魔石狩り
人物紹介 (本編はこの下にあります)
クレア(ゼクレアスタ) 16歳
青い髪 青い瞳 彫りの深い顔立ち 身長170cm(推定) 土魔法使い
母はエルザ(エルザスターニャ) 故人
15歳の時母と共にヨクレールの街に流れてきた。
形見の銀のリングを持っている 酒が好きでよく飲みつぶれる
宿の亭主カッツェドス(引退冒険者)より槍と皮鎧を譲り受けたが鎧は地竜素材で新調した
メグが作った木製の腕輪を装備している
祖母という人がラーライという土地に因縁があったらしい
「ほらそこ!行ったで!」
水カーテンにイッカクネズミが2匹。
勢いにカーテンが大きく揺れ、15センチに近い鋭いツノがこちら側まで抜けている。
けどその顔のところはしっかりと水カーテンが覆って、息はできていない。
メグが言ってるのは、止めを刺して肉が痛むのを防げと言うことだった。
最初に狩ったマッドエイプは暴れに暴れて、窒息死するまで手をかけられなかった。
そのせいで肉の臭みが強い。
クレアが槍で突いた肉と食べ比べるとハッキリ分かる。
僕は短剣を鞘から引き抜き、力任せに首元に叩き付ける。
「コラ、タケオ!
喉か胸を丁寧に突き刺さんかい!
毛皮が安う買い叩かれてまうやないか!」
ちょっと待てよ!僕、初戦闘なんだよ?
そこまで言う?
「クレアだって、槍で叩いてたじゃないの!」
思わず言い返した。
「アホ!クレアかて周りに危険がない思たら、ちゃあんと急所突いて仕留めとるわい!
ボンみたいに刃筋がどっち向いとるかも分からんで振り回したりせんわい」
え?刃筋?
流石に平で叩いたりはしてないんだけど?
チッと舌打ちが一つ。
「ええから体重乗せて上から突き刺さんかい!」
森の奥からゴゴゴと鈍い音が響き、その後もカーテンに突っ込む獲物はしばらく続いた。
僕はカーテンに捕えられた獲物を突いて歩くので、体力を使い果たしちゃった。
近間の魔物を狩ったあとは軽い昼ごはん。
そのあと、メグが森の広い範囲を水カーテンで囲って、どうやってるのか遠くで大きな音を出す。
驚いた小型の魔物が走り出しカーテンに導かれてここに集まる。
それを僕たちが狩るわけだ。
こっからが本番やで、なんてメグの言う通り魔石狩りの本戦ってとこだ。
メグがカーテン魔法で絡め取った魔物の、止めをいかに素早く刺すかなんだけど、数、多くない!?
僕は中央の3mくらいをウロウロして、メグが左側10mに少し離れたところから氷の弾をばら撒き、クレアが右側のもう少し広い範囲を駆け回る。
水カーテンは、ここまで漏斗みたいに幅を狭めて魔物を誘導しているから、端によるほど集まる数が多い。
遠くてよく見えないけど、端の方は死骸が4つ5つ重なってるように見える。
僕が10匹目の獲物に短剣を突き下ろし、ふうふうと息を吐く。
「ええ狩りやったなあ!」
「こんだけ採れるのって久々よね!」
「これでも囲ったんは森の一部やで?
帰りももう一遍いけるんやない?」
元気そうな2人を、僕が膝を付いたまま恨めしい目で見上げると、
「タケオも頑張ったなあ。
LV、ええとこまで上がったんちゃうか?」
「ええと……6だって!
強くなったよ?タケオ、実感ない?」
クレアがスマホの板を見て言う。
「エルブイって何?」
「いやー。ウチらもよう分からんのやけど、イブちゃんのカーナビとスマホに出よるんよ。
ウチが24、クレアが22や。
イブちゃんが7やったか?
タケオは子供になる前は無かってんけど、新たに1が付きよったんや。
せやから、こないに魔物倒しよったら上がるんやないかー思てなあ?」
「ハイオークが効いたのかな、あたしらも一つ数字が増えてるよ?
あ。イブちゃん、8だって!
何が増えたかなあ!?」
「クレア、後にしたって!
これみいんな解体せなあかんて。
肉が傷みよるで!」
肉……
僕はイブちゃんが曳く荷馬車の上を見た。
荷台一杯に乗った氷の箱は高さが50cmもある。
オークとサルの肉で8割方埋まっていて、もういくらも入らないんじゃ……
イブちゃんだって屋根の上にオークの皮を畳んで、その上にサルの毛皮。
荷台はオークの骨で一杯になってるんだけど……
「何?タケオ、積めるか心配してる?
メグがなんとかするから大丈夫よ!」
「せや!最悪穴掘って氷詰めにするよって。
後で掘り返したらええんやもん。
けど、ウチはみいんな積んでくつもりやで?」
「さあ!解体、始めよう!」
結局、荷馬車の氷の箱は1.5mを少し超えた。
その上にさまざまな毛皮が載ってロープで雁字がらめ、イブちゃんの荷台に積んだ骨の隙間に集めた爪や牙が押し込まれて、魔石は200個程も集まったらしい。
夕方までにグレンズールーに入れば良いと言って、そこから早速集めた魔石で道路の「リペア」が始まった。
「ウヒヒ!帰りが楽しみやわあ!」
などとメグが珍しく魔女っぽいセリフを吐いていた。
楽しみって、また魔物狩りをするってこと?
助手席のクレアの顔を見ると
「違うわよ。帰りは道がよくなるからスピードが出せるの。
この街道ってカーブが少ないから、かなり出せそうよね、あたしも楽しみだわ!」
「言うとくけどウチが運転するんやからな?」
「ブゥ!」と、クレアが口を尖らせた。
・ ・ ・
グレンズールー。
僕はこの街を碌に見ていない。
出たのは夜中だったし、洞窟から街には寄らずにヤイズルまで行ったし、宿じゃ具合が悪くて寝てばかりだったし。
西門は小さな門だったけど、衛兵が5人も詰めていて、山のように積んだ荷物を見て驚いていた。
メグとクレアは有名なのか、「相変わらずだな」なんて言われていたようだ。
この間までは農産物の買い付けで沢山の商隊の馬車がいたそうだけど、もうそんな賑わいは見られない。
商業ギルドの倉庫へ直行した僕らは、そこでしばらく時間がかかる。
なんせ量が多いんだもの、並べるだけでも大変だった。
肉の処理は窒息したマッドエイプ以外、最上級の扱いになった。
ハイオークは更にその上。
滅多に出回らないので上乗せが出た。
皮もいい値段が付く。
毛皮も手荒に殺した一部を除き、ほぼ一級品で買ってもらえた。
あとはハイオークの骨と、雑多な爪や牙。
こんなもの売れるのかと思っていたら、爺さん婆さんが使う天眼鏡みたいなレンズ越しにジイっと見る職員。
「丁寧に処理されています。
毛皮もそうでしたが、乾燥状態が非常に良いです。
先ほどの肉と一緒に狩ったものですよね?
一体どのように……」
「それは企業秘密と言うものです。
ここでお伝えするわけには参りません」
僕は思わずメグの顔を覗き込んじゃったよ?
あんな丁寧口調のメグって!
クレアにポンと頭に手を乗せられ、見ると一つ首を振っていた。
余計なことは言わない方が良さそう!
その後職員がトレイに硬貨を乗せて出してきた。
クレアがそれを数え頷く。
でも僕は見ちゃった。
金色の硬貨がその中に何枚もあったんだ!
あれって金貨?初めて見たよ!
・ ・ ・
グレンズールーで宿を探したけど時間が遅い。
なんとか店じまい間際の食堂に割り込んで遅い夕飯になった。
クレアはエールを一気に飲み干すと猛然と料理に襲いかかる。
そんな様子を僕とメグがあきれた目で見ながら、目の前に皿をつつく。
結局3皿お代わりして、腹をさするクレア。僕らもお腹いっぱいだ。
結局、ここを逃げ出した夜に野営した北側の洞窟で、また野営する事になった。
明日はその洞窟内で鉱物採取。
そもそもここへ戻った目的がそれだった。
朝になり改めて洞窟を見る。
平らに石を切り出した跡が地面に薄く残る広場に、山から急斜面が降りてきている。
よく見ると斜面にも横方向に縞模様が見えている。
草木でほとんど隠れているけど、高さの揃った細い線は見分けがつく。
その事を2人に聞いて見ると
「本当だ!よく気がついたね!」
「おおー。
段々に切り出したとこに土でも積もったんやろか?
せやのうてあんなに草やら生えんやろ。
ほんま、よう見とるわ」
なんか褒められちゃった?
洞窟って聞いてたけど間口の大きさは結構広い。
荷馬車を引いたままでも車が余裕で入れそう。
でも奥行きが無い。
こんなとこで鉱物の採取とか、なんの冗談だろ?
クレアが助手席から降りる。左側の岩の出っ張りに何か気を取られた様子でじっと見て、一つ首を捻る。
「これ、この間から、なんか気になるのよねえ」
そう呟いて、そのまま車の前方、岩壁に向かい合う。
なんの変哲もない行き止まり。
が、そこへ向かってクレアが腕環を嵌めた右腕を翳す。
すると、岩壁が霧散するように上から消えていった。
「何、どうなってる?」
僕は思わず声を上げる。
「この間洞窟の中に道を作ったんだけどね?
誰か入って行くと危ないじゃない。
だからこうやって一見分からないように岩で塞いだのよ」
「壁を叩いたりしよったら、薄いんが直ぐばれるんやけどな?
分からへんやったろ?」
岩の消えた先には長い坂道が降っている。
洞窟の中とは思えない、妙に明るく見えているのはあちこちの壁や天井がぼうっと光っているせいか。
余りのことに目眩がしそうだよ。
クレアが車に乗り込むと、荷馬車を曳いたまま急坂へとメグが突っ込んだ。
僕は前の座席の背もたれを握り締め、叫びそうになるのを必死で堪える。
ニュルニュルと降る何かの音に混じって、タイヤがズリズリと滑っている音が恐怖を煽るんだ。
そんな事にはお構いなしに、坂を滑るように降りた底はいかにも洞窟といった天井と壁、左の端にはガクッと低い岩だらけの水路があって、車の走る3mばかりの幅の道路が逆に異様な空間だった。
坂を降り切ると早速クレアとメグが鉱物の採取を始める。
僕にはまるで見分けがつかないけど、壁に穴を開けて長いトゲみたいな岩を引き抜いたり、岩の窪みの底を浚うと言うか削り取ったり。
岩なんだから結構重いだろうに、メグもクレアもどうやってか浮かせて、荷馬車へどんどん積んでいく。
「何やタケオ、気になるかあ?
水魔法のウチは水網言うて、水の力で浮かせとるんや。
クレアは土魔法やさかい、岩はお仲間やよってまんま浮かせよるんやで」
いや、だから何でものが浮くんだか分かんないんだけど!
じっと見てもどうなってるんだか分からない。そう言うものだと思っておくか。
「あ、なんか居るよ。
水の中!」
言うが早いか槍を取ってクレアが水路の淵に構える。
じっと窺うように底の方を見ていたけど、穂先を急に突き下ろした。
そのまま槍先を跳ね上げると大きな平べったい魚?尾鰭が大きい。
いや、短い手足が見える。
「サンショウウオモドキや。この間も2匹捕まえたんや」
「解体するから、タケオ、手伝って」
言われるまま喉元にナイフを入れて止めを刺す。
そこから皮を剥ぐのは動物型の魔物と同じだ。
腹を割いてクレアが土魔法で岩を抉った穴に内臓を掻き出す。
魔石はメグが水魔法で、グチャグチャした臓物から掬い上げてくれた。
白く脂の多い肉は大きな葉に包んで荷馬車に積んだ。
この葉っぱは、30cmから50cmもある大きな葉で、クサミケシと言うそうだ。
結構あちこちで見かける、防腐効果もある葉っぱだから、見つけると集めては袋に入れて、荷台にたくさん積んである。
肉を触った手はメグが表面のヌルヌルを流してくれたので、そんなに酷い事にならなかった。
そうやって鉱石や、出会う魔物を狩って奥へ進んで行く。
ここでは魔銀は2種類取れるんだって。
壁のちょっと奥から引き抜く奴と窪みに溜まってる奴。
精錬すると色なんか同じに見えるらしい。使い道が違うって言われても、さっぱり分かんない。
コウモリの大きいのや、ハサミの5つあるカニが出て来てクレアの槍で瞬殺されていた。
僕も槍にすれば良かったかな?と思う洞窟探検だった。




