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狩りは続く

本日4話目!

 黒の森で狩を続行中。

 突然の大物、ファットリザードの解体と、埋めるものは埋めた。


 カーナビで見回すと、この辺りにしては強力なファットリザードが現れたせいだろうか周りには獲物がいない。

 あまり奥へ行くとあんなのがまた出てくると厄介だとして、右へ折れて森の外縁と並行に進んでいる。


 もう1時間探索してるんだが、カーナビの索敵には反応がない。

 そろそろ早めの昼飯でもと考え始めた頃だった。


「後ろからなんか来るな。

 んー、5、6……まだ増える?

 もう先頭は見えてくると思う。

 10は超えたけどまだ来る」


「なんか鳥っぽいよ?

 黒い羽を纏って長い足で走ってる?

 首が長いんだ?」


 聞くとダチョウっぽいか?

 まだゾロゾロ来るぞ?


 お。こっちを視認したようで、先頭が止まった。

 群れが横に広がって行く。

 数えてないが30は居るかな。


 クエェーー!!


 5頭? 5羽? がこっちに向かって走り出す。

 残りは傍観か、予備軍か。

 クレアはタクシーにくっ付くように槍を構えた。

 防御結界を当てにして闘うようだ。


 5羽は取り囲むように散開した。

 そして一斉に嘴やら足の爪を振り翳し、タクシーに群がった。


 クレアが内の1羽の胴に槍を突き入れる。バババッとタクシーに振動が走って、鳥どもが空中に一斉に散った。


 いや、自力で飛んだのではない。

 首から落ちて動かないやつ、足から落ちて細い足をボッキリ折るやつ。

 クレアが突いた1羽を含め、周囲には立ち上がれる鳥は1羽もいない。


 一瞬の静寂があった。


 何となく後方に残っていた20数羽は逃げるものと思っていた。

 今のを見れば敵う相手ではないと分かる。


 ……はずが、後方に広がる鳥どもは狂ったようにタクシーへ、殺到せんと走り出した。


「え?来るの?

 無茶苦茶だー」


 クレアの呆れた声を他所に、群がり寄せる鳥ども。

 槍を構えるクレアも腰が引けている。

 かく言う俺も運転席からドア枠を握り締め、引き攣った顔で眺めるばかりだ。


 グングン大量の鳥どもが近づき視界を埋め尽くす、恐怖以外にない。

 余りの数に視界が暗くなったくらいだ。



 ドガガガガ、ズバババババッ。


 そんな異音が辺りに響いた。


 キツく瞑った目にまた光が差す。

 恐る恐る開けた目に飛び込んできたのは折り重なるように倒れた鳥たち。

 クレアの前の血を流す獲物は2羽に増えていた。




 数えるとバタドリ(鳥ども)は34羽も居た。

 名前はカーナビの吹き出しに書いてあったんだが、地元で呼ぶ名前と一致するかはわからない。

 と言うのもクレアの言うファットリザードは、カーナビではデブトカゲになっていたから。


 出て来た名前が「鳥ども」じゃなくてよかったよ、と俺は思った。



 クレアが土魔法で長い溝を掘って、羽毛のない首を切り落とし、溝へ血の流れ出る長い首を垂らす。

 それで粗方の血は流れ出るんだが、すっかり抜けるわけじゃない。


 俺はクレーンの4点吊りで4羽の足束を指定すると、そのまま逆さ吊りにするってのをやってみた。

 5分くらいで血の滴りが切れたので横に移動して下ろすと次へ。


 ポチポチと画面上で吊り上げる足を指定するだけ。

 向こう(現実)じゃタマカケと言って、ワイヤーやら紐やらで括らなきゃならないんだから、指一本でこれができるこちら(異世界)は楽なものだ。


 3回目を吊る辺りでクレアが首落としの一巡を終え解体に回る。


 そうやって流れ作業のようにバタドリを処理していると……


 カーナビがピーピーと警報を発した。

 血の匂いを嗅ぎつけたのだろう、オオカミの群れが2つ。


 それぞれ5頭と7頭の群れだ。

 運転席から俺が叫ぶ。


「クレア!狼の群れだ!

 5と7!」


「えー?今ぁ?

 めんどいー」


 クレアはそんな気だるげな声をあげるが、それでも解体の終わった分だけまとめ始める。

 俺は思いついてタクシーを鳥どもが並ぶ列に横付けに寄せた。

 助手側の防御結界が、ある程度獲物を守るかもしれない。


 こっちに動きがあるので狼の群れは警戒しているらしく、すぐには襲ってこない。


 俺にとってはどっちも狼だが、画面で見ているとどうやら種類が違うようだ。

 汚れた灰色のは前に見た。

 グレイウルフと言ったはず。


 もう一つは灰色に緑の縞模様が横に走る。遠目にも毛足が長いようだ。


「珍しいわね、グリーンラインウルフよ」


 なんか安直な名前だが、珍しいなら値段もいいかな?

 毛皮も上等そうだ。


 一方の狼どもは獲物を守る位置に立つクレアに狙いを付けたようだ。


 俺はカーナビに出しっぱなしのクレーン画面を見ていて一つ思いついた。


 俯瞰で見ている画面をちょいと縮小する。

 タクシーと取り囲んでいる2つの群れが画面の中に収まった。

 クレーンメニューから4点吊りを選択。ここまでは鳥の血抜きと一緒だ。


 クレアを狙うグレイウルフが動き出す。

 もう一つの群れは様子見だ。


 グリーンラインウルフだったか。

 この群は7頭。


 その中でも大きな個体は後ろ寄りにいる2頭だ。

 こいつらと先頭付近でチョロチョロしている2頭をチョイスして、指定の赤丸を付けてやった。


 一方のグレイウルフは、クレアに対して3頭が向かって来て威嚇を始めた。

 後の2頭は気を引いている間にバタドリを掠める算段らしい。

 ジリジリと迫るグレイウルフ。

 否が応にも高まる緊張。


 だがここで俺が動く。

 離れた場所で見守る別の群れの、中心らしい4頭をごぼう抜きに吊り上げる。


 図体がでかいのに突然のこと故、情けない悲鳴をあげた4頭のグリーンラインウルフ。

 驚き慌てる群れの3頭が、見上げて吠え立てる。


 ライバル視し、それとなくそちらの群れを窺っていたろうグレイウルフが、この騒ぎに動揺しないわけがない。

 これを逃さず注意の逸れた威嚇役にクレアが殴りかかる。


 槍は遠間から突くものと思われがちだが、振り回し殴る使い方なら、石突きも活用できてかなりの接近戦もこなせるのが槍と言う武器だ。

 長い柄で斜めに振り下ろされる金属製の穂先の斬撃は、重力が乗って刃筋が立っていれば刀剣を凌ぐ威力を発揮する。


 甲冑でも破壊可能なその一撃は、易々とグレイウルフの1頭を叩き伏せた。


 やや離れ並んでいるもう1頭が、その反動で振り上げる槍の勢いで跳ね飛ばされた。

 この間に獲物の鳥の死骸を掻っ攫おうと2頭が動く。


 クレアは冷静に威嚇役の3頭目に迫り槍先に掛けた。


 まずグレイウルフの群れは2頭を失い足を引き摺る1頭を連れ、鳥をそれぞれ1羽咥えて逃走した。

 鳥を2羽せしめた訳だが、あれはどう見ても被害の方が大きいだろう。


 一方のグリーンラインウルフはと言うと、中心となる大柄の2頭を含む4頭が宙吊りの憂き目だ。

 それを見上げて吠え立てる3頭の頭上を、俺はタクシーに寄せて行く。


 最初、それを追う動きを見せた3頭だが、グレイウルフの死骸と血を滴らせる槍を構えたクレアを見て退散した。


 俺はタクシーに近く、吊った狼の足が付かない辺りまで下ろす。後はクレアにお任せだ。


 吊られたままガウガウと威嚇する狼に、困惑顔でクレアが喉元目掛け、突きを入れ仕留めていった。


 結局、増えてしまった狼6頭の解体どころか荷積みまで昼飯が食えず、クレアの機嫌は悪い。


 肉だけでも4種類、400kgに迫る量で、加えて毛皮6枚、鱗の皮、羽根付きの皮が32。

 お初のルーフハンガーまで使っては、もう何か積む余地など無い。


 血の匂いに集まるなど、これ以上は勘弁と俺たちも撤収することになった。


 昼飯は草原まで戻って、車中でナブラ謹製の弁当を広げた。


「やっとお昼ご飯よ、長かったわー」


「大漁だったなあ。おかげでまた後ろは肉ばかりになったけど」


「いいじゃない。

 また洗うの手伝うからさ。

 それともタケオは手ぶらで帰りたかった?」


「そんなことはないがな。

 クレアはレベルも上がったしな。

 けど、オークといいあんな格上ばかりは勘弁してほしいな」


「それねー」


 森から無事抜け出せて獲物も大漁。

 口も軽くなろうと言うもの。

 俺も今日の稼ぎはちょっと期待してしまう。


「肉はナブラのとこに売るのか?」


「そうね。今日のは血抜きも出来たし、ギルドでもちゃんと値がつくと思うけど、オーク肉でお世話になったし。

 欲しいって言うだけ宿で下ろしましょ」


「分かった。

 宿経由ギルド行きだな。

 あ!そうだ。

 前を開けて魔石を見ておかないと」


「そうだったわね。

 バタドリの魔石ってそんな大きさはないから、溢れたりしないと思うけど」


 防御結界で倒した魔物の魔石は、タクシー(イブちゃん)の取り分として自動的にジュース缶くらいの容器に収まってしまう。

 溢れるとどうなるか心配なので、見ておいたほうがいいだろう。


 お弁当は俺が食べ切れず残した分を、クレアが美味そうに片付けていた。


 それを見てお茶を飲んだ俺は、降りて前へ回る。


 ボンネットを開け、MSと書かれた蓋は持ち上がっていて、蓋を開けると、上まで僅かに青を纏う魔石が溜まっていた。


 蓋を振動で無くしてしまいそうだし、こんなに燃料として必要ないだろうから、少し取り出して置こう。

 ゴミ袋の入った収納を開け、例のゴミハサミで親指の先ほどもある魔石を取り出して行く。

 ゴミ用のビニール袋に数えながら30個を取り出した。


 その前に入っていた小さな石はもう見えない。

 先に有ったグレイウルフの石2個も少し痩せたようだ。


「お前、めちゃめちゃ燃費いいなあ。

 しかも自分で稼ぐし」


 俺は石の入った袋を、ゴミハサミと一緒の収納に押し込んでボンネットを閉めた。

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