子供になってもうたタケオ
ウチはメグクアイア・ゼーゼル。
普段はメグと呼ばれる魔法少女や。
姓のようにゼーゼルが名前に付いとるんやけど、これは生まれた土地の名なんや。
姓のない平民にはようあることなんやけど、ゼーゼル集落生まれのメグクアイアって意味なんやで、よう覚えとき。
せやせや、村の名前はリョウシマチ言うたんや。その中にいくつかある集落の一つがゼーゼルなんや。
なんやややこいなあ?
シーサウストで出会うたタケオとゼクレアスタの凸凹コンビ、ほんで、イブちゃんやけど、あの子らとパーティ組んで旅回り、あれでなかなか居心地がええんや。
ところがや。
グレンズールーで襲撃に遭ってもうて、ウチとクレアは拉致監禁、タケオは街中に意識のないまま放っぽり出された。
散々やった。
あいつらコントウソウなんか使いよって、ウチらを牢に閉じ込めよった。
そやけど、間抜けな連中で、うちが背に背負ったマジックバックに気付かへんやったんよ。
おまけにやで?
ウチはおばあはんのとこで、毒慣らしの訓練やら受けとるもんやから、見張りが少のなったら直ぐに動き出せるときたもんや。
魔道具の両手錠やら、普通やったら難儀するとこやけど、バックに収納してまえば、何ちゅうこともあらへん。
言うたらクレア起こすんがいっちゃん、手がかかったくらいや。
ほんま、間抜けな話やで。
ほんで魔道具店で精錬させてもろた魔銀線がようさん有ったよって、久々に火柱あげたろかと思いついたんや。
ウチの杖とクレアの槍を取り戻せたんは、ほんま僥倖やったで。
ウチらの後を追いかけて来よった黒いドレスの女。
なかなかはしっこい女で、クレアも手を焼いとった。
あれ、どないして倒したんか、不思議に思た人もおるかもしれん。
言うたら、クレアがやっとったんは目眩しと時間稼ぎや。
本命はウチの結界魔法。
ほら、水の中の振動を嫌っちゅうだけ抑え付けて、終いにタケオが目剥くくらいまで冷やしたことがあったやんか?
あの時、冷えすぎて危ないちゅうて、結界で隔離したやん?
アレや。
唯、中はあの時と同じ水やったけど、むっちゃ掻き回したったんや。
いつもやったら空の高いとこで黒雲作って掻き回すとこやけど、それをあの狭い中でやったんや。
狭いからそれほどの威力は出ないんやけどな?
人間一人、失神させるくらいやったら充分や思わへん?
別に誰彼なく死んで欲しいわけでもあらへんやもの。
塩水飛ばしてパッチイン、てなもんや。
黒雲と違て、小っさいのんもポイント高いで。
作ってもうたらよう動かせん欠点はあるんやけどな?
物騒なもん用意してるて気取られる心配は低いんや。
その準備に少々時間がかかるよってな、クレアが時間稼ぎや。
その上、結界近くまで黒ドレスを上手いこと誘導せなかんのや、大変やったやろな。
邪魔者を排除してまえば、あとはお楽しみの特大火柱や。何人か屋敷に居ったかも知れんけど、そんなん知ったこっちゃあらへん。
グレンズールーの街空を焦がす勢いで火が立ち昇ったんや。
これでちょっとは懲りたやろ。
あ。
街には被害が出えへんように、ちゃんと押さえたし、火も消しといたで?
・ ・ ・
タケオのおる場所はクレアのスマホの、マップ言う画面で分かっとった。
何やちょっと色が薄いんが気になっとったんやけど、ヤイズル街道で攫われた時もそうやったからなあ。
まあず、イブちゃんの回収や、ウチとクレアは走ったでえ。
スマホでは300メルキちょいやから思たら、とんでもあらへん。
この倉庫街言うんが曲者や。
そう入り組んだ道やないんやが、区画が住宅やら商店やらが集もうとるとこより大きいんや。
スマホが言うんは、アレ、直線距離やねん。
あっちの方向や、言われたかて道が無うたら進まれへんやん?
流石にクレアは前衛だけあって体力あるわなあ、けど、ウチはそないには行かへんのんや。
途中でへばってもうて、クレアがイブちゃん回収しよるんを、倉庫の石壁に寄りかかって待っとる始末や。
戻ってきたクレアがなんて言うた、思う?
「走れる魔法とか、空飛んじゃうとか、使える魔法ってなかったの?」やで?
むっちゃ腹立つわー。
いつかそんなん作ったる!
見とけよ!
なあんてプンスカしとったら、暗い街路を通る者が少ないんを良いことに、イブちゃん、すんごい勢いで走らせながらクレアが言うんや。
「タケオ!待ってて!
今行くから!」
イブちゃん捕まえた時点で、言うたらもう距離なんかあらへんも一緒や。
心配なんはウチも一緒やけど、そこまでかあ?って一歩引くウチがおるんも事実や。
大っきい通りから住宅街に入ると途端に道が狭い。
一本向こうの街区や言うても、人が引く荷車が精々って道幅しか無うて、怖おうてイブちゃんなんか入れられへん。
広そな道探して大回りや。
こんな時はカーナビマップ、役に立たへんなあ。
なんせ行ったことのある場所しか表示でけへんのんや。
この頃は2、30メルキ、周囲の見える範囲がマップに出るんやけど、先が見えへんやったら一緒や。
苦労してもうたで!
やっと見つけた広い街路や。タケオの薄なった赤丸目指してクレアが、焦りまくってアクセル、踏み込みよった。
「落ち着きやん、もうそこやで!
ほら止まらんかい!ブレーキや!」
どんだけ声張り上げなあかんねん。
通り過ぎてまうか思たとこでクレアがやっと正気に返る、キキキイィーーーッって物凄い音はブレーキやろか、然して広ない街路に響きよった。
タケオがおるんはこの建物や。
降りるとクレアが槍をハンガーから外すんはちいとかかるんや、だからウチがそこの扉を開け放つ。
杖の先がウチの怒り、焦りを受けてボウッと光って見えるんは気のせいやない。
「中におるもの、観念せいや!
ウチらに手出ししてタダぁ済むと思わんときや!」
ウチがそう言い放つとすぐ横をクレアが槍を手に中へ飛び込みよった。
・ ・ ・
中にいたのは痩せぎす、ひょろっと背の高い穏やかそうな男と、寝台に横たわる小柄な毛布の膨らみやった。
背の一部と腰が毛布の端から見えとった。
何やアレ、タケオの服と似とるなあ?きっとあれ、タケオや!
そう一瞬思たけど、いまはこの男や。
ウチが脅すように吠える。
けど男は案外落ち着いた様子で、トレクトル・ヘロンサムと名乗りよった。
昨日、2人おる従者がそこの子供を、路地に倒れとった言うてここへ運び込んできたらしい。
記憶もないんやて。
「なんやて、子供?
タケオちゃうんかい、タケオの服着とるやないか、クレア見たって!」
駆け寄り毛布を捲って、驚くクレア。
「タケオじゃない!
タケオの服を着たこの子は誰!?」
「なんやて?
ありゃ、黒い髪しとるなあ?
けどその服、靴かてそうや。
どう見たってタケオのもんやで、どないなってるんや」
そこでクレアがスマホのマップを確認しとったそれを少年に突きつけよった。
「マップの反応は薄いけどこの子を指してるよ?
壊れちゃった?」
こっちが慌てとったら、ヘロンサムが言う。
自分はグレンズールーの3仙人のひとり、種消しやと。
だから落ち着いて槍を下ろしてくれ言いよる。
けどや。何がどうなってこんなんなっとるんやら、ウチでも分からへんのんに、来る間中半狂乱と言ってもおかしないクレアが言うこと聞く訳がないで。
ウチは肩をすくめクレアに向かって強い口調で名を呼んだった。
「クレア!」
ウチの言葉がなんぼか染み透ったらしいて、クレアが槍の石突きを床に立てた。
ウチは少年の顔を覗きにいく。
ほんまに男の子やなあ。どないなっとるんやろか?
「あたしはクレア。そっちはメグだ。
タケオはあたしの恩人なんだ。
拐われたりしてどれだけ心配してるか」
クレアは多少落ち着いたんか、静かな口調で自己紹介しよる。
「あの火柱はあなた達の仕業であるか?
火が押しつぶされる様に消えるのが見えた。
今あそこはどうなっている?
うちの者が見に行っているが危険はないのか?」
「それやったら大丈夫やで。
まとめて吹き飛ばすんは魔石使たけど、その後ウチの水魔法で飛んだ破片諸共地面に叩き伏せたよって。
壁で抑えたによって周りにもそれほど飛んどらんはずや。
破片と水で足元は悪いやろけど、それだけや」
ウチはガラケーに映る簡易のマップで子供の名前を確認してみる。
その間にもヘロンサムの確認が続く。
「ゴロツキと言っていたが何人居たのか?」
「あそこには7人いたよ。
タケオがいないのは分かってたから」
「一体狙いは何なのだ?
ぬしらには悪いがそれほどの規模でもない様だし、稼ぎも取り立てていい様に見えぬのだが」
「その辺はウチもさっぱりやで。
他よりはいくらか余計に稼げてる思うんやけど、言うたらそれだけやん。
あー、ウチら、イブちゃんのおかげで移動がちいと速いせいやろか?」
「鉱石を売ったから、目を付けられたのかなあ?」
「鉱石というと何を売ったのだ?」
「魔法陣用の銀鉱石や。
それと魔力で光る青っぽいやつもあったで。
店の買取で工房の加工料分、値が下がる言いよったから、見本に合わせて精錬したった。
買い切る量やなかったよって、残りは商業ギルドへ持ちこんだんや。
あれが悪かったんやろか?」
ウチは受け答えしながらも、ガラケーの操作を続けとる、スマホと違うてポチポチで辿るさかい、面倒いんや。
「光魔鉱石を精錬した?
工房では大掛かりな魔道具を使ううえ、時間をかけて行うことだ。
見本に合わせ、手軽に行えることではない。
商業ギルドは特に品質確認は厳しいと聞いている……
そうか、その辺りが漏れたのであろうな……」
ヘロンサムが何やら考えとった。
まあ好きに考えたらええわ。それよりや。
「どうやら、このボン、タケオで間違いないようやで?
ほら、見てみ」
「あ。本当だ。オーナーってのはそのままだね……
あれ?10歳?
なんで?」
「そうなんよ、歳のとこだけおかしいねん。
どないなってもうたんやろか」
「あ!タケオ、起きた?
あたしだよ、クレア!
ほら、メグもいるから!」
少年は上掛けの襟元を片手で捲り、怪訝な表情でウチらを見よる。
ウチの顔を見ても表情は変わらんやった。
「ところでどうしてここが分かったのだ?
爆発のあった場所からは随分離れているのだが」
ヘロンサムの質問にウチはクレアと顔を見合わせた。
まずい質問や。
・ ・ ・
なんとか誤魔化してタケオをヘロンサムの執務棟から連れ出したウチは、クレアに運転を任せてタケオと後部座席で話したった。
まず、タケオはこれまでのことは何も覚えてない。
大人になったことはもちろんやけど、クルマの運転も忘れてもうたみたいや。
こう言うんは頭じゃのうて体が覚えとる言うんもあるよって、やらせてみんことには分からへんけど、まあ、そう言うことや。
だから、会話は自己紹介からやった。
ウチのこと、クレアのこと、ここまでの旅の道のり、イブちゃんの不思議。
話すことはようさんあったで。
ほんでウチらは落ち着ける場所や言うて、北にある下の石切場、洞窟へ向こうたんや。




