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岬越えのリペア

 まさか何にもない、もともと道すら無いただの山裾に、道路ができちゃうなんて思わなかった。


「グレンズールーの洞窟で見たじゃないの。

 洞窟の中にあんな道路って最初からあると思う?」


 クレアが事も無気に言う。

 そうかもしれないけど、目の前で見ちゃうとね。

 道路の凸凹を直すのと訳が違うと思うんだけどな。


 幅は荷馬車が通れればいいやの4mほど、出来立ての狭い坂道だ。緩いカーブが2つ、立木をうまく躱して上の方まで一気に登る。

 登るに連れて今まで走って来た砂浜が遠くまで続いて見えて、打ち寄せる波の動く白い線に陽が煌めいていた。


 これは中々の景色だと思う。


「ほら、あっち、見てみなよ。

 向こうの海がもう見えてるんだ」


 ハンドルを握るクレアが助手席の窓を指して言う。

 僕は後席を反対窓まで移動して、外を見た。

 草薮に見え隠れする海がそっちにも見えていたんだ。

 こんな場所があるんだ、綺麗なとこだなあ!なんて感激してたら、前を塞ぐ大きな木でクルマが止まる。


 通れそうもないのでメグが伐採するらしい。

 木の伐採は、メグが水魔法でバタバタ伐ってしまうところを何回か見ている。


 結構大きな木だけど、そうかからず通れるようにしてしまうんだろう。


 僕は後席からフロントガラス越しにそんな感じで見ていた。

 メグが杖を構えたところで窓からクレアの気を付けろ(警告)が飛び込んでくる。

 魔物の気配があるって言うんだ。


 僕もキョロキョロ周りを見た。

 そしたらメグがトトッと後退りにクルマに寄って、さっき立ってた辺りに太い触手の様なものが振り回され、ビュンと通り過ぎた。


 あれがトレントの根らしい。

 メグが水刃でその触手を地面のところで切ってしまうと、グニグニッと少し動いてそのままになる。

 切り離したから、あれは死んだって事なんだろう。

 本体はどこだ?

 細い木は何本も近くに見えてるけど……


 クルマの前を、横に広がる枝で塞いでいた大木が枝を振り回す。

 あのでっかいのがトレントの本体だったんだ!


 襲って来る枝や根をメグが次々切り落とす。

 見る見る、手足を捥がれて太い幹が(あらわ)になるトレント。

 その幹にゴツゴツと何かコブのような……?


 何だろうと見ていると、そこへクレアが槍を突き立てた。

 身体ごと突っ込むような勢いで深く刺さる槍。

 トレントはジタバタと、本当に何をしたいのかわからない動きをして、それをクレアがサッと躱わす。


 そしてついにトレントは動かなくなった。


「コイツ、ヤナギトレント言うらしいで?」


 クレアのスマホを覗き込んでメグが僕に言う。


 正直、だから?って感じだけど、ウンウンと頷いておいた。


 それからトレントの解体が始まった。

 太い幹を水刃の魔法で長さ5mくらいに輪切りして、縦にも切り分けて行く。

 中から3cmくらいの濁った黄色の魔石が一つ出て来た。


 あれだけの太さの幹だけど、上よりも横に枝をたくさん広げていたトレントだ。

 いざ切り分けて行くと幹から取れる木材よりも枝だけ、根だけの量がそれぞれずっと多い。

 幹の木材もそうだけど枝根は曲がり、捩れが酷い。


「こんなのどうやって使うの?」


「世の中には、曲がっとるんが丈夫でええちゅう奇特な大工もおるんやで?

 そうは言っても無駄にせんように運ばなあかんからなあ。

 どれ、やってみよか」


 なんて言ってたメグだけど、どこかで一遍やってたんじゃないかな、慣れた様子でリペアと唱えた。


 根を乱雑に積み上げた山にかけたリペアは、積み上がった根の一本一本が、真っ直ぐに直って太さまでが一定に近づいて行く。

 ゴトゴトガラリと、バラバラな向きはそのままだけど変形につれて、山は傾いたり崩れたり、その高さを低くしていった。


 解体の間にクレアが土魔法を使って、材を置く下駄の裏みたいに2本並ぶ、台を作っている。


 曲がりの直った木材をメグが水網で台の上に揃えて並べて行く。

 そうやって綺麗に並べてみても、幹を切り分けた山よりも遥かに大きい。


 それは枝も同じだった。


 結局幹の材だけ馬車に積んで、氷箱の両脇を埋める。それでもう荷台はいっぱい。

 枝と根は次に運ぶ事になった。


 そうやってトレント材を積んだんだけど、まだ陽は高い。


「どや、行ってみいひんか?」


 メグが指差すのは斜面を降った先に見える海だ。

 岩場の海岸が見えるばかりで、道なんかどこにも見えない。

 でもクレアが軽い。


「お?行ってみる?

 こう言うのって楽しいよね、行こ行こ!」


 結構険しそうに見えるんだけど、こんなとこ本当に降りていけるんだろうか?


 僕はてっきり歩いて行くんだと思ってたんだけど、メグがクレーンで上に昇る。

 いつもやる街道の補修と何ら変わらず、淡々と昇る。


 杖を空中で、何かをなぞるように動かしたあとリペアは発動した。


 後ろでザワザワ音がするので振り向くと、トレントを根こそぎ引き抜いた場所はちょっとした広場に整地されて行く。

 メグの杖が指していたのは海のはずなんだけど?


 振り返ると、それと一緒に海岸へ向かう道が出来上がって行った。

 途中の立木が2本、海へと倒れそこに留まっているのが見える。


 降りて来たメグは颯爽とクルマに乗り込んで、できたばかりの広場で荷馬車ごとのUターンを決め、新しい坂道を降りていった。


 途中、倒れた木を材木に加工する。

 クレアが空き地に台を作って、その上に木材を積み上げる。

 これでもう2回くらいは、ここまで来ないといけない事になった。


「次、行くで」


 クレーンで昇ってリペアで500mくらい道を作る。

 また昇ってリペア。

 森を迂回し小山を突き抜き、川には橋を架け。

 何回、繰り返したろう。


 海岸の景色はいつしか砂浜になっていて、夕暮れが迫っている。


 クレーンで昇った上からメグの声が

「村が見えよるで!(ひい)の光が見えとるわ!」


「ちょうどいいわ。これで野営にしましょう!」


 メグがリペアを一発。

 降りて来るとその場で小さな広場を地ならしする。

 野営するには道幅の4mでは少し狭いんだって。


 僕もそう思ったよ。


 シートを敷いてコンロを出して。

 魔物肉を炙ったり、お湯を沸かしてスープを作ったり。

 僕はメグに言われて氷箱から、カベヌリノカイを5個出して来る。

 氷の箱に入ってたんで冷え冷えだった。


 言われたように地面に転がすと、メグが火魔法を繰り出した。


 弱火でじっくり貝殻を炙る。

 程なく貝の合わせ目からプツプツと泡を吹き始めると、一気に火力を上げた。


 堪らず貝はその殻をパカッと開けた。


 スープを作っていたクレアが、シーサウストで買った壺を持ち出していた。

 あれはスープにも使ってた辛みのある味噌っぽいやつ。

 貝殻の中にそれを少量ずつ置いて行く。

 そこからはまた弱火。

 メグの火魔法は火力が自由自在みたいだ。


 貝殻の中でさらにぐつぐつと煮込まれて、美味しそうな匂いが辺りを漂う。

 この匂いは中々凶悪だ。僕のお腹が騒がしい。


 今日の夕飯はいつになく豪華になった。


 クルマの中でそれぞれの座席を倒して、小さな車内灯を点けたままメグの昔話を聞く夜だった。

 故郷だと言うリョウシマチの話だったけど、僕は途中で寝ちゃったから。


   ・   ・   ・


「カベヌリノカイ、ほとんど使っちゃったから、今日は魔石狩りからだね!」


 簡単な朝食を食べながらクレアが言う。


 昨日やらなかった訳を聞くと、

「メグのリペアをやるとね、弱い魔物はピリピリが始まったくらいでみんな逃げ出すんだよ。

 あれやってたら、近くには一匹も居ないって」


「ピリピリ?」


「うん。

 タケオは感じない?

 メグとイブちゃんの魔力がね、道を作る方へブワーっと広がってくんだよ。

 この辺にあれでビビんない、強そうなのはあんまり居ないみたいだね」


 ポンポン道を作ってるだけだと思ったら、周りは大変な事になってたみたいだ。


「それでね、夜の間にポツポツ縄張りに戻って来てるみたいだから、ザッと魔石を集めちゃおうかって」


「せやけど、積む場所があんまりあらへんで?

 狩っても4、50やろ。

 それ以上は捨てる事になりそうや」


 僕は山盛りに荷を積んだ荷馬車を見上げた。

 氷箱はまだ少し高くできそうだけど、あんまり高くすると荷馬車の安定が悪くなっちゃう。

 クルマの後ろにもまだいくらか積めるけど、限度があるよなあ。


「うん。だから、そうねえ、300メルキ()ってトコかなあ?

 こっちの方角で!」


 クレアが指差すのは海とは反対側。

 この辺りは平らな地形だけど、すぐに山が迫っている。


 山の中腹辺りにドカンとやれって言ってるんだ?


 話が決まると朝食の片付け、その後は軽く準備運動などやって、メグが杖を構えた。

 魔石狩りはもう何度もやってるから、僕らもそれぞれの得物を手に、いつものように配置に付く。


 夜露で水気には事欠かない。

 すぐに誘導の水カーテンが立ち上がり、遠くで鈍い衝撃が走る。

 山が一気に騒がしくなった。


 クレアが付近に魔物があまり居ないって言ってたのはほんとで、最初こそワアッと来てたのに直ぐ数は減る。

 4、50って言ってたけど、それっていつもなら僕の受け持ち分くらいだよ。

 それを3人で、しかも数が当たらない真ん中でなんて、てんで歯応えが無いや。


 ポツポツと現れるのはもう、誘導される端の方だけになっちゃった。


「タケオ、正面からボアが来てる!

 2頭!」


 右側で槍を振るうクレアから声が飛んで来る。

 僕は短剣を構えて備えた。

 ドドドドと軽い地響きがあって、見えたのは2頭のフォレストボア。

 水カーテンでは止まらず突き抜く勢いで前に迫る。

 メグの援護射撃、氷弾は狙いが僅か逸れて弾かれた。


 1頭は躱しざま、喉首に僕の短剣を合わせたけど、抜く暇がなくてそのまま短剣を持って行かれてしまった。

 そのまま4、5mも勢いで走って躓いたように転がった末動かなくなる。


 やや遅れて来たもう1頭。

 僕のことなんか見てない風で、前のを追い越してクルマに突っ込んだ。


 ドガァっと凄い音がして、フォレストボアが宙に弾かれる。


 荷を高く積んだ荷馬車の更に数m上まで。

 凄い事になってる!


 そのまま、ドオッと地面に落ちたフォレストボアはもう動かなかった。


「ありゃ!

 1匹、イブちゃんに取られてもうた!」


 メグの声が楽しげだった。

椎間板ヘルニア切除の手術を受けました

10/11辺りまで入院の予定です

暇に飽かせて書いた分を先行投稿中です

皆さまこんなことにならぬよう、腰にお気をつけください

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