表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/129

替えの柄と風魔法

 ここはシーサウストから砂浜を半日ほどのシーニア岬です。


 岬へ登ってみたら向こう側にも海岸が見えて、その先にはメグの生まれた村があるらしい。

 予定には無かったんだけど、行ってみようってことになったんだ。


 でも道なんかないし、岩場の海岸線を左に見ながら、進む道を作って先へ行くんだよ。

 なんとか言う貝の魔石が400からあったけど、それも途中でなくなって、森に寄っていつもの魔石狩りを何度もして。

 トレントの木と氷詰めの貝を荷馬車に積んでたから、狩りは随分遠慮した感じになってたけど。


 岩だらけの浜も、海に浮かぶ漁師さんの小舟も初めて見た。

 オマケに大きな橋まで河に架けちゃって、あれは凄かったなあ。


 タイラルクって大きな街が北にあるそうだけど、リョウシマチっていう村……なんかややこしいけど、そここまで行って引き返して来たんだ。


 そもそも僕の槍を作るってことで、トレントを探しに来たんだから。


 トレントの幹は硬いばっかりで、丈夫な柄にはなるだろうけど、何か固いものなんかを殴るとパッカリ折れてしまうって、メグが言う。

 だからってこともないけど、先に売ってしまった。

 根はすごく柔らかい。

 戦った時に見た根なんて、タコの触手かって位に動き回ってた。

 死んだからあんなに柔らかくはないけど、根で作った柄はクレアが一瞬で使えないと言った。


 それは僕も少し振ってみて、フヨンフヨンした手応えで、こんなに違うんだって分かった。


 それで昨日から枝で柄を作っては試している。

 どんなもんかと僕も挑戦したけど、僕では技量が足りなくて試しにはならない。

「いろんな槍を振るのも経験のうち」とクレアに言われ、毎回振らせてもらってるけど。


 でも、クレアの試しはもうあれは試しじゃない。

 柄の強度を測ると言って全力で壊しに行ってる。

 地面が草地で柔らかいと言ったって、あんな勢いで叩きつけたら折れないわけがない。


「なかなか上手く行けへんなあ。

 どうやろか、明日は穂先の根本、いっつも折れるとこに、(ねえ)の材料巻いてみよ思うんや」


「あれは柔らかい感じだから、うまく馴染めばいいかもだね」


 なんて言うか、今日1日、作っては壊し作っては壊しを繰り返したのに、嫌にならないんだろうか?


 それを聞いたら

「何でや?使うんはタケオやで?

 ちょっとでもええもん持たせたいやろ?」

 なんて、真顔で聞き返されて何だか、ちょっと嬉しくなっちゃった。


   ・   ・   ・


 今日も朝から試作が続く。

 工夫をしたからと言って、すぐに結果が出るわけでもない。

 枝の材料の強度はもう上げられないから、根の巻き方を変えて何本もやってみる。


 縦方向に根の材料を束ねて、その上からさらに薄く、締め付けるように巻いてみた。


 穂先の手前だけ少し太くなったけど。


 クレアの叩き付けを5回も喰らって、当のクレアは膝に手を当て息を整える。

 これまで3回持った柄はないと言うのに、その柄は持ち堪えていた。


「いいんじゃないかな?」


「さよか。

 予備をなんぼか作っといた方がええやろなあ」


「そうだね。ヤナギトレントがそこらじゅうに居るわけじゃないから。

 でも邪魔にならない程度に?」


「5メルキ言うたら荷馬車から結構突き出るでえ?

 積む場所はどないしよ?」


 突き出たままだと何かの拍子に折ってしまうとか?

 いやあれは滅多に折れるものじゃないとは思うけど。


「せや。柄の途中やったらなんぼでも伸ばせるよって曲げてまえばええんや。

 任しとき」


 それから3本の替えの柄を作り、コの字に曲げてしまった。


 それを荷馬車に当てがうと、前半分に重ねて止めつける。

 角の丸い荷台にぴったりと沿う丸い管3本は、紐で留められて飾りのように見える。


「なあ?見栄えもええやろ?

 これでリペアにかけよったら、いつでも元通りや」


 あとは僕に合わせて柄の長さを調節するんだけど。

 このままの長さで僕も何度も振ったし、突きもやってみた。

 クレアの動きを何度も見せてもらって、もう少し練習すればうまく扱える気がする。


 クレアにできて僕ができないってのもなんか悔しいし。

 だから「このままで使いたい」と僕は言ったんだ。


「さよか。ならええわ」

 あっさりとしたメグのセリフ。

 そのあと、

「気になるんやけど、石突きはどないする?

 このまま管のまんまいうわけにもいかへんやろ?

 ウチがまた鍛冶屋に作らせたるわ」


「それなんだけど、あたしがやってもいい?

 魔石のホルダーつけてみようかなって」


 魔石のホルダーと言えば、大きな魔法を使う時に、2人が魔石を握り込んでるアレのこと?

 ブーストとか言ってたと思うけど。

 橋を架ける時にもメグと2人掛かり、いくつか魔石を使ったと言ってたっけ。


「タケオもLV(エルブイ)が10になってたでしょ?

 風魔法って出てたんだよ。

 使えるようになるなら、魔石があってもいいかなって」


 LVって何か知らないけど、僕も魔法が使えるの?


「何て?

 タケオ、風かいな。

 そらはよギルドに行って、風の教本買うたらんと!」


「じゃあ今日は残ってる木材積んで、明日シーサウストでいいかな?」


「せやな」


 僕は荷台を見上げた。

 帰り道あちこちで、やむに止まれず倒した木が既に、そこそこの高さで荷台を占領している。

 とてもこの上にトレント材が載るとは思えない。


 僕がトレント材と荷台を見比べていると

「何や、積めるか心配なんか?

 任しとき」


 メグが杖を翳し、積んであった木材のうち太そうなのが4本浮き上がる。

 クレアだと浮かせたりできるのは土とか岩とかだけ。

 メグは何でもああやって持ち上げてしまう。

 でもこんな高さに浮くのは……


「あれは水の網を作ってそれで上げてるの。

 木を上げてるんじゃないんだって」


 クレアの説明だったけど、水ってあんな風にものを持ち上げられる?

 下が全部水ならその上に浮くってのはありそうだけど、そもそも荷台の上に水溜りなんか作れない。


「何やタケオ。納得いかん顔しとるなあ。

 ウチの水網はなあ、魔力が流れとるよって、特別製ちゅうこっちゃで?

 ちょっとやそっとじゃ破れへんで」


 そんなことを言う間にも4本の木材は縦になって荷台の角へ。

 一本が荷台の隅にある穴に合わせて削られ破片を散らす。

 その穴にぴったりと押し込まれた。


 余程きついのか、ゴリゴリと擦れる音を立てながら木材が沈んで行く。


「あー。しもた。

 いくら何でも長いなあ」


 それはそうだ。

 1本が5m以上もある材木を立てたら、荷台の高さもあって7mに近い。

 ここには電線が無いから運べるとは思うけど。


 立てた柱がスパンと軽い音で半分になる。

 水刃って魔法で切ったんだ。

 僕もあんな風に、魔法で何か切ったりできるようになるんだろうか?


 木材は2本を荷台に戻し、4隅に立ち並ぶ。

 山に積んであった木材は、新しい柱まで平らにならされて。

 そのうちの1本、細い材料が少し浮いて3つに切れた。

 端材はそのまま戻って、縦積みの木材の上に横向きに離して2本置く。


「んー。

 まあええか」


 ボソッとメグの呟き、トレントの枝材がごそっとまとめて宙に浮く。

 器用に向きを変えて荷台の上空。

 地上5m辺りに、あの量の木材が浮いている異常な光景は肝が冷える。

 目が離せないまま僕は、2歩ほど後退りしてペタンと尻餅を突く。

 そうして見ているうちに、枝材は柱の間に収まって、平らに均された。


 枝材には細い木がない。曲がった枝を真っ直ぐに直す時に、太さも調整してしまったから妙に揃った長さ、太さの材木になっている。

 リペアの良くないところだろうね。


 メグは木立を見回して、近くの枝を水刃で払った。


「これでええやろ。ただの間仕切りやし」


 トレントの根の材料も同じくリペアで揃えられている。

 これもごっそり根こそぎ持ち上げ、さらに積荷の材木は高くなった。

 それでも立てた柱にまでは及ばなかったけど、地上3mを超える材木を積んで、あの砂浜を引いて行けるんだろうか?


 僕は心配になっちゃうよ。


 ロープを掛けて木材の固定が終わる。


 さてシーサウストの街まで、無事に辿り着けるんだろうか。


 砂浜を走るのは問題なかった。


 水の引いた砂って案外固いんだ?


 1週間くらい前に貝を取ったばかりというのに、またすごい量の貝が弾け飛ぶ。

 前回よりは少ないと言っても、貝の回収に僕もクレアもてんてこ舞い。

 メグは魔石の回収と貝の積み込み、それにクルマの運転。

 海水に洗われた砂浜は、思ったより荷馬車の細い車輪が沈み込まない。


 どうなってるのか聞いたら、どうやら荷馬車はクレーンで吊ったままなので、見た目より軽いっていうんだけど?

 何で?

 かえって疑問が増えてしまった。

 でも2人からは、そんなもんだろうという答えしか返らない。


 魔法のある理不尽な世界だから、それで済んじゃうんだろうか。


「あたし達はむしろ歓迎だけど、せっかく東側の海岸まで行ける道を作ったでしょ。

 この海岸を通るたびにカベヌリノカイに襲撃されるってのも、普通で考えたら大変なことよね?」


「ここを通る人なんて居るの?」

 今まで道がなかったのは、本当は用事がないからだと思うんだけど。


「今は居らへんやろけど、すうぐに通りよるようになる思うで?

 なんせ道がええさかい!」

 車内の鏡(ルームミラー)の中で、僕に向かってドヤ顔をキメるメグ。


「じゃああれだね、砂浜を走らなくていい道が要るんじゃない?」


「なに、またリペアで道作っちゃうの?

 メグっていろいろ言うけどそう言うの好きなの?」

 何でそんなに道に拘るんだかと、僕は思った。


 話も終わらないうちに警報音がミイミイ鳴ってクルマが止まる。

 海岸線を走る間に拾った貝は、座席後ろの貨物スペースには積み切らず、僕が座る後席にまで透明な袋に入れて、積み上がっている。


 なんせ荷馬車は、ほぼ限界まで木材を積んでしまったから、貝を捨てるのが嫌なら何とか積むしかない。


「タケオ、あたしの膝の上がまだ空いてるよ。

 こっちに座ったらいい」


 なんてクレアは言うけど、あんな硬い革鎧に抱かれたくなんかない。

 あちこち刺さって痛いのが目に見えてる。

 我慢して貝の袋を押し込み、屋根の上にまで積み上げてやっと砂浜の出口。

 ふわふわの乾いた砂地がそこで待っていた。


「これ、流石に荷馬車がハマっちゃうんじゃない?」


 来た時にメグが砂地を、おっかなびっくり越えていたくらいだ。

 この大荷物じゃ大変だと思うんだけど。


「なあに。

 リペアで道作ったったらええんや。

 心配あらへん!」


 その言葉の通り僅か数十メートルの距離は、何ということもなく道路に化けてしまった。


 やっぱりメグは道直しが大好きみたいだね。


 シーサウストまでの道は綺麗なもので、揺れるような穴もない。10数分で街に入った。


 そのまま商業ギルドへ向かう。


 普通の木材とトレント材は紹介を受けて木工所へ、カベヌリノカイはお馴染みだと言うギョカイラへ。

 そこは海産物の加工場だった。


 おばちゃん3人が魔石なしは捗っていいとか、近所の娘がどうとか喋くりながらポンポンと、貝から身を外し水の流れる笊へ放り込んで行く。

 あれは一部は食堂に回すほか、加工して干物になるんだって。


 そんな話も作業の合間に、いろいろ教えてくれるんだ。


 そのあとは冒険者ギルド。

 魔法の教本と言うのを2人が買ってくれるって。

 扱う魔法によって内容が違うんだとか。


 メグが風も使えると言ってたけど、水魔法のついでで、できてしまったらしい。だから教本は水魔法しか見たことがないらしい。


「おめでとうございます、風魔法の教本ですか。

 こちら1000ギル丁度になります」


 受付嬢に渡された薄い冊子をパラパラ捲って見る。


 わ。こっちの字だ。

「僕、これ読めない」


「あー、せやったなあ。

 大丈夫や、ウチらが読んだるさかい!」


「そうよ、あたしも何遍でも読むから。

 しっかり練習して次のレベルまで頑張りましょう!」


 これ読んでちょっと練習したらって思ってたけど、そう簡単なものでもないらしい。

 僕はちょっとがっくりしたよ。



 いくつか宿のお土産に貰ってきた、剥いた貝の身を調理してもらう。

 料理は美味しかったけど、ひさびさのお酒とあってクレアが案の定酔い潰れた。


 父さんみたいに酒癖が悪くないからまだマシだけど、どこの宿屋も部屋は2階とか3階なんだよなあ。

 そうでなくても背丈があって運びにくいってのに。


 メグと2人で2階の奥までクレアを叱りながら、何とか運び込んだ。


 運んで寝台に放り込めば終わりじゃない。

 まだ鎧を脱がさなきゃいけないんだ。


 膝近くまである重い革鎧は、僕がクレアを立たせてるうちにメグが水魔法で上に引き抜く。


 ほら、クレア、バンザイしなって!

 寝台に座らせ解く、編み上げ靴の面倒なこと!


「ほれほれクレア、顔くらい拭いてから寝よらんかい?

 まあったく、世話の焼けるったらあらへんで」


 メグもそうやって口ではブチブチ言ってる。でも、帽子の影の顔が笑ってるのを僕は知ってる。

 きっとクレアは家族と一緒なんだろうと思う。

椎間板ヘルニア切除の手術を受けました

10/11辺りまで入院の予定です

暇に飽かせて書いた分を先行投稿中です

皆さまこんなことにならぬよう、腰にお気をつけください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
タケオ少年も、タクシーの魔石受けも、大きくなりませんね。 現状の主人公はともかく、魔石受けを広げるアビリティはそのうち出てくると思っていたんだけどなぁ。 まあ、不都合が有るからこそ知恵を絞るシーンが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ