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洞窟

39話 浮浪児メグ

重複投稿とのご指摘ありがとうございます

差し替え致しました

 石造りの建物が並ぶ石畳の街、グレンズールー。

 上空に薄い靄のような雲は相変わらず。それを通して柔らかい日差しがエキゾチックな石造りの街を優しく照らす。


 石の色は白、茶、緑と色々ある上に、壁全体をキャンバスに巨大な壁画なんかがあって、目に賑やかだ。


 それに合わせてか、歩く人々の服装も色が多いような気がする。


 さっき見かけたと言う魔道具屋まで、

クレアの案内でタクシーを向ける。


 道幅は馬車3台が余裕。他の馬車の駐停車があっても通行に支障はないし、両側、店の前には2メルキほどの幅の歩道もずっと通っている。


 尤もその歩道部分を迷惑顔を受けながら、細長い荷車を引いて荷を運ぶ強者もちらほらいるようだ。

 馬車道路と歩道との仕切りはないが、10セロト程の段差で区切られている。


 俺はその魔道具屋の前にタクシーを寄せた。


 メグもクレアも歩道側のドアを開いてさっさと店内に(なだれ)れ込む。

 こっちの治安は良いとは言えない、ロックだけはしとかねえと。


 入ってみると魔道具というよりも部品屋といった感じの店だ。


 細い金線、銀線の輪に巻かれた針金が壁にかけられて目を引いた。


 向かいの、カウンター兼用の棚には1円玉より小さな銅の色をした円盤。

 それと色は似ているがくすんだ金属塊。

 クリーム色の樹脂は大きな塊で、赤、青など色とりどりの樹脂は、細い棒に成形され並んでいる。

 店内に他の客は一人もいない。


 カウンターの後ろの作業机から30代と思しき、厚手エプロン姿の女性が立ち上がった。


「いらっしゃい。

 おや、見かけない顔ですね、旅の方?」


「そうです。魔道具を見て回ってます。

 表の看板を見て、どんなかなと思いまして」


 その口調は違和感満載、久々の他所行きメグ!


「そうですか。私どもは魔道具になる前の素材を、主に魔道具師様を相手に販売しています。

 ご希望に沿えますかどうか?」


「良いんです。ちょっと試してることもあるので。

 ここに並んでる素材について聞いても良いでしょうか?」


「はい、構いませんよ。

 ご覧の通り来客は多くありませんので」


 小さな円盤は魔法陣。

 俺には見えないが細かな紋様を刻んだ魔銅製で、隣にある金属塊を精錬加工する魔法職人が納入した物だそうだ。

 1セロト(cm)刻みの魔石サイズに合わせた大きさの魔法陣があるという。

 ゴブリンの1セロトが最小。スライムやクイツクシムシの、5ミレル(mm)サイズは無い。

 1セロト板を5枚、800ギルで仕入れた。


 クリームの樹脂は魔導樹脂と言って、主に魔石を挟み、魔法陣金属板を固定するための材料だ。

 比較的安価な上、土魔法で変形が容易で、本体部分にも利用されると言うが、それは既にクレアが試みている。


 魔導樹脂にも種類があって、感触のツルッとした物、軽石並みにザラザラな物、その中間と3種類あって用途で使い分けるらしい。

 これは肌触りの良い大きな塊をひとつ200ギルで買った。


 色とりどりの樹脂棒は動作部分の素材だ。

 発光、発熱、冷却、膨張、伸縮、回転。

 魔力が通じると起こる動作、効果がそれぞれ異なる。

 その他の動作、効果は魔法陣を組むらしいが、工房秘になっているものがほとんどらしい。


 髪の毛より細く加工された金線、銀線は同じ色に見えても何種類かあるらしい。

 青や緑色に光る金属線もあった。


 これで樹脂上に精緻に刻んだ溝に流し入れて魔法陣を描いたり、動作部に魔力回路を作ったり。

 こちらも工房ごとのノウハウがあって、詳細は公開されていない。

 ここでは注文の金属を注文の太さに加工して売るだけだと言う。


「魔法陣からの魔力の流れは、この線で動作部へ結んでやると良くなります。

 私どもで把握しているのはそこまでですね」


「それはどの金属でもできるんですか?」


「効果の多少はありますが、魔導樹脂だけよりはどれも流れが良くなりますね。

 魔石1個の使用期間が長くできます」


「じゃあ一番安いのと、標準的なのを一巻きずつ」


「それでしたらこれとこれ。

 120ギルですね」


 5個分で1120ギルか。安いんだろうな?

 俺は思い出したことを聞いてみた。


「そう言えばこのグレンズールーに石碑と洞窟のある場所ってのがあるって、ファーストルで聞いたんだが?」


「石碑ですか?

 洞窟ねえ。

 あ。あそこかな、外壁の外になりますけど、テルクラフト山の裾で平らな場所があるんです。

 古い石碑があって山裾に小さな洞窟があります。

 でもあの洞窟、短くて見るものなんてないらしいですよ?」


「そうか。西門の前を通る道を行けば良いのか?」


「そうですね。そっちが近いですね」


 クレアがふらふらと店の奥に行く。

 そこに並ぶ宝石が気になるらしく、じっと見入っている。


「なんだ、宝石買うのか?」


「うーん、でも高いんだよねー」


 値段で躊躇するのを俺もいくらか足すからと言うと、青の綺麗な石を二つ買っていた。


 タクシーは一旦西門を出て北上する。

 道は一本道、それでも40kmは走ったか。正面に森が迫る。

 道は外壁沿いに右へ右へと曲がって行って、ポカンと広い場所に出た。


 その広場の中央にポツンと背の高い石が建てられている。

 高さで10mないくらい、近づくと黒曜石のような漆黒に、何か模様なのか文字なのか判別のつかない細い溝が刻まれていた。

 洞窟はその奥に見える山肌に、黒く口を開けていた。


 クレアがカーナビの索敵をチェックする。窓を開け気配も同時に探る。


 特に異常はないと見え、一つ頷いた。


 俺は石碑にタクシーを寄せる。


 3人で降りて周囲を回って見たが、いつの時代のものやら、読めない紋様が刻まれた板状の背の高い石、それだけだ。


 次は洞窟か。俺は碑に一礼しタクシーに乗り込む。


 見上げるテルクラフト山は、独立峰ではなくクライス山脈の一部だが、この位置からだと世界はこの山ひとつと言っていい偉容だった。

 左は深い森、この広場正面から右手の広い範囲に岩肌を見せていた。


 その岩肌にポツンとひとつ黒く口を開いた洞窟。どこかで見たような風景……?


「ああ。石切場か。

 ここは古い石切場だったんじゃねえかな?」


 この辺りの岩の小山をひとつ切り出してしまったから、この広場があるのだろう。


「街の建物や壁に積んである石のこと?」


「いや。今はどう見たって切り出してねえ。

 ここは廃れたんだろう。

 あの穴の左が妙にゴツゴツしてないか?

 四角い岩もいくつか転がってる」


 そう言って俺はタクシーを向ける。

 一見平らに見える広場だが、切り出し跡の小さな段差が結構残っていて車体がかなり揺れた。

 穴が近づくに連れ、山裾の岩が一部切り出される途中だったらしいと分かる。


 高いところで3mほども、垂直の壁になっているからだ。

 そして角は丸くなっているが、明らかに長方形に切り出されたと分かる岩。


 洞窟の穴はそう言う壁の端の方にあった。

 上から切り出して行って、人が潜り込めるくらいの穴になった辺りで中止したかのように、下のもう2段は切り出されずに放置されているように見える。


 まさかこの穴が原因で、この石切場を放棄したと言うのか?


 既にこの場所はクレアの出自とは無関係らしいと分かっている。

 ここで先へ踏み込むべきだろうか?


「何にもないってお店で言ってたけど、ほんとかなあ?」

「中見てみたらええやん!」


 止める暇なんかなかった。

 さっさと車を降りて、高い石段をひょいひょいと乗り越えて行くクレアとメグ。


 入ってみた洞窟は高さ奥行きも見える範囲、持ち込んだ魔石灯を持ったメグがガッカリしている。

 だが入り口から差し込む弱い光の中、クレアは突き当たりの壁の前で首を傾げている。


「なんかあるんか?」


「なんか気配みたいのを感じるんだよね?」


 俺はと言うと、隅の壁に見える出っ張りがお地蔵さんに見えるんで、ちょっと手を合わせる。

 その額が光ったように思ったが、見直してもそんな様子はない。

 右手中指に痒みが走ってボリボリ掻いた。

 そのことはそれきり忘れてしまった。


 クレアはしばらくじっと奥を見透かすように見ていたが、じっくり調べる気になったらしい、岩壁に手を当てた。

 土魔法で探っているらしい。


 クレアが魔物の気配を読むのは出会った頃からのことだ。

 耐熱レンガを作った辺りから、土や岩の探査みたいなことができる様になった。

 効果範囲は数メートルでそれほど広くないが、できることは着実に増えている。


「細かいヒビが結構入ってるね。

 んん?奥に空洞がある。

 大きさはわかんないかな?」


「なんやお宝の匂いがせえへん?」


「なんだメグ。掘ろうってのか?」


「当然や。ウチは今冒険者やもの」


「それはそうだが俺たちの防御の要はタクシーだぞ?

 生身で入っていける装備なんかないだろ」


「せやな。魔力の要もイブちゃんやから、連れて行こやん」


 俺はこんなところ入りたくないんで、必死の抵抗だったんだが、メグにあっさり躱された。


「クレア、イブちゃんが通れるように穴掘りや。

 ファーストルでトンネル拵えたんと一緒やで、ええか?」


「まっかせといて!」


 最早抵抗する術はない。俺は岩をやっとの事で乗り越えタクシーに乗り込む。

 メグがボンネットを開けるよう俺に言って魔石を追加する。

 クレアが土魔法を発動しようと、右腕の腕環を翳す。

 切り出し途中で放置された岩の壁と洞窟の床は、一瞬で平らな通路に変わった。


 クレアに続いてメグが中へ進む。

 クレアはもう次の発動の準備を終えていた。


 奥の壁を抜くのは一瞬だった。

 何故か向こうから光が溢れる。

 だがその洞窟は床が低い。

 もちろん道路じゃないんだから、平らなわけがない。

 しかしこんな断崖のようなのは想像していなかった。


 メグは坂道を作ると言い出した。

 こう言う調整はクレアだけではできない。細かなイメージも、それに合わせた魔力配分調整も、メグの方が1枚も2枚も上だ。


 クレアは気配探知、メグは空いた穴の前方へ行けるとこまで行って先の状況確認する。


 俺もカーナビの索敵を試みるが、どうも上の山肌の魔物を拾っているように思う。あまり当てにはならないようだ。


「タケオ、イブちゃんってどのくらいの坂道やったらいけるん?」


 なんか物騒なことを聞くなあ?

 そう思って俺も先を見に行って、腰が抜けそうになった。

 7、8mはありそうな断崖だったから。

 しかし洞窟の中だと言うのに明るい。

 光源らしいものはないが、岩の凹凸が見て取れる。


 メグもクレアも気にした様子がない。

 魔法的な何かがあるんだろう。


 おっと登坂能力だったか。カタログ性能で、30度くらいの勾配は行けるようなことが書いてあったはずだが……


 メグには20度の勾配と教えてやった。

 20度って言ったって分度器があるはずもねえ。

 スマホの電卓で勾配に直すのは、やり方がわからず苦労した。タンジェントを思い出して他の角度を入れてみて…


 最後は絵をなるたけ正確に描いてみて。面倒くさいったらないのな。

 けど登れなかったら大事だ。

 だけど36%(1メートル進んで36cm下がる道路勾配)って、本当に登れるのか?

 そういや立体駐車場の斜路は結構きつい、あれくらいか?


 あと、急に水平から20度の下りに勾配を折ると、タクシーの腹が(つか)えそうだ。

 それも絵を描いて説明してやった。


 イメージが付けばメグならなんとでもするが、今回ばかりはタクシーを乗り入れる前に、足で確認した方がよさそうだ。

 そう思って出来上がった坂を降りるのは大変、登るのはもっと大変だった。

 メグの水網で上まで運ばれる始末だ。


 途中から天井を抉って、長い右カーブの橋のような仕上がりだ。

 一応縁石のような出っ張りが両側に付いた、幅3mほどの一本道。


 降り切った辺りの勾配は、徐々に緩くなるよう直してもらった。

 あのままだと、フロントやリアのオーバーハングが路面とぶつかり兼ねないし、ガクンという衝撃で車内の人や物が跳ね上がる。


 あまりに落差があるんで、滑り止めに横縞の溝を路面に追加で切ってもらったが、ちょっとこれは恐怖だなあ。


 とは言え男の俺がここでビビるってのはねえ。


 実はEVに乗るようになってから、下り坂はちょっとありがたい。

 4輪に仕込まれたモーターで発電するからだが、充電から動力が魔石になり、蓄電池のあったところが収納スペースに変わっちまった今はどうなんだろうか?


 こうやって運転席から見ると狭い道幅も相まって、恐ろしいくらいの下り坂だ、が、俺は行く。

 4輪モーターが強制回転するニュルニュル音に、タイヤが滑りつつ下るザリザリが混ざる。

 荷馬車を背負っているからブレーキは厳禁だ。押されるように下る50mほどの斜面はハンドルにしがみつくあっという間だった。


 そこからも1回に50〜80m。

 クレアの気配探知、タクシーが魔石を魔力に変換、クレアが発動を担ってメグが走路を成形ってのを繰り返し、奥へ進んでいった。


 途中、地下水路が現れ、左の洞窟へ曲がって流れ下る場所があって、そこで一旦止まる。


 ここへ来て、クレアがどちらにも魔物らしい気配があると言ったため、止まったと言うのもある。


「正面は近間に3つ、奥にまだいる感じ?

 左は5つくらいかなあ。

 なんとなくどこかへ抜ける気がする」


「水が下っとるさかい、川にでも出るんやろ」


 左の出口ってのがあるなら確認しておこうって事で、メグは作る道を左へ曲げる。

 元の洞窟は狭い場所や水路の沈み込む場所もあったが、タクシーの魔力を使うメグとクレアには関係ない。

 地下水路の上に新規のトンネルを掘る勢いで道を成形して進む。


 減ってきた魔石の補充が出来ると喜んでいるくらいだ。


 出てきた魔物はコウモリ型の(ダークバット)翼幅80cmほどの小さなもの。

 クレアが先陣で槍を使って、タクシーに向かう3匹をたたき落とす。

 回り込もうとした2匹は、メグが豊富な水を使ってやはりタクシーへ誘導した。

 水中からは口の大きなサンショウウオモドキが現れ、クレアの槍で貫かれていた。

 速い水路の流れに、そのまま流されてしまわないようにメグが水網で引き上げようと、ちょっと苦労していた。


 コウモリの羽根は肩口で切断、サンショウウオモドキ共々血抜きと解体をして荷馬車へ積む。

 幸い、クサミケシの在庫はたっぷりある。


 先へ進むと洞窟の先に眩しい光が出迎えし、地下水路は断崖の途中から滝となって下を流れる川へと落ちていた。

 その落差は5mほど、滝壺は広い池のようになっていて、俺たちはそこに転回場所を作ってUターンすることになった。

 いずれはこの先、眼下に見える森へも降りてみたいが今は洞窟の奥の探索だ。

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明らかに人工的に塞がれた複雑洞窟を、地形変化させながらタクシー走行でゴー…。 脳筋もびっくりの、力業ゴリ押し冒険…。 いつか致命的なミスをして終わってしまう刹那的短慮か、はたまた楽しい刺激ばかりで溌…
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