第十一話 消えた生徒の謎 榊友斗視点→現在→旧図書館棟
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
翌日、友斗と白鳥カスミとユノと綿貫ショウと何故かエデュケーター・エミリアが他の生徒がいない教室に集まっていた。
「なんで、エデュケーター・エミリアがいるんだ?」
「お前たちだけで調査など危ないだろ! 私がいないと不便なことも多いだろうしな」
そう言って薄い胸を張るエデュケーター・エミリア。
金髪ロングが風になびいて綺麗なのだが、胸板は絶壁だな。
白鳥カスミもドヤ顔をしながら、膨らんだ胸部装甲を自慢する。
「ぐぬぬぬ!」
「エデュケーター・エミリア、何をしているのですか?」
呆れた顔をした天瀬ルナに突っ込まれるエデュケーター・エミリア。
なお、エデュケータ―を一々つけるのは長いだろうということで授業中以外はエミリアだけでいいと言ってくれたエミリア。
なんだかんだ優しいな。
「時間がもったいない、であります」
「ユノの言うとおりだよ。皆、まずは先週消えた生徒が最後にいた場所に行くんでしょ?」
「そうだな、行くか」
「ったく、私のエデュケーター権限がないとは入れないんだぞ。もっと敬え、バカ友斗」
友斗にはエデュケーター・エミリアの後半の声は聞こえなかったらしい。
聞いていた白鳥カスミと天瀬ルナは顔を見合わせる。
だが何も言わずに、行方不明生徒が消えた場所にみんなで向かった。
**
「消えた生徒の名前は朝霧レン。彼がいたクラスを担当していた教育用AIによると引っ込み思案でクラス内でも孤立しがちだった生徒だという事らしい」
ちなみにエデュケーターと教育用AIは立場が違う。
クラスに一人教育用AIはつくのだが、榊友斗のクラスはエデュケーターが専属で突いている。エデュケーターは教育用AIをまとめる役割をしており本来はクラスの担任にはつかないのだが、エミリアが自分から志願してエデュケーターでありながらクラスの担任をしているらしい。尚エデュケーター・クラヴィスは別のクラスの担任だ。
「朝霧レンが消えた場所は旧図書館棟、でありますか?」
「そうだ、あそこは監視カメラが古くて、故障もするから監視ログも飛びやすい」
話している間に、旧図書館棟についた。コンクリートで作られたクラシックな時代を思わせる図書館だ。見た目は古びた感じで中の電気は勿論ついていない。
周りは薄暗い森に囲まれていて、夜に来たら幽霊が出ると言われても信じそうだ。
天気は曇り空で薄暗い旧図書館棟は寂れて寒々しい雰囲気を出していた。
正門には生体認証ではなく、エデュケーター権限でしかあかない鍵があるらしいのだが。
「あれ、ちょっと押したら開きそうですわ?」
「おかしいな。これなら知っていれば誰でも入れる。こんなふうになっているなんて警備ロボットはログに書いていなかったが……?」
「警備ロボットが不正をしていたってことか?」
「学園の警備ロボットはAI統制機構の指示に従っているはずなんだけどな……」
ちょっときな臭くなってきたな。友斗たちは静かな森の中で胸騒ぎを感じながら旧図書館棟に入る。
旧図書館棟は廃棄された紙の本が高い棚に入れられた状態だった。
「ちょっとかび臭い匂いがするな」
「紙の本ってこんな匂いなの、でありますか」
友斗とユノはクンクンと匂いを嗅ぎながら鼻をしかめる。
天瀬ルナは肩をこわばらせながら、薄暗い旧図書館棟をきょろきょろと見まわしている。
「なんだ? 天瀬ルナは薄暗いところが怖いか?」
エミリアが笑い飛ばしながら天瀬ルナの肩を叩くと、びくりとするルナ。
「こ、怖くなんてありませんわ!」
「ルナ、あっち」
「な、何ですの?」
「ばぁ~!」
白鳥カスミが別の方を差している間に綿貫ショウが忍び寄って耳元で大きな声を出す。
「ひ、ひぃいいいい!」
天瀬ルナがいい声で鳴くのでみんなで笑う。
「ルナ、ビビりすぎ」
「カスミ、貴方は薄暗いところが怖くないのですか?」
「私の家、電気も自由に付けれなかった。だから、慣れてる」
カスミの独白に複雑な家庭環境を感じ取った各々は、そ、そうかとお茶を濁す。
だが友斗は気にもせずにカスミに話しかける。
「それだと今は幸せだろ。学園寮は不自由ないしなあ。あ、AIメイドはポンコツだけどな」
「AIメイドがポンコツ? 私の部屋のメイド、しっかり、してる」
「え? うちのAIメイド、アカリって言うんだが、食事を作るって言ってプロテインバーをそのまま出してきたぞ」
「うん。あれは衝撃的だったよね」
「AIメイドがプロテインバーを出す? そんな教育はされてないはずだが……」
友斗とカスミの話にショウとエミリアが口を出す。
あのポンコツメイド、不良品か?
そんなことを友斗は思いながらも憎めないアカリの様子を思い出してちょっと笑っているとカスミに服の裾を引っ張られる。
「友斗、人間とAI、どっち好き?」
友斗はカスミの一言を茶化そうとして顔を見ると真剣な顔だったので、真面目な顔をしながら答える。
「どっちも好きだぞ。俺のことを好きならな」
「そう」
カスミは無表情なまま、顔を俯かせる。
歩きながら、本棚の本を取ったりして、旧図書館棟を調べていると本を読む机の上にホログラム端末が置かれているのが見つかる。
ホログラム端末は大体生体認証が掛かっているので部外者は調べることができない。
「まあ、俺なら余裕なんだけどな」
友斗はこめかみをトントンと叩く。
脳内に電子音が鳴り響き、自らの心臓の脈動を感じながら、本のページをめくるように赤い壁を通り抜け、0と1が並ぶコードの海に沈みこむ。
《脳内インターフェース接続完了。リンク:ホログラム端末 第一制御層》
よし、ホログラム端末のログを見るぞ。
初めは朝霧レンの日記のログを見るか。アクセスすると日記の文字が浮かび上がる。
『今日も僕は一人だ。AI VtuberのNEO みらいちゃんの配信だけが生きがい。でも最近、心地よい場所を見つけた。旧図書館棟だ。一人が好きな僕にはクラシックな時代を感じさせるこの場所はとても落ち着く。しばらくここに来ることにする』
なるほど朝霧レンは自分からこの場所を見つけたのか。それにしても孤独に悩んでいたのかな。ナビAIはこの端末に登録されておらず一人きりだったようだな。
『旧図書館棟に僕以外の存在がいる気がする。机で紙の本を読んでいると誰もいないはずなのに、誰かが歩いている音がする。しかも幼い女の子が歌を歌っている声まで聞こえた。何かがおかしい』
誰もいない旧図書館棟に誰かが歩いている物音? 幼い女の子が歌を歌っているてのも気になるな。
『昨日の配信で、みらいちゃんが”学園の秘密の扉“について歌った。さんかく、しかく、五芒星? 貴方はどれが好き? みらいはさんかく! だってただの線が三角になると一つのあいまいな関係を生むからね♡ 貴方はどれが好き? って歌だった。コメント欄は不思議キャラのみらいちゃんがまた何かを言い出したって言ってたけど僕には本当の暗号に思えた』
NEOみらいって何だっけ? と友斗は考えて、そう言えばシブヤ・ジャンクションにホログラムが出てたなと思いだした。でも意味深な歌だな。みらいって何者なんだ?
『僕は物音におびえながらもかなりの本をホログラム端末に取り込んで寝る暇も惜しんで蔵書を読んでいる。最近蔵書が偏っていることに気づいた。ネオセントリック教団についての本を調べていた時に気づいたのだが、その辺の本だけ信仰を説いた本しか見当たらない。これはおかしい。もう少し旧図書館棟に通う必要がありそうだ』
ネオセントリック教団の本だけ蔵書が少ない? 確か、ネオセントリック教団は二十一世紀中盤にできたとされる宗教だ。今は二十二世紀、初頭だから当然調べた本は多いはずだ。
『やっと見つけた! これが三角か。禁書庫が特定の仕掛けで見つかる仕組みになっていたんだ。そこに僕の求める本があるはず! ん? いつも静かな旧図書館棟の扉がガンガンと誰かに叩かれている! 隠れなければいけない。仕方ない、禁書庫に一旦身を潜めよう。この端末は誰かが調査に来た時に見つかるように机に置いていく』
朝霧レンの日記はここで途切れていた。
友斗はナチュラル・ハッキングをやめて、得た情報を皆に伝える。
「幼い女の子の歌が聞こえたんですの?」
「誰かが足音を立てていたというのも気になるな」
ルナは怯えながら、エミリアは考え込みながらそれぞれ応える。
「教団の蔵書があまりないのもおかしいね」
「禁書庫、行くべき」
「ユノはNEOみらいちゃんが気になる、であります」
ショウとカスミとユノも口々に友斗が思ったことと同じことを出してくる。
だが仕掛けについての情報がなかったことを友斗が言うと、ショウがこういう。
「こういう時は手分けして探してみるべきだよ」
「そ、そんな! 一人は嫌ですわ!」
「ルナ、そんなにビビんなって」
「び、びび、びびってないですわ⁉」
仕方ないので二人一組で手分けして探すことにした。
友斗はカスミ。ルナはショウと。エミリアとユノ。
ちなみに友斗と誰が組むかでめちゃくちゃ揉めた、という事だけ記しておく。
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