表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
畑とご飯と千年魔女。のんびり田舎ぐらし  作者: Y.K


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/38

夏空と畑に吹く風

夏の青空は高く、畑の上に流れる風は昨日の川辺を思い出させるほどに涼やかでした。

鍬を振るうたびに広がる土の匂いと、収穫を待つ作物の葉擦れの音。

日常の中に、ほんのひととき「風の記憶」を思わせる気配が差し込む、そんな夏の一日のお話です。


――それでは、本編へどうぞ。

朝日が真上に昇るにはまだ少し早い時間。

夏の空はもう青く澄みきって、雲は薄い白の筋を引くように広がっていた。畑の土は昨日の川辺での涼やかな時間をまだ覚えているかのようにしっとりと柔らかく、鍬を振るたびにほこほことした匂いが立ちのぼる。


「……よし、今日も悪くない」

息を整えながら鍬を立てかけると、風が頬を撫でていった。熱を帯び始めた空気の中で、その風だけは不思議とひんやりしている。まるで川辺の流れが、そのまま空を越えてやって来たみたいだった。


畝の間を駆け回るクロが「わん!」と吠え、豆の苗を避けるように飛び跳ねる。昨日あれだけ追いかけっこをしたせいか、どこか得意げな顔をしている。

「おい、今度はちゃんと避けられたな」

声をかけると、クロは尻尾をぶんぶん振り、さらに勢いよく走り抜けていった。


「弟子、今日は少し風が違うわね」

木陰からセレスの声がした。麦わら帽子のつばを押さえながら畑に足を踏み入れると、腕に抱えた籠の中から摘みたてのハーブが香り立つ。

「違うって?」

「ええ。空気の流れが柔らかい。きっと今日は畑の作業がはかどるわ」

そう言って彼女は土に膝をつき、苗の葉を指先で撫でる。陽の光を受けた銀の髪が、風に揺れてきらきらと輝いていた。


俺は鍬を握り直し、もう一度土を耕し始める。背中に汗がにじむが、風が通り抜けるたびにそれが涼しさへと変わる。昨日の鮎の塩焼きの香ばしさがまだ記憶に残っているせいか、風と匂いとが混ざり合って胸の奥まで心地よかった。


「暮らしって、こうして続いていくんだな」

思わず呟くと、セレスは小さく微笑んでこちらを見た。

「ええ。畑を耕し、収穫して、また明日のために備える。それがこの村の時間よ」


クロがまた「わん!」と吠えて走り抜け、畑の上に新しい風が広がった。

俺は鍬を止め、空を見上げる。――青と白と、少しの涼やかさ。

今日も一日、悪くない始まりだった。


昼前の畑は、すでに熱を帯びていた。鍬を動かすたびに背中を汗が伝い、土の匂いがむわりと立ちこめる。そんな中で、昨日の川辺で感じたひんやりした風を思い出すと、少し心が軽くなった。


「ライル、ちょっと休みましょう」

セレスが木陰から声をかけてきた。彼女の足元には桶があり、中には川から汲んできた冷たい水がたっぷり入っている。


「おお……助かる!」

俺は鍬を放り出し、桶の水で顔を洗った。ひやりとした感触が火照った肌を冷やし、全身に心地よさが広がる。滴る水を払いながら振り返ると、クロが「わん!」と飛びついてきて、俺の腕から滴る水をぺろぺろと舐め取った。

「おい、やめろって! ……くすぐったいだろ!」


セレスは微笑んで、その様子を見ていた。

「昨日の川辺、本当に楽しそうだったわね。クロなんて、鮎を追いかけて水に飛び込むんだから」

「そうそう! あいつ、俺より先に鮎にかぶりつこうとしてたんだぞ」

思い出して笑いながら言うと、クロは「わん!」と誇らしげに吠えて尻尾を振った。


セレスは籠から布包みを取り出し、膝の上で広げた。中には塩をふった鮎の焼き身がいくつか並んでいる。

「まだ残っていたから、今日のお昼にしようと思って」

「おぉ……! 昨日のあの味がまた食えるのか!」

俺は歓声を上げ、腹が鳴るのを抑えられなかった。


「でも、畑仕事をもう少し頑張ったらよ」

セレスはにっこり笑い、琥珀の瞳を細める。

「ははっ、やっぱりそう来るか」

俺は鍬を握り直し、再び畝へ向かう。鮎の塩焼きが待っていると思うと、不思議と力が湧いてくる。


クロは俺の横を駆けながら、時折振り返って「わん!」と吠える。まるで「頑張れよ」と言っているみたいだった。


――昨日の川の涼やかさは、今日もここに残っている。そう思うと、暑さの中にも楽しさが宿るようだった。


鍬を置いた頃には、太陽は頭上でぎらぎらと輝き、空気はじっとりとした熱気に包まれていた。額から汗が流れ落ち、服は背中に張り付いている。そんな中、木陰に戻るとセレスが布を広げて待っていた。


「さぁ、頑張った弟子にご褒美よ」

広げられた布の上には、竹串に刺さった鮎の塩焼きが並んでいた。皮は香ばしく焼けて金色に輝き、ところどころの白い身からは湯気が立ちのぼっている。鼻先をくすぐる香りに、思わずごくりと唾を飲んだ。


「……うまそう……!」

「焼きたてだから、気をつけて」

セレスが一本差し出すと、俺は勢いよくかぶりついた。


「……っ!!」

口いっぱいに広がる香ばしさと塩気、そして鮎特有のほろ苦い旨味。骨の周りの身は柔らかく、噛むほどに川の香りが滲み出てくる。熱さに舌を焦がしそうになりながらも、手は止まらなかった。

「やべぇ……! 昨日よりもうまいかもしれない!」


セレスはそんな俺を見て、くすりと笑った。

「ふふ、川で自分の手で釣ったからじゃないかしら」

「……なるほどな。確かに、ただ食うだけより味が濃く感じる」

串を持ったまま頷くと、足元から「わん!」と声がした。クロが前足をばたばたさせ、羨ましそうにこちらを見上げている。


「はい、クロの分」

セレスが小さめの焼き鮎を差し出すと、クロは飛びつくように受け取って夢中でかぶりついた。鼻に塩がついているのも気にせず、尻尾をぶんぶん振りながら食べる姿に子どもたちが大笑いする。


「ライル兄ちゃん! 僕らも食べたい!」

いつの間にか近くに来ていた村の子どもたちが目を輝かせて駆け寄ってきた。セレスは笑みを浮かべ、用意していた竹串を手渡していく。

「はい、みんなでどうぞ」


川風が吹き抜け、鮎の香ばしい匂いがあたりに広がる。子どもたちの歓声、クロの尻尾の音、そして鮎の旨味――。木陰に広がった食卓は、まるで小さなお祭りのように賑やかだった。


――王都にいた頃、魚なんて買うだけで高かった。それが今は、自分の手で釣り、皆で笑いながら食べている。

口いっぱいに鮎の旨味を噛みしめながら、俺は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


食べ終えた竹串を地面に刺し、俺は川辺に腰を下ろした。陽射しは真上から降り注いでいたが、川風が心地よく頬を撫で、鮎の塩気が残る口の中を少し冷やしてくれる。水面は陽光を反射してきらきらと揺れ、時折小魚が跳ねる音が響いた。


「……こうして座ってると、都会でのことが遠い昔みたいだ」

思わず口に出した言葉は、誰に向けたものでもなかった。だが隣に腰を下ろしたセレスが、静かに耳を傾けていた。


「都会では、いつも息苦しかったんだ。誰かに追い立てられて、失敗したら切り捨てられるような気がして。飯も仕事も、全部“競争”の延長でしかなかった」

川の流れを見つめながら語る声は、自分でも驚くほど素直に出ていた。


セレスは黙って聞いていたが、やがて小さく笑った。

「ここでは、そんなに急ぐ必要はないわ。畑は、待っていれば季節が教えてくれる。川も、流れに任せれば澄んでいく」


「……そうかもな」

俺は水面に石を投げ、跳ねた波紋を眺めた。広がる輪がゆっくりと消えていく様子は、どこか自分の胸のざわめきを映しているように見えた。


「ライル」

セレスが小さな声で呼ぶ。その琥珀の瞳は、川の光を受けて淡く揺れていた。

「人は、急いで生きると心の声を聞き逃してしまうの。ここでは……あなたがあなた自身を取り戻せるといい」


その言葉は、鮎の旨味よりも深く、胸に染み込んだ。思わず俯き、草の上に手を置いた。土の感触がじんわりと掌に広がり、なぜか涙が出そうになる。


「……ありがとう」

小さく呟いた声は、川の音に溶けて消えた。


クロがそのとき、川に足を突っ込んで「わん!」と吠えた。水しぶきがこちらに飛んできて、俺は思わず顔をしかめる。

「おい、冷たいだろ!」

子どもたちが大笑いし、セレスも肩を揺らして笑った。


川辺に響く笑い声と流れの音。心の奥の澱が少しずつ洗い流されていくようで、俺はただ黙ってその光景を焼き付けていた。


――王都では聞こえなかった、自分の心の声。

今なら、川の音と混じって確かに聞こえる気がした。


川風が少しずつ涼しさを増し、昼の喧噪がゆるやかに落ち着いていった。子どもたちは鮎を平らげると、靴を脱ぎ捨てて川へと駆け込み、冷たい水を蹴り上げながら歓声をあげている。クロも負けじと後を追い、ばしゃんと派手な音を立てて飛び込んだ。水しぶきが陽光を弾き、七色の粒となって舞い散る。


「元気だなぁ……」

思わず笑みがこぼれる。冷たい水に足を浸すだけで、さっきまで火照っていた身体がすっと軽くなる。川の水は驚くほど澄んでいて、底を流れる小石が一つひとつ見えるほどだ。小魚が群れになって泳ぎ、子どもたちはそれを追いかけては歓声をあげる。


セレスは少し離れた岩に腰を下ろし、銀の髪をまとめながらその光景を見守っていた。琥珀色の瞳が川面に映る光を受けて揺れ、微笑みを浮かべている。普段は畑や台所での姿しか見ていなかったが、こうして自然の中に佇む姿は不思議なほど調和していて――言葉を失いそうになる。


「セレス、鮎のおかわりある?」

子どもたちの声に、彼女は笑みを深めて籠を差し出した。炭火の端に残していた串を取り出すと、香ばしい匂いがまた辺りに漂い、空腹ではないはずの俺の腹まで鳴ってしまう。

「……もう食えないと思ったのに、匂いだけで腹が減ってくるな」

「食べることは、生きることそのものだから。欲が出るのは悪いことじゃないわ」

セレスは淡々と答えるが、その声にはどこか優しい揺らぎがあった。


腹を満たし、川辺の空気に身を任せていると――ふとした瞬間、違和感が走った。川上の方角。水面に光が集まっているのが見えたのだ。最初は陽光の反射だと思った。けれど、波に逆らうように、淡い光の筋がゆるやかに下流へと流れてくる。


「……なんだ、あれ」

俺は思わず声を漏らした。セレスもすでに視線を向けている。表情は柔らかいが、瞳の奥には小さな緊張が宿っていた。


光は次第に近づき、やがて俺たちの目の前で留まった。水に浮かぶでもなく、沈むでもなく――ただ、そこに在る。まるで誰かが灯した小さな灯火が川を流れてきたかのように。


クロが「わん!」と吠えて駆け寄る。水を蹴って突っ込もうとした瞬間、不思議なことに光は彼を避けるようにすっと横に逸れた。犬が追いかけても決して触れられない距離を保ち、ただ静かに揺れている。


『……よかった……』


――確かにそう聞こえた。風とも、水のせせらぎとも違う。けれど声としか思えない響きが、胸の奥をやわらかく撫でた。


「今の……聞こえたか?」

俺が息を呑むと、セレスは目を細めて川面を見つめたまま小さく頷いた。

「……ええ。川はね、記憶を運ぶの。今日の声は“安堵の色”」


「記憶……」

昼間、畑で見つけた風石のことが脳裏をよぎる。あの時も同じだった。冷たい風と、胸の奥を震わせるような感覚。今日の光と声は、それと同じ――けれど、どこか温かさがあった。


子どもたちは光を見上げて「すごい!」「妖精だ!」と歓声をあげ、クロは必死に吠え続けている。俺は立ち尽くしたまま、その光景に目を奪われていた。


光はしばらくの間、俺たちの目の前で漂っていた。やがてふっと揺らぎ、水面のきらめきに溶けるように消えていった。残されたのは、ただ澄んだ川の流れだけ。


「……なんだったんだ、今の」

呟きは自分に向けた問いだった。胸の奥には、確かに声が残っている。懐かしいようで、知らない誰かの声。安堵と優しさを含んだ響きが、まだ消えずに胸を温めていた。


セレスは立ち上がり、川の流れを見渡した。

「風石や川の光……この土地には、時折“記憶”が顔を覗かせるの。怖がらなくていい。それもまた、暮らしと一緒に息づいているものだから」


彼女の言葉は、水音に混じって静かに響いた。

俺は深く息を吸い、胸のざわめきを川風に流すように吐き出す。冷たい空気が肺を満たし、次第に落ち着きを取り戻していった。


川辺では子どもたちの笑い声が続き、クロがその輪の中で跳ね回っている。ほんの少し前まで、不思議な光を見ていたことが夢のように思えるほど、日常の空気は穏やかだった。けれど、胸の奥では確かに残響が鳴っていた。


――「よかった」。

誰の記憶かも、誰の声かも分からない。だが、その一言だけで十分だった。暮らしの中に潜む小さな不思議は、俺の心を不思議なほど温めていた。


夜が訪れると、川辺のざわめきはすっかり消えていた。

昼間の笑い声が嘘のように、村の家々には明かりが点り、虫の声と遠い川のせせらぎだけが闇を満たしている。


暖炉に火をくべると、ぱちぱちと薪が弾け、部屋に赤い光が広がった。俺は椅子に腰を下ろし、今日の鮎やハーブパンで満たされた腹をさすりながら、深く息をついた。


「……よく食べたな、今日は」

「ふふ。働いたぶんだけね」


台所に立つセレスは、洗い物をしながら小さく微笑んでいた。銀の髪が月明かりを受けて柔らかく光り、琥珀の瞳には薪の炎が映っている。その横顔は、どこか遠いものを見ているようにも見えた。


クロはすでに床で丸くなり、夢の中で子どもたちと走り回っているのか、時折足をぴくぴくさせて「わん」と寝言をもらしている。その無邪気な寝息に、今日の賑やかな川辺の記憶が甦った。


けれど――俺の胸の奥には、まだあの光の残響が残っている。

『……よかった……』

確かに聞こえた声。懐かしいような、知らないような、不思議な安らぎ。


「なぁ、セレス」

声をかけると、彼女は手を止めてこちらを振り返った。

「……あの光、やっぱり“記憶”なのか?」


短い沈黙のあと、セレスは静かに頷いた。

「ええ。この土地には、人々が過ごしてきた日々の断片が残るの。笑いも涙も、喜びも別れも……全部が風や水に溶け込んで、ときどき姿を見せるのよ」


「じゃあ、あの声は……」

「きっと誰かの安堵。過去の誰かが心の底から“よかった”と思った瞬間。それが残って、今日わたしたちの前に現れたのでしょう」


その声は穏やかだったが、瞳の奥にはわずかな翳りがあった。千年という歳月を生きてきた彼女は、きっと幾度もそうした“記憶”を見てきたのだろう。


俺は暖炉の炎を見つめながら、小さく息を吐いた。

「……不思議なもんだな。怖い感じじゃなかった。ただ……心が温かくなった」

「それでいいのよ。記憶は脅かすものじゃない。暮らしと同じように、流れて、残って、また消えていくものだから」


セレスはそう言って椅子に腰を下ろした。ローブの裾が揺れ、炎の赤に染まる。

「ライル」

「ん?」

「あなたが今日、“怖くなかった”って言ったのが、私は嬉しいわ」

「……え?」

「千年前の人たちはね、こうした出来事を“魔女の仕業”だと恐れていたの。だから私はずっと、“記憶”を隠して生きてきた。でも、今は違う。あなたと一緒なら、怖がらなくていいと思える」


その言葉に、胸の奥が強く打った。

「……俺は、何もできてないけどな」

「そんなことない。今日みたいに一緒に見て、一緒に感じてくれるだけで十分なの」


セレスの瞳は薪の炎を映して、どこか潤んでいるように見えた。

俺は言葉を探したが、結局「……そうか」としか言えなかった。けれどその短い言葉でも、彼女は小さく頷いて微笑んだ。


外から吹き込む風がカーテンを揺らし、ひんやりとした空気が流れ込む。だが、それは昼間のような不穏さを帯びた風ではなく、ただ一日の終わりを告げる穏やかな夜風だった。


――こうして暮らしは続く。畑を耕し、ご飯を食べて、眠る。

その当たり前の繰り返しが、不思議な出来事さえも優しく包み込んでいく。


俺は毛布を肩まで引き上げ、深い眠りに身を委ねた。


深夜。

ふとした気配に、俺は目を覚ました。


窓の外から、淡い光が差し込んでいる。

寝台の上で身を起こし、耳を澄ます。虫の声は絶え間なく響き、クロの寝息も規則正しい。ただ――その光だけが、不自然なほど静かに揺れていた。


そっと窓辺に歩み寄る。

森の縁には、ひとすじの光の帯が浮かんでいた。

月明かりをまとった霧のように、淡く漂い、川の方へ流れていく。


「……またか」

小さく呟いた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。昼間に見た風石の記憶が、再び胸の奥でざわめきを起こす。


そのとき――。

『……ありがとう……』

確かにそう聞こえた。男か女かも分からない、けれど胸を撫でるような声。川のせせらぎに混じって、やさしく消えていく。


「……誰だ?」

問いかけても、返事はない。ただ光はふっと揺らぎ、川面に映り、やがて森の奥へと溶け込んでいった。


背後で布の擦れる音がした。振り返ると、セレスがローブを羽織って立っていた。

「目が覚めたのね」

「……今の、聞こえたか?」

彼女は少しだけ首を傾げ、微笑んだ。

「……風や水が歌うときもあるの。この村では、昔からのことよ」


それ以上は語らない。けれど、彼女の瞳の奥にわずかな翳りがよぎったのを俺は見逃さなかった。


クロが寝返りを打ち、小さく「わん」と寝言をもらす。その無邪気な声に、不思議な緊張がやわらいでいく。


――森と川には、まだ語られぬ記憶が眠っている。

けれど、俺たちの暮らしは揺るがない。


そう思いながら、俺は再び眠りへと沈んでいった。

今回は「夏空と畑に吹く風」というお話でした。

鮎の塩焼きや畑での作業を通じて、夏らしい空気を描けたと思います。

食べ物の美味しさと、風や光といった自然の気配が重なって、暮らしが少し特別に見える。そんな雰囲気を感じてもらえたら嬉しいです。


次回もまた、食や畑を中心にした穏やかな日常をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ