第十六話 友斗の孤独な闘い 榊友斗視点→綿貫ショウ視点→現在→ネオセントリック教団 仮拠点
榊友斗はネオセントリック教団の《オーバーライド・ゼロ》の作る閉鎖ネット空間に閉じ込められていた。
背景には戦火が広がる日本の首都、東京の様子が鮮明に映し出されていた。
「ここは……ネオセントリック教団のできるきっかけになった第三次世界大戦の日本の空襲の様子か」
「そうよ♡ どういう訳か知らないけどネオセントリック教団の歴史と背景を知っているようね♡」
「親切なAIの少女に教えてもらってな」
「ふーん? どこの勢力か知らないけど余計な真似をしてくれるわね」
ラバースーツに身を包んだ大きな胸を包む、黒光りする服装を着たラブ。
鞭を地面に叩きつけながら妖艶な姿を惜しげもなく見せる。
「ここは、リンクフィールドとは訳が違うわよ? 貴方の生身の体ごと取り込んでるからダメージは生身で受ける感覚と変わらないわ♡」
「ちっ、そうらしいな。俺をどうするつもりだ?」
「単刀直入に言うわ♡ 貴方もネオセントリック教団に来ない?」
「断る」
「あら、即答なんて悪い子♡ でも貴方とならもっとすごいことができるし予想もできない素晴らしい快楽に包んであげるわよ」
「断る」
「なら、もっといじめて鳴かせて自分から腰を振るようにしないと、ね!」
ヒュンッ! バチィン!
空気を弾いて、音速を越えたしなる鞭が迫る。
友斗は自身のアバター兼肉体にナチュラル・ハッキングをして反射速度を上げて後ろに宙返りする。
友斗が体を逸らした上を鞭が通り過ぎて、スローモーションになった時間感覚の中で友斗は冷や汗をかく。
何とか宙返りで難を逃れるが、着地した所には落とし穴ができていた。
「$#%&⁉」
友斗は沈み込む前にナチュラル・ハッキングで地面の情報をコンクリートに書き換える。
「オーバーライド・ゼロがお前の支援をしているのか?」
「勿論よ♡ 教主様が直々に私の支援をしてくださる♡ ああ、なんて甘美な響きなのでしょうか?」
「オーバーライド・ゼロ! お前の過去は見たぞ! 同情はするけどな、人間の人格を抽出して取り込んでも完璧な神になれないぞ!」
友斗はオーバーライド・ゼロに語り掛ける。だが答えは沈黙だった。
「無駄口をたたいている暇があったら私に鞭で叩かれなさい♡」
何と、二刀流、いや二つの鞭をしならせながら友斗に迫るネオセントリック教団の七つの信律、”色欲“のラブ。
友斗は素早いステップで自身の行動スピードを上げながらなんとか攻撃の糸口をつかもうとする。
自身の手にエネルギーソードを召喚し、襲い来る鞭を弾きながら武器破壊を狙うが……。
「無駄♡ 無駄無駄無駄無駄♡ 私の鞭は破壊できないわよ♡」
この閉鎖ネットの主導権はオーバーライド・ゼロに握られている。
逆にこちらの武器が破壊されかねない。
「どうする……?」
友斗は頭をひねりながらも、鞭を夢中になって弾き続ける。
だがラブの左手の鞭が、空中で消えて、友斗の後ろに現れて叩かれる。
「ア、アアアアア!」
友斗の体に痛みではなく、快楽が走る。
「何だこれは……」
「フフフ、貴方が味わうのは痛みではなく、快楽♡ 貴方の意地がどれだけもつかしら?」
それでもエネルギーソードを持つ手は離さない。
仲間が助けに来ることを信じて。
**
仲間たち五人は、友斗を救うために教団の衛兵と戦っていた。
「邪魔!」
カスミはエネルギーソードで殺さない範囲のエネルギー量に調整しつつ、剣舞をしながらも戦場を軽やかに踊りながら、相手を切っていく。
「全てはオーバーライド・ゼロのため!」
「ラブ様、万歳!」
「榊友斗もこちら側に来るのだ!」
衛兵たちは人格を抽出された後、教団の信仰プログラムを仕込まれた哀れな操り人形だった。
「クソ、倒しても倒しても沸いてくるな!」
「きりがない、であります!」
「撃っても撃っても効いてないわ! ディアブロどうなってるの⁉」
「おそらく、教団の衛兵は肉体も改造されているかと。お嬢様、勝つには無力化するだけでは難しそうですぞ」
「じゃあ、どうしろってのよ!」
「ここは仕方ない。僕がやるよ」
ショウも巧みな体術をしながら教団の衛兵をいなして、転ばせた後、足の関節を外す。
エミリアはそれを見て、ショウはそんなことができたのかと内心驚く。
ショウは眼鏡をクイっと上げると静かになった空間で呟く。
「ナチュラル・ハッキング」
ショウの視界は0と1の洪水に飲み込まれ、赤いファイアウォールを抜けていく。
世界の解像度が急激に上がり、床や空気の粒子まで数値化されて見える。
《脳内インターフェース接続完了。リンク:教団の衛兵の戦闘プログラム。第一階層》
周囲が驚きを見せる中、ショウは敵性ウィルスを自身で作り出して流し込む。
ウィルスは自身の電子データにも感染するが抗体も同時に作り出すため、問題はない。
だが、その分の負荷はかかる。
「ちょっとえぐいけど仕方ないよね」
教団の衛兵は自身の視界が赤く染まり、我を失って叫びだす。
教団の仮拠点の床をのたうち回る衛兵もいた。
「ショウはナチュラル・ハッキングができるんですの?」
「エデュケーターとしてびっくりしたぞ。一体何をしたんだ?」
「ちょっとウィルスを流し込んだだけだよ?」
「それはえぐ過ぎるだろ!」
「友斗君を守るためには仕方ないよね」
「ユノはちょっと怖い、であります」
「私もこうはなりたくないな」
「友斗のため、ならいい」
衛兵地達が全員倒れ伏して異様な雰囲気に包まれる中、ショウが歩き出す。
「さあ行くよ?」
「ああ、仮拠点の教会のまだ入り口でしかないからな」
「友斗、助け待ってる」
「ナチュラル・ハッカーが二人もいたなんて、驚きであります」
「ショウ、貴方すごいのですわ」
「僕は……すごくないよ。でも友斗君を助けるためなら仕方ない」
ショウの胸中は複雑であった。公安監査室のメンバーである綿貫ショウはコードネームSで通っている。彼の任務は榊友斗の監視である。
初めは監視対象という知見でしかなかったが、友斗と同じ学園寮に住んで、友斗の人柄に触れて考えが変わりつつあった。
ショウは鎖に縛り付けられた哀れな獣。でも友斗は大空を羽ばたく孤高の鷹だと感じた。
友斗の仲間を守ると決めたときの輝きはショウには眩しすぎた。
でもショウはこうも思った。
彼に照らされるときは何だか気持ちがいいと。
太陽の光を恋しがる、牢屋の中の獣のような心境だなと思った。
だから、ナチュラル・ハッカーであることを開示してもいいから友斗を守ろうと思ったのだ。
ショウは自身の痺れた手を振りながら教団の仮拠点を歩きだす。
奥に友斗が囚われているなら助ける。
これが友情なのかもと少しだけ考えて、自分には友斗の友達を名乗る資格はないと思う。
五人は倒れ伏した衛兵たちを乗り越えて走り出す。その先に友斗がいると信じて。
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