仔猫の尻尾の生える頃
活動報告で書きますと言った、ほのぼのエッセイです。
近所の小さな公園に、仔猫の尻尾が生えています。
もちろん比喩です。仔猫の尻尾のような穂をした植物のことです。この季節になると生えてきます。
公園が作られたときは無かったのですが、ある年、公園から道を挟んで向かいの空き地に一面に広がり、そのあと公園にも生えてくるようになりました。
マサ土で固められたグラウンドのような公園のすみっこ、ヨモギとカラスノエンドウが主体だった草地は、数年のうちに仔猫の尻尾を持つ植物が主役に入れ替わりました。
かすかに紫がかった銀色の穂、それが一面に広がる様子は、なかなかに綺麗です。そしてなにより、ほにゃほにゃとした独特の尻尾の手触り。ぱっと見はイネ科っぽいけれど、面白い見た目、どこかの庭から逃げ出してきた園芸用の外来種かな? よく広がるなあ。
とまあ、そんなことを思いながら過ごしていた数年前のある日、祖母と近所に散歩に出かけ、この植物をみて、祖母はぽつり。
「子供の頃に食べたことがある」
え、ばーちゃん、この草食ったことあるんですか!?
外来種ではなさそうです。ここで文明の利器、スマートフォンの画像検索。
ここで初めて、この仔猫の尻尾が、「チガヤ|(茅)」という、日本の在来種だと知るのです。
ネットで調べると、糖を蓄える性質があって、食べると、かすかに甘いとのこと(よい子はマネしないでね。似た毒草があるかもしれないので)。また、深いところに地下茎を張り巡らせるので、その生態を利用して、堤防や道路の法面の土が雨で削られるのを防ぐために使う研究もされているようです。
まあ、街中のチガヤを食べることはおすすめしません。いろいろかかっているかもしれないので。排気ガスとか、猫のオ〇ッコとか。
と、毎年恒例になった、このほにゃほにゃした銀色の尻尾、育ってくると、ある日いきなり、ふわっ、と綿のように広がります。そう、このチガヤは、タンポポのように、綿毛を使って、風でタネを飛ばすのです。イネ科なのに、イネ科なのに。
今日も風が吹き、チガヤの綿毛を飛ばしていきます。梅雨の中休み、ふわふわと綿毛が飛んでいく様子は、ほのぼのします。
と、ここまでかわいらしく書いてきたチガヤですが、河川敷などから摘んできて、ふーっと息で飛ばしたりしてはいけません。あっという間に広がります。下手すればご近所中チガヤだらけになります。もともと生息していた地域以外では強烈な外来種で、世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれているそうで。
確かに、風で綿毛のついたタネを飛ばして広がって、芽吹いた土地では地下茎を張り巡らせて根付く。一度土地に侵入したら、根絶はほぼ不可能。ワースト100に選ばれるのも分かります。
とまあ、そんな、可愛くもあり、こわくもあるチガヤ。いろいろみてきましたが、チガヤのことは、ふわふわと綿毛を飛ばす風に任せて、のんびり見守りましょう。
今年も綿毛が飛んで洗濯物にくっつくなあ。夏が近いけれど、今年も暑くなるかなあ。なんてことを考えつつ、エッセイを書く海月でした。
おしまい。
このエッセイ、チガヤの穂が出る前から考えていました。けれど、書こう書こうと思ううちに、チガヤはすくすくと育ち、綿毛を飛ばす時期になってしまいました。うーん、後回し癖がひどいですね。散り終わる前には間に合ったので、滑り込みセーフ、ということで。またよろしくお願いいたします。