第一話 未来都市区 シブヤ・ジャンクション 榊友斗視点→現在→シブヤ・ジャンクション
こんにちは。この作品は小説家になろう様とカクヨム様とCaita様に投稿しています。お好きなプラットフォームでお読みください。
カクヨムで2話先行公開をしています。マロン64で調べれば出ますので早く読みたい方はそちらでお読みください。
空はどんより曇っていて、ビル群の隙間から差し込む光は、まるで電子の靄にかすんで見えた。並び立つ摩天楼と遠くに見えるスペースタワーを見上げても雲にさえぎられて頂点を見ることはできない。
そんな未来都市の中、榊友斗はホバー型スケーターに乗って学校に向かっていた。
名は――ハイスクール・シブヤ・エデュケーター。
未来の精鋭を育てる名門だ。
「ん~! 遅い、ハチポチ号遅いぞ! マニュアル運転に切り替え!」
榊友斗はホバー型スクーターにハチポチ号と名前を付けていた。ネーミングセンスはお察しである。
ハチポチ号は青色の光を明滅させながら、電子音のクラクションを鳴らして榊友斗に抗議する。シブヤ・ジャンクションは摩天楼が並び立ち、飛行路が整備された世界でも有数の混雑が続く名物道路だ。
そこかしこでAIポリスメンが目を光らせ、いかなる交通違反にも対応しようとする。そのため、友斗が交通違反しようものならすぐにAIポリスメンが逮捕することになるだろう。
ハチポチ号のクラクションにびっくりした通行人が友斗を睨みつけてくるが強面の友斗が眉間にしわを寄せるとすぐに目をそらす。
「ちっ、今日は人が多いな。だが危ない奴はいなさそうだ」
一番危ない奴はお前だろうとハチポチ号は思考したが、伝わらないので考えるのをやめた。
時は二一XX年の四月一日。今日は三年間お世話になる、ハイスクール・シブヤ・エデュケーターの初登校の日だ。榊友斗は絵にかいた不良少年で勉強はできる訳でもない。AI評価も星五つのうち、星一だ。
だが名門のハイスクール・シブヤ・エデュケーターに友斗は入ることを許された。否、監視するために入れられたと言ってもいいだろう。
「さあ、ハイスクールではどんな奴に出会えるかなあ。可愛い女の子とか美人なAI教師が居たら嬉しいなあ。人間とAIでチョメチョメする奴もいるのかなあ」
桃色思考をつづけながら、友斗はハチポチ号の上で楽しそうに笑う。この男は人間とAIが愛を紡げると本気で思っているロマンティストだ。強面の男がニヤニヤしている。お巡りさんこいつです。
「ハチポチ号、いつもの奴やるぞ!」
その言葉にハチポチ号は青い光とクラクションを鳴らして抗議する。友斗が収監されることになったナチュラル・ハッキングはこの世界ではチート能力だ。
ナチュラル・ハッキングは自己陶酔をしやすく、暴走させやすい能力でもある。
この能力の暴発によってAI評価が下がっている面もあるのだ。
友斗はこめかみをトントンと叩く。
《脳内インターフェース接続完了。リンク:ハチポチ号 第一制御層》
視界が一瞬ノイズに染まり、青白い光の格子が広がる。
床も壁も数字と文字列に置き換わり、現実の輪郭がコードの線で縁取られていく。
意識は身体を離れ、まるで情報の流れに飛び込むようにデータの奔流へ沈んでいった。
ハチポチ号は自身のファイアウォールでナチュラル・ハッキングを絡めとろうとするがいとも簡単にプログラムに正常な通信であると誤認させる。
「プロトコル・オーバーライド。手動制御に切り替え」
ハチポチ号は自分の負けを認め、青い光で泣いた顔文字を作りながらマニュアルモードに移行する。
「ハチポチ号、お前は悪くねえ。だが俺は管理された世界じゃ窮屈なんだよ!」
榊友斗のナチュラル・ハッキングは、この世界では誰もが欲しがる能力だ。幼少期に脳幹が損傷した状態で生まれる難病を患っており、友斗の命は電子チップが脳幹の代わりにその働きを果たすことで完治した。友斗のチップは普通の電子機械じゃなくて、ナノマシンで常に自己修復・自己最適化される特殊型。
ニューロンとチップが融合した結果、通常のAIよりも柔軟な思考速度が出せる。
欠損を補ったはずのチップが、逆に“人間+機械”のハイブリッド脳として働いている。
「プロトコル・オーバーライド。空中障壁と物理障壁を作動開始。俺の体をホバー型スクーターに固定」
プロトコル・オーバーライド。AIのやつらは堅苦しくそう呼ぶけど、要は“ルールの上書き”だろ?
決められたコードをぶっ壊して、自分の都合で書き換える。
つまり“決まりを破ったもん勝ち”ってことだ
ハチポチ号はしょぼんの顔文字を作りながら、あきらめの境地に入る。こうなった友斗は止められない。否、止める者がいない。
スケーターの電動エンジンが低く、唸り声をあげ、友斗の視界に表示された仮想スピードメーターが一気に振り切る。
「オーバーライド! 唸るぜエンジン、壊すぜルール!」
友斗の視界には3Dのデジタルアシストラインが走る。
道路だけではない。高架レーン、歩道脇の空間、飛行路を走るエアカーの間のスリット。”三次元の抜け道“が友斗の視界に重ねて表示されていく。
「よし行ける!」
一瞬体重をかけて、スケーターごと電磁リフトで空中にジャンプ。飛行路に跳び乗ると向かいからスピードを出していた一台のAIタクシーを跳び越える。
クラクションとAI警察のサイレンがシブヤ・ジャンクションに鳴り響く。
友斗はそれをライブハウスの大観衆の声くらいにしか受け取っていなかった。
ビル間を通過するドローン配送車両の下を掻い潜り、次の瞬間には上昇して信号待ちのエアバスのルーフを滑るように走り抜ける。
地上二メートル、五メートル、そして七メートル――まるでスノーボードとパルクールを融合させたような立体移動に、AI車両も警告音を発し始める。
AI車両に乗っていた中年の男が怒鳴っている様子を笑い、あっかんベーをしながら友斗は楽しげに言う。
「わりぃ、俺の道は俺が決めるんでな!」
『接近危険、退避推奨』
周りのAI車両が急停止して、乗客は倒れそうになるのをこらえる。だが若者が座って俺に撮影用のカメラを向けていたので、ピースしながら、一瞬空中に停止。その後はフリップを決めてその場を後にする。
急カーブの先、正面に現れたのはシブヤ・ジャンクション名物——全天球型ホログラム広告。
巨大な空中ビジョンに映し出されているのは、バーチャル・アイドル《NEO・みらい》の最新ミュージックライブだ。
『ようこそ未来へ、NEOみらいですっ♡』
アイドルのウィンクと共に、レーザーフィールドが半透明のエフェクトで空間全体に展開する。
みらい♡ 未来♡ 貴方はどんなみらいが好き?
貴方は何を手放し、どんなみらいを掴むの?
「よっしゃ、ホログライズ・スラロームッ!!」
友斗は一気に加速し、虚像と虚像の隙間にタイミングよく飛び込む。
光の髪が頬を撫で、電子のリズムが鼓膜を震わせる。
光粒子をかき分けるようにして、 “仮想と現実の境界”を切り裂く。
『みらいの中を通ってきた……⁉』
通行人の一人が思わず声を漏らす。
おっと、青髪の女の子がびっくりして横断歩道で止まっている。
そして横断歩道に突っ込んでくる、AIタクシーが一台。
うん、自分が悪いな。その子をハチポチ号に乗りながら華麗にお姫様抱っこをする。
「キャッ!」
「可愛い少女は守らないとな」
「え?」
ちょっと驚きながら顔を赤らめる女の子。
友斗は横断歩道を渡り終えたところで、青髪の眠たそうな顔の少女を下ろす。
「ありがとう。君の名前は?」
「榊友斗だ」
青髪の可愛い少女に背中越しにピースを決め、スケーターで再び地面を蹴った。
『危険走行捕捉:拘束します』
「クソ、AI警察はしつこいなあ!」
先程から追ってきていたAI警察のロボットが空を駆けながら俺に追いすがる。
道路に配備されていた他のロボットも動き出し、周囲を包囲する。
スケーターのエンジンを唸らせて、旋回しながら突破口を見つけようとするも輪を作って抜かせまいとする。
「あれしかないか!」
友斗はこめかみをトントンと叩いて、リーダー格のロボットにハッキングする。なるほど、こいつらはリーダーの視覚の指示に従って指揮を執っているようだ。なら、こうすればいい。
《脳内インターフェース接続完了・リンク:ポリスメンR-0A:制御層 第一階層》
再び視界が数字と文字列の羅列に置き換わりポリスメンがデータの塊に変わる。
「無駄な抵抗は諦めろ。もうお前は袋の鼠だ」
「余裕ぶりやがって。俺はネズミじゃねえ、空を舞う鷹だ!」
一瞬のスキを作れればいい。だからこいつらに見せるのは虚像だ。
脳内に包囲網から宙に跳んで抜ける視覚情報を思い浮かべる。
AI警察のロボットはそのイメージを見ると全員で宙に跳んで捕まえようとするが。
「それは違う、罠だ!」
「あばよぉ!」
友斗はその下をくぐり、電動エンジンを爆走させながらハイスクール・シブヤ・エデュケーターに向かっていった。
「虚像を使うとはな。ナチュラル・ハッキングを使える榊友斗。危険人物のはずなのに……何故まぶしく見えるんだ」
ポリスメンR-0Aはぼそりと呟く。
……その後
『榊友斗、校則第14条・走行違反およびハッキング行為。罰則:清掃ロボットとの共同作業3時間』
「はぁ⁉ なんでわかった!?」
『全ての校門には量子予測防衛網が設置済みです』
AI教師の後ろでホログラムを出して、あっかんベーをするハチポチ号がいたとかいないとか。
――こうして友斗の校則違反から始まる学園生活が幕を開けた。
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