表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/130

エンスローでお買物

 思ってもいない地竜と出会って、3体も倒しちゃった。

 ほとんどメグとイブちゃんのおかげでも、僕の出番なんて欠片もなかった。


 そしてほとんど満載に近い荷馬車を曳いて、エンスローに戻る事になった。


 なんせエンスローを出て2時間ほど進んだだけなのだ。

 平らに直した道を戻るのに10分もかからない。


 でもさ、こんな近くで地竜なんて大物に遭うとは思わないじゃ無いか。


「弱っちいのがリペアで蜘蛛の子散らすみたいに逃げ出すんや。

 このくらいの魔物になると、それがよっぽど目障りなんやないか?

 足が遅いさかい、たまたま近くに居ったんは間違いない思う」


 メグの言う事はその通りかとも思う。



 スイフナール商会に戻ると通りに馬車の姿はなかった。


 でも倉庫の中は荷の積み替えで大勢が忙しそうに働いている。

 イブちゃんを駐車場に停めて、3人で2階へ行くと待合でサパスさんが出迎えてくれた。


 アズスイフお婆さんは会合があるとかで留守だった。

 地竜の素材は引き受けてくれると言う。


 駐車場で地竜素材を見てサパスさんが肩をすくめる。

「ヤナギトレントをオークションの出品に出したばかりですのに、今度は地竜3体ですか。

 全くとんでもないですなあ」


「ウチらにはイブちゃんがおるさかい。

 防御は完璧なんや。

 ウチはぶっ放すだけやよって楽なもんやで?」


 あ。あんなこと言ってる。

 そんな訳ないじゃないか。

 前衛にクレアを立てて時間稼ぎや、水カーテンで牽制したり、メグが後ろからいろんなことをしてるのを僕は知ってるよ?


 今回の地竜だって……

 僕、邪魔になっただけ。役に立ってないなあ……


「タケオ?

 なんか黄昏てる?」

 クレアの声にメグが僕の顔を覗き込んだ。

 広い帽子の鍔がおでこに当たる。


 フンと鼻息を一つ。


「なあサパスはん。()っさいんでええんやけど、あの皮でタケオの鎧作ってんか?

 あー。ついでにクレアのもなんとかなるやろか?」

 なんて言い出した。



 それで防具工房で採寸に行く事になってしまった。

 革はメグの魔法で完璧な下処理がされているが、獣と竜では元が硬い分、軟化処理ってのが別に要るらしい。


 それで今回は採寸だけ。出来上がりには一月かかるって。


 代金は地竜素材をオークションに出すので、スイフナール商会預かりにして後で差額を精算するんだと。


 このところ団扇ばかり作ってるクレアは、宝石を見たいと言い出した。

 メグも魔導書を見たいと言うんで、3人でエンスローの街をぶらぶら歩く。


 この頃魔石狩りで魔物をたくさん狩って、魔石は道の補修でほとんど右から左で、使ってしまうけれど。


 集まるのは魔石だけじゃなくて、革や肉、後は爪や牙、ツノなんてのも集まっちゃう。

 地竜なんて骨までオークションだから、売ると結構な金額になるんだ。


 特に今回はトレントに地竜だもんなあ。



 クレアは青い宝石を集めてるらしい。

 お金に余裕ができたら急に気になり出したって言ってる。


 宿代や食事代で結構使ってるようだけど、あ、クレアは酒代もすごいか、商業ギルドの税金が心配だなんて言ってた。

 宝石はなんか魔法石と一緒の扱いらしくて、税金対策になるらしいんだ。


 で、メグの魔導書もそう。

 本ってすごく高いんだよ、僕、びっくりしちゃった。


 でも討伐にはいろんな魔法が有効だって言うんで、その分は引いていいらしい。


「何言うとるん。

 タケオの槍やら鎧だって経費なんや。

 ええもん揃えてしっかり稼ごやないか!」


 まず見つけたのは魔法石のお店。


「あれがそうじゃない?

 クレセント魔法石!

 青い宝石、あるかなー?」


 クレアの気分が上がったのか歩調が速くなる。


「こんにちはー」


 物が小さな石だけに店内はそう広くもない。

 盗難対策もあるんだろうけど、陳列されてるのは小粒の見本ばかりだ。


 砂つぶより小さい見本の石を、拡大の魔道具で大きく見せている。


 種類は50程、棒の上に並んだ小粒の標本を、拡大位置にずらす事で大きく見られるようになっていた。


 メグが先日、槍の柄に混ぜた強化石もそこにはあった。

 僕が見たことあるのはそれしかないんだけどね。


「ほうほう!なかなかの品揃えやないか!」


 メグが熱心にその標本を見る間に、店主に宝石はあるかとクレアが聞く。


「ございますが、専門店ではないので数はありませんよ」

 なんて言ってたけど、薄い陳列箱が5箱も台の上に置かれた。

 1枚の箱には3、40の宝石が入っていて、こちらも魔道具で拡大して見せてくれる。


 最初の箱は赤系統の宝石で、クレアは

「青はないの?」と聞いた。


「青でございますか。

 こちらの箱がそうです。

 どうぞご覧ください」


 一言で青と言ってもいろんな青があるんだなあ!

 透き通った薄い青、向こうが見えないくらい濃い青。

 魔石灯の光を青い花が咲いたみたいに広げて見せる石。

 全く透明ではない青い石も濃いの薄いの、黄色や赤の縞模様とか、本当に色々だ。


 クレアが指したのは透き通った濃い目の青。

 光を受けて十字に白い光を返してくる。

 店主は「クレッセンですね」と言って、棚から小箱を取り出して開く。


 あの箱も見本だったみたいだね。


 小箱には11個の石が入っていた。

 形も大きさも様々なクレッセンと呼ばれた宝石が、魔石灯の光をキラキラと跳ね返す。


「うわあ!

 大きいのは高いんでしょ?

 この大きさのはいくら?」


 クレアが中くらいの薄いまん丸な石を指す。


「そちらですと、15万ギルですね。

 大きさもそうですが、こちらは形が整っておりますので、どうしても値が張ります」


「ほう?ええ石やないかい。

 けど、薄い分十字模様が少うし、歪んで見えるんやないか?

 こっちはどないや?」

 メグが指すのは3つ離れた別の石。

 大きさは少し小さくなるけど、丸みがきれいで厚みもある。


「そちらは14万ギルでいかがでしょう」


「ほ!ええ値段やなあ!

 ウチは風魔法のセス石が欲しいんや。

 見せてんか?」


「はあ。

 セス石でございますか?

 少々お待ちを」


 宝石とは棚も箱も違うようで、さっきの見本の箱の倍もある大きな箱を、店主は選び出し台の上に広げる。


 そこにも大小様々な、白にピンクの点々が散った模様の石が並ぶ。

 数は6、70個もあるだろうか、そこからはふわっと、何かあったかい感覚が漂ってくるみたいだ。


「お。ええやないか。

 どれどれ?

 うーん、これはどないや?

 あ。こっちもええなあ。

 二つでなんぼや?」


「ええと。

 ……16万ギルですね」


「やっぱり宝石は高こ付くなあ。

 2つで16万て。

 それでな?

 両方買うさかい、勉強したってんか?

 そやなあ、合わせて20万ギルでどないや」


 うわ!いきなり10万も値切るの?


「ご冗談を。

 それでは店が潰れてしまいます。

 28万ギルで勘弁頂けませんか?」


「しっかり者の店主殿は手強いなあ。

 それやったら、水の魔法石、見せてんか?

 ここやったらとっときのがありそうやん」


「水の魔法石でございますか?

 はい。少々お待ちを」


 店主さんが急な話の展開に目を白黒させて、後ろの棚を振り向いた。


 同じくらい大きな箱を風の魔法石の箱に重ねて置く。

 こっちも結構ぎっしりと石が詰まっている。


 その中でとびきり大きな石をメグが指す。


「これ、ええなあ!

 50万ギルでどうや!」


「あ。ええと……」

 店主さんはちょっと口籠もる。

 何か計算をしてるんだろな。


「そうですね、それなら……」


「よっしゃ!

 なら全部買うさかい70万ギルでええな?

 払いはスイフナール商会の振り出し小切手でもええか?

 現金が足らんねん」


 バタバタと畳み掛けるメグに、店主は口を挟む間もなかった。

 スイフナールの名が出て、ポカンと口を開ける。

 ともかくも商談は成立した。


 外へ出て、

「あれで安くできたの?」と僕。


「ぼちぼちやな。

 宝石は分からへんけど、魔法石やったら2割くらい残っとるはずや」


「ふうん。

 急に水の石なんて言い出すからびっくりしちゃったよ」


「ああ、あれなー。

 宝石見よった時にな、呼ばれたんや。

 タケオかて風の石でなんや感じへんかったか?」


「うん。なんか、ほわっとあったかい感じがした!」


「せやろ。

 ウチな、杖、新調しよ思てずっと探しとったんや。

 まあ、(ゼゼ)も無かったよってなかなかやったんやけどな」


「お金が入ったからって訳?」


「せやなあ。

 後は台木なんやけど、どないしよか考えんとあかん」


「メグ、青い宝石はまた預かっといて」


「ええけど、クレアにもこれ、手に入れたらんとあかんなあ」


 メグが指すのは背中のバッグ。

 ケープで隠れているけど、ペラッペラだけどたくさん物が入る魔道具だ。


「そんなの簡単に手に入るの?」


「簡単て事はないなあ。

 お婆はん(師匠)に言うたらなんとかなる、思うんやけど」


「メグの師匠ってサナエさんだっけ?

 居場所は分かるの?」


(いぬ)いとらんやったらあそこや。

 トーヤマ村。タイラルクよりずっと北の村や。

 そっから山に入ったてっぺん均しよって、大っきな屋敷があるんや。

 きっとそこに()る」


「ふうん。東海岸方面かあ。

 オークション騒ぎが終わったら行ってみる?

 メグの里帰り!」


「どうやろなあ、修行が足らん言うて、追い返されるんやないやろか」


「そうなの?

 あ、ネスルトット書房だって。

 本屋さん!」


 最初は物珍しくて、店内の大きな書棚を眺めていた僕とクレアだったけど、30分で飽きた。

 どの本も厚みはそんなでもない。


 でも字が全く読めない。

 漢字だって教わってない字なんて読めないのに、ミミズと6本足の虫が行だけ揃えて、這い回った跡みたいなのが読めるわけがない。


 クレアも薬草の本を何冊か見つけて、眺めていたけど

「お屋敷にあった本の方が詳しいわ」

 って棚へ戻していた。


 メグが終わったらスマホに連絡を入れると言うので、クレアと二人で街をぶらぶら。


 屋台の味見はたくさんできたし、いろんな物が見られて楽しかったよ。


「メグちゃーん!

 もう夕方だよ?宿に行くよー、出ておいでー!」


 本屋の前で待つこと10分、1冊の魔導書を大事そうに抱えてメグが出て来た。


「呼ばれんやったら、もう5千ギル値切れたんに、惜しいことしたで」


 もう一声が5千ギルって、一体何万ギルの本だったのか聞くのも怖いよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ