草刈り
今週も3話行きます
今日こそは草刈りやって、タケオはん張り切らはって。
昨日はウチらがわがまま言うたさかい。
シーサウストとヤイズルをクレアと交代で運転したった上に、荷馬車買うてリペアやもんなあ。
なんやレンガでやってみたいことでもあるんやろか。
もちっとのんびり生きたった方がええのんやろうに。
「荷馬車の方はこれで良いな。
ウォルトはどうした?」
「すぐ来るよ」
「タケオ、そない慌てんかて草は逃げよらん思うけど?」
ウチが宥めて静かにはなったんやけど、運転席に潜り込んでしきりに体を揺すっとった。
「ねえ、なんかあったの?」
「いーや、なんもあらへんよ。
あれやない?昨日、ウチらがわがまま言うたさかい、レンガ焼きが遅なっとるからやないやろか?」
「あれかあ!ありそう。
ちょっと悪い事したかなあ」
「お、ウォルト、来よったで!」
ウチはタケオの後ろ、クレアは助手席に回る。
客席ドアがスライドして開く。
まあだ離れとるやん。せっかちさんめ。
ウォルトは木の棒が突き出た袋を先にウチの方に押し込んで窮屈そうに乗り込みよる。
体の大きいウォルトが助手席でも良い思うんやけど、なんとのう今の形で席順は落ち着いとるんや。
あと、カーナビとクレアのスマホが被る言うんがあるけど、ウチが借りればええこっちゃ。
「出すぞ」
イブちゃんはタケオの運転でヤイズル湊中央通りを走って、埠頭を右に見て東門へ向かう。
門を出たら5分くらいやろか。
この街道の移動時間は無茶苦茶短こうなった。
とか思とるうちに橋渡って左へ。
曲がりのとこに荷車がまだちゃあんとあったで。
一応街道から見えんように隠したったんやけど、ウォルトがほっとした様子やった。
川を遡って行くと視界が開けよった。
もう見える限りの草や。
踏み分け道もいくらも行かんと、地面を覆う草に飲み込まれみたいに消えてしまっとる。
「ここがそうです。
良い草でしょう?」
いや、ウチら、草見たかて分からへんし。
「薬草がチラッと見えた気がする!」
「今日集めるのは薬草じゃないぞ。まあほどほどにな」
タケオもクレアの薬草好きには半分諦めが入っとるなあ。
「一応索敵は頼むで?」
索敵より先に近寄るヤツ見つけよるんが居るけど、先に見といたほうがええやろ。それせえへんかって、タケオ攫われたんはまだ記憶に生々しいよってなあ。
カーナビ画面には小さ目の赤丸が、それぞれ離れて3つほど見えた。
「これ、一面ばっさり行ってええんか?」
「一面って、僕、鎌を用意してきたんだけど?」
「要らへん」
「ほら!
メグちゃん、また物言いがキツいよ。
もっと口調を柔らかくしないと」
普通に喋っとるだけやん。
そら、公用語ん時より短こなるけど。
端折ったらキツなるんやろか?
「ほな、要らん草とかあるんかい?」
「葉っぱや実、花なんかは要らない。
欲しいのはこれみたいに、筒の形になってる茎だけなんだ。
多少混じるのは仕方ないけどね」
「刈ってからにしろその前にしろ、分けるんは大変やなあ。
乾かせば葉っぱは飛びよるかな?」
川がそばにあるよって水魔法は使い放題や。魔力は最悪、イブちゃんから借りてまえばええし。
「ほな、行くで」
初級の水魔法やけど範囲が広い。
とりあえず10メルキくらい行っといたろか?
ウチは腰を落とすと、魔力を杖に載せ地面のすぐ上を横に薙ぎ払う。
杖の先の草がほたほたと、ウチの動きを追いかけるように倒れよる。
刈り倒した範囲を横目で見ながら、そのままぐるっと刈って行く。
こっからがちょい難しいねん。
刈り倒した草の水気を下へ、地面との間におろして網を作るんや。
範囲が広いよって繊細な作業や。
草の水が全部抜けよった、けど、ちょい足らん。地面からも借りよ。
目も細かい方がええやろ。
んー、風の通りを考えたら、もっと高い方がええのんやろか?
そのまま周りの草丈の上くらいまで上げたった。このままじっとしとき。
さあ、次や。
ウチは水網に注意を一部残したまま川の方を向く。
こっちも草ぼうぼうで水なんか見えへんけど、川があるんは知ってるし感じよる。
その水の中からひと抱え程の水の玉を引っこ抜いて、草の載った水網の上や。
この頃ウチの中ではカーテンが面白いんや。
風魔法も使えんことはないんやけど、弱いんや、ここでは役に立たへん。
カーテンの裾は1メルキ上でええやろか?
4隅をピンと張って、大っきな水団扇で軽い葉っぱだけ飛ばしたろ。
やって見ると、破れはせんやったけど、むっちゃ孕んでもうて風なんか起きひんのな。こっちも網目の間に薄い膜、みたいにせんとあかんなあ。
みんな呆れたような顔しとるけど、今だけや、見ててみい。
ほーら、どうや。うまく行ったやんか。
下に向けた風にしたいかもや、ちょい傾けてみよか。
何回か風を当てる言うと葉っぱはうまいこと飛びよった。
「あとは頭の種ちゅうか、これどないしよ」
「そこはリペアじゃないの?」
「いや、これ、全然関係あらへんし」
「そうかな?
だってさ、カーナビのメニューには変形とか整形なんて話はでこないんだよ?
逆にメグちゃんだって一人でやったらショボい変形しかできないじゃない。
何でかなんて分かんないけど、合わさるとすごく大きなことも、細かい調整もできるようになるんだよ」
ウチかてそうやないか、思てたけどこれでも魔法少女やで、魔女の端くれなんや、ウチの力が足らへんとか認められへんやん。
でも、そうかあ?
刈ったんを分けんと、みいんな細っそい管に変えるん?
「なんや、面白そうやなあ!」
そうと決まればこんくらいじゃ力が余る、言うもんや。もっと刈ったろ。
「広く刈るさかい離れとき!」
タケオとクレアは慣れたもんや。
タケオはウォルトの手を引いてイブちゃんの脇に、クレアはボンネット開けて手を振りよる。
イブちゃんの魔力借りてまえば、見える範囲やら、みな行ける。
左の川っぺりまでぐるっと半円を描いて、途中に生えた細い木なんかもお構いなく、地面スレスレに水刃で薙ぎ倒す。
さっすがイブちゃんやで!
このまま水網出して集めたろ。
草木は水抜いたら軽なって、扱い易いんや。
さっきと同じで足らん分は地面から借りて、広く半円に伏せた草をウチの目の前、扇の要ちゅうんか?
向こう端から捲るみたいに、手前にどんどん転がして集めたった。
ウォルトが「うわああ」とか叫んでるけど、そんなん無視や。
草が津波みたいに押し寄せてくるんや、無理は無い思うけど、ウチの邪魔や。
流石に集めて見ると高さが5メルキを超えた。幅も30メルキはあるなあ。
これどないしたかて荷馬車に載る量やないで。
ちょっとやりすぎたかもやけど、まあええやろ。
ウチは後ろを振り返る。
「どのくらいのんがお好みや?」
ウォルトが恐る恐ると言った体で出て来よる。
あ、クレアに背中押されたんやな。
食いつかれるんやないか言うオズオズの足取りで草山に近づいて、手を伸ばす。
何本か山から引き抜いて見比べよった。
こいつ根性あるで、もう落ち着いとる。
「僕もよく分かってるわけじゃない。
でもこの辺がいいと思う」
見たらえらく細っそいのからちょい太めまでのんが3本やった。
「3つかあ。
せやな、3つに分けたろか?
長さは荷馬車に載るんやさかい5メルキが精々やな」
草山のだいたい1/3を細っそいのんにしたろ。長さは5メルキや。
こんなもんやろ、いてまえ!
「リペア!」
「おおお!」
ウォルトの声や、うるさいやっちゃ、いい加減慣れたらどないや。
けど、やっぱまとめたかて多いなあ。荷馬車5回で運び切れるやろか?
「どや、ええ感じやないかい?」
「この荷馬車1台でも1年は使えるよ。
こんなにあっても腐らせてしまう」
「いや、待て。
これだけ太さ長さが揃った物なら、商業ギルドに売れるかも知れん。
ヤイズル埠頭の倉庫ならこれくらい屋根の下で保管できるからな、いい値段が付きそうじゃないか?」
ウチはあの樽の積み上がった大っきな倉庫を思い出した。
確かにあんな大っきな倉庫やったらタケオが言いよる通り、ここにあるんは皆仕舞えてまうやろ。
「けど、なんぼ商業ギルドかてこんなん買うてどないするんや?」
「向こうの話になるがな、糸で布みたいに束ねて、茣蓙っていう敷物作ったり簾と言う間仕切りを作ったりな。
そういやこっちにも筵があったろ。あれの丈夫な奴とかな」
筵は確かに丈の高いだけの草を細紐で編んだだけのものや。あれの材料が目の揃った茎や言うたら、だいぶ違たもんになるなあ。
「いい材料になると思わないか?
もう少し太いのも合わせてやってみてくれ。
これ積んでクレアと商業ギルドまで行ってくる」
「ほな、ウチはウォルト使て、あとはテキトーにやっとくで。
って、んなわけあるかい!
イブちゃんおらんやったら、リペアでけへんやん」
「あれ?そうだったな」
「なんや、素でボケとるんやないかい」
「あはは。みんなで行けばいいじゃない」
作るとこ他所のもんに見られるんも、どないや言うことで、草の山は皆リペアだけ終わらすことになった。
ウォルトが欲しいんは細と太で、中くらいのんは無うてもええ言うこっちゃ。
せやから最後のんは、1セロト近い太っとくて厚い管にしといた。
3種類の草管を荷馬車に積むんもウチや。
なんや働きすぎちゃうやろか?
載せて見ると荷台より長いんで、後ろの堰板を外して脇に置いて、混ざってまうけど分けるんは簡単や、草管はお構いなしに3種類山に積んだった。
クレアとウォルトで固定のロープを掛けて、クレーンで荷馬車にフック掛けよったら出発や。
ヤイズルの商業ギルドには長のハイタワーがおったよって、話は早よ進んだ。
使い道がわからん言うて渋っぶい顔しとったけど、タケオが簾や茣蓙の話聞かせよったら、目の色変えとった。
クレアの口がニマニマしとったよって、ええ値が付いたんやろ。
ウチならもっと厳しい交渉するとこやけど、働きすぎや、今日んとこは大人しいしとくわ。
このほかに15回分くらいある言うたら、ハイタワーは急いで馬車と人足の手配をして、埠頭倉庫にご案内や。
そら夜露で濡れるんは嬉し無いわなあ。
見かけた弁当屋で適当に昼弁当買うて、川っぷちに戻ってお昼や。
レジャーシート敷いて簡単なスープ拵え、食べる弁当はなかなかやった。
周りの草は皆刈ってもうたから、座ってても川向こう、対岸までよう見える。
しばらくそうやってまったりしとったんやけど、なんや気になるもんが川の方にあるんや。
何が気になるんか自分でも分かれへん。
見に行くことにしたらウォルトが付いて来よった。
一人で水の近くは危ない言うんやけど、水魔法使いに言う言葉ちゃう思うで?
まあ、厚意で言ってるんやさかいええけどなあ。
気になるんは、1本の木や。
背の低い割に、葉っぱの影に太目の枝が付いとるんが見える。
なんや魔力の強いとこがあるみたいなんや。
右の枝や。
葉っぱ払って見ると、枝の途中に瘤ができとった。
この木、なんや見覚えあるなあ……
確か師匠んとこで…
あ!土属性の杖の材料や。
それ程強力なもんやない言うたったけど、この瘤は使えるんやないやろか。
「ウォルト。ここ持っててくれへん?
この枝伐るよって、落さんようにしたってや」
瘤の辺りをウォルトに持たせ、少し下を水刃でチョンと切ったった。
そのままいらん枝葉を払って、クルクルあちこちの角度から見せてもらう。
「ええやんか。戻ってあっちで加工しよか。
イブちゃんのそばがええよ」
クレアの土属性の杖に良さそうな枝や。こら、儲けたで。
クレアは相変わらずの革鎧や。
革のゴツい帽子にイカつい肩当て、頭から被る胴鎧は腰下まであって無駄に太く見えよる。
腕は二の腕の途中まで鎧ってるけどあとは丸見えや。ほんで、ゴツい革の編み上げ靴。
可愛いとこなんか1個もあらへん。
「メグちゃん何とって来たの?」
「後でな。今見ても分かれへんでえ」
「ふうん?」
クレアは槍使いや。土魔法はそこそこやけど、戦闘中に魔法なんか使えへん。
使たらもっと強なるで。
問題は槍は両手で使うよって、杖なんか持たれへんこっちゃ。
ウチやったら、手で目標を指す代わりに杖で指して狙いをつけたりするとこやけど、クレアは槍で指す方がええんやろか?
でもなあ。
いっつも槍持ってるわけやない。
解体なんかで穴掘りしたりするし。
普段やって魔法が使えたらええ時もあるなあ、杖やない言うたら何にしよか。
使うんならこの瘤んとこや。
結構大きいけど、形変えんと可愛くは無いなあ。
「メグちゃん、さっきからずっとあたしのこと見てるけど何なの?」
「あー、ゴメン。
どうやったらクレアがもっと可愛なるか、考えとった」




