門には、AI教師たちの名を象徴する“デジタル紋章”が輝く。
「……これが、俺の通う学校? どう見ても魔王城だろ……」
友斗はAI教師にしっかりと掴まれながら教室に向かうはずがトイレに連れていかれる。
「榊友斗、今から三時間ミッチリ働け」
「嫌だと言ったら?」
清掃ロボットはAIらしくないニヒルな笑みを見せると、モップを槍のように構える。
友斗も不敵な笑みを見せると、清掃用のブラシを片手剣のように右手に持つ。
清掃ロボットは巧みにモップを回しながら俺に迫る。
上段、いや手首への突きか!
友斗はブラシで弾き、寸胴のような胴体にブラシをこすりつけようとする。
はっはっは! そのきれいな胴体、汚れちまいなあ!
「甘いぞ」
清掃ロボットは寸胴のような胴体をくるっと回転しながらそのままの勢いでモップを横なぎにする。
頭をかがめて、モップをやり過ごし、清掃ロボットの頭部めがけて一突き!
この勝負もらったぜ!
「何をしているのだ。榊友斗」
突然、横から飛び出た手に掴まれて、勢いを止められる。
「えい」
ブチャっと顔にモップを付けられて、友斗は体を震わせる。
「きたねええええ!」
「安心しろ、清掃は数時間前に終わって、綺麗にしたモップだ」
掴んだ手の先を見つめるとそこには氷のように冷徹な無表情の金髪美女がいた。
はて? こいつは誰だ? 友斗は首を傾げると金髪ロングの西洋顔で蒼い目が綺麗な女性が名乗る。
「何をしているかと思えば、チャンバラごっことはいい度胸だ。それにクリーナー、お前もなんでノっているんだ」
「す、すまない。こいつと話したらなんか人間みたいに感情が揺さぶられちまった」
「あんた、誰だ?」
「あんた? それが人に名前を聞く態度か!」
冷徹な美女は段々と顔を赤くしながら怒り始める。
その後は二人とも廊下で座り、説教を二時間喰らった。
こ、怖い。この女、オレ、コワイ。
清掃道具で戦うなんて言語道断だとか、東京ドーム五個分はあるこのハイスクール・シブヤ・エデュケーターを十周させてやろうかとかひどい脅しを受けた。
「エデュケーター・エミリア。君も柄にもなく感情を上らせていたようだが」
「む、確かにそうだな。何故なのか私にもわからない」
「エデュケーター? 教師なのか?」
「榊友斗? お前はスクールに通ったことがないのか? エデュケーターと言えばクラシックな言葉で教師だろう! 常識だろ!」
「す、すみません……」
「ああ、頭が痛くなりそうだ。榊友斗、お前は本当に非合理的な存在だな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてない!」
友斗はエミリアにスパーンとスリッパで頭を叩かれる。清掃ロボットこと、クリーナーが見事なツッコミだと拍手を始めたのでクリーナーはどかどか叩かれていた。もうそれただの暴力ですけど……。
一連の流れが終わった後、エデュケーター・エミリアの案内でクラスに案内される。
ハイスクール・シブヤ・エデュケーターはシブヤの象徴のような存在で外観は中世の城郭都市そのもの。六本の黒曜石の塔が雲を突き抜けてそびえ立つ。塔の中間には時刻や天候を示すホログラム天球が浮かんでいた。
しかもその塔、全部“専攻ごと”に分かれてるらしい。AI倫理に仮想戦術? リンク制御?
どれも現代人にはギリ呪文レベル。下手なファンタジーより混乱する。
正門はアホみたいにでかい50メートル。観音開きでゆっくり開いて、その奥に広がっていたのは——
まるで未来のテーマパーク。
地面にはキラキラ光るエネルギーパネル。歩くだけで健康状態や感情値が表示されるのか。脳内表示には、脇にいた生徒の名前の横に《興奮+17%》って出てた。通常は視界に出ないのだがナチュラル・ハッキングがあるので脳内にポップされる。
それにしても、そんなの出すな。恥ずかしい。
「こっちに来い。浮上床を使用する」
すっかりぶっきらぼうになったエデュケーター・エミリアは取り繕った顔をしながら案内してくれる。でも拳がプルプル震えてるけど、まだ怒ってる?
エミリアは少し暗い顔をしながらも無表情になったので、友斗には意味が分からなかった。
エミリアに言われて乗ったのは、宙に浮かぶリフト通路。ふわりと浮かびながら中庭を越えていく。
下を見れば、自走式のカフェエリア、宙に浮く本棚が並ぶ図書ゾーン、重力制御されたドームみたいな体育館。
おい、魔法学校かよ。てか、これテーマパークじゃなくて学校なんだよな?
「……俺、今日からこんなとこに通うのか……」
やがてリフトが止まり、校舎の扉の前に降り立つ。
ホログラムの中年のおっさんが指さしながら、腹抱えて笑ってやがるのを睨みながら、深呼吸して、ドアを開いた——。
こちらをじろっと見る視線が二十九個。それらの中に《不快+20%》と脳内表示されているものもある。《興味+15%》と脳内表示されているものも。
教壇に立って、エミリアの横に立つと自己紹介を促される。
「榊友斗。今日からここで学生となる。よろしく」
友斗の自己紹介後、舌打ちの音が教室に響く。
「榊友斗、俺様はお前が気に入らねえ」
その声をあげたのは《不快+20%》と脳裏に表示されていた赤髪の目つきが鋭い野郎だった。
「ああ? お前が俺に何だってんだ」
「その態度もこの素晴らしき学び舎にクソみたいな登校をしてきたこともすべて気に入らねえ。お前は反AI主義者か?」
なんだ、登校の様子はもうSNSやネットに知れ渡っているのか。まあどうでもいいけどなんでこいつはこんなに怒っているんだ?
「そんなもん、どうとも思ってない。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
「ふん。だから評価星一になるんだ。お前は素晴らしいAI社会の看板を汚している」
「お前、名前は?」
「俺様の名前は秋月レオ。天才ハッカーだ、覚えておけ」
「しっかりお前のことは覚えたぜ。このクソ野郎」
AI評価のことも知ってたな、こいつ。ハッカーってのは本当らしい。
AI評価ってのはAI統制機構が定めたクラシックな時代の生徒に対する内申点みたいなものだ。これが悪いと公共福祉を使うことも制限される。
友斗がハチポチ号に乗って登校していたのも、公共の交通機関が使えないからだ。
秋月レオとかいう赤髪の野郎にガンつけていると頭にスリッパが振り下ろされる。
「いてえ! エデュケーター・エミリア、俺様はなあ」
「黙れ! お前も秋月レオも悪い。秋月レオ、お前もAI評価星一になりたいか?」
「俺様は関係ねえ! いや、すまん……」
エデュケーター・エミリアの後ろに噴火直前の火山が見えたので秋月レオは謝罪する。
自由時間になると友斗の周りにクラスメイト達が集まってくる。
青髪のポニーテールの女の子が寄ってきて、俺に話しかけてくる。
制服の下から隠しきれない女性の脅威が膨らんでいた。
ちょっと眠そうな目元だが全体的に整った顔だ。
「私、白鳥カスミ。友斗、登校中にいた」
「おう、白鳥か。確かに抱っこしたな」
「友斗、すごい。上にグワーッと跳んで、ビューッと駆け抜けて、NEO みらいちゃんの中通ってた。しかも私を助けてくれた」
「おお、すごいだろ」
白鳥はさっき《興味+15%》と表示されていた生徒だ。
こいつは悪い奴じゃなそうだが、興味を持っている点がどこにあるかが問題だよな。
「すごいじゃありませんわ! 何でそんな無茶をするんですの!」
ん? 隣から肩を怒らせて怒る白髪に金色の瞳の女がいた。
なかなかの驚異だが、白鳥には及ばんな。
「榊友斗! 秋月の味方をするわけではありませんが、危険な登校はやめなさい」
「うるさいなあ、それはもう終わった話だ」
「終わってなどいませんわ」
「校則なんか知るかよ。俺は俺のやり方でやる」
生徒会長気質の女らしい。名前は天瀬ルナというらしい。
むきーっとした顔をしているので、めんどくさい。
「アタシは教育中AIのユノ。榊友斗君、いきなり非行行為はメッ! であります」
「おう、よろしくな、ユノ。誰かを守るためにルールなんて破ったっていいだろ?」
「一体だれを守ったって言うんですの?」
「意味不明、であります」
ユノは黒髪おかっぱの背が小さめの教育中AIだ。
独特な語尾だな。
白鳥はニコニコした顔をしているが、眉が少しだけぴくぴくしていた。拳は少し握っているので、おそらくAI嫌いらしい。
感情表示も《警戒+15%》って出てたしなあ。
まあ人によって主義主張は変わるからな。多様性ってやつだよ。友斗は楽しめそうな学園生活だなと思った。
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