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トレントの岬

 この砂浜も久しぶりや。

 もう随分前、貝が取れると聞いて一人で見に来たもんや。

 あの時はポンポン取れたはええやって、その場で焼いて食うんも限度があるわな。

 5つ6つ担いで帰る羽目になったんや、あれはしんどかったで。

 大体そんな数じゃ宿代にも届かんよって、次は荷車引いて来たんやけど、欲張って20も積んだら重うてなあ。

 なんせ道は悪いし重いしで散々やった。


 それがタケオたちと知り()うて、イブちゃんや。

 たあだ走るだけで、バカスカやで?カベヌリノカイが砂浜から弾け出しよったんや。

 オマケに屋根まで使(つこ)て大量に運ぶんや、あれはたまげたで。

 反則やー、て言いたかったで。


 厚手のビニル袋にカベヌリノカイをようさん入れて、砂の上を引きずるみたいに持って来よるタケオ少年。


 槍を使いたい、言い出しよってウチの知り合いの鍛冶屋に頼んで特注の穂先を拵えて貰た。

 なんや喜んどったはええんやけど、体力が足りとらん。鍛えたら大きなる言い出しよって、クレアと顔を見合わせたで。


 縮んでもうたなんてことあるごとに言うとったけど、なんぼ爺さんやって10セロトも縮みよったら大概やあらへん?

 期待させて、伸びんやったてガッカリされるんもなあ。


 そんなこんなで、今の体格でも扱える(ええ)をなんとかしよ、ちうところでウチがトレントの話を思い出したんや。


 ウチがシーサウストに来た頃やからこれまた古い話やけど、B級の4人パーティが東の岬まで行って、トレントに()うた話や。

 トレント言うたら絵本なんぞによう出て来よる、枯れ木に目鼻みたいんや思うとったら、太いは太いやって若木みたいな肌しよって、動きもしなやかなんやって。

 世の中は広いで。


 けどまあ、(きい)は木やって、そんなに動きは(はよ)うないんや。

 倒したところで運ぶ術もない言うて切り落とした枝先だけ持ち帰りよった。


 まあ、そんな話や。


 魔木の話、出したらタケオ少年が食いつきよる。

 どんなんか興味を向けよったんはええ事や。例に挙げたフラウレシアが(まず)かったで。

 タケオ爺さんは見よったから思て言うてみたんやけどなあ、えらい怪訝な顔されたわ。

 焦ったでえ。

 タケオ少年、なあんも覚えとらんよってなあ、下手なこと言われへんやん、クレアと気使(きいつこ)とるんや。


 さあて、大体片付いたやろ、次行こか。


 ウチはイブちゃん(タクシー)に乗り込んで、まあた砂浜を走る。

 下手な道路よりも快適や言うて、爺さんタケオがはしゃいどったなあ。


 昼はいつぞや、炭焼きウォルトに買うてってやった海鮮弁当や。

 波打ち際から離れたふわっとした砂の上に青いシートを広げて、コンロでお湯も沸かす。


 弁当の包みを開くと5つも入っとった。

 クレアが一人で3つも食うつもりなんやろ、いつものことや。


 おお?タケオ少年、食うなあ?

 まだ食い足りんみたいな顔しよってからに。

 ウチ、この弁当ちょっと多いねん、分けたろ。

「メグありがとう!」とか言うて、美味そうに食いよる。

 ウチはその笑顔見て慌ててもうて、お茶の用意に逃げたんや。


 岬はもうそこに見えとるよって、あの少し高い場所までどうやって行ったらええか。

 イブちゃんと荷馬車連れてかんやったら、トレントやら運ばれへん。


 あちゃあ。荷馬車の上、もう、氷の箱でいっぱいや。どこに(きい)積むんや?


 (きい)は後ろにはみ出てもええように縦長に積みたいよって、箱も(せえ)(たこ)して端に寄せてまおか。

 うん、そうしたろ!


「クレア、あの上までイブちゃんあげたいんや。

 どこぞ行けそうなとこはあるやろか?」


「あー。運ぶの大変だもんね。

 じゃあ洞窟でやったみたいにバッサリ行く?

 木とか邪魔だけど」


「リペアかあ?

 なるたけ(きい)のおらんとこがええなあ。

 荷物が増えるやんか」


「何、伐採した木も持って帰る気でいるの?

 置いとけば良いじゃないの」


「そう言うんにうるさいのが一人居ったやろ、後で何言われるか分からへん。

 誰とは言わんけど」


「あー、そんな人がいたねえ。

 それじゃあ、木の方はまた取りに来るって事で、湿気らないように台を作るよ。

 じゃあちょっと良さそうなルート、見て来るからここで待ってて」


「もういつ出てもおかしないよって、(きい)つけて行きや!」


 クレアは屋根から自分の槍を外すと斜面に向かう。


「タケオ、前に来てカーナビの索敵、やってんか?

 クレアのこっちゃから心配ない思うけど、念のためや、見とって」


 クレアの気配読みはイブちゃん(カーナビ)の索敵とタメ張りよる。

 それはタケオもよう分かっとるやろけど、万が一ちゅうこともあるんや。


 ウチは荷馬車の上に登って、氷の箱をどうにかしたろ。


 ただ端に寄せるんやったら、トレント材の重さにもよるやろけど、バランスが悪いやろか。

 真ん中に箱の方を縦に伸ばして両側をトレント材で挟むんがええやろか。

 なんとのう3角に積めば、ロープで括るんも塩梅良さげやなあ。


 岬の高台を見上げると、クレアがもう上まで上がって、高い場所からこっちを眺めとった。


 何も居らんと登ったようで、ちょっと安心したで。


 そないに思って見とったら、クレアが藪掻き分けて奥へ入って行きよった。


 何か見つけたんやろか?


 ピリピリいうてケータイが鳴る。


 受話器のマークや言うんをポチッと押すと

「この辺はあんまり厚みがないみたい。

 ちょっと入ったらもう向こう側の海が見えたよ」


 ケータイの小さな画面に見えるんは、確かに海のようや。

 微かに白波が押し寄せる様子も見て取れる。


「もしかしたら、ウチの生まれ村が案外近いんかもやな」


「そうなの?リョウシマチだっけ?

 道は割と楽に作れそうだよ?

 シーサウストに戻るより楽かもね」


「そんな訳あるかいな。

 まあずそこまで登るよって戻って()いな」


「はいよー」


 それからはいつもの通りや。

 クレアと2人でクレーン使(つこ)て、高あいところから下界を見下ろしよったら、クレアの指差す先を辿ってくんや。


 そうかあ。

 あそこから(ゆる)ういカーブ描いて、その先でちょい戻す感じで行ったら行けそうなんやな?


 カベヌリノカイの魔石はようさんあるけど、供給がタケオ少年ではちょい心許ないよって、クレアが降りて行った。


「準備ええか?」


 クレアの返事を待って呪文をブツブツ唱えてく。

 大掛かりなんは久々や、ほれ、行ったらんかい!

「リペア!」


 ホンマにリペアで魔法名が()うてるん、なんてツッコミは聞かへんでえ?


「これ一発で上まで行けるなあ!」


 荷馬車を繋ぎ直して拵えたばかりの坂道を登る。

 立木は枝払いしたくらいで、一本も倒さんと上まで行けたで。

 幅4メルキの立派な道路や、タケオが目丸くしよって窓から見とるんが、ウチは可笑しいやって。


「ほら、あっち、見てみなよ。

 向こうの海がもう見えてるんだ」


 確かに岩場の間を波が洗う海が見えとった。

 風景を見る限りじゃ、リョウシマチはまだ先のほうやなあ。

 こないな岩場はあの辺りにはあらへんやった。


「降りてみるんも面白(おもろ)そうやな。

 トレント捕まえたら、行ってみよか?」


「いいけど、メグ、そこの先の木一本切って貰っていい?」


 クレアがハンドル越しに指差す木は、太い枝を地面近くまで下ろして、鬱蒼と枝葉を繁らせ前を塞いどる。


 ウチはドアを開けて、前を遮る大枝から落としたろと、杖を構えた。

 見通しが悪うてあかんよって、水刃の呪文で奥が見えるように上っかわを剥ぐように、なんて考えとると

「メグ!気を付けて!

 急に魔物の気配がする!」


 何やて?どっちや?


 見回した時やった。足元から太い触手が持ち上がる。

 ウチはビックリして数歩退がったで。


 それが良かったんや、ウチがさっきまで立っとったところを、ブウンと風を切った太い(ねえ)が切り裂きよったんや。


 もちろん準備しとった水刃で、地面から見えとる大元からバッサリ切り落としたった。


 ほんで襲って来よったトレントはどこや?


 トレント言うんは、皆動きやすいスッキリした姿のもんやと思とったんや、それがウチの先入観言うやつ。


 まさかやで?

 前の視界をすっかり塞いでまうような、鬱陶しいくらい枝葉を横に繁らせよったんがそれなんてなあ。


「けど、そうかあ。

 水刃で斬られる思たら、そら反撃の一つもするやろなあ」

 振り回して来よる枝を払いながらウチは言うたったで。


 こんな大物が暴れ回っとるうちは、剣も槍も相手にならん。

 枝が太うてその上多いよって、元を切り飛ばそ言うたかて、跳ね飛ばされてまうんや。

 とにかく振って来る枝も(ねえ)も、みんな元の方で水刃使て伐っていくんや。


 相手のタイミングに合わせて、水刃使うんは結構大変なんやで?

 ウチはまあ、そんなん苦にせんと刻んでいくけどなあ!

 なんせ大きなトレントや、斬り飛ばすこと10数回に及んだ。それでもだんだん丸裸になって来よる。


 止めはクレアやった。

 見えるようになった幹の(こぶ)は、よう見んやったら顔とは分かれへん。


 その真ん中に助走まで付けて、穂先を叩き込んだんや。

 珍しいて、クレアの魔力が穂先まで載っとったんは、大分()れとったんやろなあ。


 トレントは残った枝やら、支えとる根っこまでジタバタとさせて、断末魔や。

 ただのジタバタやから、偶然当たったら儲けもん程度の動きやよって、クレアは軽く躱しとった。

 そのジタバタもすぐに止まってもうて、あとは解体……て言うか剪定やろか?


 なんせ荷馬車に積みやすいように、材料をまっすぐに直さんことには、何ともならん。

 それでのうても曲がりの多い奴が、暴れよったところからウチが斬り飛ばして、そのまんまや。

 クセが酷うてよう積まんわ。


 まあた、イブちゃんに手伝って貰て「リペア」三昧になってもうたで。


 結局、半分も積めんやったけどなあ!

 クレアの作った硬い土の台に並べて積むんが精いっぱいやった。


「メグ、すごく楽しそうだったね」


 タケオ少年がボソッと言うた。


「それな。

 初級魔法や言うてもアレだけばら撒けば、そらスッキリしたで?」


 ウチのニマニマはしばらく収まらんやったで。

椎間板ヘルニア切除の手術を受けました

10/11辺りまで入院の予定です

暇に飽かせて書いた分を先行投稿中です

皆さまこんなことにならぬよう、腰にお気をつけください

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