第十二話 三角の謎 白鳥視点→天瀬視点→ユノ視点→現在→旧図書館棟
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
「ん~本ばかりで息が詰まるなあ」
「そんなことない。本は、人類の叡智」
「白鳥は本を読むのか? 意外だな」
「結構、読む。本、好き。後、白鳥じゃなくてカスミ」
「え~いきなり下の名前呼びはなあ。チャラくないか?」
「いきなり、じゃない。チャラって何?」
「これはクラシックな時代の軽い奴って意味だな」
「理解。でも、カスミって、呼んで」
「わーかったよ。カスミ」
「う、うん」
カスミは友斗に気づかれないように小さくガッツポーズする。
友斗は破天荒でルールをすぐ破るけどなんか気になる。
ちょっと好きかも。
「それにしてもさんかくかあ。さんかくを示す本があるのかと思ったけど全然見つからないな」
「う、うん」
実は友斗との会話を引き延ばすため、考えがあるけど言っていないカスミ。
小さな乙女心による悪戯心だった。
「さんかく? いや教団に関係する本かもなあ。さんかくを示すものってなんだ?」
「三角関係……」
「ん? よく聞こえなかったぞ」
「ルナと私と友斗」
「え? なんでルナと俺が出てくるんだ?」
ダメだ。意外と友斗は手ごわいのかもしれない。
というか多分鈍感だ。
カスミは小さく肩を落とす。
カスミは友斗の手をちらちらと見ながら、手をいきなり繋いだら友斗は怒るだろうか? と考えていた。だが心の中の踏ん切りがついて手を友斗に伸ばしかけた瞬間。
「あ、なんか怪しいところを見つけたぞ」
「ちっ」
「え? 舌打ち」
「してない」
どういうこと? と首を傾げる友斗をしり目にカスミは友斗に何を見つけたのか言う。
「何、見つけた?」
「ここだよ。丁度三冊の本が入るスペースが不自然に開いてる」
「なるほど」
「後は、さんかくを見つければいいんだけどなあ」
ここが潮時か。カスミは友斗に向き直って自分の推論を説明する。
「ネオセントリック教団のさんかくを示す本をここに入れる」
「なるほどな~。俺にはわかんなかったぜ。カスミはすごいな」
友斗は自然にカスミの頭を撫でていた。
あまりにも自然だったので一瞬、固まるカスミ。
え? 友斗から触ってくれた。これって脈あり?
友斗のさらさらとした手の温かさを感じて鼻を伸ばすカスミ。
この瞬間をずっと感じていたい。だが……。
「お、自然に撫でてたぜ。ごめんな、カスミ」
「う、うん」
カスミの顔は暗がりの旧図書館棟では見えないが、陽だまりの場所では顔が真っ赤になっていることがすぐにわかっただろう。
「幸せ」
「ん? なんだ?」
「何でもない」
カスミはルナにこの場所を譲るものかと心中で燃え上がっていた。
** ルナ視点
「はあ~」
「さっきからため息ばかりだね」
「そんなことはないですの~」
「いや、あからさまに態度に出てるよ。友斗の傍が良かったんでしょ?」
「え? い、いやそんなことはありませんわ!」
「まあ僕は良いんだけどね。友斗はモテるだろうし」
ルナは今頃、カスミは友斗と触れ合うチャンスを狙っているのだろうと考えて憂鬱になっていた。嫉妬しているはずなのに友斗のことを考えると辛くなる。
自身の胸中をいつの間にかショウに打ち明けていた。
自身の境遇や友斗が特別な存在であることに嫉妬しながら気になってもいるとショウに話すと、ショウは眼鏡を整えながらこう言ってくれる。
「そうだよね。友斗は特別だ。ルームメイトの僕だからわかるけど彼に接するAIはみんな感情をむき出しにして、友斗に接する」
エモーショナーということまで話していなかったが、ショウの鋭い指摘にハッとするルナ。
「彼はね、鬱屈とした時代を変える存在だと思ってる。だから僕もその眩い光に集まりたくなるのさ」
ショウの横顔を見ると少し陰のある表情を浮かべていた。
ああ、この人は私と同じだ。ルナはそう思った。
親近感がわいた。
「ショウはなんでハイスクール・シブヤ・エデュケーターに来たんですの?」
「僕はね。自分の縛られた鎖を解いてくれる人を探しているんだ」
「ん? どういうことですの?」
「ルナちゃんにも言えないことさ。でも友斗君はその鎖を解いてくれるかもしれないと期待しているんだよね」
ショウの横顔は何処か孤独を抱えている人物のように見えた。
ああ、友斗の事ばかり考えてわたくしは何も考えていなかった。
自分と同じ孤独に悩む人物がこんなに近くにいたのに。
ルナは自然とショウの手を取って、胸の近くまで持ち上げていた。
どうしてそうしたのかはわからない。でもそうしてあげたいと思ったから。
「あれ? ルナは友斗君のことが好きなんじゃ……」
「それはまだわかりませんわ! でも貴方は自分を鎖で縛っているだけに思えますわ。わたくしだって貴方の気持ちはわかります。大手のIT会社の跡取りでこの先どうなるかわかりませんの。でもショウ、貴方の友達にはなれますわ」
「あはは、それは嬉しいね」
その笑顔はちょっと陰のあるショウには珍しく屈託のない笑い方だった。
自然にルナも笑う。二人の間に友人以上恋人未満の関係が芽生えた証拠だった。
「それにしても女の子の声は聞こえませんわね」
「そうだね。でも本は興味深いものを見つけたよ」
「え? どこで? というかいつ?」
「あはは、秘密」
ショウは屈託なく笑いながら、棚に手を伸ばし、一つの本を取りだす。
『ネオセントリック教団の未来』
「これが興味深い本ですの?」
「さんかく、だよ?」
ルナはハッとする。ネオセントリック教団の本を調べていた朝霧レンならすぐに気づくはずだ。
「過去、現在、未来……」
「そう、さんかくを構成する要素に見えるよね?」
「ショウ、貴方天才ですわ!」
「いやいや、情報から考え出しただけさ」
二人は勢いをつけて、ハイタッチをする。
これは青春というやつかもしれない。
** ユノ視点
ユノとエミリアはAIらしく暗視機能の付いた視界で旧図書館棟を探していた。
「ここにもあったの、であります」
「こっちにも落書きがあったわ」
二人が見つけたのは、子供用の小さな靴とクレヨンで書かれた落書きだった。旧図書館棟の壁や机に落書きが書かれている。
「これは確定ね。ここに幼い女の子がいたことは間違いない」
「それにしても、食事をしていた痕跡がない、であります」
「それもそうね。もしかしたら幼い野良AIかもしれない」
「その方が自然、であります」
ユノが壁を見上げると、古い形式の監視カメラがある。
「ナチュラル・ハッキング! であります」
「ユノはAIだから普通にハッキングできるだろ!」
「えへへ、突っ込まれた、であります」
ユノは監視カメラにアクセスし、セキュリティとの戦いを挑もうとしたが……。
「おかしい、であります。セキュリティが監視カメラに無い、であります」
「それは妙だ。旧式でも一応のセキュリティはあるはずだけど」
ユノは続けて監視カメラの映像を取り込みながら確認するが所々時間が飛んでいる。
少女どころか、朝霧レンがいた映像すら見当たらない。
「うーん、何かおかしい、であります。ん? この監視カメラに量子干渉がされている、であります!」
量子干渉とは、量子力学の超有名な現象の一つだ。
光や電子のような量子の粒子は粒でもあり、波でもある。
波だから重なり合うと干渉が起き、山と山が重なると強め合う。
山と谷が重なると打ち消し合うのだ。
その結果、普通の粒子の振る舞いでは説明できない縞模様やノイズが生まれる。
光や電子を二つのスリット(穴)がある板に向けて飛ばす。
もし粒だけなら二つの筋がスクリーンにできるはず。
だが、波が干渉して縞模様が(干渉パターン)が現れる。
ここから量子は観測されるまで波として広がっていて、観測された瞬間に粒として決まる、という解釈が出てくる。
えへへ、難しいこと言うと長いんでありますけど、つまり“見えない誰かの痕跡”ってこと、であります!
ユノとエミリアは無言で考え込みながら、強大な何者かの気配を感じていた。
ネオセントリック教団やAI統制機構とは違う何者かを。
「あ、なんか分厚い本が落ちてる、であります」
「ほんとね。しかも二冊あるわ。ネオセントリック教団の現在と過去ね」
「これはお手柄で、あります!」
「おそらくこれがさんかくだね。それにしてもNEOみらいって何者なんだ?」
「わからない、であります」
「まあ、戻るか」
二人は踵を返して、集合場所に戻る。
さっきまで動作していなかった監視カメラが動き始め、二人の姿を捉えていたことに気づかずに。
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