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セコンダル

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 メグ(メグクワイア-ゼーゼル) 18歳

 オレンジブロンドの髪 緑の瞳 身長153cm(推定)

 東海岸 リョウシマチ出身 孤児

 魔法少女 水魔法使い(他に火と風) 短い木の杖を使用 B級ソロ冒険者

 自称叔父に飼われたあと 魔法の師匠(サナエ)の元で数年修行し独り立ち

 東海岸方言にコンプレックスを持っている

 魔力は強大


 ファーストルの畑から始まったらしい崖崩れ。

 水対策とトンネルでどうにか一段落だ。


 ここの野菜もシーレンジという果物も食べてみたが、なかなかの美味でヤマニ村で残念がっていた理由がわかる。


 次はグレンズールー。

 この村からも空に聳えるような山脈の裾に城壁が見えている。

 あの城砦の向こうにちょっとした広場があって、古い石碑と洞窟があるらしいと言うのは、村長夫人ナムルさん情報だ。


 頂の白い山々を左に見ながら緩く登る道は、割と整備されていて揺れが少ない。


「セコンダル言う村はなんや地面が()っくいらしいで。

 村で聞いた話やけど、そのせいで作物が色々作れる言うて村が出来たんやって。

 熱っつい湧き水が出るとこもあるて言うとったなあ」


 地熱?熱い湧き水?

 温泉か?!


 待て待て。

 有毒成分があったら風呂にはできん、熱すぎるんなら埋めれば良いだけだ、それが風呂に結びつかないのは、なんか理由があるんだろう。


「へえ。

 面白そうだね。村ってもう一つあったよね?」


「せや。

 サーダリルは広い小麦畑がある言うてたで。

 水はクライス山脈から流れて来よるで、農地にはええ場所やって。

 高い分、気温が低めやけどな」


「山から水が来るのか?

 それにしては川が見当たらないようだぞ?」


「川……

 それは(きい)付かんやった。

 今度誰かに聞いたるわ」


 最初の分かれ道はセコンダル。

 温泉候補と聞いて寄らない手はない。


 俺はハンドルを左へ切った。


 道は林を縫うように続き、半ば埋まったような岩が木の間に増えてくる。

 クレアが見るカーナビの索敵には、小さい赤丸がいくつかあるがいずれも遠い。


 木が少なくなり、地面から突き出た岩の表面の緑が濃くなっている。

 メーターウインドウに表示される外気温が、15度となっていた。


 ファーストルでは10度を下回っていたはずだが。


「岩の表面に見えるの、苔か何かかな?」


「この辺は湿気が多いさかい、そうやないか?」


 道路の緩やかな起伏を乗り越えると、木製の壁が目の前に広がった。

 道は左右に分かれ、壁沿いを走っている。木柵の両端はちょっと分からない。

 木柵越しの遠くの方に1条の白煙が昇り、上空で霞むように消えていた。


 入り口はどこだ?

 ああ、あれか?

 右の壁沿いに人影が見える。

 上に突き出ているのは見張りのための櫓らしい。


「セコンダル村へようこそ。

 変わった馬車だな、自走か。

 身分証を出してくれ」


 メグが後ろの窓から3枚のカードを渡す。


「商人に冒険者か。

 通って良いぞ」


 門を潜ると多目的な広場になっているのはファーストルと同じだが、門の右側に丸太組の塔が立っている。

 4段の床があって各段は梯子で昇降できるようだ。


 その一階が番人の詰め所らしく、タクシーに寄って来る若い女が一人。


「あたしはネスラだ。

 初めての人だね、ここの案内をするだよ。

 用向きを聞いても良いだか?」


「私はメグ。B級冒険者です。

 前にいるのがタケオとクレア、行商人です。

 私達はパーティで、こちらへは買い付けで来てます」


「買い付けかい。今時期ならナシ、モモ、クリなんかの木の実や、イモやネギの野菜だな。

 どれも美味しいだな」


「それは良いですね、ぜひ試食をお願いします。

 それと、熱い湧水が出るってファーストルで聞いたんですけど、それは見られますか?」


「試食だか。いくつかは共同の食堂で食べさせてるで、それで試すだな。

 湧き水を見るのは離れた場所からになるで。

 近づいて寝込んだりした者がいるんだ、危険なんだ」


 硫黄泉なのか?

 硫化水素だったか、向こうの硫黄系の温泉でも、たまに事故のニュースが流れてたっけか。死んだ奴もいるってたからなあ。

 扇風機で吹き飛ばして薄めてしまえば大丈夫なはずだが、それもなかなか大変か。


「畑と果樹園に案内するだが?」


「それならここに乗ってください」

 メグがドアを開けて左へ寄る。

 ネスラと名乗った案内の女は一瞬訝しそうにしたが、言われた通り乗り込んだ。


「ドアを閉めてくれ。

 移動するから案内を頼む」


 俺が言うとネスラは大人しくしたがった。


「広場を突っ切って赤い看板、共同食堂を右に行っとくれ。

 果樹園があるだよ。

 集めた実の倉庫もあるから見て行ったらいいだ」


 行ってみると、赤くなり掛けた大きな実がぶら下がる、果樹がズラリとあって目を引いた。

 手前の小さな倉庫などは霞んでしまう光景だ。


「この辺はモモだね。まだちょっと硬いからもう少し置いてるけど、あれもシャリシャリしてて美味しいだよ。

 食べてみるかい?」


 桃ってのはフワッとした皮で、中の果肉がべっとりしてるもんだと思ってたが、こっちじゃ違うのか?


 クレアが助手席から体を捻って振り向き

「食べたい!」


 相変わらずクレアは食にブレがない。


「じゃあ降りてみるさ」とネスラ。


 メグがネスラにドアの開け方を教え、皆が外へ出た。


 ネスラが果樹の下で背伸びして、薄く緑の残る実の軸をナイフで切った。

 実は10cmを超える大きなもの。

 それを手のひらの上で縦に半分まで切り込む。

 もう一本、1cm離し薄い3角に切り込むと、ナイフを抉って薄い実が浮き上がる。


「ほら。食べてご覧な。

 真ん中のタネはそこらに吐き出していいだ」


 真っ先にクレアが手を出して、薄い実を摘んで引き出した。

 ネスラは次の薄片を切ってメグに向ける。

 メグも一枚受け取り次は俺。

 シャリシャリと音がして、見ると細くなったモモの皮を持って笑みを浮かべたクレアだ。


「これ美味しいよ!」


 そんなにか?

 桃ってのは甘さと柔らかさが売りの果物だと思うんだが。


 俺も一枚摘んで、見ると白いしっかりした実で、中央の指2本程に種が固まっている。

 ガブっと噛み切ると果肉の甘い味が口に広がる。

 が、種周辺は苦味や酸味で美味いとは言えない。


 なるほどなあ。これを食ったやつは外側だけ食って、不味いから種とその周りをこうやって吐き出すわけだ。

 地面に落ちた種は不味い実を守りにして発芽するんだろう。


 シャリシャリとした歯応えの実は美味かった。


「緑色が残るうちはこんなだけど、熟すと身が柔らかくなってもっと甘くなるだな」


 傍では説明を聞きながらも、クレアがモモの薄切りを両手に持って一心に食い散らかしていた。

 俺とメグがもう1枚ずつ食う頃には、ネスラが持つ実の殆どはクレアの胃に消えていた。


「この倉庫にも、ここらの果物がしまってあるから見てご覧な」


 扉が二つあるのは、一緒にすると傷みが早い組み合わせがあるからだそうだ。

 中には収穫した果物の詰まった木箱がいくつも積んであって、モモ、クリ、ナシの他小さな赤い実、もっと小さい緑や青の綺麗な実なんかもあった。


 名前を聞いたがとても覚えられる数じゃない。


 畑の方はファーストルと違って蔓で棒に絡まる野菜が多く、畝ごとに緑壁が立つ感じで、畑の見通しは良くない。


 トマト、ナス、トウガラシ。

 俺が見てわかるのはそれくらいだ。

 いや、見た目が同じでも中身は違うかもしれん。


 とにかくたくさんの種類が倉庫に箱詰めされていたよ。

 そう言えば……


「この辺りも川ってないんだな?」


「そう、この台地はそこの高い山から地面の割と浅い下を水が流れているでな。

 あちこちに綺麗な水湧き場があるだが、また地面の下に戻っちまう。歩いていて水を目にするってことは、殆どねえな。

 集落には井戸がいくつもあるだけど」


「それは冷たい飲み水なんだろう?

 熱い湧き水とは違って」


「そうだよ。この台地の外れ、斜面から白くて熱い煙が湧く場所があるだ」


 そう言って指さすのは畑の奥の方。

 見える場所へ行く道があると言って、タクシーに乗り込んだ。


 ネスラの案内で畑を縫うように何度か曲がり、台地の外れに出た。


 こちらは壁ではなく、主に転落防止が目的の背の高い木柵だった。斜面の木は10数メートル下で切り開かれ見通しがいい。

 急傾斜なので、そう易々と魔物も登れないという事で木柵になっているんだとか。


 その柵の向こうへは簡単な門を潜ってタクシーが外周に出る。

 この道は入場した門へぐるっと続いているらしい。


 右に曲がると先の方で白煙が立ち上る。

 窓から吹き込む臭いに硫黄臭が混じる。

 プロパンガスなんかにも付いている「卵が腐ったような」臭い。


 俺は大昔によほど酷い目にあって、遺伝子に刷り込まれたんじゃないかと思ってるが、嫌な臭いの一つだな。


 少し先に今度は立ち入り禁止の低い木柵が左に立っている。


「今日は風向きがいいだから、先へ行ってくだせ。

 柵は超えちゃなんねえだよ?」


 こっちの道もしばらく手入れしてないようで草が覆っているが、酷い揺れはない。

 通りも少ないからか。


 道は斜面の端から大きく離れて行き、草も木もない黄色っぽい土や石の目立つ土地が一段低い場所に広がる。

 硫黄臭は臭いは臭いが、もう鼻がバカになったのか強くは感じない。


 地面からの噴煙が見えて来た。

 近づくと地割れから立ち昇っているらしい。

 その向こうに雲を映す水面が見える。


 細かな泡が立ち上るのは硫黄のガス、硫化水素だろう。


「あー。あれは熱いで。

 沸騰する手前やな」

 メグはこの距離でも温度がわかるらしいな。


 タクシーを降りて皆で木柵に手を掛け、別府の地獄谷を思わせる風景を見下ろす。


「ガス抜きして冷ましてやれば、いい温泉になりそうじゃないか?」


「ちょっ!

 タケオはん、ネスラん話聞いとったやろ?

 あの臭っさいガス、吸うたら死ぬんやで?」


「それくらい分かってるさ」


 湯の湧いている水面はここから120メートルくらい、ちょっと遠いが。


「なあメグ、クレア。

 あの熱いお湯を隣に広い箱を作って流せるか?」


「ちょっと遠いで。

 イブちゃん借りたかてウチだけじゃ届かへんけど、クレアに乗っかるんやったら届くかもや」

「そうか。

 じゃあ深さ1メルキくらい、幅は5メルキ、長さで100くらい左へ戻す感じでどうだ?」


「それやったら煙の穴、いくつか塞いでまうで?」


「先に暗渠で煙を向こうに抜いとく、とかできるか?」


「そんなんでええんか。

 簡単や」


 メグが木柵から杖を突き出しリペアを唱える。

 クレアが慌ててボンネットへ走る。

 運転席のボンネットオープナーを探る間にリペアが終わる。

 噴煙が止まったかと思うと、若干の間の後、噴煙の出口が遠くへ移動した。


 近い噴煙も纏めてくれたようで、ちょっとスッキリしたな。


「リペアやるんなら先に言ってよね!」

 ボンネットを持ち上げながらクレアが零す。

 ザラザラと、小粒魔石を袋から一握り移す音がした。


「ああ、堪忍やクレア。

 大した事ない思て、うっかり先走ってもうたんや」


「それでこのままやるの?

 上から見た方が良くない?」


 何が起きたのかも分かっていなかっただろうネスラが、上と聞いてギョッと表情を変えた。

 それを見て、肝心なことを聞いていないのを俺は思い出した。


「聞くの忘れてたが、この場所って何かに使ってるのか?」


「危ない場所だで何にも使ってないし予定もないだで。

 何をする気だ?」

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