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材木 粘土採取

2話目!

 俺たちは炭の材料になる木を伐採し、炭焼き場まで運んで来た。

 メグが乾燥と木の曲がりの処置をあっさり解消してしまい、次はどうしようか?と言うところ。


 ところで今まで採算はどうなってたんだ?

 商業ギルドで売り値は聞いて来たが、そう大きな稼ぎになっているようには見えない。

 それを今聞くのもどうなんだって感じだが。


 俺が考え事をしている間にも若いものの話は進んでいる。


 ウォルトは21歳だそうだ。

 ビンチョ爺さんに連れられて、引っ越しの時だけ頼む組合の馬車の後にくっつけた、荷車で移動ってのを2、3年置きで4回やったそうだ。


「でも参ったなあ。今日の半日で1回分材料が乾燥まで終わるなんて。

 今の窯は冷えるまで8日の間触れないし、もう一つ掘るしかないか」


「掘る?

 あの窯って掘るものなの?」


「小っさい窓が付きよったんは、石壁みたいやったけど?

 釜ってあれちゃうんかい?」


「あれは焚き口に覗き窓って言ってね、上下に小さく穴が開けてあるんだ。

 物の出し入れはあの右側に大きな口がある。

 土を焼いたブロックで塞いで、目塗りしてあるから見ても分からないかな。

 冷えたらそこの壁を壊して、中の炭を外に掻き出すんだ。

 それで火は下で燃やすんで、先ず穴を掘る所から始めるんだ」


「それで掘るいうんやな」

「土を焼く?

 ちょっと想像できないんだけど?」


「あれ?

 街で石壁の建物ってみたことない?

 あれはほんとの石を四角く切り出してきて積み上げてるのもあるけど、土を焼いたレンガを積んだのもあるんだ。

 ここはあまりいい粘土がなかったんで、出来は良くないんだけど、炭を焼く分には問題ないからそれでやってる」


「レンガはウチ、積んで壁つくっとるんを見たことあるで。

 アレ、土を焼いたものやったんやな」


「うーん、壁積みレンガって細かく言うと、天日で干しただけのもあるけど、それはいい粘土じゃないとできないかなあ。

 乾燥に時間がかかるし」


「レンガひとつとっても色々あるんだね」


 だいたいは向こうでも聞き齧った話だが、こう言うのは場所や工房ごとに違いがある。余計な口を挟んでもややこしくなるだけだが。


「それで、窯を作るって先ず何をするんだ?」

 こっちのやり方にまずは従わんとなと思い、俺はそう聞いてみた。


「僕が教えられた手順で言うと、道は大体伐採や移動の都合で山のあちこちを通っているんだ」


   ・   ・   ・


 話には前後があったり聞き直したりで長くなるんで、メグの作ったメモを元に書き出してみた。


 ウォルトがビンチョから教えられた手順


 そこにある道の条件に合う場所を探し、広場に切り拓く。

 条件は大きくは炭に適した堅い木が多くあることと、粘土質の土があること、水場が近いこと。


 根を掘り起こし整地する。

 伐採した木で小屋を建てる。

(それまでは荷車の支柱を利用したテント暮らしだそうだ。ここまで10日以上掛かる、と)


 草原で刈った草を集め、干す。集めた干し草からレンガ作りの材料にするため、ストロー状の茎を集める。



 水を汲んできて桶の中で粘土を足でこねる。ストローの干し草を刻み混ぜさらにこねる。

 それを四角いレンガの形にして天日に干す。

(これに5日以上かかる)


 柔らかく練った粘土を目地材にして、日干しレンガ1000個を積んで、1次レンガ焼成用の窯を作る。

(天井を三角に積む為個数が必要、と)


 できた1次の窯で焼いたレンガ1000個で、2次用レンガの窯をつくる

(日干しレンガ→1次レンガ→2次レンガ→木炭窯作成レンガの順で、強度と耐熱性能を上げて行く)


 さらにその窯で作ったレンガ5千から規模によっては1万個が木炭窯を積むレンガとなる

(ここまででさらに2月もかかる?)


 焚き口になる穴を掘る。

 長さ4メルキ幅1メルキ深さは腰くらいの細長い穴で、2次用レンガを積んで周囲の土と隔てるように作る。


 上の地面を整地して縦横4メルキ、高さ2メルキの窯を積んで行く。

(窯が重くなるので地面を叩いて、先にレンガを1列半千鳥に並べておく。これは基礎だな)


 積み上がったら2日の間空焚きをして、レンガを乾かす。


 そして初めて炭焼きとなるが、最初の数回はあまり温度は上げられない。

 あちこちにできるヒビや剥離を修理しながら慣らしていく。

 また温度が低いので堅い木もまだ焼かない。


 木材を入れて2日は乾燥のため中温で焼く。

(焼くと言っているが材料に火を点けるわけではない。熱を当てるくらいの意味だろう)


 そのあとは8日の間高温で焼く。

(大量の薪が必要で切れ切れの寝食。過酷だな)


 ウォルトの炭焼き場は何度か炭を焼いて、慣らしの最中だ。

 最後のレンガ窯も残っていた。


「炭焼き窯のレンガを焼いていこうか。

 粘土はこっちだ」


荷車を引くウォルトに3人でついて行く。


 北側の一画に穴があって水が溜まっている。澱んでそこは見えないが、1mよりは深そうだ。


「この辺はだいたい粘土だよ。

 この粘土を練ってワラを混ぜるんだ」


「水は道の方へ流してええんか?

 量が多いさかい、消すんは無理や」


「いいよ。

 あー。あんまりいっぺんに流すと道が傷むかな?」


「よう分かっとるやんか、自分。

 ウチかて、アホやないで、アンジョウやったるわ」


 そうは言っても量が量だ。

 道は踏まれて周囲より低くなっている。メグが流す水は道の轍跡を流れて行く。


「あたしが道の横に溝を掘ろうか?」


「それなら、クレア。こう大きな三角に掘れるか?

 できればこのまま道を横断して海の方へ落ちるように」

 俺は両手いっぱいから足元に向かって斜めに手を振り下ろし、3角の溝を描いて見せた。


「そんなに掘ったらイブちゃんが通れないよ?」


「下に太い(くだ)や箱を置いて埋めればいいんだ。

 橋をかけたりしたのも向こうじゃよくあったぞ?」


「橋やったら中級の土魔法で行けるで」

「あたしそんなのやったことないよ?」


「ウチがクレアの魔法に乗っかるさかい、心配いらへん。

 ばっさり溝、掘ったらんかい。

 ちまちま水流すんはめんどいねん」


「じゃあ行くね」


 溝掘り自体は大してかからない。

 元の地面なりだから勾配なんか考えてもいない。

 メグが水を汲み流すと、深い場所は水幅が広く、浅いところは狭く、見た目はアレだが逆流せずに流れて行く。

 マップで見るとあの斜面の下は海のはずだ。


「クレア、上出来だ。

 ここの水はこれで全部流してしまえる」


 クレアも流した水の幅を見て顔を顰めた。

 だが目的は達成してるし何の問題もない。


「汲めたで。

 土魔法はこっちも出番やで」


 メグに言われ、クルッと振り向くクレアが、長いこと水に浸かっていたのが分かる、ヌルっとした粘土の穴を見下ろした。


 おおよその直径が4m、深さが1mちょい、よくもまあこんなに1人で掘ったものだ。

 ウォルトが大食いのクレアに負けずに食っていたのも頷ける。

 

「どうすればいいの?」

「見たとこ表面は水がたっぷりやから、ウチでも掘り出せるんよ。

 けど中までは沁みてないんや。

 動かせへんからザクザク塊に切って上に上げたって」


「あたし土を動かすのってやったことないよ?どうやるの?」

「ありゃ。

 クレアは穴掘ばっかりやったか。

 一緒にやってみよか」


 クレアの背に手を当て

「そうやな、半メルキの四角いのんを切り出してみよか。

 やったって。

 細かいとこはウチが合わせるさかい」


 クレアが薄く溝を掘るように、四角く上から切り下ろして行く。

 その隙間にメグがヌルヌルの泥水を、ズビズビと変な音を立てて押し込んでいる。


「もうええやろ。中へ倒してみい」

「倒すって……… あ、割と簡単?」


 隙間にメグが潤滑の泥水を入れているので、抵抗は底の切れていない部分だけだ。

 あっさりと粘土塊は横に倒れた。


「倒すんが行けるんやったら、上げるんも簡単や。

 ウチが付いてる。ガバッと上げたらんかい」


「うう?……うーっ!」

「もうちょいや!気張らんかい!

 ガバッと行くんや!」


 ズボガボッと土塊が浮き上がる。


 穴の上にテラテラと光を反射し浮遊する粘土塊。


 メグ1人が口元を緩め薄笑いだが、俺を含めクレアもウォルトも、引き攣った顔でそれをみているに違いない。


「ええやんか。そこへ下ろすんやで」


「あ……そうね……」


 土塊はふらふらと揺れながら、メグの指差す先まで行ってドスンと落ちた。


「ようやったで、クレア。

 さあ、もう3つ4つ行ってみよか!」


 メグはなかなかにスパルタのようだ。

 その傍らでウォルトは引いて来た荷車に、どうやって乗せようか思案している様子だ。


 俺はと言えば今更だ。疾うに魔法ついてどうこう言うのは諦めている。


 5つも切り出すと土の重量は1トンを超える。

 俺はタクシーを取りに小屋まで戻った。


 タクシーで戻ると荷車を4点で吊り上げる。

 地面から離れなければ、荷車の車輪とクレーンで重量が分散できる。

 とは言うものの、荷台の木材は5個の土塊に悲鳴をあげていた。


 レンガの材料として粘土を採取し、小屋の近くへ運んだ俺たちは、道の補修をすることにした。


 排水のためクレアに掘らせた溝は、滅多に人など通らぬ場所ではあるが、通れるようにしておく必要がある。


 粘土の切り出し同様、メグがクレア乗せに手を当て

「石でできた橋やで?

 オーガの時に川で見たやろ、あない大っきいのんは要らへん。

 この溝渡るだけや。

 橋、作ったる!てな、やってみい」


 少し不安そうにするクレアだが、背にメグの手が応援するのでキッと溝を睨む。


 特に呪文詠唱など無く、石の橋が下から迫り上がるように姿を現す。

 道幅より広めだが狭いよりは断然いい。


「クレアにも杖(もた)したった方がええかも」


 そのあと、水を流した道路に「リペア」をかけて回った。



 これで炭焼き窯なら半分くらいのレンガが焼けると言うが、俺には少し考えがあった。


 いつぞやテレビで見たNASOのシャトルの耐熱タイル。

 超高温のガスバーナーで炙ったタイルを、火を消した直後というのに素手で持ち上げて見せていた。

 空気の粒を強度を損なわないよう規則的な配置で、内部に残していると言っていた。


 それとこれも聞き齧りだが、高温で焼くほどレンガの耐熱温度が上がると言う。


 それを試してみたいじゃないか。


 炭焼きも高温=高品質みたいなイメージがあるしな。


 そしてもう一つ。

 メグも言っていたが木材を燃やさずに得られる熱だ。

 メグは水が蒸発するよりも高い温度があることは知っている。

 木炭やレンガが焼けるほどの熱が、水魔法で得られないかと考えている節がある。


 雷の攻撃力はすでに手に入れている。

 次は火というか熱というわけだ。

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