タケオの槍
人物紹介 (本編はこの下にあります)
メグ(メグクワイア-ゼーゼル) 18歳
オレンジブロンドの髪 緑の瞳 身長153cm(推定)
東海岸 リョウシマチ出身 孤児
魔法少女 水魔法使い(他に火と風) 短い木の杖を使用 B級ソロ冒険者
自称叔父に飼われたあと 魔法の師匠の元で数年修行し独り立ち
東海岸方言にコンプレックスを持っている
魔力は強大
僕がねだって槍を買ってくれる話になった。
イブちゃんの快速を活かしてグレンズールーだけじゃなく、ヤイズルとシーサウストの武器屋へも行ってみた。
だけど、非力な子供向けの槍なんて売ってない事がわかった。
それですっかりお馴染みのヤイズル湊、海鳥のお宿で僕らは相談を始めた。
「この頃の稼ぎから言うたら、タケオに槍買うたるんは構へんのんや。戦力も上がるよってな。
けどなあ。何軒店回って見たかて売っとらんもんはしゃあないで」
「そうよねえ。どうしようか?」
「僕、諦めて棒で練習するよ。
大きくなってから買えばいいんだよね?お金も貯めるから」
「いや、タケオはん、大きく、て……」
「どうだろねー、縮んだとか言ってたけど元はどうだったんだか……」
なんか急に歯切れの悪い2人だけど、何かあったのかな?
聞いても答えてはくれなかった。
それで朝晩の剣の素振りに加えて、クレアを相手に棒術の練習をしていたある日。
「調子はどうや?
ちょーっと面白いもん手に入れたよって見いひんか?これなんやけど」
メグが背中のバッグを脇にずらして、中から引き抜いたのは一本の鞘付き短剣……にしては柄の形がおかしい。
握りでは無く鉄の平棒が一本、刃と同じくらいも伸びている。
「長剣並みの長い握りを付けるの?」
「ちゃうちゃう、あー?長い柄、言うたらそうやろか。
ウチ、腕のええ鍛冶屋行ってな、魔銀混ぜた鉄で打って貰てんねん」
「魔銀?それだと随分軽くなるはずよ?」
クレアがそう言うので僕はその短剣を持って振ってみる。柄の芯鉄が長いからちょっとバランスは悪いし平鉄は持ちにくいけど、確かに軽い。僕の力でも充分に振れる。
「うん。確かに軽いね。
切れ味とかはどうなの?」
「魔銀は魔力を通すさかいな、軽うて丈夫、魔力使こたら大概のもんは豆腐みたいに切れよるで?」
「へえ。凄いんだね。
それでこれ、どうするの?」
「タケオの槍や」
え?なんて言った?
「タケオに槍、作ったろか思たんや。これはその穂先や」
僕は思わずメグを見た。
その姿はすぐに崩れてぼんやりした影になってしまう。
何故って目に溜まった水が、メグを見るのを邪魔するから……
「ありゃ!なんや、泣くことあらへんやん、虐めとるみたいやないか、なあ、タケオ、泣かんといて!」
メグの珍しい大慌てなセリフを聞いて僕がクスッと笑う。
クレアが僕の腰の汗拭きをとって顔を拭いてくれた。
やっと見えるようになった2人の笑顔が眩しかった。
・ ・ ・
メグが穂先を作ってしまったので残る問題は柄だ。
今鍛錬で振っている棒とかけ離れた重さになっては、とてもじゃないけど扱えない。
僕は夕方の棒術の訓練を終えて部屋に戻ると、クレアとメグに相談した。
「せやなあ。重さも重要なんやけど、槍言うたら長さも大事やで?
短いんは狙いがつけやすい代わりに間合いが近いんや。
振り回しても剣速はそうは乗らん。
クレアの槍かて長剣とどっこいやろ。
長したらしたったで柄が撓むんや。
ただで無うても狙いが難しい距離やのんに、思た所を突くんも大変や。
尤も聞いた話やけど、撓むんを計算に入れて突く猛者も居るそうやけど」
撓むのを計算して突く。
なんでかその言葉が僕の胸に突き刺さる。
それをやってのける人がこの世に居るんだ、「僕もやってみたい!」
「おおー。タケオ少年、言ったね?」
あれ?声に出てた?
でも。
「やってみたいのはほんとだよ?」
「よっしゃよう言うた!
ウチが、軽くて丈夫な柄を見つけたる。
多分やけど土魔法が要る思うさかい、クレア、協力頼むで!」
「随分安請け合いするけど、当てがあるんでしょうね?」
「無いこともない。
せやけど、最後はやってみるしかないで?」
そう言って背中のバックを脇に引き寄せ、中をゴソゴソ探る。
出て来たのは手のひらに乗る幾つかの灰色の丸石だ。
別に宝石という感じでもない、その辺に転がしたら誰も気にしないようなありふれた感じの石。
河原で拾って来たような歪な丸みがある。
「これな、ウチが河原で集めたんや!」
やっぱりかー!!
「そない呆れた顔せんでもええやろ、見るもんが見よったら、大変なお宝なんやで?
これな、粉に挽いて他の素材と混ぜてから魔力通してな?
上手いこと固めよったらムッチャ強なるんや。その名も強化石!やで?」
どうや! と言わんばかりに胸を逸らす。
が。クレアが飄々と言ってのけた。
「はいはい。
で?他の素材って何を使うつもり?」
でもメグの勢いは止まらない、かに見えた。
「さあ、そこや!
ウチも何使うたらええんか、さっぱりやん」
このポンコツ魔女は……
とは言え僕の槍だ。そうやって探して回るのも悪くない。
メグとクレアがこれまでの心当たりを、思い出し出し捻り出す。
「ウチがええ思うんは師匠の館近くの森やなあ。
高い岩の崖があってなあ?
その途中に周りとハッキリ違た青い鉱脈が、見えとんねん。
ウチはあれで一遍でいいから何か作ってみたい思ててな?」
「メグの好奇心が全開だね。
それって岩なんでしょ?重いから却下!
えっと、あたしはね、ヨクレールのそばに黒の森って魔物の濃い森があるんだ。
あたしは行ったことないんだけど、ちょっと奥に地竜の仲間がいるらしいんだよ。
そいつの革なら硬くてしなやかな、良い柄の素材になるんじゃないかと思うんだ」
「聞いた話やろ?ほんまにおるんか。
なんや、胡散臭いで?
今思い出してんけど、シーサウストの例の砂浜やけどな?」
「砂浜って、貝がいっぱいいた?」
「せやせや、あの砂浜や。
あれを東に行くんや、そしたらな?
岬があってそこの高台に魔木がおるんやて。
その魔木、柄にならへんやろか?」
「魔木って見たことないけど、どんな感じなの?」
「タケオは見たことないやろなあ。
ウチが見たんは、太っとい木の幹に、ウロやら皮の瘤やらが目鼻になっとってな?
根っこで歩きよるやら、太枝で薙ぎ払うやらしよるよって、なかなか手強いんや。岬に出よるんはその手らしいで?
あとは聞いた話やけど、トゲだらけのデカい葉っぱで挟んだり、ツルで巻き付いて吊し上げよるやつとか。
そう言うたらフラウレシアには遭うとるやんか、ほら、キイロブッシュバック騒ぎの時のキノコっぽいやつ。
あれは匂い攻撃やったなあ」
「僕、そんなの知らないよ?」
「あ!せやったなあ。
ウチの勘違いやろ。
クレアとやったやつやったか」
「そ、うねー、あの時は大変だったねー」
なんか急に口調がおかしくなったな……
なんかあるのか?
「いやいや、魔木の話やで、その歩く魔木はトレントって言うんやけど、聞いた話やとウチが見た枯れ木タイプとはちゃうらしいて。
葉っぱがようさん繁っとって、幹やら枝やらがツルッと若木っぽいちゅうんや。
ええ材が採れそうや思わへんか?」
そんな話をした翌日にはイブちゃんが、シーサウスト目指してヤイズル街道を南東へ走っていた。
食料なんかはシーサウストでも手に入るけど、大体のものは荷馬車と前後の物入れに入ってるから、必要な準備なんてろくにない。
大体、メグとクレアが南街道のエンスロー〜シーサウスト間、ヤイズル街道のシーサウスト〜ヤニの村付近、さらにそこからヤマニ村まで至るグレンズールー街道にまで、リペアをかけて回ったのでこの辺りの移動だったら、短い時間で行けるんだ。
そうでなければ、ちょっとした距離でも何日もかかってしまうんだ。
僕がそんなふうな事を言うと
「そうでもあらへんで?
移動が早いんはイブちゃんやからや。
そこら走っとる中で早いんはトリウマやろか。
あれやって、イブちゃんの速さとは比べられんのや。
トリウマやら重い荷はよう曳かんよって、そもそもや」
「自走馬車は悪路に弱いから南まで来てないけど、王都の近くには結構走ってるんだって。
あれは大概の馬車より速いって聞いたから、こっちにも来るようになるんじゃないかなあ」
「ところでシーサウストでお弁当買うてかん?
いつぞや買うた海鮮の!
あれ、まあた食べとなってん」
「あー。ウォルトに買って行ったやつかあ。
あれはなかなかだったよね!」
車内はいつもこんなふう。
僕がたまに聞きたい事を聞く他は、メグとクレアが勝手に話をして、どんどんものごとが決まっていく。
シーサウストの市場ではムギやキビの穀類を袋で買い込んで、言っていたお弁当屋さん。
時間が少し早かったようで近くにイブちゃんを停めて開店待ち。
店の前に看板が出るとクレアが助手席から駆けて行く。
ニコニコしながらひと抱えもある包みを僕の膝の上に置いた。
やたらの良い匂いにちょっと開けてみると、5人前も入ってる。
僕は包みをさっと閉じて足元に置いた。
海の手前の小さな砂山を越えるのに、タイヤ径がどうのと2人が何やら盛り上がる。
メグがそのまま乗り越えようと突っ込んで、前輪が2本とも埋まってしまったんだ。
「おっかしいなあ、前来た時はなんやかや通ってたやん。
何がちゃうんやろ」
「そりゃね、ハッキリ違うのは一つあるけど、あとはタイヤの大きさ?」
「ああ!そう言えばそうやった。
変えたろ!
フセーチや。
あれ行ったら、こんなんどないでもなるで!」
なんの話をしてるのかと見ていたら、クレアがスマホを指でちょんちょんつつく。
ズズッと車体が左右に揺れ、ふわりと持ち上がる。
なんだろうと見ていると、窓の外に黒くて丸い物体が4つクルマを囲むように見えて来た。
その丸いものはさらに大きく、それに釣られるように僕の座る座席ごと高くなって……
丸の表面にはゴツゴツした出っ張りが付いていて。
メグが行くで!と一声叫ぶと、動けなかったはずのクルマがズズッっと動き出す。
黒い丸く見えたのは巨大なタイヤらしい。
出っ張りに砂つぶを巻き上げながら、クルマの周囲で回転している。
後ろに曳く荷馬車もなんのその、木車輪の溝を砂地に深く刻んで進んで行く。
程なく乾いた締まりのない砂山を越えて、波に洗われた砂浜に突き進んだ。
その時だった。
ドドドと軽い振動がクルマを襲う。
周囲では海水混じりの砂が、爆発でもしたかのように派手に吹き飛ぶ。
その砂飛沫に混じって丸いものが弾け飛ぶ。
「うわわ!」
僕が驚いて叫んだのに、そんなことにはお構いなく、メグはハンドルを左へ切り波打ち際を走り出した。
ビーッと突然の警報音に舌打ちしながらメグがクルマを停めた。
「容器が小さいのんはホンマやっかいやで」
「何?どうなったの?」
「魔石が溢れたんだよ。
砂浜から弾かれたのはカベヌリノカイって貝の魔物だよ。
さあ、貝を拾えるだけ拾うから手伝って」
そう言って助手席から外へ出るクレアは、透明な袋をボンネットから何枚も取り出した。
メグもボンネット下で、何やら鈍い光沢の小石をザラザラと袋詰めしている。
クレアが指差す先にはゴロゴロと沢山の貝が転がっていた。
僕は山育ちだから海の貝は見たことがないけど、その貝は学校にあった貝殻標本で見た蛤なんかよりずっと大きい。
クレアは持たせてくれた袋は大きいけど、10個も拾うと重くて運ぶのがやっと。
砂浜を引きずるようにして貝を入れて行く。
袋はメグが水で網を作って荷馬車の上に積んでくれる。
中身を荷台に開けてもらってまた貝拾いだ。
砂浜は硬くて、フセーチのままだとタイヤのボコボコで振動が酷いと言って、メグがタイヤを戻した。
クルマは1度に100mくらいしか進めず、7、8袋の貝を拾っては荷台に積む。
それを繰り返しながら、海岸を進むこと1時間程。
「そろそろお昼にしよっか?」
クレアの提案で待望のお弁当の時間になった。
椎間板ヘルニア切除の手術を受けました
10/11辺りまで入院の予定です
暇に飽かせて書いた分を先行投稿中です
皆さまこんなことにならぬよう、腰にお気をつけください




