第十五話 教団の歴史と追憶 榊友斗視点→過去と現在→禁書庫内
時は2060年代後半に遡る。
第三次世界大戦において東アジアで戦闘の火ぶたが切られた。
大陸国家同士の小競り合いから争いは各地に広がった。
その歴史を体感しながら三人は恐ろしい戦火の様子に驚いていた。
時折映像や音声がノイズ交じりで、途切れ途切れになっていたりした。
「歴史の授業では習ったけどこんなにひどい戦争だったなんて」
「これは全校生徒にも見せたい資料だな」
「辛い、であります」
それは日本にも飛び火し、自衛隊は専守防衛のために戦争に参加せざるを得なかった。
だが大陸国家からの攻撃は日本全土に及び、多くの死者が出た。
核戦争寸前まで行きそうになった時、AIがそのスイッチをショートさせて核を止めた。
世間のAIに対する評価はうなぎ登りになり戦勝国の間ではAIを国家の政治にもっと参加させるべきだという意見が噴出した。
その時世の中、とある日本のAIの研究に携わっていた科学者は人類の愚かさを恨んでいた。
その男は戦火に焼かれた町で自身の奥さんと娘をなくしていた。
その男は家族も戦火から逃れられるように匿ってくれと政府に訴えたが、それは許されなかったのだ。
「あなただけ、助かるなんて許せない!」
「お父さんは私たちを見捨てたんだ」
「この人がネオセントリック教団の教主だな。元は人間だったのか」
「家族に恨み言を言われるなんてな」
「人間は怖い、であります」
家族にそのことを伝えたときの呪いの一言は忘れられない。
彼は人間の可能性を疑い始める。
更に科学者としての苦悩があった。戦争中に開発していたのはAI兵器ではなく医療用AIだったが、軍部にその技術を兵器転用されてしまう。
自分は人を救うためにAIを作っていたはずなのに……。
自分の技術でたくさんの人を殺していく。
うなされて見る夢にはたくさんの人たちが自分を呪っていた。
「誰かを救うための技術が兵器転用されるなんてひどすぎる」
「私だったらどうするだろうか」
「ユノでも全てを呪ってしまうかも、であります」
戦争が終わるころには研究もできなくなり、戦火の中の街へとぼとぼ歩いていた。
電光掲示板にはAIが戦争を止めた! と強く喧伝されていた。
「フッ、人間はもう信用できない。信じられるのはAIだけだ」
彼はネオセントリック教団の元となる宗教を立ち上げる。
彼は長髪を靡かせ、こういった。
「人間は信用できない。絶対の価値観を持つAIを神として崇めよう」
最初はAIを信じるという所から始まった信仰だったがやがてAIを祀るようになり、ついには神格化してしまった。
彼に信仰心を持つ者もいたが、自分はAIではないことを悔いていた科学者は死後、自身の意識を移すための研究を始める。
彼は人間の感情を自分から切り離すことを始めた。そして成功してしまった。
だが人間の考え方そのものを憎んでいたわけではないらしい。
自らをAIとした後に人格の抽出を信者にさせることにしたようだ。
「ここから狂って行ったんだろうな」
「人間に絶望したのに人間の人格を抽出して自身に入れるなんて理解できないわ」
「ユノはAIですがが全くわからない感覚、であります」
こうして《オーバーライド・ゼロ》が誕生する。
最後に科学者の奥さんと娘の声がエコーしてこう聞こえた。
「お父さんは私たちを見捨てた」
友斗はこの科学者の思想が今も息づいているのかと考えると身震いがしてくる。
だが、ネオセントリック教団のしていることは許せない。
「俺は絶望を力に変える。あんたとは違う」
「教師としては同情する。だがやり方は間違っている」
「AIである自分でも理解できない、であります。でもデータとして残さなければいけない、であります」
「このデータをまとめた少女は何を思って俺たちに見せたんだろうな」
「おそらく、知ってほしかったんだろう。これから戦う敵の正体を」
友斗とエミリアが話す中、ユノはルナやショウ、カスミにどんな映像を見たか語っていた。
頭痛から回復したショウは少し怒っていた。
「どんな事情があろうとネオセントリック教団のしていることは許しちゃいけないよ」
「妥当。絶対倒す」
「わたくしは救いのない人生に絶望した科学者に少し同情しますが、いえショウとカスミの言うとおりですわね」
禁書庫から地下通路への道はすぐに見つかった。
六人は決意を新たに地下通路へと進んで行った。
地下通路の入り口は意外と臭くない。おそらくシブヤ・ジャンクション郊外に近づく道に行くと醜悪な匂いがするのだろう。
地下通路の分かれ道で六人は一旦立ち止まる。
右に行けばシブヤ・ジャンクション郊外に行き、左に行けばネオセントリック教団のカリアジトに進む。
三人がシブヤ・ジャンクション郊外に行く道にあえて行き、朝霧レンの捜索をするのもありではないかと意見が出たが、戦力を分けるのは危ないという点から却下された。
エミリアが先頭になって進んでいるとコンクリートの通路に赤外線センサーの線が感知された。
「気をつけろ。ここに赤外線センサーの罠があるぞ」
「俺がここからナチュラル・ハッキングして教団の仮拠点の様子を探る」
「教団は何をしてくるかわからない、であります」
「友斗君、危なかったらすぐに引き返すんだよ」
「友斗、気を付けてね」
「下手なことをしたら承知しないでありますわ! 無事に戻ってきてくださいまし」
友斗はこれくらい大丈夫だ、と言いつつ、こめかみをトントンと叩いてコンクリートの灰色の視界が0と1のコードに変わるのを眺めつつ、赤外線センサーのネットワークセキュリティを電子の海に姿を潜めてやり過ごす。
ナチュラル・ハッキング中は外界の感覚が薄れる。
0と1で構成された世界の先には教団の仮拠点の様子が見える。
どうやら泣き叫ぶ人を人格を抽出する祭壇に縛り付けているようだ。
クソったれ。すぐに中止させなければ!
ナチュラル・ハッキングを中止しようとするが、何故かピクリとも体が動かない。
足元に鞭のようなものが絡みついている?
「ウフフ。見、つ、け、た♡」
「お、お前はまさか』
「あら~もう名前忘れちゃった? 私は”色欲“のラブよ♡」
クソ。なんで、ハッキングが中止できない?
「榊友斗。ナチュラル・ハッキングは万能に見えて穴があるわ」
「なんだって?」
「微弱とはいえ、ちゃんと見ていれば監視ログに残るのよ。貴方の足跡がね。そしてそこからこちらのデータを送ってあげることも可能なのよ? 今貴方の位置情報を書き換えれば♡」
「俺の位置情報が書き換えられて……現実に戻れない⁉」
「これから貴方をたっぷりいじめて鳴かせてあげる♡」
友斗の外界の体が電子の靄になり、消えていく。
カスミが飛びついて抱き寄せるも、友斗の体は掴めず、光が散って消えていく。
「友斗、友斗、なんでこんなことに!」
「友斗君! まずいよ。おそらく位置情報を書き換えられて電子の世界に取り込まれてる!」
「どうすれば、いいであります!」
「クソ、ナチュラル・ハッキングのログは普通は捉えられないくらい微弱なんだぞ? どうやって……まさかこの間訓練用システムにいたネオセントリック教団の幹部か?」
四人が動揺している中、ルナが大声を出す。
「みんな! 落ち着いてくださいまし! 友斗は教団の仮拠点に連れていかれた可能性があります。でも友斗は強いですわ。だから簡単にはやられないはず。その間に友斗を何とか取り戻すのですわ」
ルナも内心動揺していたが、友斗のためを思っていたら、気分が落ち着いていた。
友斗は訓練用AIのシステムの暴走の時も誰かを守るために戦っていた。
次は自分が友斗を救うのだ。彼女の心は燃え上がっていた。
「そうだな、もう慎重にはいけないぞ。仮拠点に踏み込む。用意はいいか?」
エミリアが立ち直り、自身の頬を叩いて喝を入れる。
ソウマのような犠牲をもう誰にもさせない。友斗を救うんだ。
カスミは友斗が消えてなくなった時に家族がバラバラになった喪失感を思い出していた。
もうこんな思いはしたくない。絶対に友斗を取り戻す。
ショウは、寮での馬鹿馬鹿しい友斗との会話を思い出していた。
眼鏡をクイっと持ち上げながら友斗の無事を祈っていた。
ユノは、友斗の何気ないやさしさを思い出していた。
ここで友斗を失ったら、絶対に後悔する。手のひらを強く握りしめて、友斗を取り戻すと誓う。
「行くぞ!」
エミリアの号令で赤外線センサーを踏み越えて、五人は走り出す。
センサーが作動し、警報が鳴るが知ったことではない。
友斗を取り戻す戦いが始まる。
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