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南街道を北上

「走り初めは取られちゃったけど、道は出来たし。

 午後は、タケオの風の教本読んだげようか?」


「久々にええ商いやったで。

 せやなあ、ウチは奥のトレント何本か狩りに行って来るで。

 街に戻るんに手ぶらはないさかい」


「気を付けて狩ってね?」


「誰に言うとるん。

 タケオに心配される程ドジやないで」


 そうかなあ?と思って見送る僕、横で手を振るクレア。


「あたしは土だったからね。風の教本は初めて見るよ。

 えーとなになに?

 風を感じるべし、集めるべし、かあ。

 土もこんな感じだったよ。

 硬さと柔らかさを感じろとか書いてあってさ。

 階梯が上がるまで教本抱えてそればっかでさ。

 あ。教本って覚えるまで肌身離さずだからね?

 終いにはボロボロになっちゃうよ?

 あ。ごめんごめん、続き読むね。

 初級魔法は涼風、圧気、気弾、風装を覚えるんだって。

 階梯あげたら覚えられるって書いてあるね」


「風を感じろって団扇で煽ぐとか?」


「ウチワって?」


「あれ?竹の骨に紙を貼ったやつ、お店の宣伝でたまに配ってたよ?

 知らない?」


「ふうん?

 どんな形?」


 団扇が通じないので地面に、竹を細かく割いて広げた形を描いて説明する。

 扇子ってのも見た事はあるけど、あれは難しいから口をついて出たのが団扇で良かった。


「へえ。柄のとこは棒まんまで細かく割いた分を広げちゃうんだ。

 そこに紙を貼るのか。

 面白そう!」


 辺りを見回したクレアが拾って来たのは、昨日、荷馬車の隅に立てた材木の剥片。


「これでいいや。

 やってみるね!」


 ナイフで薄く切って、片側だけ切れ目を入れて木目を割く……んじゃないの?

 ナイフとか出す様子もなく、木片を片手で持ってじっと見てるクレア。


「あたしもさあ。

 いっつも細かいとこはメグにお任せなんだけどさあ?

 たまには、こう!」


 木片からハラリと薄い切れ端が剥がれて落ちる。


 え?え?えええーーっ!


「そんでもって、こう!

 かな?」


 30cm程の細くて薄い木の板が、たくさんの切れ目が入ってふわりと広がる。

 まだ丸く広がるまで行かない、三角(おおぎ)の形だ。


「お!良いねいいねー。

 紙なんてここにはないからねー、木の細いとこ伸ばして広げて絡めてみようか………んーと、やっ!」


 手に持っていた出来かけがポタリと地面に落ちた。


「ありゃ!持つとこがなくなっちゃったよ、タケオ!」


 三角扇がまん丸に開いて、持ち手のところが切り込みみたいに、逆に引っ込んだ形になってる!

 なんでこんなまん丸の一枚板みたいになっちゃうの?

 あ。そうか!

 余分なとこを切り落としちゃえば団扇の形になるよ!


 僕は拾った出来かけに指で団扇の形をなぞって見せた。


「ほら、この外側を切り落としちゃって!」


「あー、なるほど。持つとこがちゃんとなるね!」


 そのあと、持ち手と扇の中心が少し厚い気がしたので削ってもらって、やっと団扇の出来上がり。

 細工道具も紙も糊も無しに団扇ができてしまった。


 なんでか冬も近いのに、冷たい風を煽いで受ける僕の横で、すっかりノリノリのクレアが団扇の量産を始める。


 僕はできた団扇で風を受けながら、思い出して骨の形とか結構違ってるななんて。ちゃんと使えてるし、面倒なことになりそうだから言わないけどね。


 ちょっと寒くなって、5枚目の団扇を得意気に掲げて見せるクレアに

「ねえ、風を集めるってのは?」と聞いた。


「あー、そんなこと書いてあったねえ。

 んーと……あ、そうだ!」


 イブちゃんのボンネット開けてゴソゴソ。


「これどうよ!

 でっかい袋!」


 出て来たのはカベヌリノカイやら、薬草を集める時に使ってる透明な袋。


 向こうにはこんな透明な袋なんて無かった。

 戦後15年だもんなあ、まだまだ物は足りてないって父さんが言ってたし。


 あれは割と丈夫な上に、ボンネット下から何枚でも出てくる。

 この間、無くならないのって聞いたら、魔石で補充してるって、また分かんない返事をされたんだ。


「ほら、こんな感じ!」


 広げた袋の口を体ごとくるっと回す。

 バフッとパンパンに膨らむ透明な袋。


 確かに風が集まった感じがするね。


 もらった袋をペタンコにしようとして、あちこち押しても袋の中を風が逃げ回る。

 お尻の方から畳むようにしてやっと追い出せた。

 なるほど動き回る風がよく分かる。


 クレアの真似をして袋を両手で引っ張りくるっと回る。

 袋はパタパタ揺れるだけ。

 これも風で揺れてるのが分かる。


 けどなんでバフッと膨らまないの?


「あはは!

 タケオ、お尻の方持っても膨らまないよ。

 口を持って広げてやんなきゃ!」


 広げるって、こうか?


 今度は上手くできた!

 そういえば先生が言ってたっけ。見えないけど周り中に空気ってのがあるんだって。

 風は空気の流れで、川の水が流れているみたいなものだって。

 でも川って片っぽにしか流れないんだよ?


 この袋に集まったのは空気なんだ。

 それが動くと風。


 袋にバフッと集めて、ペタンコにして。

 それを何度か繰り返す。

 結構動くから少し汗ばんでくる。


 クレアの作る団扇はいつの間にか山積みになってる。


 そこへメグが戻って来た。


「タケオ、やってるやんか。

 まあ、すぐのもんでもあらへんよってのんびりやったらええ。

 なんやクレア、何作っとるん?」


「団扇だよー。

 タケオに教えてもらったの。

 できると面白くって!」


「ウチワて何なん?

 けったいな形しとるやんか、うわ、ペラペラやな。

 これでどないするんや?」


「こう、パタパタ煽ぐんだよ。

 夏は涼しいと思うよ?」


「風を感じろって言うから、僕さっきから煽いでて寒くなっちゃったよ」


「はあ、それで袋持ってくるくる回りよったんか。

 しっかし、ようさん作りよったなあ、これどないするん?」


「売れないかなあ?

 結構いい出来でしょ?」


「売る言うたかて、ナンボの(ねえ)付けるつもりなん?

 こんなん、高こしたら売れへんで?」


「大きな商会に売り込んでね、店の名前とか商品の絵とか描いて配ってもらうとか?

 タケオがそう言うの、もらったことがあるんだって」


「はあ?タダで配りよるんか?

 そら、もろた方は喜ぶやろけど。

 配る方は堪らんで」


「エンスローのね、スイフナール商会に持ってってみようかなーなんてね。

 ところでトレントは居なかったの?」


「あー。

 おったでえ!

 3本倒したでえ!

 ここのよりか細い奴やったから、皆積めるんちゃうかな?」


 うわ。また荷馬車が山盛りになるのか。


「じゃあ、そばまで移動しよっか!」


 柱を四隅に立てて材木積みは昨日やったばかりだから、戸惑う事もなくてパタパタ進む。

 山積みのトレント材をロープでギュウギュウに締めて、今夜はシーサウストで泊まり。

 明日はクレアの話に出たエンスローまで、そのまま走ることになった。


 ヤナギトレントは珍しいから高く売れるんじゃ、とメグが期待している。


 確かに昨日ここで一山売ってるからね。他所まで行けば珍しくなるかも。


 クレアは後ろの席で団扇の作り溜めをしていた。

 トレントの端材を貨物スペースに一山積んで、エンスローまでには全部団扇にしてしまうんだとか、ホントにできるの?


 エンスローはちょっと遠くて、イブちゃんでも1日掛かりって言うから、クレアの内職時間はたっぷりある。


 シーサウストに着くまでの20分ほどで、岬で作った団扇の出来の悪いとこの修正や、表面を磨きなおしをクレアはしていた。


   ・   ・   ・


 この道は南街道って言うんだそう。

 ずっと北にある王都から南へ向かう主要な街道は2本あって、その両方がシーサウストへ向かっている。


 もう1本がヤイズル街道で、西側をテルクレフト山を回り込んで下る道。

 あっちの方が交通量は多いらしい。


 イブちゃんはトゥリー湖を左に見て、丘の斜面を駆け上がる。


 その丘の上には景色のいい広場があって、ちょっと寄って澄んだ空気を胸いっぱい、トゥリー湖に映るマダラ雲は圧巻の景色だった。


「ええ季節やなあ!

 ちょっと寒いくらいが、中が暑うならんで、ええ感じや」


 僕は変だなと思って聞き返した。


「中?暑くなんかないじゃない?」


「なあに言うとるん。イブちゃんの中は(ひい)さんが入りよるから、むっちゃ暑なるんや。

 今かてエアコン掛かってんのや。

 あれ、タケオ、知らんやってん?」


 エアコンってので中を冷やしたり、()っためたり。雨が降って湿気が多いと窓が曇るんで、湿気取りまでしてくれるのがエアコンだそうな。


 イブちゃんは優秀なんや!とか言ってメグがドヤ顔かますけど、別にメグの手柄じゃないだろに。


 しばらく走って左にヤマニ村。

 ここからグレンズールーへ行けるんだって。

 グレンズールーは覚えてる。

 テルクレフト山の麓、魔銀の採れる洞窟にある街だ。


 ここでもお茶休憩。

 クレアはずっと後ろで内職してるので、どっちかっていうとメグの休憩時間だね。


 この辺から道路はあんまり綺麗に補修されてない感じで、ガタガタ振動が多い。


 イブちゃんが走るスピードは、40の目盛りがせいぜいだ。

 そのせいかメグが面白くなさそうな顔で運転してる。


 そしてヨクレール。

 この辺りでは大き目の町だ。

 お昼はクレアが世話になったという看板のない宿屋。


 ナブラって女将さんが大歓待してくれた。

 メグは初対面だって言うけど、背中をバンバン叩かれて歓迎され、直ぐに仲良くなってたよ。


 出て来た料理はどれも美味しかったなあ。


 黒の森を右に見てサイダ村、そしてカイ村。

 ここの門を入ってすぐに、テーブルやベンチの並ぶ休憩広場があるんだって。


 門を潜ると通行料を取られると、クレアが言ったから、寄らずに街道で休憩した。


 ここでスライム狩りをして小粒魔石って言うのを、イブちゃんが大量に集めたんだって。


 それってどう言うことなんだろう?


 遠くからもよく見える城壁がエンスローの街だった。


 朝早くにシーサウストを発って、ほとんどメグが運転、休み休み来たとはいえ、もう日暮れが近い。


 南東門を潜る頃にはすっかり日が落ちてしまって、どうなるかと思ったら街の中はポツポツ立つ魔石灯で、そこそこ明るい。


 無事に宿に泊まれることになった。


 イブちゃんがあるから、野営でもいいけどちょっと狭い。

 この時期じゃ外でテント泊は寒いしね。

 やっぱりちゃんとした宿がいい。


 夜は案の定、クレアがお酒で腰が立たなくなるほどはしゃいで、部屋までが大変だった。

椎間板ヘルニア切除のため入院していましたが本日(2025\10\11土)の退院予定です

ご心配いただいた方ありがとうございます

この間に30篇ほど書いたものを引き続き毎日投稿の予定です

よろしくお願いします

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