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戦利品

 話には聞いていたけど、盗賊って本当にいるんだな。

 あたしは初めてそんなのに会ったんだ。


 あー、タケオが、お爺ちゃんのタケオだけど、攫った奴らが居たっけ。

 あれも盗賊みたいなもんかなあ?


 王国では賊の賞金は全額貰えるけど、盗賊が奪って溜め込んだ物は、取り返した者に半分の権利があるんだ。

 簡単な査定があって、競売なんかでお金に換える。現金の方はそっくりの半分が貰える。


 だからメグと相談して案内を一人もらった。

 あの商人も護衛に被害が出てたから賊の5人は譲った。


 だってさ、宝探しみたいでワクワクするじゃないか、こっちの方が楽しみだよ。


 案内役は初戦であたしが蹴り飛ばして気絶してた奴。

 なんとなく流れでコイツになった。


 スマホで見るとここらの魔物はすぐにわかるけど、盗賊ってどんなふうに出るのか見たことないし。


 木立の間の踏み分け道を男を先に立てて進んで行った。

 後ろからメグとタケオ少年が付いて来る。

 それが、急に視界が開けて岩場になった。


 岩山に崖も見えてる。

 そこで案内が小枝を踏み折る。

 仲間に知らせようっての?


 それが聞こえるとこには居ないよ。

 バカだね、もう少し先さ。

 もう大体の居場所は見えているよ。


 石突きで殴って、意識を飛ばすと、ロープを少し高い枝に括る。

 後ろ手じゃここまで届かないからね、逃げられやしない。


 さて見張りの位置は分かった。

 スマホにあと2人、そいつらは離れていて、白い点がなんなのか3つ、か。


 メグにスマホを放って、あたしは見張りを倒しに行く。


 しっかし、上手く岩盤が倒れたもんだ。屋根をかけたみたいじゃないか。


 上から見えた岩陰を回ってそっと顔を出して……

 あら。

 目が合っちゃった!


「うおっ!

 どっから来やがった、てめえ!」


 背を向け奥に走り出そうとするから、あたしは槍を投げた。

 槍はざっくり刺さって男は倒れた。


 痙攣する男から槍を引き抜く。

 血がドバッとばかりに溢れた。

 心臓はもう止まっていたようで、血の海までにはならない。


 魔物の解体じゃ、心臓が動いてると身体中の血が吹き出すからね。

 それと比べれば綺麗な物だし。

 悪党は死んでも仕方ない。あとで埋めてやるんだし。


 それよりまだ2人居る。


 あたしは震える脚に力を入れて岩盤屋根の下へ進む。

 後ろからメグの魔石灯が追い越していって先を照らしてくれた。


 今のあいつの声は大きかった。

 きっと奥の2人は襲撃に気付いている。


 案の定通路の途中で待ち伏せしてた。

 そんなのこっちはお見通しだよ。


 あっさり穂先にかけてやった。


 もう一人が気になることを言って奥へ逃げた。


「くそッ、こうなったら……」


 こうなったら何するんだろ?

 あたしは後を追う。


 ばっと広い場所に出ると、男が何か金色をあたしに向け掲げた。


「闇の魔法石?

 何する(きい)や?」


 なんか物騒な物なのか?

 用心にメグの射線を開けとこう。


 横にずれると男が持つ金ピカが目潰しみたいに光った。

 でもあたしはメグと組んでそれなりに長い。雷魔法の閃光に咄嗟に対応するなんてことはよくあるんだ。


 今回も腕で目をかばって、小さな斑点が目の前に浮くくらいで済んだ。

 でかい毛皮頭に槍を突き込む。

 うわ、こいつ長い爪を振ってきたよ、あっぶね!


 飛び退きざま振り上げた槍を着地の足が地面につくと同時に叩き下ろす。

 毛皮頭が避けて肩口に当たって、ガキンと硬い音がした。


 そこへメグのリカバーが飛んで来て、目が戻る。胴が鱗で覆われてるのがわかった。


 なんだよこいつ?


 爪をかわすと体を振るように、鱗で前に戦ったファットリザードを思い出した。

 あの時はこんな動きで尻尾がって、本当に来るんだ!

 しかも何あの嘴!あたしをつつきに来てるじゃないか!

 

「キメラらしいで。

 召喚の魔道具やったんか」ボソッとメグの声が届く。


 メグが氷弾を宙に幾つも浮かべて待つ態勢。

 なら柔らかそうな頭があっちを向けばいい?


 キメラとやらの攻撃を弾いて穂先を突き込み、爪を躱わす。

 毛皮頭のよだれがこっちに飛んでくるのが鬱陶しい!


 キメラが足を踏み換え体を回そうとした時、ついに氷弾が頭に目掛けて叩きつけられた。


 思ったより硬いみたいで、壊れた氷が弾け飛ぶ。

 何発か喰らうと、氷の粒が周囲に舞って姿が見えなくなった。

 そんな中メグの氷弾は雨霰と飛び込んでいく。


 動きが鈍くなってる。

 そう感じたあたしは槍を構えてじっと機会を待った。


 氷弾は今のところ効いている。キメラはかなり混乱している様子だ。

 喉元が無防備になる瞬間は何度かあった。

 あれに穂先を突き込めれば。


 む。来るか?

 頭がのけぞり、腕が下ろされ……

 今だ!


 ギュワワアアァァー!!

 キメラの絶叫。


 入った!もうひと押し!

 穂先がさらに深く食い込む。

 ビクンと痙攣のような動きが柄を通し手に伝わる。


 白いモヤが透明な水滴に変わり地面を濡らすと視界の端にメグとタケオの無事な姿があった。


 右手に賊の残りが後退りする。

 あたしは黒い石になってしまったキメラを拾うと、男に槍を向けた。

 横をメグがスタスタと奥に向かった。

 タケオが後を追う。


 おいおい、あたしを置いていくな。


 魔道具の金ピカが賊の手から消えているのを確認して、石突きで意識を刈る。

 武器を取り上げ、見るとメグは奥の板壁に行った。


 じゃああたしはこっちだ。

 鎧の隠しから滅多に使わない魔石灯を引っ張り出し、右奥を照らす。


 地面に布や毛皮を広げて、ここで雑魚寝してたらしいな。

 その奥、宿屋にありそうな寝台があってその右側は…


 木箱が積み上がってるね。


 近寄ると20ほども3段に積んである。

 蓋を寄せると穀物の袋か。

 中は小麦、こっちは豆だな。

 ええと、食器の詰まったものがある。

 一番上の箱だけだが、商人の積荷だなこれは。


 魔石灯を上に上げてぐるっと見回すと、寝台の影に何かある。


 片手で寝台をずらすと…袋?

 衣類っぽいけど……

 女物の下着?

 うえっ!気持ち悪!


 その横、寝台の真下になる位置の木箱、こっちは何だ?

 また変なものが出て来るんじゃないだろな。


 蓋をずらそうとして指が箱の縁にかかる。

 軋んだ感じはしたが、動こうとしないのはやたら重いのか、床に固定されてるのか。


 何だコリャ?


 蓋は簡単に外れた。ただの木箱の木の蓋。

 灯をかざし中を見ると、金キラの首飾り、その下に指輪、金貨銀貨。

 金目のものってのだね。


 あいつらに収穫品を教えてやろう。


 見るとタケオと目が合った。


 おいでと手を振ると子犬みたいに飛んでくる。


 金貨入りの木箱で目を丸くしている。


 あたしは積み上がった木箱を寝台の上や手前に並べてやると、中をタケオが覗き込んで、干し肉!とか、お酒!とか言ってくれるのがね。


「これ、どうするの?」


「全部運び出すよ」

 当然でしょ?戦利品ってやつ。

 半分はあたし達のもの。


「え!どうやって?」


「うーん?

 そりゃイブちゃんを呼ばないとね」


「いやいや!

 道なんかないし!

 どうやってここまで……」

 そこまで言って口を開けたまま固まる。


 ふふふ。気が付いたかね、タケオ少年。


「クレア!

 イブちゃんとこ、戻ろやないかい!」


 お?あっちは終わったか?


「はいよー」


 メグが3人の人質を連れて来た。

 汚れた身なりの女の人だ。

 歩けないのか一人は水魔法の椅子に乗って浮いている。


 あたしは倒れたままの賊の腰ベルトを持つと、そのまま歩き出す。

 頭は地面から浮いてるし構わないだろう。

 曲がり角の死体にはちょっと警戒してしまった。

 横へ足で蹴り転がして、動かないのを確認してしまった。


 だって、アンデッドとか嫌じゃないか。


 おっと、もう一人いたよ。

 見張りもかあ。


 これも転がして通路から避ける。


 うん、動かないな?

 もうしばらくなら大丈夫そう。


 あたしは魔石灯をタケオに預けてそのまま坂を登る。


 案内の男は諦めたように座り込んでいた。

 あたしが引きずって来たやつを傍に放って、ロープの縛りを変えてやる。

 

「ほら、こいつを担ぎな」


 ノロノロ起き上がる案内役の背に、意識のない魔道具使いを乗せてやる。

 その尻を蹴飛ばすようにしてイブちゃんの前まで戻った。


「さあて。

 あそこまで道作るんやけど、飯時やな。

 買うて来たお弁当食べようやないか」


「お湯沸かそう。スープがあったまるよ」


 人質の女3人にもスープと、有り合わせになっちゃうけどパンがゆを作って食べさせた。

 固形物は飢餓状態じゃ危ないって聞いてるからね。

 そのあとは後席に並べ座らせて休ませた。

 どこかで体を洗わないと凄い臭いだけど、今は仕方ないかな。


 物欲しそうに見ている案内役だけど、こんなのに食わせるものなんてないよ?


 まったり食休みが終わる頃には魔道具使いも目を覚ましたようだ。

 荷台に上げて厳重に縛り上げる。


 イブちゃんを右に寄せて、いつものようにメグが上へ。

 岩場は割と近い。

 3回もリペアをやれば余裕だろう。


 魔石はタップリあるしね!


 岩場の崖が見えたと言って、歩いた経路はすっ飛ばして道が延びてく。

 2回目には窪地まで到達してしまった。


「上から見るとこの岩の屋根、なかなかやで。

 ちょっと崖の上まで登る道こさえたってええやろか?」


 メグがそんな事を言い出すので、タケオも誘ってクレーンで登ってみた。


 崖は20メルキくらいかなあ、そんなに高く無いんだけど、結構景色がいい。


 こんな寒い時期でなけりゃ、のんびり楽しめるんだろうけど。


 どっちみちイブちゃんがUターンする場所が要るんだよね、それに、

「なあ、あそこに霞んで見えるんは町やない?」

 なんてメグが言い出した。


 行ってみたくなるよね?


 岩場をこのまま奥へ行って大回りに山を登る。

 木が茂ってるので、材木運びは結構ありそうだけど。

 崖の上をちょいと均して、手摺なんか回したらなかなか良さそうだよね!


 ここから見える街までは、リペア5回でどうだろって距離だよ。

 結構近いんじゃない?


「ねえ、お宝回収って言ってなかった?」


 あたしはタケオの声でハッと我に返った。それはメグもだった。


「あー、せやったなあ。

 でもや、崖の上までの一回だけや。

 そこまでやったら積むよって、やらしたってえな!」


 メグはそれでも抵抗するか。

 あたしと違ってリペア中毒だな。


 タケオと2人で、2点吊りに下へ降りる。

 何故ってメグのリペアに合わせて、魔石の供給をしてやらないといけないんだ。


 降りてしまうと上までの大カーブが、出来上がるところが見られないのが酷く残念だった。

 ザクザクと7、8個の魔石がイブちゃんに食われ、メグが勝ち誇ったような顔で降りて来る。


 崖の上まで行ったら、クレーンで上から見てやるんだとあたしは心に決めた。

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