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ロックゴーレム

人物紹介 (本編はこの下にあります)

 飯山健夫 通称タケオ 68歳

 身長 150センチ(自称) 薄い白髪

 中野林市の個人タクシー運転手

 妻とは3年前に死別 子供2人 孫4人

 所有の個人タクシーと共に異界へと転移した

 戦闘力は皆無 戦後世代で貧困を経験している

 食べるため過去に幾つかの職を渡り歩いたことがある

 自信無さげな振る舞いが多いが内に熱いものを持っている

 南に降る時に見たヤマニ村の道標。

 俺たちはここを曲がらず真っ直ぐ行った。村は少し低いので南街道からも全容が見える。

 家が40軒くらいしかない小さな村だ。


「村までも道も直しておきたいな」


「いいんじゃない?

 やっちゃおう!」


「その代わり言うたらアレやけど、そろそろ新鮮な肉が欲しいやん?」


 メグが言うのも尤もだ。

 泥道の排水をやった時に狩った肉は小物が多くて食い尽くしてしまった。


「この村でなんか手に入るといいな」


 下り坂の村へ続く道は馬車2台分、分岐から左へ大きく曲がり右へ直して村の入り口、丸太組の門に続いている。

 この距離なら1回で行けそうだ。


 この頃クレアもリペアに参加するようになった。

 メグが言うには土魔法の発動をやってもらってるらしいが、体感で2割くらいの魔力の節約になるらしい。


 消費する魔石が減るのは大歓迎だ。クイツクシムシの小粒はまだ3袋あるが、大きいのは全部あの泥道で使ってしまった。


 また魔石狩りをしないとだな。


 ここは見晴らしが良いので、南街道からも600m程の道が全て見える。

 クレアとメグが並んで「リペア」をかける間、俺はMS容器へ小粒魔石の補給係だ。

 容器の口まで平らに入れられた小粒魔石が、ザカザカと中へと下がっていく。

 そこへビニル袋から両手いっぱい掬って足し入れてやるんだが、減り方が思ったより少ない。


 手に盛った魔石の大半を使わないうちに、リペアが終わってしまった。

 幅も狭いし、距離もないからこんなものかとも思うんだが。


「タケオ、何しとるん?

 道はもう直っとるで。

 村へ行こやん」


 おっといけねえ。


 俺は袋の口を軽く畳んでボンネットを閉めた。

 クレアは助手席、メグが俺の後ろに既に乗っていた。

 ヤマニ村へ行ってみよう。


 タクシーは坂を下り始める。


「変わった馬車だな。自走馬車で荷馬車を曳くなんてのは初めて見たぞ」


 門番の男が俺たちを止めて言う。


 俺は商業ギルドのカードを見せ、

「俺たちは魔物の討伐も請けるが、行商人だ。

 肉や生鮮野菜があったら買いたいと思って寄ったんだが」


「村で取れた野菜はあるが、今年はちょっとなあ。

 いつもならグレンズールーから、ルーレンジなんかが入ってて、お互いいい商売になったんだろうがな。

 まあ、どんなもんか見てくと良い」


 商業ギルドのカードを見せただけで、通行OKとはあっさりしている。


 入村して見ると見掛ける村人の表情が暗い。

 ベンチの爺さんを捕まえ、ちょっと聞いてみた。


「この先はヤイズル街道へ抜ける道になっているんだ。大きな崖崩れがあってねえ。

 いつもなら、この辺にはない果物や野菜が運ばれて来るんだ。

 残念な話だよ」


 ヤイズル街道は南街道同様、王都から南へ下りヤイズルを通ってシーサウストまで向かう街道だが、クライス山脈を挟んで西側に通っていてこの国の主要街道だ。


 道はこの村を通って東門からヤイズル街道へ抜けられるらしいが、それが通れないと言う。

 途中、高地にあるグレンズールーに通じていて、その辺り一帯で採れる高山野菜や果物が、全く運ばれてこないのだそうだ。

 

「グレンズールー……

 ラーライって地名があるか聞いてる?」


 クレアが教えてくれた爺さんに聞いた。

 なんとかズルのラーライ石碑。クレアの母の故郷を探すキーワードだ。


「いんや、聞いたことないよ。

 グレンズールーは山裾の高台にあって、周囲の3つか4つの村に囲まれてるってのが行商から聞いた話だよ」


 こりゃあグレンズールーまで行って来る流れか。


「メグ、クレア。

 崖崩れってのは、土魔法でなんとかなるものなのか?」


「見てみんことには分からへんで。

 崩れる上を固めるなり、道のとこだけくり抜くなり、なんや方法はある思うけど、どうやろか」


「あたしは行ってみたい!」


 爺さんに聞くと基本一本道で、途中に魔物が出ることがあると言うが、それはどこでも一緒だ。


 村特産という野菜を3種類程買ったが量はそれほどない。

 西へ向け俺たちは出発した。

 こちらの道はずっと馬車2台幅で続いており、南街道よりはマシな状態だった。

 と言ってスムーズに走れるほど道がいいわけでもない。所詮踏み分け道だ。

 向こうの砂利道と比べても良いとは言えない。


 リペア5回で谷を縫うように道を直しながら進むと、山陰からさらに大きな山塊が見えてきた。


「この先に()っきな赤丸!3つだね」


 クレアが警告する。

 道は右へ折れ山塊の山裾に沿って進む。

 右は水面は見えないが一段低い川で、左は木々に覆われた急斜面だ。


 地形なりに左へ大カーブ、その先で右へ戻る。


 曲がり切って、視界が開けたところで目に飛び込んできたのは、左の切り立った崖から崩れ落ちた暗配色の大量の土砂。


「崖の上っぽいよ。気を付けて!」


 クレアの警告に見上げるが、見えるのは崩れ跡の大きな抉れと、ぶら下がるように倒れた大木だ。


 ひとまずタクシーを停め降りて見る。

 メグがクレアとスマホを交換し、クレーンで上から偵察に上がる。


 クレアの持つガラケーがピリリと鳴った。


「なあに?

 ロックゴーレム?

 大物ねえ。でもなんだ、肉は無しかあ」


「なんだ、ロックゴーレムって?」


「ああ。あたしも見たことないんだけどね?

 岩がね、人の形に繋がって動くのよ。

 スライムと一緒で核を壊せば倒せるっていうよ?

 けどそれがどこにあるかが、なかなか分かんないらしい。

 あと、核を覆ってる岩をまず壊さないとね」


 おい、それは強敵なんじゃねえのか?


「メグちゃんがね、任せろって」


「任せろって何する気なんだ?」


 言ってる間に崩落箇所の上空に黒雲が集まり始める。


 うわっ。雷か。

 あの雲の濃さは上級か?


「おい、クレア。

 逃げた方が良くないか?」


「塩玉飛ばすはずだから、滅多なことないでしょ?」


 そんなやり取りの間にも黒雲は濃く高くなって行く。

 上空では周囲にパリパリと放電が始まった。


 おい!おいおいおい‼︎

 上級どころじゃねえぞ!?


「行っくでえ!」


 はるか上からメグの声が届く。

 俺は慌ててタクシーの陰にしゃがんで地面を向く。

 直後。地面にタクシーの影が焼き付く。

 ガラス越しに写る俺の頭、後頭部が熱い!

 続いて轟音。


 ズガガガ……


 音はそこで途切れ、静かになる。

 全くなんの音も聞こえない。


 恐る恐る立ち上がるとクレアが満面の笑みで跳ね飛んでいた。

 が、音が全く聞こえない。


 クレアがこちらを見て怪訝な表情を浮かべる。

 口が何か言おうとするが声はない。


 駆け寄ってきて両肩を掴んだ。

 また何か言おうと……

 俺の耳か?聞こえてない?


 クレアに運転席へ押し込まれた。ドアを閉め両手で下へ押さえるような仕草。


 じっとしてろってか?


 俺は片手をあげて応える。


 クレアは崖崩れの方へ駆けて行った。

 崩れた土砂に裾に大きな岩がゴロゴロ。


 あんな大きな岩って、さっき見た時気が付かなかったな?

 と、ひと抱えもある岩がひとりでに積み上がる。

 その上に背丈を超えそうな巨岩が乗った。

 見ているうちに人の形に岩が積み上がって、どうやって繋がっているのか、2本の腕がぶら下がる岩で(かたち)付いた。


 あれはやばいだろ!


 俺はカーナビ画面の赤丸をガシガシ拡大する。

 その間も無音の世界は続いているが、とにかく拡大だ、どっか弱点が見えるかも!


 すぐにロックゴーレムはポリゴン表示になって胴体のすぐ下の岩、人なら右の腿にバツ印!


「クレア!右の腿だ!

 右の腿!」


 自分の声も聞こえねえのか、どうなってやがる。


 メグが降りて来てゴーレムを氷責めにすると、表面にキラキラ欠けた氷を纏って動きが鈍くなった。


 クレアの槍が腿を叩くがその音は聞こえず、ゴーレムも動きは変わらない。

 反撃の岩拳を余裕で躱わすと、その拳をメグが地面に氷漬けにした。

 これで両脚と右腕が拘束された格好だ。


 しかし構成する岩は硬く、右腿に核があるらしいと分かっても、攻撃が効いているようには見えない。


 何を思ったのか、クレアが素手でロックゴーレムの腿を触りに行った。


 が、左の腕に払われ跳ね飛ぶ。


 やられたのか!?


 クレアは地面に片手を付いたが両脚を踏ん張り着地した。


 そのあとはロックゴーレムの腕の届かない場所で、突き出した両手を向け動きを止めた。


 そこそこ距離のある俺にも分かる。

 核のあるらしい右腿の岩がぼんやり光っている。

 その光は赤だ。

 赤い光がその1個の岩を包んで行く。

 ゴーレムの右脚が自由になったが、屈んだ体勢ではどうにもならない。

 蹴るように振り回した足の岩もクレアに届いた様子はない。

 無音の中のロックゴーレムの舞。


 その間にも赤い光は強くなっていく。


 ふとメグを見た俺はギョッと息を呑んだ。


 抱えるほどの真っ白な塊が、メグの手の届く空中に浮いていた。

 

 あれは。まさか?


 周囲の空気まで巻き込んで凍らせた、結界内の超低温のアレか‼︎


 クレアがゴーレムの前から飛び退くと、メグが白い塊を打ち出す。

 真っ直ぐに赤く光る岩にぶつかって行く。

 白煙はブワッとばかりに吹き広がり、何も見えなくなった。


 モウモウたる煙から数歩離れた位置に立つ、メグとクレアは動かない。

 やがて薄れて行く白煙から現れたのは、もはや動くことのない岩の小山だった。


 こんなハラハラするのはジジイにはキツすぎる。


   ・   ・   ・


 耳はメグがリペアで治してくれた。

 どうやら轟音で鼓膜が両耳とも破れたらしい。


「ウチ、ちゃんと行くでえ、言うたはずなんやけどなあ。

 なんで耳塞がんとボーッとしとるかなあ」


 散々な言われようだな、おい!


「まあまあ、メグちゃん。

 お爺ちゃんいじめちゃダメだよ」


 お前も大概、言ってること酷いと思わんか?

 まあいい。


「ロックゴーレムって3体いたんじゃないのか?

 索敵に大きな丸が3つって……」

「せやねん!

 3体おったんや!

 だからウチが小粒4個握り込んで、超上級の雷魔法打ちこんだったんや!」


 あー。

 やっぱりあの異常に濃くて高い雲は上級の上か。


「そしたらやで?

 2体は間違いのう仕留めたんや。

 ところがや。

 1体核が残ってもうたんやろか、仲間の魔石集めよったんか、復活しよってん!

 それがあのロックゴーレムや」


「魔石を集めて復活!?

 そんなことがあるのか?」


「さすがタケオはん、尤もな疑問やで。

 ウチも見るまで知らへんやった。

 けどアレ、5割増しで大きいなっとったで?」


「そんなものよく倒せたな。

 クレアがあいつの腿に触ってたように見たんだが、何したんだ?」


「タケオー、良く聞いてくれたよー。

 あれね、土魔法の加熱!

 ほら、炭焼きの窯で熱っついレンガ見てたでしょ、あたし。

 コイツ赤めてやった後、冷やせばパックリ割れるんじゃないかってさ!

 冴えてるでしょ!」


「そこはウチも長い付き合いや。

 思いっきり冷やしたったで」


 いや、お前長い付き合いって、一月かそこらじゃねえか!

 てか空気まで凍らせやがって、冷やしすぎだ!


「タケオお爺ちゃん、興奮すると体に悪いよー?」


 はあ……

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