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グレンズールー

 セコンダルの外壁沿いを北へ回るルートは、そのままグレンズールーの西門へと続いていた。

 ただし道幅は馬車1台分だから所々に躱し場がある。


 なだらかなやや登りの道が10数クレイル(km)続く。大岩が地面から突き出ているのは相変わらずだが、木は少なく見通しが良い。


 タクシーは荷をろくに積んでいない荷馬車を引いて進んで行く。

 幅も背もある荷馬車で後方は全く見えないんだが、昨日までの作業で疲れたのか、メグが後席で寝ているのがルームミラーに映る。

 セコンダルを出てから気温はぐんぐん下がって、メーターウインドウに表示される外気温は5度だ。


 岩と雲がちな空を見ながら進むうちにクレアが

「なんかいるよ。

 右の先の方」


 見るとカーナビ画面の赤い丸が踊っている。


「ずいぶん動きが速いな?」


「うん。

 さっきからぐるっと回ってるのもいるみたい」


 元々大した速度でもないが一層慎重に近づくと、上空に鳥のようなものが旋回している。

 それも複数だ。


 ここからだと小さく見えるんだが。


 岩の影に何かいる。

 索敵画面であまり動きのない印はあれか?


 クレアが拡大してみるが岩陰のせいかはっきり映らない。

 上空の鳥がタクシーの正面から舞い降りた。


「うわ!

 なんだコイツ、翼竜みたい!」


 皮膜を広げたコウモリのような翼は、道幅よりずっと広い。長い嘴に鋭い歯が並んで見えた。


「なんや賑やかやなあ、どないしたん?」


「空を飛ぶ魔物みたいだよ。

 何匹か飛び回ってるの」


 大岩の影から少し離れた大型のトカゲ。

 黒の森で見たファットリザードとは違い、手足を横に広げ地面に腹這いになっている。

 スリムな体にゴツい足、背骨に沿って青いライン。

 体長は2メートルくらいとやや小型だ。


 舞い降りる翼竜の嘴がその背を襲う。

 上空に3匹回っているのが見える。


「ロックリザードにエンプテラ?

 飛んでる方がエンプテラだって。

 どうする?通るのは良いけどちょっと近いよ?」


「ちょっかいかけられてもアレやし、折角の魔石や。

 ちょいっと狩ったろやないけ」


 メグは腰のポーチをポンと叩いて見せた。

 ポーチにはブースト用の魔石と塩の小玉が収まっている。

 雷で一網打尽を考えているのか?


「飛んでる魔物に雷を落とすなら、雷を地面まで誘導した方がいいぞ?

 地面のどこに落ちるか分からんから」


「ほう。そないなもんか。

 了解や」


 メグとクレアは一斉にドアを開け車外へ。

 俺はここから見物だ。

 万一雷の狙いが外れてタクシーに落ちても、中に居れば問題ない。


 メグの詠唱から上空高くに黒雲が湧く。

 上空を回っていたエンプテラの2匹が、やや離れて回る。

 雲を邪魔にしたのか、魔法を警戒したのか。


 低空を飛び回るうちの1匹はロックリザードに突っかかり、尾の反撃を受けている。

 もう1匹はタクシーが気になるようで、旋回して上を通るのはもう3回目だ。


 メグもクレアもタクシーの近くにいるので、防御結界の中だろう、心配はないはずだ。


 ハンドルに覆い被さるようにして見上げていると、水球が一つ猛スピードで昇っていくのが見えた。

 5匹の、しかも空中を飛び回る魔物相手にメグのことだ、あれだけのはずがない。


「行くで」


 俺は耳を塞ぎ下を向いて目を閉じる。

 屋根に遮られた車内にいても瞼を通し明るくなるのがはっきり分かる。

 押さえた掌の向こうからドドンと音が聞こえタクシーが揺れた。


「2匹外したで。

 2つ同時は難しいんやろか?」


 後でメグに聞くと上げた塩水球は4つだった。

 上の水球で上空の2匹まで雷を呼び、地上に向かうのをそれぞれ、争う2匹とタクシー周辺を飛び回る1匹まで誘導しようと、糸に伸ばしていたと言う。


「雷やら、単発なんかなあ」


 メグがぼやくがそうじゃない、雷の放電をコントロールできるはずはないんだ。


 放たれた雷は上空の1匹を通って、タクシー回りを飛び回る奴に塩水の糸が伸びる、それを伝わって都合2匹を撃ち落とした。

 上空の1匹はそれを見て逃げ出すが、まだ黒雲はそのままある。


 メグがさらに魔力を流し、閃光と轟音でポカンと上空を見上げる2匹に、塩水糸が繋がる。

 これは後で聞いた話で見えたわけじゃない。俺は雷魔法の余波を避けるので精一杯だ。


「もう1発や!」


 俺は慌てて隠れたが、耳の方は片手がどこかに引っかかって遅れた。

 閃光と轟音の後、右耳がキンキン鳴ってよく聞こえない。


 メグは直列繋ぎに水の糸を並べるやり方を掴んだらしい。


 それ以上の雷撃は無く、後で見ると5匹分の大きなクチバシが屋根に積まれていた。

 空の黒雲は既に散っていて、元の白く霞むような薄い雲が上空を覆っている。

 柔らかい陽光が地上を照らしているばかりだった。


    ・    ・    ・


 グレンズールーの西門では、やはりと言うか時ならぬ連続した雷鳴に騒ぎが起きていた。

 ロックリザードとエンプテラ5匹を狩ったと、荷台の覆いを捲って見せる。


「あの雷はあんた方の魔法か。凄いもんだな、飛んでるエンプテラを落とすとは!」


「上を押さえてまえば、訳あらへんで」


 メグが珍しく鼻息荒く言い放った。


 ファーストルのトンネルについては、既に情報が上がっていたようで、俺たちは簡単な確認だけで中へ入れてもらえた。


 グレンズールーは石造りの建物がたくさん並び、街路まで石畳で覆われた街だった。

 近くによほど大きな石切場でもあるんだろうか。


「久しぶりの大っきな街だね。

 なんか良いもの売ってるんじゃない?」


「お前たち、宿を先に押さえたらどうだ?

 村じゃあ村長のとこで雑魚寝だったろ?」


「ウチらはイブちゃんの後ろで寝るんでもかまへんで?」


「お前たちに平らな場所を取られると、運転席になるから疲れが取れん」


「何言うとるん?3人並んで横になったらええやん!」


「あたしもそれで良いよ?」


「んな訳に行くか!!」


「ありゃりゃ、クレア。

 タケオ、機嫌悪いで?」


 助手席のクレアがクスッと笑った。


「あ、タケオ、あれ、商業ギルドじゃない?」


 クレアの指の先、装飾過多な石造りの建物が見える。

 看板は見覚えある商業ギルドっぽい。


 いや、商業ギルドなんだろうけど、未だにこっちの字が読めんから、似た紋様だなって……


「ちょうどええやん。

 ロックリザードとエンプテラを売ってまおやない」


「倉庫は裏手みたいだよ?

 そこ曲がってみよう」


 どこにそんな案内が出てたのか、クレアが指さした。


 言われた通り曲がってみると、果物や野菜の木箱がうず高く積み上げられた倉庫と馬車の列。


「おい!そこは邪魔だ!

 魔物素材は右の倉庫へ持って行け!」


 いきなり大声で髭面のおっさんに怒鳴られた。


 右と言うと、この車列じゃない。

 もう一本向こうの路地か?


 行ってみると倉庫の中には魔物素材が棚に納められ、カウンターに少年が一人。


 聞けば冒険者ギルドと違って、魔物素材の持ち込みはあまりないらしい。

 万一の来客に備えてバイトのような1人、カッツという名らしいが、少年が配置されている。


 荷の下ろし場所だけ示して、少年は大人を呼びにどこかへ駆けて行った。


 今回は皮の異様に硬いロックリザードと、経験のない翼竜タイプ(エンプテラ)だから、そのまま持ち込んでいる。


 下ろして待っていると、痩せぎすの小ざっぱりした姿のおっさんが現れた。


「ありゃ、捕ったまんまのやつかい。

 すまんが解体処理前の魔物は、冒険者ギルドに持って行ってくれんかね。

 解体や加工はここではやってないんだ」


「そりゃ済まなかった。

 この街は初めてなんだ。冒険者ギルドってのはどう行ったら良いんだ?」


「ああ、この路地の突き当たりの大通りを右に行ってくれ。

 目立つ建物だからすぐ分かる」


 路地の出口に魔道具店を見つけたとクレアが言った。


 あとで寄ることにして聞いた通りに進むと、大きな石造りの建物があり

「あれが冒険者ギルドだね。

 解体場所を聞いてくるから」


 クレアが助手席を降りてギルドへ入って行った。


 そのまま待っていると、クレアが出て来て手をヒラヒラ振る。

 左から建物を回り込むようだ。


 クレアについて行くと商業ギルド同様の大きな倉庫。

 中に荷馬車を曳いたタクシーごと入れる。


 荷下ろしのカウンターは右のやや奥にあった。

 メグがBランクのカードを出した。


「ロックリザードとエンプテラや。

 エンプテラはどないして解体するんか見たいんやけど、ええやろか?」


 メグとクレアが気にしているのは翼部分の解体だ。

 翼膜をどうやって2枚に分けるのか。


 表側は艶のある皮革で、裏面はびっしりと短い毛が生えている。

 その中に細長い手指のような骨が何本も通っている。

 当然嵩張る骨は外したいし、皮の用途を考えると表裏も分けておきたい。


「ああ。これの皮を分けるのは専用の道具があるんだ。

 尖った刃だとどっちか破ってしまうからなあ」


 そう言って見せてくれたのはシャモジだった。

 丸く平たい形状に長めの柄が付いていて、尖った部分などどこにもない。

 それを肩辺りで切り離した翼の根元から、骨に沿って押し込んで左右に滑らせる。

 一度に広げるのではなく、何度も少しずつ。


「言っとくけど、形だけ真似してもこうはいかんからな?

 こんなのでも一応魔道具なんだ」


「さよか。餅は餅屋言うとこやな。

 羽根はギルドに任せた方が良さそうや」


 そのまま買取してもらって3700ギル。

 魔石、肉込みだと少し安い気もするが。


 金額の書き込みを済ませ、帳簿を閉じてクレアが俺の手を引いた。

「タケオ、魔道具屋!

 魔道具屋行こ!」

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